第十五話
「こんにちは。今日はどうしたのかな?」
挨拶しつつ周りを見るが、保護者はいないようだ。
「こんにちは。佐藤あかりです。おじいちゃんの時計を直してほしくて来ました」
俺が気づかなかったことを気にしているのか、少し怒ったような顔をしている。
彼女は、懐中時計を持っていた。
懐中時計か……。
魔法を使っているなら直せるかもしれないが、俺は見たことがない。
普通のやつだったら、専門外だ。
せっかくの最初のお客さんで、無下に断りたくないが、俺の手に余るものだったら、断るしかないよなぁ。
「ちょっと見せてくれるかな?」
あかりちゃんは、少し背伸びして、懐中時計を渡してくれる。
時計を受け取り、蓋を開ける。
時計は、時を刻んでいない。
言った通り、故障しているようだな。
そのまま裏を見ると、裏蓋がない。
裏蓋を開けると、その内側に魔法が使われているのであれば、ここに刻印がしてあるはずだが……。
しかし、見たところ、刻印はない。
いや、よく見ると、何かの跡がある。
長年使ってきたことにより、摩耗して消えてしまったのかもしれない。
改めて彼女を見ると、不安そうな顔をしている。
「……あかりちゃん。この時計、魔法が使ってあるとか、聞いたことあるかな?」
なるべく怖がらせないように、丁寧に聞いてみる。
しかし、彼女は首を横に振る。
「……ううん。聞いた事ないよ」
これは、本格的に断らなきゃいけないかな。
「マスター」
ふいに呼ばれる。
「今の様子ですと、時計の刻印を確認できなかったという状態でしょうか?」
「ああ、そうなんだよ。なんか刻印があったような感じだけど、摩耗してるせいで、ちょっと読み取れないんだ」
あかりちゃんを見ると、クロエをじっと見ている。
前の田島さんと同じで、独自のAIだから珍しいのだろう。
「それでは、導入したスキャナーを試してみてはいかがでしょうか。それなら、何か分かるかもしれません」
「そういえば、ちょうどいいのがあったな。よし、使ってみるか。あかりちゃんも見てみるかい?」
このまま待たせるのもつまらないかと思い、聞いてみる。
「大丈夫です。お仕事の邪魔になってしまうかもしれないので」
しっかりした子だと、感心してしまう。
「それじゃあ、そこの椅子に座って待っててくれるかい。暇だったら、そこのタブレットで遊んでていいよ。色々入ってるから」
「分かりました」
そう言って、素直に椅子に座ってくれた。
そして、近くにあったタブレットを手に取り、操作し始める。
その姿を見てから、俺はスキャナーの下まで歩いていき、扉を開いて、その懐中時計を中に入れる。
スキャンは、大体5分ぐらいで終わりそうだ。
これで何が書いてあるかわかればいいが……。
「マスター。あかりさんに、何か飲み物を提供しなくていいのですか?」
「あっ」
そう言われればそうだ、お客さんをただ待たせているのは、いただけない。
「あかりちゃん、飲み物何がいいかな。りんごジュースとオレンジジュースと、あと一応コーヒーもあるけど」
「りんごジュースでお願いします」
「了解」
そう言ってから、台所に向かう。
そこで、パックに入ったりんごジュースとストローを手に取り、彼女に渡す。
「あともう少し待っててね。そしたら、直せるかどうかわかるから」
ジュースを飲みながら、こくりと頭を縦に振った。
あのりんごジュースを気に入ってくれたようで、よかった。
その姿は、とても微笑ましいものだ。
「マスター、スキャンが完了しました」
その声を聞いて、スキャナーの隣にあるパソコンで操作すると、懐中時計の3Dデータが出てくる。
そこからいくつかの工程を経て、何が書いてあるかわかるようになった。
それと、内部構造もわかる。
いくつかの部品が、物理的に壊れてそうだ。
魔法回路自身は、これで見た感じは大丈夫そうだ。
……うん。
これなら、修理できそうだ。
あかりちゃんのもとに歩いていき、今の状態を分かりやすく伝える。
そして、料金の話なのだが……。
「あかりちゃん、お金って持ってきてるかな?」
あかりちゃんは、持っていたカバンの中から、かわいいお財布を取り出し、中身を見せてくれる。
「これで、おじいちゃんの時計、直せますか?」
心配そうな顔で、こちらを見つめてくる。
財布の中身は、足りない。
そういえば、ここまで対応してきたけど、普通だったら両親と一緒に来るはずだよな?
この近くに、両親はいるのだろうか。
そしたら、不足分も払ってくれそうだが。
「そういえば、あかりちゃん。今日は、お父さんとお母さんはどうしたのかな?」
あかりちゃんは、目に涙をため、下を向いてしまう。
「今日、おじいちゃんのお葬式準備で忙しいの……それで、最後におじいちゃんの大切にしてた時計が動いてるの、見せたかったの」
その言葉に、何も言えなかった。




