表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡国のレギオン  作者: 高井高雄
PR
76/113

第2次ラペルリ攻防戦 第2章 会戦前

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 町が炎に包まれていた。

 町は血の臭いと死体の焼けた臭いに満ち、石造りの地面は赤く染まっていた。

 幼い彼女は屋敷の地下室で足を抱き、ぶるぶると震えていた。

 外からは怒号と悲鳴、そして断末魔の叫び声が聞こえる。

 彼女は耳を塞ぎ、その音を遮断した。しかし、臭いまでは防ぐ事はできなかった。

「おい、いたか!?」

「いません!」

 上から男たちの声が響く。

「なんたって、龍神の娘だからな、捕まえれば莫大な金になる。いいか!絶対に見つけろ!」

 リーダーらしき男が叫ぶ。

 彼女は、びくっとして、さらにぶるぶると震える。

「お父さま!お母さま!」

 彼女は小声で両親の名を叫んだ。

「くっそぉぉぉ!どこにもいねぇーじゃねえか!」

「情報は本当にたしかなんだろうなぁ!」

 男たちの声が響く。

「もしかしたら地下室に隠れているんだろうぜ。隠し扉を探せ!」

 男の言葉に彼女は恐怖した。

 このままではいずれ見つかる。そうなれば確実に殺される。

 彼女はキョロキョロして隠れられそうなところを探す。

 しかし、どこを探してもいずれは見つかるものばかりだ。

「ど、どうしよう」

 彼女は地下室内を見渡しながら言った。

 必死に幼い頭をフル回転させながら見つからない場所を探す。

「ん?おっ、あったぞ!隠し扉だ」

「ひっ!?」

 男の言葉に彼女は悲鳴を上げた。

 このままじゃ見つかる、そうなれば捕まってから、どこかで殺されてしまう。

「いやー」

 死にたくない、絶対に死にたくない!殺られるまえに、殺る!

 彼女の脳裏に、響く声。その時、彼女の心にのしかかっていた重い何かがなくなった。

 なんでもできると思った。

 彼女は目を閉じ、自分の中にある力を解放した。

 彼女の身体が青白く光輝く。どんどんと大きくなり、美しい白銀の鱗をもつ1頭の龍となった。

 今の彼女にはその強大な力を使いこなす事はできず、破壊の限りを尽くした。

 突如として現れた小さい龍は襲撃者たちだけではなく、町の生存者たちにも襲い掛かった。

 怒り狂った龍神は、1つの町だけでなく、その世界を全て焼き尽くした・・・と、いう。

 吟遊詩人たちの語った、滅びた世界の物語。



「イングリットさん!!」

 揺り起こされて、目が覚めた。

「・・・・・・」

「大丈夫?」

 フレアが心配そうに覗き込んでいた。

「ひどくうなされていましたわ。悪い夢をご覧になったのですか?」

 後ろからアルシアも心配そうに声をかけてきた。

「ごめんなさい・・・起こしてしまって・・・」

「ひどい汗ね、お水を用意させるわ」

 別室に控えている侍女に、連絡しようと艦内電話の受話器を取ったフレアを、イングリットは止めた。

「大丈夫、少し夜風に当たれば落ち着くわ。ごめんなさい・・・」

「イングリットさん、こんな事を言うのは失礼かも知れないけど1人で抱えきれない苦しみなら、みんなで分かち合うのも1つの解決法よ・・・もし、よろしければ私たちが力になれるかもしれない・・・」

 フレアは優しく言った。

「・・・・・・」

 この人たちは・・・そうイングリットは思った。

 どうして、みんなこんなにお人よしなのか・・・今まで会った人間たちと全然違う・・・

 それでも、今は話せない・・・

 イングリットは丁重に断り、部屋を出た。



 空母[やまと]の第2部長室で、笠谷(かさや)(なお)(ゆき)2等空佐は航空作戦、ラペルリ連合王国防空戦をまとめていた。

 飛行服に身を包んだ彼は、ラペルリ連合王国の地図にペンを走らせていた。

 大きく息を吐き、笠谷は腕時計を確認する。

(もう、こんな時間か)

 午前3時2分である。

 笠谷は座ったまま、伸びをした。

 最近の睡眠時間は2時間ぐらいになっている。

 ミレニアム帝国に潜入している工作員からの情報で、ある程度の敵の情報が入手できた。

 笠谷は立ち上がり、マグカップとコーヒーが入った瓶を取り出し、コーヒーの粉をマグカップに入れる。

 沸かしたばかりのお湯を入れた。

 コーヒーの香りを嗅ぐと、疲れが一気になくなった。

「この香りを嗅げるのも、後、どのくらいだろうな・・・」

 笠谷は小声でつぶやき、コーヒーをすする。

 敵の航空機はロシア製のSu-27、MiG-29、ユーロファイタータイフーン等の戦闘機と輸送機。

「いったいどこから、入手したのか」

 ドイツ連邦空軍は一時期東側諸国の航空兵器を装備していたが、Su-27は装備していなかったはずだ。

 机の上に置かれている1枚の写真が目に入る。

「イヴァン。お前もこの世界にいるのか?」

 写真に写っているドイツ連邦空軍将校に語りかける。

 確信はない。だが、なんとなく、そんな気がするだけだ。彼もこの世界に来ていて、空中戦を繰り広げる・・・

「もし、そうだったら、悔いのない戦いをしよう」

 笠谷は小声でつぶやいた。

 コーヒーを飲み干し、少し夜風にあたろうと思った。

 部屋の電気を消し、部屋を出る。

 24時間態勢であるため、[やまと]艦内はまったく人気がない訳ではない。しかし、静かなものだ。

 笠谷は通用甲板に向かう。



「ん?」

 後部通用甲板に着くと、先客がいる事に気づいた。

 長い銀髪を夜風で揺らしていた。

「イングリット?」

 笠谷が声をかけると、イングリットは驚き、振り返った。

「な、ナオユキ」

「こんな時間にどうした?」

「ナオユキこそ、こんな夜更けに何をしているの?」

 笠谷は質問に質問を返され、苦笑した。

「俺は仕事をしている。今は休憩中だ」

「こんな夜遅くまで仕事をしているの。大丈夫?」

 イングリットは心配そうに尋ねた。

「この仕事は疲れるのが仕事だ」

 笠谷の言葉にイングリットは笑う。

 彼はイングリットの隣に立ち、月明かりに照らされた港町を眺めた。

 艦隊がいるのはフリーダム諸島ではない。海賊オルティス団の拠点であるソニア島の沖に停泊している。

 岬には大型の固定魔道砲がいくつかある。

 夜風が頬をなでる。

「涼しい」

 イングリットは心地よさそうにつぶやいた。

「どうして、こんな時間に起きていたんだ?」

「知りたい?」

 そう言った後、イングリットは悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「ひ・み・つ」

「そうか」

 笠谷も詮索する気はなかった。

 何も言わず、寝静まった港町を眺めていると、笠谷は脇腹を抓られた。

「痛ててて」

 笠谷がイングリットに振り向くと、彼女はぷいと顔を逸らした。

 なぜか、彼女は不機嫌そうな顔をしていた。

 どうした、と聞いても答えてくれず、どうしたんだろう、と思っていると、また、脇腹を抓られた。

「イングリット?」

 彼女の名を呼ぶがやはり不機嫌は直らない。

 イングリットは無言で、笠谷の身体に身を寄せた。

「ナオユキは」

 イングリットは拗ねたように口を開いた。

「他の娘と私、どっちが好き?」

「え?」

 笠谷は驚き、彼女を見る。

「いいわ、忘れて」

 イングリットはそう言って、笠谷の肩に自分の頭を乗せた。

「しばらく、こうしていたい」

 イングリットは甘えた声で言った。



 朝日が昇り、[やまと]の乗組員たちが朝食を終えた後、飛行甲板にV-22が発艦準備をしていた。

 乗り込むのは笠谷、アルシア、フィオナ、イングリット、第2部長の護衛である宮林可奈(みやばやしかな)陸士長である。

 なぜ、宮林が[やまと]に乗艦しているかと言うと、混成小隊が帰還した後、彼女が笠谷の警護になりたいと手を上げた。

 第1任務団司令部は、海自(海上自衛隊)と空自(航空自衛隊)とのあいだで発生した亀裂を回復させるという名目で宮林の希望を叶えた。

「では、司令官、幕僚長行って参ります」

 デジタル迷彩服とデジタル作業服を着た司令官、幕僚たちに挙手の敬礼をする。

「第2部長。頼むぞ」

 司令官である板垣(いたがき)(げん)()海将は答礼して言った。

 笠谷が行くのはラペルリ連合王国で、すでに上陸した陸自の第1任務団、第1支援群、第2任務群、群島諸国連合軍の作戦参謀、運用担当の幕僚たちと打ち合わせをするためだ。

 板垣と佐藤(さとう)(しゅう)(いち)2等海佐、島村(しまむら)三郎(さぶろう)1等海佐、岩澤(いわさわ)(しげる)1等空佐の見送りのもと笠谷たちはV-22に乗り込んだ。

 ローターが回転し、V-22が[やまと]から発艦した。



 母艦から離れていくV-22を見送りながら、板垣はデジタル迷彩帽を被り直した。

「燃料の心配がなくなったから、航空機等を使うのに抵抗が軽くなった」

「ノインバス産の燃料も補給艦に積まれていますからね。しかし」

 板垣のつぶやきに佐藤が笑みを浮かべて、言ったが、その後、笑みが消えた。

「艦船用の燃料と車輛用の燃料の製油はそれなりにできますけど、エルンスト氏の話では、航空機用の燃料を、精製できるのは、彼を含めて数名しかいないそうです。そのため、どうしても生産量に限りがあると・・・」

「彼には、感謝してもしきれんな。大切に使わせてもらわねば・・・」

 板垣は小声でつぶやいた。

「司令官。今日は米の日ですよ」

「ん、ああ。そうだったな・・・早めに、幕僚室に顔を出すとするか」

「炊き立てのご飯の味は最高ですからね。ああ、水島司令から差し入れが届いてますよ」

「差し入れ?」

「秋島産の、コロル芋で作った[里芋の煮物]もどき、だそうです。申し訳ないが、全乗員分は作れないので、取り合えず幕僚たちで試食してみてくれと、言ってました」

「・・・意外に家庭的なんだな・・・」

「前に、肉じゃがをおすそ分けしてもらった事がありますが、絶品でした」

「なんで、お前だけ特別扱いなんだ?」

 言い終えると、飛行甲板に駐機しているF/A-18Jを整備している整備員たちを一瞥してから、艦内に戻った。



 施設隊が施設機材をフルに活用して、ラペルリ島に敷設した滑走路

 滑走路と言っても戦闘機が離着陸できるほどの長さはない。しかし、無人航空機(UAV)が離着陸できるほどには整備されている。

 当然ながら偽装工作は念入りにしている。

「急げ!物資を地下洞窟へ運び込むのだ!」

 1人の騎士が、物資の輸送を指揮していた。

 今朝、陸揚げされた物資は荷馬車等を使って、兵站拠点に輸送していた。

「伝令!」

 指揮をしていた騎士に少年兵が駆け寄ってきた。

「レギオン・クーパー(異世界からの軍勢)が、まもなくここへ降りてくるそうです!」

「レギオン・クーパーが」

 騎士は慌てて御者に命じた。

「荷を乗せたままでいい。脇へ移動しろ、急げ!」

 御者たちは慌てて、自分の荷馬車を脇へ避けさせる。

 それが完了したぐらいで、レギオン・クーパーが現れた。

 オスプレイ、とか言う乗り物だった。



 着陸したV-22から、笠谷たちが降りると、徒歩で第1任務団司令部に向かった。

 司令部は地下に設置されている。

 これは偵察機から司令部の位置が発見されない事と、爆撃などから護るためだ。

 地下司令部に入ると、隊員の誘導に従って、会議室に入った。

 笠谷たちが席に着くと、会議は始まった。

 会議の指揮は第1任務団第3部長の岩谷(いわや)明穂(あきほ)2等陸佐だ。

「群島諸国連合軍の状況から説明していただきたい」

「連合軍の総兵力は3万6000。レギオン・クーパーに言われた通り、各地に構築した地下要塞に配置した」

 参謀がそう言うと、次は兵站と訓練の状況を報告した。

「食糧、武具、医薬品の備蓄は順調に進んでいる。補給がなくても3ヶ月は問題ない。訓練も順調に進んでいる」

 参謀が言い終えると、次の報告に入った。

 ラペルリ連合王国防衛戦の基本戦略はすでに決まっている。

 ミレニアム帝国軍とは正面決戦は避け、帝国軍を上陸させ、各地の地下要塞に配置させた群島諸国連合軍でゲリラ戦を仕掛ける。これなら、武器や装備に劣る連合軍でも、対抗できる。

 むろん、自衛隊もゲリラ戦を行う。洞窟等に隠蔽した重迫撃砲、自走榴弾砲、MLRSを使い、物資集積所を叩く。

 UAV等の無人兵器を使い、前線部隊に可能な限り損害を与える。

 それを繰り返しているうちに米海兵隊が敵の兵站司令部に強襲上陸を行う。そうすれば敵の航空戦力は兵站司令部の防衛に回るはず、その隙をついて、[やまと]の艦載機と[フロリダ]、[ノースダコタ]による巡航ミサイルで奇襲する手筈だ。

 航空戦力を叩いた後、ラペルリ連合王国防衛戦は最終段階に入る。

 会議は2時間ほどで終了した。



 戦車壕に車体を隠した装輪高射機関砲は海上と空を睨んでいた。

 装輪高射機関砲は87式自走高射機関砲の後継として開発された装輪式の高射機関砲だ。

 武装は40ミリテレスコープ機関砲。

 各種レーダーとC4-システム(広域な情報ネットワーク)、それに連動するコンピューター制御により、音速の航空機を迎撃する。

 地上攻撃や対舟艇攻撃も可能である。

「偽装作業はどうだ?」

 車長が対空砲塔に草や木等をつけていた操縦手に聞いた。

「これなら、空から見てもわかりませんよ」

 操縦手の言葉に車長は小さく笑みを浮かべた。

「俺たちは、ある程度撃ったら、さっさと離脱する。終わったら退路の確認に行くぞ」

「了解です」

 操縦手の返事を聞いて、車長は海上を睨んだ。

(さて、帝国軍はどこに上陸するやら)

 上陸予想地点には監視班が配置についている。上陸すればすぐに司令部に連絡され、ゲリラ戦が行われる。

 車長は胸ポケットから煙草代わりのガムを取り出し、口に入れた。

 煙草を温存するためにガムを代用品として、噛んでいるが、それも尽きそうだ。

「車長。終わりました」

「よし、行くぞ」

 車長はガムを噛みながら、退路の確認に行くのであった。


 第2次ラペルリ攻防戦第2章をお読みいただき、ありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は12月5日までを予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ