十三話 ホメイニー
待ち焦がれた。
蜘蛛の子のように散らかした小間使い達が、山の上を見たこともないほど大きな鳥の群れが通ったと報告してきた。
その時の私の歓びといったら、ああ!なんと言えばいいのだろう!
少年が甘い甘いカップケーキに齧りつくような、
少女が胸を焦がし鮮やかな毒リンゴを啄むような、
ああ、とても言い表すことができない。
だから小間使いが一人欠けてしまったことは致し方ないことだった。
地中で安らかに眠っている彼曰く、群れはあの爺と同じ方向に向かったらしい。
この見飽きた空を、何の彩りもない空を見上げ続ける痴呆でもない限りそうそう気付くものではないだろう。
ここで焦って駆けつけた所で何もできまい。
付近に顔を出し、形だけの親密さを築けば動きやすくなろうと考えていたが、こうも早く動かねばならんとは。
世に示すには最低でも六匹は鳥籠に入れねばならぬ。
大人しくさせるためのクラーレはあるが、それだけで祖国までは持たぬだろう。
無論鳥籠も一等素晴らしいものを用意せねばならない。
奴隷の腕をもいで鷲の羽を接ぎ木するようなマッドと混同されても癪だ。
「素晴らしい、とても、とても充実してきた。」
どうあっても笑みが止まらない。一度、冷静になるべきだろう。
まずは爺と使用人の処理だ。
デリーへ必要なものを連絡し、準備、届くまで一ヶ月、いや一ヶ月半か。
それまでは奴らに調査させつつ野心を削がねばならない。
植物馬鹿と無能な使用人では思い至ることもないだろうが、その口まで信用はならない。
「ホメイニー、爺へ文を出せ。」
「はい、畏まりました。」
ホメイニーは実に有能な使用人だ。イランでは良い拾い物をした。
私の独り言に身じろぎ一つしない癖に夜は良い声で鳴く。
「少し"飴玉"を拝借します。それで三日あれば届けられるでしょう。」
「構わん好きに使え。両日中にはお前もデリーへ行ってもらう。余分に持っていけばそれこそ飴と鞭になろうさ。」
「ふふ、ありがとうございます。デリーで私は何を?」
「くだらんことを聞くな。必要なことはしたためておく。お前はただ、必要な時分に必要なものを必要十分以上に揃えればいいだけだ。」
「ご容赦をご主人様。無論私は求めれられれば十分にその役目を果たせるでしょう。しかし必要十分以上を求められるのであればそれだけの熱を頂けないでしょうか。」
「構わん、それだけの期待をしている。また夜に来い、その体に張りがある内は抱いてやる。」
「ありがとうございます。ご期待に沿えてみせましょう。」
体のラインを可能な限り消した修道女のような彼女が執務室から出ていく。
実に健気な犬だ。それに最低限の賢さもある。であれば可愛がる意味もあるというものだ。
彼女はデリーへ来た時、最初に買った小間使いだった。
ボロ雑巾を買ったつもりでいたが、女というやつは必要な時が経ち、適度に繕えばそれなりになるということか。
最初はストレスの捌け口に抱いていたが、インプリンティングというものか一層距離を近づけてきた。
興味本位で飴玉、canndies、cannadis、大麻を持たせたら、近くの商館主をあっさり手篭めにした。
それからは小間使いの管理を犬に任せている。
私はパイプに葉を詰め火を付ける。静かに葉が爆ぜる音がし、心地の良い空気が肺を満たす。
煙を鼻から髭の隙間から漏らしながら席を立ち、無造作に瓶を掴む。
瓶の中には青々とした草がその色を絶やさずに居る。
少しガタつく窓を一気に押し上げて外の空気と執務室の空気を混ぜる。口から漏れた煙が誘われるように外へ出る。
徐に瓶を外に投げ捨てると小気味良く割れる音がする。
これまでに比べれば毎日ここの瓶を投げ捨てたとしても待ち焦がれたハルピュイアには出会えるだろう。
どれだけ空気を入れ替えても滾った目は冷えなかった。




