第十話
中に入ると、そこにはテーブルと、リクライニングできる椅子が置いてあった。
テーブルの上にはいくつかの機械が置いてあり、その中の一つが光を放っているようだ。
そして、この部屋を見渡して分かったのが、ここはプライベートなプラネタリウムとして使っていた部屋なのだろう。
この暗い部屋の中で、キラキラとした星々が輝いている。
「マスター、テーブルの上の機械を映してくれませんか? どのような機械なのか調べます」
「分かった、頼む」
テーブルの上には、この星空を映し出している機械の他にも、三つほど機械がある。
それをカメラに写して、クロエが調査している間、手に取ってみる。
それも魔法が使われているようだ。
一つは、ラジオのようなものか。
こっちは、投影機かな。
それと、最後のこれは……。
金属の箱にスイッチがついてるな。
ちょっと外見だけでは、分かりそうにないな。
「マスター、調査が完了しました。その機械は、右からラジオ、投影機、それと、おそらく魔法励起装置です」
分からなかった最後の機械を、改めて見る。
そうか、魔法励起装置か。
でも、こんな製品、出ていただろうか?
「マスター、その魔法励起装置は、自作の物だと推測します。調べたところ、個人ブログが出てきました。そこに載っていた画像が、その機械と類似しています」
「そうか、自作の励起装置だったか」
その機械を持ち上げて、眺める。
外装は金属製なのか。
会社で使ってたやつは、外装が樹脂のやつだったから、わからなかった。
魔力は電波と違って金属を素通りするから、外装は金属でも問題ないのか。
コスト面は気にしない自作ならではだな。
ちょっと、中身の方も見てみたいな。
何か道具は……。
おっ、あった。
この機械の作成者が使ってた道具箱だろうか、部屋の隅に置いてあった。
中身の方も……うん、大体そろってるな。
じゃあ、ちょっと見てみますか。
俺は手慣れた手つきで、ねじを取り外し、外装を取り外していく。
これで、中が見えるようになった。
ほうほう、こうなっていたのか。
ええっと、まずは外装にあるスイッチを押すことで、この部分の小型アクチュエータが作動して起動するわけか。
それで、こっちの中央に配置された触媒に、物理的に圧力がかかるわけか。
そこで発生した魔力を増幅して、このエッチングされた微細な魔法基板に流れ込むと。
それで、魔力が定常状態になることで、魔力波が励起されて、他の装置も動作するようになっているのか。
でも、何かが足りないような気がするが……。
まあ、これでも動作はするだろう。
「……なるほど。クロエ、謎が解けたぞ」
励起装置の奥にある、干渉波の減衰器が目を留まった。
あまりにあっけない結論に、少し苦笑いをしてしまう。
「この減衰器が原因だ。これが劣化して、魔力のチャンネルがズレちまったんだ。そのせいで、余計な魔力が音波に変換されて、壁を振動させることで、うめき声みたいな音がしていたんだろうよ」
「マスター。それでは、住人が見た人影というのは、何だったのでしょうか」
「そりゃ、この投影機のせいだな。この励起装置から洩れた魔法波に反応して、投影機が誤作動を起こし、ホログラムの映像が壁の外に滲み出してたんだろうよ」
俺は壁に近づいて、確認してみる。
すると、そこには目には見えないが、触ればわかる程度の穴が開いていることが分かった。
「人間、息ができなきゃ死んじまうからな。こんな風に、この壁に空気穴があって、ここから映像が漏れ出てたんだな。結局、幽霊の正体は、手入れ不足の自作魔法家電による魔力障害ってことかな」
俺の中で、すべてがつながった。
そして、全貌がわかったことで、すっきりとした気分だ。
俺は今、自作するほど魔法が好きな住人が、この家に住んでいたことに、不思議な縁を感じている。
ここに来る前は、酔った勢いでものごとを進めていて、心配に思っていた。
けど、今は違う。
失敗したとしても、預金の残高が減るくらいだ。
致命傷じゃない。
それどころか、家は残る。
「よし、この物件買うか」
「はい、マスター。これで、懸念点はすべて無くなりました。買わない手はもうありません」
「じゃあ、戻って田島さんに報告しようか」
部屋を出て、階段を下りていく。
そこに、何かが落ちているのに気づいた。
手に取ってみると、それは減衰器だった。
これが足にぶつかってたのか。
「不調に気づいてたんだな」
後でこの減衰器を使って、励起装置を直しておこう。
そんなことを思いながら、その家を後にした。




