第2次ラペルリ攻防戦 第1章 滅びゆく世界
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
東京湾。
[あさひ]型イージス護衛艦3番艦[みかさ]。
「目標情報入りました!」
CICで通信士が報告した。
「北のミサイル発射基地より、日本本土に向けられた弾頭ミサイルの発射を確認!」
「今は、人間同士で争っている場合では無いというのに・・・何を考えている」
「アメリカの、核ミサイル発射に倣って、どさくさ紛れの暴挙でしょう・・・未確認ながら、軍の一部の命令系統が、混乱しているとの情報も入っています」
「ふざけるな!!」
艦長がそう吐き捨てると、間をあけてから叫んだ。
「全システムを新弾頭ミサイル迎撃(BMD)モードに、本艦指揮のもと、迎撃始め!」
新BMDモードとは、弾頭ミサイル迎撃ミサイルを装備するイージス艦と地上部隊の指揮・発射を1隻のイージス艦が行うものだ。
日本全国、海上に展開するイージス艦、地上部隊の全システムを[みかさ]が中心になって、迎撃する。
これまで、弾頭ミサイルの迎撃は個艦の指揮で行っていた。このため、迎撃がスムーズに行えず、全弾迎撃が極めて困難だった。数発であれば問題ないのだが、数10発ともなれば迎撃艦の数が足りない。だが、1隻の艦ですべてを行えば、その問題は解決する。それが新BMDモードだ。
「ターゲット、5基。以降、A、B、C、D、Eと呼称」
「発射指令!」
「スタンダード・ミサイル(SM-3)、発射指令発信!」
「撃ぇぇぇ!」
SM-3の発射ボタンを叩く。
轟音と振動と共に、[みかさ]の前部VLSから2発のSM-3が発射された。
別のイージス艦もSM-3が飛翔しているだろう。
すぐに音速に達し、空を駆け上がる。
「全艦、SM-3の発射を確認、ターゲットまで200秒!」
「第1段をパージしました!」
担当員が報告する。
「第2段ロケットを切り離し!弾頭保護カバー(ノーズコ―ン)、解放。キネティック弾頭を起動しました!」
相対速度秒速数キロというすさまじいスピードの中、高精度シーカーは相手の赤外線を探知し、正確に迎撃できるように進行コースを微調整する。
訓練では何度も経験した事ではあるが、実戦になると、乗員たちの呼吸も荒くなる。
「命中まで10秒」
レーダースクリーン上では重なる寸前だ。
「8、7、6、5、4、3、2、1、スタンバイ・・・」
SM-3から送信されている映像が真っ白く光った。
おお、CICにいる乗組員たちからそんな声が漏れる。
「本艦のSM-3、ターゲット・アルファを撃破![こんごう]、[きりしま]、[みょうこう]、[ちょうかい]もB、C、D、Eを撃破!」
報告に、艦長が胸を撫で下ろした。しかし、まだ、終わってなかった。
「艦長。第2波が発射されました!」
「何ぃぃぃ!!」
レーダー員の報告に艦長は絶叫した。
「艦長。再度迎撃を!」
砲雷長が叫ぶ。
彼の声で艦長はすぐに我に返り、叫ぶ。
「第2波を迎撃せよ!」
艦長の指示で、担当員たちが操作し、再びSM-3の発射準備に取りかかる。だが・・・
突然、全システムがホワイトアウトした。
「どうした!?」
「新BMDモードに異常発生!全システムが停止しました!」
「なんだと!」
[みかさ]のシステムが停止したという事は、接続されている各イージス艦、各地上発射システムも停止した事になる。
「復旧にどのくらいかかる?」
艦長の問いに武整長は沈んだ口調で答えた。
「30分はかかります」
彼の言葉に艦長は肩を落として、席に腰掛けた。
第2波の弾頭ミサイルを迎撃する術はない。
新BMDモードの初陣は失敗で終わった。
(板垣さん、見ていますか?我々の世界は滅びを迎えています)
艦長は心中で、お世話になった上官に語りかけた。
核弾頭を搭載した弾頭ミサイルは一部のアジア、ヨーロッパに、そして北アフリカ、中東各地に降り注いだ。
都市部は壊滅し、巨大生物、危険種の排除どころか軍の拠点まで破壊された。
アメリカ合衆国大統領(司法長官)は数人の随行員と共に廊下を進んでいた。
彼は、ほんの数時間前に合衆国憲法の規定により大統領に就任した。
前大統領(国防長官)は、「国民を頼む」という最後の通信の後、連絡が途絶した。
「大将。現在の状況は?」
大統領の問いに陸軍の迷彩服を着た黒人の大将が端末機を起動させて説明した。
「巨大生物、危険種が蹂躙している国への第1次核攻撃は、成功しました。しかし・・・」
「しかし、なんだ?」
「我が国も核攻撃を受けました」
大統領は立ち止った。
「それで被害は?」
「3つの大都市が全滅。2つの軍拠点が壊滅しました」
「・・・・・・」
大統領は言葉を失った。
前大統領が、苦渋の決断の中で発したコード5。その時自分はモニターを直視する事ができなかった。
「我が軍の兵力は?」
「全軍の戦力は35パーセントに低下しました。武器弾薬は豊富にありますが、それらを使う人間が不足しています」
アメリカに限った話ではないが、兵士、警察官の中には職務放棄する者もいる。
大統領は再び歩き出した。
彼らは歩いてる間、一言も口を開かなかった。
しばらく長い廊下を進んでいくと、MP(憲兵)2人が警備しているドアが見えた。
大統領たちはそのドアの前に立った。
ドアには、レベル6、と書かれていた。
この研究所(基地)の最高レベルのセキュリティであるドアだ。
1人のMPが確認すると、ドアの電子ロックが解除された。
「入室を許可します」
電子音がして、ドアが開いた。
大統領たちがその部屋に足を進めた。
彼らが入ったのは巨大な実験室を見下ろす事ができる部屋だ。
大統領は実験室を見下ろす事ができる巨大な窓の前にはりつくようにして立った。
「まるでSF映画のようだな」
「同感です」
大統領の言葉に黒人の大将が答える。
「SFなどではありません。現実ですわ」
背後からかけられた女性の声に、大統領は驚き、振り返った。
「きみか!びっくりしたよ、博士」
白衣を着た黒髪の長身の女性が笑みを浮かべながら、大統領の横に立った。
「最終調整は完了しましたわ。後は偵察隊の帰還を待つだけです」
「・・・そうか、彼らが戻れば、次の段階に進める訳だな」
「ええ」
大統領は実験室を見下ろしながら、小さく言った。
「選ばれし、アメリカ国民がこの装置で別の世界に移住し、アメリカ人のアメリカ人によるアメリカ人のための世界、にするのだな・・・」
「ええ、そうですわ。ナチス・ドイツから接収した膨大な資料の中からこれを発見した時は驚いたと先任者は申していましたが・・・70年も時間があれば、研究するには十分時間があります。それに、先遣隊の経過報告では知的生命体は発見されていないそうです」
博士は笑みを浮かべる。
「現代のノアの箱舟ですわ」
実験室を視察した後、大統領は研究所(基地)の大統領執務室に、随行員たちと共にいた。
「内務長官と他の閣僚たちを地下施設からこの研究所(基地)に移動できるよう準備させてくれ」
「はっ」
「移住民の調整は完了しているか?」
「軍、民、技師、政治家、議員等を合わせて8万人にのぼります。しかし、大統領?」
端末機を見ながら黒人の大将が尋ねた。
「なんだ?」
「本当に行かないのですか?」
「ああ、私はこの国のリーダーだ。残される国民のため、最後までこの国にいる。移住民のリーダーは内務長官に任せるさ」
そこまで言うと、大統領は席を立ち、窓から見える雪の大地を見た。
「大将。君はどうする?」
「言うまでもありません。私も閣下と共にいます」
大統領はため息をついた。
「移住団はいくらでも優秀な人材は必要だろう」
大将は笑みを浮かべた。
「軍の事にかんしてはあいつに任せておけばいいでしょう。私は必要ありません」
「妻子はどうする?」
「閣下と同じく、移住団に入れます」
「そうか」
大統領は雪の降る外を見ながら、笑った。
「大統領。私も、この国に残ります」
国土安全保障長官が言った。
「そう言うと思ったよ」
大統領は苦笑しながら言った。
「私の職務は国土の安全を保障する事にあります。国土の安全を回復させられるその日まで、この国に残ります」
それが不可能である事は国土安全保障長官も承知している。
「移住団の安全確保とその保障をする仕事もあるぞ」
「それは内務長官に任せればいいでしょう」
そう言って笑う、国土安全保障長官の言葉に大統領は苦笑した。
「はっはっはっはっ、内務長官は損な役回りだな」
「そうですね」
大将がうなずく。
確かに内務長官は不運としか言えない。そして、生き残った閣僚たちも、この2人のように残ると言い出すのではないかと、大統領は思うのであった。
「大将。長官を洋上の空母に移動させてくれ!」
「はっ!」
大将は端末機を操作し、無事な空母を探した。
「大統領。北太平洋で航行中の空母が1隻いますので、長官は3時間後にそこに移動してもらいます」
「わかった」
「2人共」
大統領は静かに言った。
「移住団が無事に新世界に移動したら、発射可能なすべての核ミサイルを使って東側諸国を叩く」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
2人が黙る。
「我々の世界はいずれにしても終わる。だが、まだ、危険生物等の侵攻を受けていない東側諸国を残して、合衆国が滅ぶ訳にはいかん。東側諸国を叩いた上で、我が国も滅ぶ、そうしなければならない」
大統領の決断に、大将は敬礼し、国土安全保障長官はうなずいた。
「ありがとう」
日本国、四国地方。
危険生物による蹂躙と、その後の無差別核攻撃により日本全土の主要都市が壊滅的な打撃を受ける中、なぜか危険生物の襲撃を全く受けなかった。
本州四国連絡橋は3本とも、中国地方防衛線を破られる直前に、自衛隊による爆破によって破壊され、陸上から侵攻される恐れはない。とはいえ、そこに住む人々の絶望が晴れる事はなかった。
防衛戦で損耗率50%という、多大な被害を出した自衛隊と在日米軍は、現在、残存兵力の再編と東日本の各部隊との連携による奪還作戦を準備中であった。
陸上自衛隊善通寺駐屯地。
現在、奪還作戦の西日本指令所として、残存する自衛隊と在日米軍が結集していた。
予備自衛官はもちろん、人員不足から警察官や消防官までかき集められたが、それでも足りない。
民間からは、銃器経験者や大型自動車、特殊車輛の免許取得者そして民間ヘリのパイロット等が志願して来た。
非戦闘員まで、戦力に組み込まれたため、警衛隊員にかわって、警備の任についていた警察官は不審な人物を見かけた。
駐屯地のある善通寺市は、四国八十八ヶ所霊場の札所がある。
普段だったら気にも止めないが、こんな時期に遍路姿で歩いている姿を見れば誰だって不審がるだろう。
当然、警察官は職務質問をした。
「来島辰造さんですね。住所は、と・・・何で東讃からわざわざこんな所まで・・・政府が非常事態宣言を出して、一般人は指定された避難場所での待機指示が出されているはずですよ」
身分証代わりの免許証を確認しながら、警察官は呆れた顔で言った。
「来島?もしかして、来島多聞3等陸曹の身内の方ですか?」
連絡を受けた、陸曹長の階級章をつけた隊員が聞いてきた。
「4人の孫の末っ子ですよ。ご存知なんですか」
「・・・彼の、曹候補生時代に区隊長を務めていましたので・・・」
老人の孫が、第1統合任務艦隊の陸自部隊に配属されていたのを思い出して、陸曹長は暗い顔になった。
謎の消滅をした2つの艦隊に老人の孫が4人とも配属されていたはずだ。
「・・・そう言えば、来島さんは洋上避難所への避難対象者にはならなかったのですか?」
政府の要人や関係者の家族は、陸上ではなく民間船舶を中心とした洋上避難所への避難指示が出ているはずだった。
孫が海将補なら対象者のはずだった。
「断りました」
「「え?」」
あっさりと言われて2人の目が点になった。
「私のような年寄りより、若いもんを1人でも多く避難させるように、言いました。あの消滅事件の後、私の所に2人の女の子が訪ねて来ましてな。1人は第1統合任務艦隊の司令官の娘さんで、もう1人はうちの孫娘の艦隊に同行しとった海保の船長の娘さんと言ってました・・・今、日本だけでなく世界中が、滅茶苦茶になっとりますが、いずれは終わる。その時に復興の中心になるのは、あの娘たちのような若者なんですよ」
まるで、すべての結末を知っているような口ぶりに2人は顔を見合わせた。
「私は、あの戦争の時に大阪と高松で空襲に遭いました。空から落ちてくる砲弾の雨、逃げても逃げても追いかけてくる全てを焼き尽くす炎・・・子供の頃の記憶を、今でも忘れる事はありません」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「ですが、この通り私は生きとります。後10年ちょっと生きれば1世紀生きる事になりますな。2度ある事は3度ある。だから、この国がもう1度立ち直るのを見るまでは死ぬ気はないんですよ」
そう言って老人は、時代劇のご隠居が笑うような高笑いをした。
「本当に、ご家族に連絡しなくて良かったのですか?」
「連絡して、送り帰してもまた来るぞ、あの爺さん」
「・・・でしょうね」
老人を見送って、警察官は陸曹長に尋ねた。そして、その答えに納得した。
「来島3曹もずいぶん変な奴だったが、あの爺さんを見て納得した・・・ありゃ、血筋だな」
陸曹長は、半ば呆れたように苦笑した。
「立ち直った日本か・・・俺も見たいな」
あの怪物どもは、四国を残して北上している。それは戦略上大きな過ちだ。
そこまでの知能はないのだろう。
だったら、徹底的にそこに付け入るべきだ。四国の各駐屯地、基地を戦略拠点に本州への側面攻撃、九州奪還。
上がどう考えているかはわからないが、やりようはいくらでもある。
「あの化け物どもに、人間様の本当の怖さってやつを徹底的に、思い知らせてやるか」
来島3曹の祖父は、日本の再生を願って八十八ヶ所を逆に回る[逆打ち(さかうち)]をしていると言っていた。
陸曹長も、聞いた事があった。
普通に回る、順打ち(じゅんうち)の3倍のご利益があるとかという話を。
今さら、神や仏に祈ってなんになると、大半の人々考えている中、あのやたらに元気な高齢者は、「もっと若ければ、あんたらの所に志願するんだが、この歳では役に立たんだろうから、自分に出来る事をやっている」とか、生き残る気満々な事を言っていた。
「あの爺さんは、どん底から這い上がった日本を見てる。だったら、もう1度這い上がるところを見せてやろうじゃないか」
彼が、棺桶に片足を突っ込むまでにはそうしたいものだ。と考えて、棺桶が目の前にあったら蹴り飛ばしそうだ、と考え直した。
そうだ、諦めるには早い。多分自分と同じ考えを持っている連中は、自分の背後にいる人々を守るために行動しているはずだ。
国と国民を守るのが俺たちの本分だ。陸曹長の口許に不敵な笑いが浮かんだ。
第2次ラペルリ攻防戦第1章をお読みいただき、ありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は11月30日までを予定しています。




