第二十一話
ここで飲み始めてから……何時間、経った?
そんなこともわからないくらい飲んでいる。
「で、どれくらい飲めばいいんだっけ?」
「いーの、いーの。そんなこと考えずに飲みましょうよ」
そう言って、五里さんがグラスにビールを注いでくる。
そうだな、そんなことを気にしてたら楽しく飲めない。
閉店間際にやりゃいいだろ。
「五里さん、あざっす。ありがたくいただきます」
そう言って、グラスを傾ける。
「かぁー! うまい! 仕事の後の一杯はやっぱ格別っすねぇ。いや? まだ、仕事中か? ……どっちでもいいか!」
そうして俺は、楽しく酒を飲んでいく。
「そういえば、気になったんですけど。この店の名前、なんで『第三形態』って名前なんですか?」
「ああ、そのことかい」
馬場さんが答えてくれるようだ。
そして、手に持ったタバコを灰皿に押し付ける。
そういえば、店では紙たばこなんだな。
外では周りに気を使ってるんだろうか。
「なぁに、なんてことないよ。第一形態は家での姿、第二形態は仕事での姿、そして第三形態は、人には見せられないような姿でも、この店では見せられる。そんなことを思ってつけたのさ」
「なんだ、てっきり二人のどちらかが、まだ変身を残しているのかと……」
まずい、酒が入って口が軽くなった。
そっと二人の顔をうかがう。
「はっ、そりゃいいね。今度からは、そっちを店名の由来にしようかね」
「いいわねぇ、それ。それじゃあ私も、第二形態。いや、第三形態になっちゃおうかしら」
そう言って、五里さんは上着を投げ捨てる。
この雰囲気が心地よい。
目に入った棚には、常連のボトルがずらりと並んでいて、この店が愛されている理由が実感できた。
途中、常連客が来たりして、一緒に飲んだり、歌ったりした。
そんな楽しい時間を過ごした。
ここへは仕事に来たのに、そんなことは頭の中からすっかり抜け落ちていた。
「……ちゃん。伴ちゃん、起きて。もうしょうがないわねぇ。眠った王子様の目を覚ますには、やっぱり乙女の口づけかしら……」
そこで俺は飛び起きた。
「いや、大丈夫です。起きました! 起きましたから!」
そうして周りを見ると、さっきまで店にお客さんがいたはずだが、もういない。
「あれ……。他のお客さんは?」
「みんな帰ったよ。もう、閉店してるからね」
スマホを見ると、もう十二時を回ってしまっている。
「おはようございます、マスター」
クロエが画面に出てくる。
「ああ……、クロエ。おはよう」
「退職後二度目のお酒での失敗ですね」
「クロエ!? ちょっと、失敗って何?」
「聞かない方がよろしいかと」
「馬場さん、五里さん、俺、何かしました!?」
店の二人に聞いてみる。
「まぁ……、そうだね……」
「気にしない方がいいわよ。人生長いんだから」
俺、何したんだ?
「それじゃあ、早速やりますか」
そう言って、馬場さんがテーブル席から立ち上がる。
その言葉で、ここに来た理由を思い出した。
「はい、早速お願いします」
そして、三人で金庫の前まで移動した。
「それじゃあ、私がやるわね」
五里さんが金庫に近づき、鍵穴に息を吹きかける。
カンッと、金属同士がぶつかったような音がする。
ラッチかストッパーが外れて、鍵が開いた音だろうか。
五里さんが不安そうにこちらを振り向くが、俺はゆっくりと頷く。
意図を察したのか、頷き返すと、五里さんは金庫のハンドルを握り、軽く引いた。
ガコンという音がして、扉が開く。
そのままゆっくりと引いていく。
馬場さんが俺の前に体を乗り出してきて、ちょっとじゃまだ。
そして、完全に開いた金庫の中には、一枚だけ紙が入っている。
ハズレか? この金庫の由来が由来だけに、そんなうまい話はないか。
俺は、ちょっとだけ肩を落とした。
でも、その紙が何かは気になったので、五里さんが手にしたその紙を覗き見ると、どうやら地図のようだ。
しかも、その地図には、何重にも丸が付いている場所がある。
さっきまでの考えが一変する。
これはもしかしたら、もしかするのか?
「お二人は、この地図に見覚えは?」
念のため、二人に聞いてみる。
「ないわねぇ」
「知らないね」
念のため聞いたが、元がリサイクルショップで買ってきた金庫なんだから、中身がわかるはずもないか。
「そうなると……、クロエ、検索できるか?」
「マスター、まずはその紙を見せてください」
おっと、そうだった。
スマホを取り出すと、画面にクロエが映っていて、ややジト目になっている気がする。
それを見ないようにして、その地図をカメラに写す。
そして、数十秒ほど待っていると、声をかけられる。
「マスター、地図の照合が終わりました」
「それでどうだった?」
「どうなのクロエちゃん?」
「クロエ、言ってみな」
三者三様の言葉で、クロエにその先の言葉を促す。
「はい、この地図の場所は、ここから二駅隣の町です」
どうやら、次に行く場所は決まったようだ。
だが、今日このまま行くわけにもいかず、後日タイミングを合わせて向かうことになった。




