第二十二話
そして約束の日になり、俺は二人が営むスナック『第三形態』に向かっている。
そのために商店街を歩いているのだが、なんだか人に見られている気がする。
「……あれが?」
「そうらしいわよ」
買い物中のマダムたちが何か噂しているようだが、声が小さくて聞こえない。
どうせ、俺が最近越してきた新参者だから、珍しいのだろう。
それなら、噂になっていてもおかしくないか。
それよりも地図が気になった俺は、早足で第三形態に向かった。
店の前には、既に馬場さんと五里さんが待っていた。
「すみません、遅れてしまいましたか?」
「そんなことないわよ。時間通り」
「なぁに、今日は天気がいいから、外で一服やってただけだよ」
たしかに今日は、冬にしては日差しも強く、少し温かい。
雪もだいぶ解けてきて、道の端に残るばかりだ。
もう春は近い。
そんな風に物思いにふけっていると、声をかけられる。
「それじゃあ、行くかね」
タバコを吸い終わったのか、馬場さんがタバコを灰皿に押し付ける。
「そうね。はい、ママ。これ一枚着ておいて」
五里さんが、手に持っていたカーディガンを馬場さんに渡す。
「ふんっ、年寄り扱いすんじゃないよ」
そんな憎まれ口をたたきながら、カーディガンを受け取った。
「マスター、地図の場所へはどう向かいましょうか。電車か、徒歩又は自家用車を選択していただければ、最適な経路を案内できます」
俺の胸ポケットから、クロエの声が聞こえてくる。
ズボンのポケットに入れておくのが忍びなくなっていたので、作業着の胸ポケットを改造して、カメラで外を見れるようにしていた。
そのおかげで、今の状況を把握できたのだろう。
「どうします? ここから二駅隣の町ですけど……」
「そうさね。それじゃあライ、車出してくれるかい?」
「分かったわ、ママ。ちょっと待っててね」
そう言って、店の裏手の方に歩いて行く。
他人が運転する車にはなるべく乗りたくないが、さすがにこの人数で移動するのも面倒だ。
俺がちょっと我慢すればいいだけなんだから、その方がいいだろう。
そう言えば、ライって呼ばれてるんだな、五里さん。
今まで呼ばれてなかったから、下の名前は知らなかった。
馬場さんと話していると、緑の軽自動車が俺たちの前に駐車される。
「お待たせ。それじゃあ行きましょうか」
俺たちはその車に乗り込み、クロエのナビで、地図の場所に向かい発進した。
そこから20分ほど車で移動すると、人気のない舗装された道を進むよう、クロエに指示される。
「本当に入っていいのかしら?」
「はい、五里さん。この道は私有地ではなく、市によって管理されている道ですので問題ありません」
「それもあるけど、歩いて行きます? 五里さん、車、傷つけたくないですよね。クロエ、ここから目的地まではどのくらいの距離だ?」
「はい、マスター。皆さんの歩行速度を考慮すると、およそ三分と言ったところでしょう」
何だ、そのくらいの距離か。
これならみんなで歩いて行けそうだな。
「馬場さん、五里さん。ここから歩いて行きましょうか」
「そうね、ありがと、伴ちゃん」
「まぁ、いい運動さね」
そう言うと、五里さんはエンジンを止め、馬場さんも扉を開けて降りていく。
俺も、それに続いて車を降りる。
ただ、何があるかはわからないから、一応邪魔にならない程度の工具は持って行っておくか。
そうして、三人で舗装が荒れた道を歩いて行く。
道の両側には木が生い茂っており、道のコンクリートにひびが入っている。
また、そのひびからは草が生えている。
もう長いこと手入れはされていないのだとわかる。
そうして歩いて行くと、開けている場所がある。
そこには、原っぱの中に古びた倉庫がぽつんと存在していた。
大きさは大型のトラックが二台はいるくらいで、全面金属だ。
なんでこんな場所にと思ったが、まぁそれは確認すればいいと思い、近づいていく。
近づいて扉を見ると、引き戸になっている。
開けようと力を入れて引いてみるが、動かない。
地面に目を向けると、そこには南京錠が落ちている。
となると、鍵はかかっていない。
「五里さん、お願いできますか?」
「あらぁ、こんなか弱い乙女に開けられるかしらぁ」
そう言って、俺と入れ替わりに扉に手をかける。
その瞬間、爆発音が鳴り響いた。
俺は咄嗟に目をつぶる。
いや、実際に爆発はしていないのだが、それほどの音だと俺は錯覚していた。
ゆっくりと目を開けると、そこには、扉の外れた入り口があった。
五里さんは、外れた扉を壁に立てかけているところだった。
「それじゃあ、お宝を見に行こうかねぇ」
そう言って、馬場さんが中へ入って行く。
それを追いかけて、五里さんと俺も中に入って行った。
中は、外見通りの広さがあった。
第一印象から言えば、ほとんど何もないというのが素直な感想だ。
だが、一部、埃をかぶったガラクタの山が、壁際に積まれている。
「こっちに来な、何かあるよ」
馬場さんが何かを見つけたのか、そちらに向かって歩いて行く。
そこにあったのは、謎の機械だ。
どうやら馬場さんは、倉庫の端っこに放置されていたガラクタの中から見つけ出したようだ。
「これが何か、あんたわかるかい?」
そう言われて、その機械を見るが、皆目見当がつかない。
「クロエ、これを調べてみてくれないか?」
「承知しました、マスター」
五里さんは、特に何も見つけられなかったようで、首を横に振った。
「マスター、検索が完了しました。側面にある型番から調査しましたが、残念ながら一致するものは見つけられませんでした。同様に生産データも確認しましたが、そちらも見つけることができません」
つまり、何かはわからなかった。




