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亡国のレギオン  作者: 高井高雄
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完結篇 前篇 第1章 束の間の休息

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 羊皮紙の束を持ったノインバス王国のフレアは[やまと]の通路を早足で歩いていた。

 海曹と海士と顔を合わせるが、彼らは道をあけて、挙手の敬礼をする。

 フレアはそのまま進み、板垣(いたがき)(げん)()海将の部屋、司令官室に足を止めた。

 司令官室のドアをノックすると、板垣から「どうぞ」と返ってきた。

 フレアが入室すると、ノートパソコンを前に何かしていた。

「イタガキ提督。群島諸国連合軍の新たな編成表と各国の状況が届きました」

 フレアはそう言って、羊皮紙の束を板垣に手渡した。

 板垣は羊皮紙を受け取り、目を通した。

 フレアは群島諸国連合軍と自衛隊との連絡役であり、調整役である。

「な、7万も、集まったのか」

 板垣はミレニアム帝国本土侵攻軍の兵力を見て驚いた。

 挺進団も2500から4000に増員され、フリーダム諸島の銃器製造所はフル回転状態である。

 さらに報告書には、榴弾砲も完成し、砲兵部隊の編成も行っていると言う。

「これだけの兵力だと食糧等もかなり必要です。しかし、食糧を徴用すれば群島諸国の国民にかなりな負担を強いる事になりますが、それは大丈夫なのですか?」

 軍の糧食の確保は基本中の基本だが、銃後の国民が飢えては本末転倒である。

 板垣の懸念に、フレアはすぐに答えた。

「その事については十分に対応しています。元々、私たちの国々では何らかの災害で食糧難に陥った国に食糧援助を常に行えるように備蓄する態勢を取っています。それらを兵糧として回しますので、民の生活に支障をきたす事はありません」

 フレアの説明を開き、板垣は書類に目を通した。

 しかし、7万という数にはとても驚いた。情報幕僚からの報告では、群島諸国の国力から、侵攻軍は4万から4万5000になるくらいだろう、と言っていたのだが。

「よく、これだけの数が集まりましたね」

「ええ、正規軍だけではなく、商会等が保有する私兵たちも集まりましたから、これだけの規模になりました」

 コンコン、とノック音がした。

「首席幕僚。入ります」

「入れ」

 司令官室に、艦隊首席幕僚の佐藤(さとう)(しゅう)(いち)2等海佐が入室した。

「あ、フレア王女もおられましたか」

 佐藤も書類を持っていた。

「司令官。ミレニアム帝国本土の情報が入りました。詳細はこちらに」

 佐藤は報告書を板垣に渡した。

 板垣はフレアからの書類を執務机に置き、佐藤からの報告書を黙読し、表情を曇らせるのであった。

「きつい戦いになりそうだな」

「はい」

 板垣の言葉に佐藤はうなずくのであった。

 フレアには日本語はわからないが報告内容は聞いていた。

 ミレニアム帝国は本土決戦のために、防衛陣地を構築している。

 幸いなのはミレニアム帝国内で、貴族たちが決起の準備をしているとの報せがあった。これが本当なら、短期決戦に持ち込めるだろう。

「しかし、司令官。決起する貴族たちには、これ、という武器がありません。たとえ、決起したとしても、すぐに武装親衛隊に制圧されます」

 佐藤の言葉に、板垣はうなずき、言った。

「・・・確かに、そうだろうが、それにかんしては現地に潜入しているシールズやCIAの工作官に任せている。どうするかは、彼らが判断する」

 板垣がそう言うと、書類を置き、つぶやいた。

「いずれにせよ、休息が取れるのも4日間だ。それからミレニアム帝国との本土戦だ」

 板垣のつぶやきに、佐藤がつぶやいた。

「どれほどの隊員や兵たちが命を落とすのでしょうか・・・」

「できれば少なくしたいな・・・」

 2人のレギオン・クーパー(異世界の軍勢)の話を聞いてフレアは心中で苦笑した。

 この世界の将が、一兵卒の心配をすることはない。兵卒は使い捨て、それがこの世界の常識だ。

 参謀もまた同様で、勝つために兵を使い捨てるのは当然だ。

 かつての日本もそうだった。

 しかし、それでは最終的に勝つ事はできない。大量の血を流し、取り返しのつかない過ちをあの大戦で犯して日本人は学んだ。

 戦闘の勝敗を別けるのは下士官と兵の意思の強さだ。

 彼らを捨て駒にする勝利なら、指揮官も参謀も必要はない。



 艦隊が停泊している島は温泉の産地である、それほど大きくない島だ。

 訓練と休息のため、挺進団の者たちも島にいる。

 上陸は順番に行われ、彼ら、彼女たちはガス抜きをしていた。

 屋内の温泉施設の脱衣所で松野彩(まつのあや)海士長は服を脱ぎながらため息を吐いた。

 脱衣所には、彼女以外に北井、宮林可奈(みやばやしかな)陸士長、アルシア、イングリット、レティシア、サンニという笠谷の女性陣がいるからだ。

(・・・皆、綺麗な肌と私よりも胸が大きい・・・)

 松野は同じ男を好きになった女性たちを見て愕然とするのであった。

 25歳の北井と23歳のイングリットは大人の女性らしさのある身体つきで、文句なしの美女だ。

 同じ年の宮林は小柄で童顔ではあるが、笠谷の女性たちの中では1番胸が大きい。

 1つ下のレティシアはとても10代には思えない美しさで、胸も普通である。

 サンニは松野より2つ下の17歳で、金色の髪に真っ白な肌、彼女から見ても文句なしの美少女だ。胸は松野より少し大きいぐらいだが、ボロ負けだ。

 アルシアはまだ15歳だから、身体つきは松野と変わらない。しかし、4つも年下の少女に勝っても、嬉しくない。というか、負ける可能性もある。

「・・・・・・」

 松野は女性、少女たちを見て、しゅん、とするのであった。

「アヤっち、どうしたの?」

 隣でタオルと木製の桶を持ったサンニが松野に尋ねた。

 だが、その表情は自分の身体を自慢しているかのような笑みを浮かべていた。

「・・・・・・」

 サンニに対して殺意を感じたが、無理矢理笑顔を作って、言った。

「なんでもない」

「アヤピン、サンピン。行こう」

 準備できた宮林が2人に大きな胸を見せつけながら、言った。

「・・・・・・」

「うん、カナっち」

 何も気にしていない様子のサンニと宮林に心中で殺意を感じる松野であった。

(・・・いつか、粛清してやる・・・)

 ずいぶんと人聞きの悪い事を心中でつぶやく松野であった。

 浴場に入った女性陣たちは、まず、身体を洗い、お湯で流した後、それなりに広い浴場に入った。

 自衛隊や挺進団等が貸し切った温泉は貴族や大商会の商人たちが利用する施設であるから、石鹸等も高価なものだ。

「うーん。生き返るぅ~。尚幸さんと一緒に入れたらもっといいのにぃ~」

 宮林がとろけるように言った。

 そんな彼女にイングリットが怒り心頭で、仁王立ちになる。

「抜け駆けは許さないわ!」

「ええぇ~」

 宮林はそう声を上げながら、イングリットの胸と自分のを見比べて勝ち誇ったように笑う。

 イングリットはむぎぃぃぃという顔をして、宮林のもとへ向かった。

「ちぎって、捨ててやる!」

「グリピン。自分の胸が小さいからって、暴力反対!八つ当たりはかわいくない!!」

 と言いながら宮林は胸を手で隠すが、それはただ、自分の胸の大きさを強調するだけで、イングリットの怒りの炎に油を注いだだけであった。

「・・・まったく子供ね」

 アルシアが温泉につかりながらつぶやく。

「・・・ふぅー」

 北井もため息混じりに息を吐く。

 しかし、2人の表情は笑みがかなり引きつっていた。

「イングリット様。お手伝いします」

 と、レティシアが現れ、宮林を押さえる。

「え?ちょ、ちょっと待って、レティピン」

「待ちません。覚悟してください」

 等と、宮林とレティシア、年下相手に大人げないイングリットの3人がぎゃあぎゃあ騒ぐのであった。

「アヤっち、隙あり!」

「ひゃあ!?」

 サンニが松野の後ろに回り、彼女の胸を触る。

 松野はなんとも間抜けな声を出す。

「ふふふ、ふーん。まな板ね」

 サンニは勝利の笑みを浮かべて言った。

 これには松野は、カチン、ときた。

「ひどい。私はまな板じゃない!それにサンニちゃんよりかは尚幸さんの事が好きなんだから」

「へぇー、じゃあ、口づけとかしたの?」

 サンニの言葉に松野は顔を赤くした。

「それは、その、あの」

 と、松野は魚のように口をパクパクした。

「あたしはすでにしたわよ」

 サンニの言葉に松野だけではなく、全員が反応した。

「と言っても、あたしからしたんだけどね・・・」

 と、サンニはペロっと舌を出した。

 松野以外の女性陣はその手があったか、と思った。

「あたしでも、まだ未遂なのにぃぃぃ」

 宮林がぼやく。

 そして、何かに気付いて、宮林が松野に迫る。

「アヤピン。もしかして、あたしたちを差し置いて、したの?」

 宮林の問いに、松野は凍りつく。

 その後、松野は首を左右に振って、否定した。

「本当~?」

 宮林は松野の表情を見て、疑う。

「アルピン、アカピン。どう思う?」

 宮林は温泉を楽しんでいる北井とアルシアに聞いた。

「したわね」

「左に同じくですわ」

 2人の意見を聞くと、宮林は松野に問いただした。

「本当は?」

 松野は小さくなりながら、自白した。

「はい、しました。一瞬だけ」

「私たちを置いて、抜け駆けするとは、ちょっと、お仕置きが必要ね。皆」

 北井がそう言うと、宮林たちが抜け駆けした松野とサンニに襲い掛かった。

 2人の少女の悲鳴が浴場を支配するのであった。

 この場に笠谷がいないのは彼にとって救いだろう。もし、いたらどうなっていたかは言うまでもない。ちなみに彼は司令官と幕僚たちで会食中であった。



 温泉を堪能した松野たちは着替えて、飲食店で昼食をとる事にした。

 温泉の他に漁業が産業であるこの町はもちろん魚料理がメインである。

「このお魚、とってもおいしい!」

 初めて食べる魚料理に表情を輝かせながら、サンニは、おいしい、と繰り返すのであった。

「サンピンは魚料理を食べるのは初めてなの?」

 魚の揚げ物を食べた宮林が彼女に聞くのであった。

「うん。あたしの村は山岳部だから、肉がほとんどなの。魚と言っても、川魚しか口にしないから、食べた事がないの」

「それでも、かなり食べるのね」

 北井がサンニの前に並べられた料理を見て、目を丸くしていた。

 実に3人分はあるかという、サラダだ。

「あたしの住む島は耕作地が少ないから生野菜って、とても貴重なの。こんな安く手に入るのなら、いっぱい食べないと、損」

「でも、食べ過ぎは身体に毒ですよ」

 アルシアが王族らしいマナーで魚を食べて言った。

「大丈夫、アルっち、いまのうちにしっかり食べて、ナオユキさんの赤ちゃんをつくる準備をしておかないと」

 サンニの言葉に女性陣たちは一斉に手が止まった。

「ナオユキさんの赤ちゃんを身ごもるのはあたしが先だから」

 サンニは自信に満ちた表情で、宣言したのだ。

「ナオユキの赤ちゃんを産むのは私が先よ!」

 と、イングリットが吠える。

 一方の松野は顔を真っ赤にしていた。



「ハックション!」

[やまと]の幕僚室で、会食中であった笠谷がくしゃみをするのであった。

「風邪か?」

 板垣が部下に問う。

「どうせ、噂されているんでしょう」

 佐藤が魚のフライを1つ箸につまみ、軽口を言った。

「・・・ソウデショウネ・・・」

 何となく思い当たる節があり、笠谷は引きつった苦笑いを浮かべた。



 アメリカ海兵隊第33海兵遠征隊歩兵大隊のCチャーリー中隊所属のカズオ・キノシタ少尉(セカンド・ルテナント)は1人温泉街を散策していた。

 現地の人から聞いたオススメの酒場に向かっている最中だ。

「まったく。たかが酒場に行くのに、なんでこんなに遠いんだ」

 彼はそうぼやきながら、手書きの地図を見た。

 進んでいると、キノシタに声をかける女性がいた。

「あの!木ノ下さんですね!」

「?」

 キノシタが振り返ると、見覚えがある女性がいた。

「君はあの時の」

 偵察飛行中にナチス・ドイツ軍に撃墜されたSH-60Kの生存者、たしか長瀬(ながせ)(かわ)()()3等海尉だった。

「ナガセカワ。だったな?」

「美亜でいいです。1人ですか?」

「ああ。いい酒場があると聞いて、そこに向かっているところだ」

 すると、長瀬川は上機嫌になり、1つ提案した。

「では、あの時のお礼がしたいんです。一緒に行きましょう」

「そうだな」

 キノシタは笑みを浮かべて、彼女の申し出を受けた。

 予定では1人で飲みに行く事になっていたが、2人で飲むのも悪い事ではない。それも女性とならなおさらだ。

 キノシタの承知に長瀬川は心中でガッツポーズをしたのはここだけの話だ。



 ヘリ搭載護衛艦[ふそう]艦長の高上(たかがみ)直良(なおよし)1等海佐は新妻のケイリー・エヴァンズ・高上(タカガミ)大佐(キャプテン)と共に宿屋の部屋にいた。

 新婚という気分を味わう暇もなかった2人にとって、久しぶりの2人きりの時間だった。

 潮の香が届くベランダで夜景を眺めながら、乾杯する。

 静かな時間が流れる。

「・・・キレイね・・・こんな夜景を見ていると、今までの戦いが嘘に思えるわ」

「そうだな」

 ケイリーは目を伏せる。

「・・・これからは、ますます厳しい戦いになる・・・」

 敵味方関係なく多くの軍人が命を落とした。そして、これからもそうなる。

 もう後戻りはできない。

「・・・軍人の言葉ではないけれど・・・ナオヨシ、死なないで・・・」

 ケイリーの心からの願いだった。

「大丈夫だ、板垣司令官もいるし、なにより俺たちの艦隊には女神の盾を持った魔女が付いている。俺たちは必ず生き残る・・・そうだろう」

「ええ・・・そうね」

 自分の肩を抱く高上の肩に頭を預けて、ケイリーは囁いた。



 樹村慶彦(きむらよしひこ)3等海尉は、自分たちと同じ港に停泊しているマレーニア女王国艦隊に搭載された新型砲の最終調整のために出向してきたルクティアと久しぶりに、2人の時間を過ごしていた。

「・・・ええと・・・その・・・」

 会ったら絶対に言おうと思っていた言葉が出ない。

「ヨシヒコ殿、ご武運を祈っています」

「はい、ありがとうございます」

 今だ・・・言え・・・言うんだ・・・俺。

「あの、ルクティアさん・・・その・・・」

「はい?」

 たった一言が、出てこない。

 心の葛藤に、1人悶々としている樹村の頬に、ルクティアはそっと唇を押しつけた。

「幸運のおまじないです」

 驚く樹村に、少しはにかみながらルクティアはそう告げた。

「・・・必ず生きて帰ってきます・・・必ず」


 完結篇前篇第1章をお読みいただき、ありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は今月の22日まで予定しています。

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