第六話
田島さんから出された紙を見る。
クロエも見たいと言っていたので、その紙をカメラに写す。
場所はここから数分の所で、立地的にも駅に近く、商店街やコンビニにも近い。
しかも、家賃も七万円と、希望している家賃よりも三万円も低い。
しかも、一軒家。
これは、かなりの掘り出し物なんじゃないか?
「クロエ、この物件かなりいいと思うんだが、どう思う?」
「はい、マスター。この物件は、かなりいい物件です。しかし、この物件は通常であれば、この倍以上の家賃を設定されていてもおかしくありません。何か裏があると思います」
そう言い切ったクロエの言葉に、田島さんはびくりと肩を震わせた。
「……田島さん。この物件、何か告知することがあるじゃないですか?」
田島さんは数秒目をつぶっていたが、観念したように話し始めた。
「確かにあります。この物件、あれが出る物件なんです」
出るとは何だろうか。
虫だと、まだいいんだが。
もしかして……。
「……もうお気付きのようなので、単刀直入に言いましょう。幽霊が出るんですよ、この物件」
悪い方の予想が当たってしまったようだ。
どうやらこの物件は、いわゆる事故物件らしい。
「マスター。それは良かった。安く購入できますね。それでは、契約をしてしまいましょう」
「いーや。ちょっと待て。なんで今の話を聞いて、お前は前向きなんだよ」
「マスター。落ち着いてください。幽霊なんてものは存在しません」
「いや、いるんだよ。俺が小学生の頃、ばあちゃんの家がある田舎でヤバい奴を見たんだよ」
「マスター。記憶というのは、いい加減なものです。それは幻だったのではないですか?」
「それはない。俺は見たんだよ……絶対に……」
「それはそれとして、田島さん。その物件には、何か事件は起きたのですか?」
それまで微笑ましくこちらを眺めていた田島さんが、いきなり話を振られて、今飲んでいたお茶を落としそうになる。
「いえ、何か事件があったとか、そういうものは一切無いのですよ」
「へ? それではなぜ、こんなことに?」
事故物件ではないのに、こんなに安くなっている意味が分からない。
「そうですね。この物件なんですけど、夜になると、うめき声が聞こえてくるんですよ。それだけならまだよかったのですが。いつしか、部屋の壁からも物音がするようになって、それを気味悪がって、入居者が次々と出て行ってしまうのですよ。その中の何人かは、青白い人影を見たとか言っていた人もいたかなぁ」
「そうなんですね。それじゃあ、他の物件を見せてくれませんか?」
俺はここ一か月で一番の笑顔を浮かべて、次の物件を紹介してくれるように促した。
「マスター……、田島さん。ここの物件は、内見することはできますか?」
クロエが、この物件を見に行こうとしている。
「クロエ、そんなわがままは言っちゃいけないよ。田島さん、次の物件を」
「はい、クロエさん。内見はできますよ」
田島さんは、こちらを見ずに、クロエの質問に答えている。
「マスター。これから事業を始めるんですよ。便利な立地で人通りも多い、かなりいい物件です。これを逃すのは惜しいと考えます。それと、田島さん。この物件を買うとなると、おいくらになるでしょうか?」
そう言うと、田島さんは電卓を叩いていく。
そして最後に、ターンとボタンを押した後、こちらに見えるように電卓を差し出す。
そこには、7桁後半の数字が表示されている。
「やっっっっっす!」
思わず大声になってしまう。
それも当たり前だ。
周りにある物件の紙を見ると、件の物件より交通の便が悪い場所でも、値段は一桁上だ。
「マスター、資産状況から見て、購入しても十年程度であれば、今の生活を続けることが可能です。むしろ賃料がなくなるため、長い目で見れば、そちらの方がお金を節約できます」
この家を購入する方が良いのは理解できた。
だが、これだけ大きな買い物をしたことが無いので、決心がつかない。
「マスター、少しスマホを耳に当ててください」
そう言われて、スマホを耳に近づける。
「行ってみましょう。このスマホのカメラとセンサがあれば、何か分かるかもしれません。そこで原因がわかれば、かなりお得な買い物になります」
俺は少し考える。
預金残高はまだ余裕があるし、確かにこの物件が買えれば、これから始める事業にかなりのメリットになる。
それならば、一度見に行ってみるのが得策かもしれない。
「田島さん、内見に行かせていただいてもいいですか」
覚悟を決めて、田島さんに切り出した。




