第十八話
それから三日ほどが過ぎた。
その三日間のうちに、あかりちゃんのお母さんが来て、お金を渡してきたが、丁寧に断った。
あかりちゃんのことを聞くと、最後におじいちゃんに時計が直ったことを言えて、安らかにお見送りできたようだ。
その言葉を聞いて、またうれしくなった。
そのほかには、クロエと将棋をしたり、クロエとポーカーをしたり、クロエとオセロをしたりして過ごしていた。
将棋は最善手を打たれ続け、ポーカーフェイスは通用しない。
オセロの盤面は途中にもかかわらず、一色に染まっていた。
一分の隙も無い全敗だ。
「マスター」
クロエから声がかかる。
今日は何のゲームをするかの相談だろうか。
「現実を見てください」
そこで俺の視界は、見たくなかった現実を見る羽目になる。
俺の前には、ゴリラと砂かけババアが座っている。
この二人は、あかりちゃんから話を聞いて工房に訪ねてきた、おそらく人間のお客様だ。
「ちょっとぉ~、そんなに見つめて~、恋しちゃったのカナ?」
しゃべり終えたその瞬間、右手で銃を撃つような動作をする。
一瞬、指先から白い雲みたいなものが見えた気がする。
その瞬間、俺の横を通り過ぎる風を感じ、右腕の感覚がなくなったような気がした。
思わず確認すると、そこには右腕があってくれた。
そんな当たり前の光景なのに、なぜかほっとしている自分がいる。
この短いやり取りの中で、俺の中の何かが削られたような気がする。
でも、最近のゴリラはしゃべるようにもなったのか。
知らなかった。
でも、魔法なんてものがあるんだから、しゃべるゴリラが出てきてもおかしくはないか。
でもこのゴリラ、ブッサ……。
「おいテメェ。今何考えた? その内容によっちゃあ……スゾ」
地の底から湧いてくるような、野太い音が聞こえてくる。
マンガで読んだ、殺気という言葉が頭に浮かんできて、今、言葉としてではなく、実感として経験している。
俺の目の前の五里さんは、人としての格が違う。
部長? いや、社長? 違う、それ以上。
会長ですら、まだ届かない。
それほどの格の違いを感じる。
逆らってはいけないと、本能が告げている。
口の中の渇きを感じるが、彼? 彼女? に見られていると、動くことができない。
「五里、やめな。こっちは相談に来ているんだよ」
それまで黙っていた枯れ木のごとき老女が、止めに入る。
そう言ってくれたのは、馬場さんだ。
「は~い、ごめんなさ~い」
その一言で動けるようになり、テーブルにある水を一気に飲み干す。
この時の水は、この瞬間、世界で一番うまい水だったに違いない。
「はぁ、はぁ。それで、用件は?」
額の汗をぬぐい、呼吸を整えつつ、用件を尋ねる。
「ああ、そうだったね」
手に持つ電子タバコを口から離し、吸殻をポケットから取り出した携帯灰皿に入れていく。
そして二本目を差し込んで、また吸い始めた。
「おい、ババア。用件はって聞いてんだよ」
思わず声に出てしまい、慌てて口を閉じるが、隣の五里さんがこちらを睨みつけてくる。
射殺さんばかりの視線だ。
こわい。
「はっ、やっと素が出てきたね。あんた、さっきの気取った感じより、今の方がいいよ」
そう言って、電子タバコの煙を肺いっぱいに吸い込むと、一度止めてから煙を吐き出した。
「それじゃあ、用件を言うね。あんたに金庫を開けて欲しいんだよ」
「クロエ。すぐに警察を呼べる準備をしてくれ」
「犯罪じゃないから安心しな。それと、話はちゃんと最後まで聞くべきだよ」
「マスター、ご指示があればすぐに警察へお繋ぎします」
「だから、最後まで聞けっての」
俺はクロエにアイコンタクトをしてから、話を聞くことにした。




