↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元・魔法エンジニアですが、AI相棒と修理工房を始めました  作者: マグガネ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/25

第七話

外で待っていると、田島さんが鍵とバインダーを手に持って、不動産屋から出てくる。


「お待たせいたしました。ここから数分ですが、歩いていきますか? それとも車の方が……」


「いえ、出来たら歩きでお願いしたいのですが」


他人の車に乗ることが居心地が悪いので、歩きで行きたかった。


……正直なことを言うと、他人の運転に自分の命を預けるのが怖かった。


「承知しました。いやぁ、実は運転は苦手なので、少しほっとしました」


少し困ったような笑顔を浮かべ、手に持っていた鍵をポケットにしまった。


その言葉が本心なのか、それとも相手に罪悪感を持たせないための一言なのかは、俺には判断できなかった。


けれど、その思いやりのある一言が、少しうれしかった。


「では、行きましょうか」


そう言って、俺の前を歩いていく。


そこから到着するまでの数分間、このあたりは春になると桜がきれいだとか、ここの店はランチの日替わりがうまいなど、いろいろなことを紹介してくれた。


近くに住んでいたのに、知らないことばかりで、とても楽しい時間だった。


だが、そんな楽しい時間は、早く過ぎてしまうものだ。


「こちらが物件になります」


ついに目的地に到着してしまった。


ただ、外見は普通の一軒家なので、少し拍子抜けだ。


庭の草は刈り取られ、家の壁も築年数に対してきれいだ。


大切に住まれていたことがわかる。


そんな穏やかな時間に浸っていた俺を、不意の震動が現実に引き戻す。


まずい、クロエのことを忘れていた。


ポケットからスマホを取り出す。


「マスター、到着したならすぐに取り出してくれると助かります」


クロエは、こちらの考えを見通したような言葉を投げかけてくる。


「いや、今着いたばかりなんだ。決して忘れていたわけじゃない」


咄嗟の誤魔化しとしては、意外といい線行ってるんじゃないか?


「マスター、心拍数の上昇と多少の発汗がみられます。これは精神的にスト…」


「すまん、一瞬だけ忘れてた」


もうこの先一生、クロエには俺の嘘は通用しそうにないな。


人間やっぱり、素直が一番だな。


「マスター。それでは、これからはスマホを出したまま内見をお願いします」


「了解。それじゃあ、田島さん。玄関を開けてもらってもいいですか?」


「承知しました。どうぞご自由に見学なさってください。お客様に自由に見ていただくスタイルで、うちの会社はやっていますので。それでは、私は店にいますので、鍵を閉めて戻ってきてください」


そう一息に言い切った田島さんの表情は、ここに来る前とは違い、少しこわばっている。


「もう……あの声は聴きたくないんです。……申し訳ありません!」


先ほどの不動産屋での話し方とは違い、早口にそう説明すると、田島さんはバインダーの中から鍵を取り出し、俺に押し付けるように渡してくる。


思わぬ行動に驚き、咄嗟に鍵を受け取ってしまう。


田島さんは鍵を渡した後、おっとりとした外見に似合わない速度で、今来た道を帰って行った。


「はえー」


思わず、口から洩れていた。


「マスター、あの予備動作のない動きと、流れるような重心移動。走り去る際の歩幅などを解析した結果、類似した動きを見つけることができました。どうやら田島さんは、古武術の心得がありそうですね。それはそうと、中に入ってみましょう」


その言葉で、現実に引き戻される。


「そうだな。それじゃあ、開けるぞ」


鍵を開けて、玄関の扉を開ける。


この家に来るときに、前に住んでいた人は半年ほど前に退去したと言っていたので、埃っぽいことを懸念していたが、そんなことは無かった。


玄関で靴を脱いで、中に入る。


廊下を歩いていくと、少し床がキィキィと音を立てる。


確か築十数年と言っていたので、少し床板が劣化しているのだと思う。


「クロエ、これが幽霊の正体とかでは……」


「マスター、それはあり得ません。この程度でしたら、住人が出ていく原因になりえませんし、例の現象が起きている場所とも違います。これが原因という確率は、小数点以下10桁を見てもその可能性を見つけることができませんでした」


ボコボコだぁ。


いや、わかってたよ?


ここが原因なんて、これっぽっちも思ってなかった。


これっっっっぽっっっっっちも思ってなかったから。


ただ……これだったらいいなぁとは、願っていたけど。


田島さんから、この家の間取りをプリントしてもらった紙を見ながら、一階を見て回る。


一階部分は、リビングは20畳と結構広い。


それに、キッチン。


コンロには、魔法が使われているようだ。


それに、トイレ。


あと、風呂は結構大きくて、俺が入っても足が延ばせるぐらいの大きさがある。


最後の一室は、寝室用なのか、畳の和室だ。


「うん、一階を見た感じ、かなり住みやすそうだし、傷みもひどくはなさそうだな」


「はい、マスター。この築年数でこの状態なら、大切に住まれていたのだと推測できます。これが7桁後半の値段で手に入るなら、お買い得な物件と言えますね」


クロエは依然として、この物件を購入することに前向きのようだ。


しかし、俺はまだ購入には後ろ向きだ。


なぜなら、手元の紙で見ないようにしていたが、二階の確認がまだ残っていたからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。