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黒き空のハルピュイア  作者: 心鏡
一章 邂逅
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十一話 ライラー

ゆっくり羽を伸ばせる?馬鹿を言っちゃいけない。



そりゃあたし達は遠く、遠くこの地までやってきた。ナヴィドはいい仕事をしたよ。

でも、それがなんだい。どれだけ実りのある山でも酷使して痛みのある肩を大きく使って羽ばたかなきゃ食い扶持がないんだ。

それに男どもがここまで連れてきてくれたんだ、ここで頑張らなきゃ女が廃るってもんさ。

最近の若い子は、全く、体力がないことだよ。発破をかけたくても危なっかしくていけない。

何とか空を歩けてはいるけど、それだけだ。体を支えられる枝の見極めもできるか怪しい。

それでも、自分の力で生きていかなきゃいけないってことで木の実やらを探しに行かせたけどてんでダメそう。

空から見りゃバレるって分かってるだろうに、太めの枝に体を預けて横になっている姿が情けないやら哀しいやら。

それでも代わりにやってあげるなんてことをしたら彼女たちは本当に生きていけなくなる。

本当にどうにもならない時に、傍に、すぐに声の届く位置にいればいいと、そう思ってた。

でもそうも言ってられなくなった。ナヴィドと連れの三匹が言うには近くに人間が来ているらしい。

ちょっとは離れていて、直ぐ様逃げ出すほどじゃないようだけど、気をつけるに越したことはない。

奴らは甘い蜜を見つけたアリのようにワラワラ湧いてくる。

そうなれば鬱陶しいを通り越して恐怖だ。いくら奴らの飛ばす棒きれが届かない空に居ても、それは変わらない。

今の彼女たちをこのまま食い扶持探しに出し続けるのは限界さね。

あたしは、器用に仰向けになって枝に身を預けてる黄色と白を見つけて近くに寄る。

「何サボってんだい、サラ。」

後ろから声を掛けたせいか、思いっきり飛び跳ねて彼女は枝から滑り落ちた。綺麗な羽を何枚か散らせながら戻ってくる。

「さ、サボってなんかないよ。です?」

「そんなどうでもいい言い訳は要らないさね。それよりもあんたにお願いしたいことがあるんだ。まぁ木にはしたなく羽を伸ばしてることよりは簡単な仕事だよ。」

「あはは、…怖いからやめて下さい、ライラーさん。」

そんな生意気なことを言うもんだから、ついつい笑顔を強めてしまう。

「ん?なんだい?そんなに仕事が欲しかったのかい?こりゃあたしとしたことが可愛い娘っ子の気持ちも組めないなんて、年を食ったもんだね。」

あたしはサラが、"年を食った"あたりで引きつったように口角を上げたことを見逃しはしなかった。

「ごめんなさい、お願いですから許して下さい。」

あらら、すぐに折れちゃった。この子はそんなについていけないクチじゃなかったんだけど…よっぽど参ってるみたいだね。

「サラも他の若い娘も、ヘトヘトなのは分かってるさ。そんな責めるつもりじゃなかったよ。じゃあ早速本題だ。お願いしたいことは他の若い娘も連れて姫様の所へ戻って欲しいのさ。」

「え?!いいの?!」

浮き沈みの激しい娘だ。実に憎めない。こりゃ男どももほっとかないだろうね。後でメフリやサーナーズと賭けをしよう。

「ああ、いいさ。姫様も新しい土地で心細いだろうしね。横になれるだけの草花を持って帰るんだよ。」

「やったぁ!ありがと!ライラーさん!」

「別にあたしが何かしたわけじゃないだろう。で、サラには特別なお願いもある。」

「げ。な、何ですか?」

「姫様にそれとなく伝えて欲しいのさ。洞からは十分に離れてるけど人間が居たって。」

「えぇ?!また移動なの?!」

「十分に離れてるって言ったろ?でもまぁ、戦士長がどう言うかは分からない。だから他の娘にむやみに知られるんじゃないよ。休みたくても気持ちが休まらないだろうさ。」

「あ、あたいは?あたいの気持ちはぜんっぜん休まらないんだけど?!あ、あと姫様も。」

「姫様は強い人だよ。あんたはまぁ、サボってた罰さ。我慢しな。」

「えぇー…。まぁ、分かりました。」

「じゃあ頼んだよ。あたし達はサボり癖のある若い娘達の代わりに仕事をしてくるから。」

そう言って空に戻る。最後に見たサラの顔は不満を顔に書いたようだったけど、何だかんだ言いながらちゃんとやるだろうさ。

さっきはああ言ったけど、あたしはずっと気に揉んでる姫様のほうがよっぽど不安さね。


「メフリ、ちょっと賭けをしないかい?」

「いいよ。何を賭ける?」

枯葉色から少し赤黒く染まりつつある木の実を口に食みながら話しかける。

木の実は緑色をしていないものであれば、少し舐めてみて、舌に鋭い痛みが、しびれがなけりゃだいたいは食べれる。

採取は二人一組になって口で手折る役とカゴを首から下げる役に分かれる。

口で手折る体制はあんまり楽じゃないから、そんな時に他の獣に襲われると怪我をする。最悪死んでしまう。

だからカゴ役は次の食事処を探すと同時に危険に気を配らないといけない。

だから、まぁこんな話をするのはいつものことだけど、少し不実かもしれない。

「今晩シアーマクの隣に行ける権利ってのはどうだい?」

「賭けになってない。」

メフリは口を使って採取してるから、あんまり長文を返せない。木の実同士が音を立てる毎に言葉が漏れる。

「ライラー、別に、シアーマクに、興味、ないでしょ?」

シアーマクは肩口がカラスのように黒いのに、腕の先に行くほど深い青になっていく若い男だ。

その青は若い娘に人気なようで、きゃあきゃあはしゃいでいる彼女達を見る機会も多い。無論、あたし達"お姉さん"世代にも人気はある。

無口な彼は、あたし達からすると大人になろうと背伸びしているように見えて、少し可愛いのだ。

残念ながらあたしは興味ないけど。

「あはは。そりゃそうだ。メフリはどうなんだい?」

「シアーマク?、別に、興味ない。っと、終わり。次はどこだっけ。」

「少しギリギリの範囲だけど、実の大きな木があったんだよ。そこ行こう。」

実を見逃さないように、次の食事処探しを兼ねて低く飛んで移動する。その実は赤く丸く大きい実で、周りの葉も丸まっていた。

「おお、美味しそう!よく見つけたねライラー。」

「ふふん、サラに偉そうなことを言った手前、何とか面目躍如を果たせそうだよ。早速齧ってみよう。」

メフリが実が三粒ほどぶら下がった木の枝に乗って羽ばたく。その時重心をずらして片足にかければ細い枝なら簡単に折れる。

あたしはそれをカゴで受け止める。メフリがカゴの中に入った枝を掴んであたし達が立てる枝まで運ぶ。

木の実の根本をメフリが足で押さえてくれる。あたしは、前歯で少しだけ木の実を齧った。

「よし、問題なく食べれそう。瑞々しくて美味しい。メフリも齧る?」

「もちろん。そんないい思いをライラーだけになんてさせるか。」

「あはは。じゃあ代わる。よっと、離れていいよ。」

片足で木の枝を代わりに押さえてメフリが離れる。木の実が齧る時に動かないようもう片足で木の実の根本を押さえ直す。

「ん。これ美味しいね。こんな瑞々しい木の実は前の山にはなかったね。」

「これで、人間さえいなけりゃ良い所だと諸手を挙げて喜べるんだけどね…。まぁ仕方ない。暗くなる前に採っちゃおう。」


「忘れてたけど、さっきの何の勝負だったの?」

ガサガサと大きな音を立てて木が、実が揺れている。

「ああ、サラが増々可愛くなってるから、どれくらいで男が付くかってネタで賭けようかと。」

「なるほど、確かに歌声綺麗だったね。急に声を出すから驚いたけど、うん、良かった。」

「そうさね。悪く言えば鳥頭なんだけど…あの能天気さは見習うべきかもしれないね。」

「自分の若い頃を棚に上げて、何を言ってるの。サラに話してあげたいよ。」

「煩い。今でも若いつもりだよ。あとちゃんと黙ってて。」

「シアーマクじゃなくて、戦士長の隣なら勝負してもいいよ。」

「ちょ、ちょっと!そんな権利こんな下らない賭けで持ち出していいのかい?!いやどっちにしても戦士長には怒られそうだけど…。」

「ん?逃げるの?」

「そんなことは誰も言ってないさね!先に賭けるよ?あたしは10回朝を迎えるまで!」

「じゃあ私はそれ以降。うん、楽しみ。」

メフリがニヤニヤしている。なんか腹立つ。あの勇壮な戦士長に憧れない女なんていないよ。

あの真っ直ぐな戦士長が前の姫様を今でも見てるのは誰もが知ってる。

それでも、あたしだけを見てくれてなくても、隣に入れれば嬉しい。勿論見てくれるほうがいいけど。

「若い頃なんて言ってごめん、確かに今も十分若いね。」

「…煩い。さっさと採って戻るよ!」

「ふふ。もう終わってるよ、戻ろうライラー。」

メフリをいくら睨んでも、歯がゆいばかりだった。

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