第十四話
そして、一週間が過ぎた。
未だに、お客さんは来ていない。
なぜかと言われれば、宣伝不足もあるが、やはり、幽霊屋敷として知られているのがネックになっているのだと思う。
いや、そう思い込まないと、俺の精神はバラバラに砕けてしまうのではないかと思ってしまうほどだった。
「暇だなぁ」
カウンターに座って、独りごちる。
「マスター、やはり宣伝などをした方がいいのでは?」
クロエが、心配してなのか、それとも単に収入がここ一週間無いのが気になるのかわからないが、聞いてくる。
俺としては前者であってほしいが、おそらく後者なのだとは薄々感じている。
そんな俺の内心を知ってか知らずか、そのままクロエが淡々と続ける。
「マスター、宣伝を控えたのは、依頼が過剰に来ることを危惧しての判断でした。ここまで人が来ないのは想定外です」
クロエは、分析を誤ったことを悔いているようだ。
だが、これは俺の失敗だ。
宣伝をしないのを最終的に決めたのは俺だし、この家を買って浮かれていて、見通しが甘くなっていたことも、一つの要因になっている。
クロエには、責任は一つもない。
「それなら、営業しに行くか? お宅の魔法製品で何か不具合などはございませんかってな感じで」
おどけたように、クロエに聞く。
「マスター。少し焦っているのでしょうか。今、心拍数が少し上がりました」
実を言うと、その指摘は核心をついていた。
開業から一週間、これほどまでに依頼がないとなると、少し心にダメージが入っていた。
でも、預金残高がまだ余裕があるので、こんな風に表面上は取り繕っていられる。
もしも、お金の余裕が無かったらと想像したら……。
いや、やめておこう。
「それにしても、暇だなぁ」
「マスター、それは二度目の発言です。反復発話は疲労の兆候です。それとも……」
何かを言いかけて、クロエは静かになる。
不具合だろうか、少し心配になる。
「マスター、記録を確認しましたが、アルコールの摂取はしていないようですね。それでは、疲労の可能性が高いです」
こいつ、俺が飲酒してるって思いやがったな。
仕事中のこんな昼間っから飲むはずが……ほとんどないに決まってる。
それにしても、疲労か。
そう言われてみると、そんな気もしてくる。
「すまん、クロエ。ちょっと人が来なさ過ぎて、疲れがたまっているみたいだ。奥の和室で休んでくるから、何かあれば呼んでくれ」
そう言って、奥の部屋に休みに行く。
「ふぅ、これからどうしようか」
和室で一人になると、考えてしまう。
これほど人が来ないとなると、何かを変えなくてはいけない気になってくる。
やっぱり、料金が高いのだろうか……。
全国的に見れば同等なのだが、日常の中で相談するには、一万円はやっぱり高いか……。
そんな考えが、頭に浮かんでくる。
その時、ポーンと音が鳴る。
一瞬、何の音かわからなかったが、そういえば、人が来た時にこの音を鳴らすようにクロエに指示していたことを思い出す。
家中に設置してあるスピーカーから、その音は鳴っていた。
「誰か来た!!」
飛び起きるが、まだ完治しきっていない腰が痛んで、数秒動くことができない。
そして、ようやく痛みが引いて、店頭のカウンターへ向かおうと和室のドアを開けて見渡すが、そこには誰もいない。
出てくるのが遅すぎて、帰ってしまったか……。
期待していた最初のお客様に胸が弾んでいたが、その思いは弾んだまま、空中に溶けて消えていった。
呆然としていた俺の耳に、いつも通りのきれいな声が届く。
「マスター。お客さんです。対応をお願いします」
クロエはそう言うが、改めて見ても、お客さんの姿はどこにも見当たらない。
「クロエ、お前何が見えてるんだ? お客さんなんていないだろ?」
カウンターまで歩いてきたが、誰もいない。
一瞬だけ、この家を買ったときの幽霊騒ぎが頭によぎる。
クロエは、すました顔で何も言わない。
「なぁ、クロエ。もしかして……」
そう言いかけた、その時。
「あのッ!!」
クロエではない誰かの声がする。
性別の判断がつかないほど、若い声だ。
「え?」
思わず、口から言葉が漏れてしまう。
いや、ここは事故物件ではないはずだ。
二週間近く住んでいるが、何も起きていない。
それが今になって、幽霊が出てきた?
「あの!! これ直してください!!」
やはり、幻聴ではない。
「マスター。早く対応してあげてください。お客様がお待ちです」
そうは言われても、お客さんの姿なんていない。
怖くなってきた。
「マスター、下です。下」
そう言われて、カウンターから身を乗り出して下を見ると、小さなお客さんが立っていた。




