第二十三話
「それで、どうする? これ持って帰るかい?」
馬場さんが聞いてくるが、これを見つけられたのは、二人が買った金庫のおかげだ。
まずは、二人がどうするかだろう。
「お二人はどうですか? もらいます? いらないようだったら、俺がもらいますけど……」
この機械はガラクタの中でも大切に袋に入れられていたようで、傷みもない。
それだけ大切にされていたのだったら、ここでさび付いていくよりは、持って帰って、たまにメンテナンスをしてやった方がいい気がする。
「わたしゃ興味がないからいいけど……。ライ、アンタはどうだい?」
「わたしも、いらないかなぁ」
二人ともいらないようだ。
「それなら俺が引き取りますね」
そうして、俺たちの宝探しの旅は、謎の機械を手に入れて、ひとまず終わりを告げた。
謎の機械を家の二階にある、倉庫になりつつある部屋に置いてから、スナック『第三形態』に戻ってきた。
「それじゃあ、これ約束の謝礼だよ」
そう言って、一通の封筒を馬場さんは差し出してくる。
俺はその中身を確認し、その中の一枚を返す。
「……どういうことだい。嬢ちゃんが言ってたのは、確か二万って話だったはずだよ」
「いえ……、あの機械を譲ってもらいましたし、こんないい店も知れたので、半額でいいです」
俺は素直な気持ちで、そう伝える。
だが、馬場さんは差し出された一万を、俺につき返してくる。
「技術を安売りするもんじゃないよ。あんたはこの二万に見合うだけの仕事はしたんだ。受け取るってのが筋だよ」
その言葉に、あかりちゃんの時とは違った嬉しさがこみあげてくる。
だが、俺も一度吐いた言葉を飲み込むのは気恥ずかしい。
「それなら、この金で酒を飲ませてください。それと、あの約束、忘れていませんよね?」
あの一杯奢ってもらうって約束を。
「もちろん。それでどの酒だい?」
「フィール・ナ・イシュケを」
俺は少し食い気味に答えた。
ついに、あの酒を飲むことができる。
「了解、ちょっと待ってな。氷は?」
「いりません。……ストレートでお願いします」
馬場さんは、ショットグラスを一つカウンターに置く。
そして、酒棚からフィール・ナ・イシュケの瓶を取り出し、金属のキャップを開ける。
ふわっと、木材の香りが漂ってくるような気がする。
フィール・ナ・イシュケがグラスに注がれる。
その色は琥珀……いや、それよりも色が深い。
磨き上げられた銅のような色だ。
カウンターの照明が明るいので、ウィスキーの色が良く映える。
「はいよ」
そう言って、俺の前にグラスが置かれる。
さっきのにおいは、間違いなくこいつのにおいだったようだ。
「いただきます」
そう言って、グラスを口に運ぶ。
口に入れた瞬間、バニラのような香りが鼻に抜けてくる。
そして、気づくともう、口の中にフィール・ナ・イシュケはなかった。
「どうだった?」
「はい、すごくうまかった気がします。ただ、考える間もなく飲み込んでいたので、イマイチ実感がありません」
「そうかい、そんなにうまかったかい」
「……はい」
その言葉を聞くと、二人は笑い始めた。
何がおかしいのか、俺にはわからない。
「はぁはぁ、ああ、笑った。あんた、フィール・ナ・イシュケってどういう意味か知ってるかい?」
「……いや、知らない」
全く意図が読めない。
「フィール・ナ・イシュケってのは、『真実の水』って意味さね」
「それが何か?」
そう言うと、馬場さんはフィール・ナ・イシュケの瓶を、俺の前に差し出す。
「実を言うとね、この中身は安酒なんだよ」
「……へ?」
頭が追い付かない。
俺がさっき飲んだのは、安酒だったってこと?
「でも、初めに本物って言ってませんでしたっけ?」
俺は何とか言葉を絞り出す。
「ああ、本物だよ。瓶はね」
騙された。
「おい、ババア」
思わず、怒気をはらんだ声が出る。
「いやぁ、訳知り顔のやつが、意気揚々とこの瓶の酒を頼んで、うまそうに飲んでるのが面白くてね。……ああ、でも心配しないでおくれ。この酒で金をとるなんてことはしてないし、何なら店からのおごりだからね」
「それで、俺を見て楽しんだって訳か? あ?」
「もう、伴ちゃんったら、いいリアクションだったわよぉ」
「ハッ、瓶に騙されて、中身のことなんかわからなかったね」
「くそっ、俺の一万返せ」
「いやだね。その分ここで飲んできな」
そんなやり取りをして、一万円分きっちり飲んで家に帰った。
家に帰って、テレビをつける。
そこでは、我が家のお宝を鑑定する番組がやっていた。
次に出てくるのは、最近見つかったゲーム機の試作機で、現存するのはこの一台だけと言われているらしい。
画面に出ているシルエットは、なんか最近どこかで見たような形をしている。
「へー、こんなもんがあるのか」
そう言えば、第三形態ではあまり飯を食ってなかったから、少し腹が減ったな。
そして立ち上がってキッチンに行き、締めのラーメンを作る。
途中、クロエの声が聞こえた気がしたが、これは譲れなかったので、無視して作った。
そうして戻ってくると、どうやらさっきの試作機は終わって、次の品に移ったようだ。
モニターのクロエが何やら残念なものを見る目でこちらを見ていたが、かまわずにラーメンを食べ続けた。




