Ep8、暗躍!
…だいぶ早く起きた。
こんな早く起きたのは久しぶりだ。時計を見るとまだ一時。わお。
外が星光で明るい。月はあんなに眩しかったんだと窓から外を見上げて思った。
「…そーっと、ね」
ヴァリアンを起こさないように部屋をでる。夜の城は僕もよく知らないところのような気がして楽しい。まあ、この前起きてたけどさ。
「…あ、ばれた」
静かに近づいてくる足音に、つい笑ってしまう。昔からだけど察しがいいな、さすが。
「ルリア、早いよ?」
「まったく、なにやってるんですかリユラル様は」
うん、それを言われると返す言葉がないね。ごもっともだ。
今のところ、家を回してるのはレイルドーシャだけど…。さすがに細部までは回らないだろう。領地運営とかはあくまでサポート役のはずだ。早く父様帰ってこないかな。
それとカルカートスが来る前に、ちょっとやっておかなきゃいけないことがある。どこを問い詰めたら崩れるかが謎すぎるんだけど、まあいいや。こっちには、ちょうどいい人がいるから。
今日動いたのは、その人に会うためだ。
「モニカー」
「…」
地下牢に降り立ち、そっと声をかける。帰ってきたのは沈黙だが、起きてそうだ。よかった。
「カルカートスが来るみたいだけど、会いたい?」
そう聞くと、すごい速度で手が伸びてきた。白い手が、がしゃんっと目の前の鉄格子で音を立てる。
「カルカートス、様?」
「そうだよ。もし君が知っていることを全部教えてくれるなら、会わせてあげる」
牢屋越しであれば問題ないだろう。もしこれでモニカが乗ってくれれば、裏付けを取って処罰も可能なんだけど…。
「…カルカートス様は、処刑されるの?殺すのはアナタ?」
どうせ殺すんだったら、この牢に入れてよ。アタシが殺してあげる。モニカがうっとりと笑って言った。やだなぁ、僕はそんな血気盛んじゃないよ。
「それについてさ、君に…相談?提案?があるんだけど」
◇◇◇
レイルドーシャも叩き起こして聴取したせいで、気づいた時には明け方だった。最近睡眠不足な気がする。でもまあ、しばらく寝れなそうだよね。
もう情報過多で頭痛いんだけど。なんでこの後カルカートスと会わなきゃなんだよ。
えっと、ざっくり言うと、ヴァリアンはカルカートスと平民の女性の子らしい。その平民の女性はモニカ曰く愛人ですらなく、いわゆる女遊びの末にできた子供だそうだ。アンナさんという女性でモニカが殺したらしい。お墓の場所も聞いたから、いつか参らせてもらおう。
アンナさんが殺された原因は、カルカートスが既婚者であったこと。没落気味とはいえど、奥さんはクララという子爵令嬢の人だ。クララさんの方が立場が上なため、大問題に発展しかねない。発展しちゃえばよかったのにとは思うけど、そこは隠蔽が得意な大人である。胸くそ悪い。
もともと父様が視察に行ったときにやましい事でもあったのか、部屋にトキャールを焚いていたらしく(やったのがモニカだったため教えてくれた)、父様があの辺の記憶がないようだ。それに乗じて、肉体関係があることにし、カーミーラと父様の子供にうまく仕立て上げたようだ。
その他にもカルカートスには愛人がたくさんいるようで、モニカがその全ての人名と顔と職種を把握していたのはなかなかに怖かった。
なんで本当にこんな人と会わなきゃなんだろう。やだよ。そもそもモニカが大切に保管してた鳩手紙も見せてもらったけど、言葉が薄っぺらいなあと思った。虐待に関しても知りながら見ないことにしてた感があって、腹が立つ。
正直言ってすぐにでもとっ捕まえたいけど、証言してくれたのはモニカだけだ。裏付けが必要である。隠れてやらなきゃだから、もう少し時間がかかりそうだ。
うだうだしてたら時間が迫っていた。ヴァリアンの手を取り、正面玄関に向かう。結局、ヴァリアンはまだ自分の出自を知らないから、詳しいことは秘密にしようってことになった。
「ご足労いただきありがとうございます、カルカートス様」
「こちらこそ、丁寧なご対応感謝します。しばらくお邪魔させていただきますね」
約束していた時間きっちりに、カルカートスが来た。父様の代理として僕が挨拶をし、あとはレイルドーシャによろしく頼んだ。ヴァリアンがカルカートスに呼ばれて行ってしまったのでちょっと不安だけど、レイルドーシャがいるから大丈夫かな。
カーミーラの兄なだけあって、艶のある濃い紫色の髪だ。それなりに人当たりも良く、顔もいい。目が本当に冷たいことを除けば、かなりハイスペなんだろう。
しかし、あの視線は嫌いだな。舐め回すような感じの。たぶん男オメガってのが珍しいんだろう。…ちょっと部屋の鍵強化しようかな。
しかし、なぁ…。
今のところ掴めているのは、カルカートスが不貞をしたということだけだ。薬をどこから手に入れたかは定かではない。モニカも知らないみたい(単純に興味がなかったようだ)。
「…」
ふと、机の書類が目についた。父様の代わりに僕も少し、レイルドーシャから仕事を回してもらったのだ。印は必要ないもので、内容を報告するように言われている。その手紙の一通の、名前の部分に見覚えがあった。
少し考えて思い出す。直前まで考えてた名前って、咄嗟に出てこなくなるよね。
「……クララさん、か」
◇◇◇
「ヴァリアン」
書庫から出ると、ちょうどヴァリアンがいた。夕飯でも見なかったから、ずっとカルカートスに使われ…お手伝いしてるのだろう。大変だなぁ。
「調べ物?」
「あ、はい…。あの、帳簿ってどこにありますか?」
…珍しいことを聞くね。でも、ちょうどいいかな。ごめんね。
「こっちだよ。いつのが見たいの?」
「えっと…」
ヴァリアンの手の中にある紙に、ちらっと目を落とす。思った通りのようだ。
「ヴァリアンさ、カルカートス…様に言われてやってる?」
ざっと見た感じだと、帳簿の照らし合わせのために集めてる感じだろうか。不正がないようにね。素晴らしいことだ。
「はい。おじさまが、これを持ってきてって」
「僕も手伝うよ。全部持つのは大変でしょ?」
そう言うと、ぱっと顔が明るくなった。書庫の本は持ち出し記録に名前を書かないといけない。僕や父様、ヴァリアンしか入れない部屋だからそうしたのだろうけど、まだ書庫の仕組みとか手続きとかわかってないと思うんだけどな。なにより、これを一人で持っていくのは大変だろうに。ヴァリアン付きのメイドさん探さないとだな。
しかし、差別がわかりやすいことで。カーミーラの兄って時点でそんな気もしてたけど、僕とヴァリアンの扱いに差がありすぎるだろ。
「おじさま、持ってきました」
「失礼致します」
レイルドーシャがドアを開けてくれた。あ、疲れた顔してるね。開けてから気付いたみたいで、ぱちりと目を瞬いた。
「リユラル様?」
なんでここにいるんだろうみたいな声だ。にっこりと笑って返す。
「大変そうですので僕もお手伝いしようと思いまして」
「それはありがとうございます。ですが生憎手は足りておりますので」
…おぉん?
子供一人にこの量運ばせといてよく言うよ。僕をどれだけ馬鹿だと思っているのだろうか。
「…でしたら、何か手伝えることがありましたらお呼びください。それと帳簿ですが、7年前のものが書庫の奥にあるようでして…」
「了解です。ではありがとうございました」
いや、追い出す気満々すぎない??とは思ったけど、そこは貴族スマイルを浮かべて華麗に返事をするのである。僕偉い。
「ヴァリアン、そろそろ眠いんじゃない?」
「まだ、やれます…」
そう言っているけど、すごく眠そうだ。朝早かったし、緊張してたでしょ。僕も眠いもん。
「カルカートス様、ヴァリアンはそろそろ…」
「そうですね。ではおやすみなさい」
一瞬、チッ、みたいな表情が浮かんで消えた。なんで人って、下の立場だと思ったらこんな横柄になるのかなぁ。僕が言えることじゃないけどさ。
体を軽く拭いてベッドに寝かせたら、案の定、すぐに寝てしまった。まあ早く寝てくれた方がいろいろ動きやすくはあるんだけど、カルカートスはヴァリアンを休ませてあげてないんだろうか。
というか、なんで毎回、こういうのって夜になるのかな。僕が睡眠不足になっちゃう。寝ないと体に悪いんだよ?
でも、あとちょっとの辛抱かな。それに僕、超役に立ってるんじゃない?暗躍ってなんかかっこいいね。
引き出しの中からそっと帳簿を取り出し、僕は部屋から滑り出た。




