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亡国のレギオン  作者: 高井高雄
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閑話 その2

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。


 フリーダム諸島の1つ秋島の波止場で1人の老人が釣りをしていた。

 コツコツという足音が、すぐ側で止まる。

「失礼ですが、元ミレニアム帝国ラペルリ連合王国侵攻軍副司令官、アルヴィーン卿とお見受けいたしますが、相違ありませんか?」

 女性の声に、老人は振り返った。

「いかにも。ところで貴殿は?」

「申し遅れました。海上自衛隊第2統合任務隊司令、水島(みずしま)(かなめ)海将補です」

 挙手の敬礼をする白い夏用制服姿の女性に、アルヴィーンはうなずいた。

「随分と、お若い提督ですな」

 もちろん彼の上官であったリースヒェンは、彼女以上に若くして将軍の地位に就いていたが、出自が貴族であったからその地位に見合う能力さえあれば、不思議ではない。

 しかし、彼らの国ではそういった身分が無いという。それを考えれば若いと言っていいだろう。

 それに、いくら自分たちの島とはいえ従卒の1人も連れていないとは驚きだった。

「仕事というわけではありませんので・・・」

 それを察したのか、彼女は微笑を浮かべた。



「板垣司令官より、要望があれば何でも申し出て欲しいと言付かっております」

「・・・今のところは特にはありませんな。むしろ、色々便宜を図って頂けて感謝しているくらいです」

 きれいに整備された道をアルヴィーンの案内で歩きながら、水島は取り留めのない会話をする。

 彼女たちがこちらに飛ばされて来る前に、ラペルリ連合王国侵攻軍の将として参戦し、第1統合任務艦隊の前に敗退した。

 勝利か死か。この2択でなく、降伏という第3の選択をした老将に水島は素直に敬意を抱いていた。

「ところでミズシマ提督・・・」

「水島で結構です、アルヴィーン卿。何でしょう?」

 アルヴィーンは、振り返って水島を眺める。彼の知る限り敗軍の将にここまで敬意をはらう勝者はいない。

 もっともそれは彼女に限ったわけではない。ジエイタイと呼ばれる軍隊そのものが、それを持っている。

 敗者に待っているのは死か戦争奴隷の運命しかない。しかし、彼らはそれを良しとせずラペルリ連合王国に人道的な配慮を求めた。そしてアンネリ女王はその約定を守った。

 捕虜には帰国も許可されたが、誰も帰ろうとはしなかった。

 帰れば良くて奴隷、最悪死罪になることがわかっているからだ。

 アルヴィーンのような将クラスであれば、その罪科は家族にも及ぶ。

 家族を守るためには帰れない。

 彼らはラペルリ連合王国に居住する事を決め、アンネリ女王もそれを受け入れた。

 しかし、数が多い。そのため板垣は新たな住民として、半数の捕虜をフリーダム諸島に受け入れたのだった。

 現在、アルヴィーンは居住地として譲渡された秋島で、移民団の長として働いていた。

「では、ミズシマ殿。儂の事もアルヴィーンと呼んでくだされ、儂はもう貴族ではなく一介の年寄りですからの」

「わかりました。アルヴィーンさん」



 のどかな田園風景が広がっている。それを眺めながら、水島は心底平和はいいものだと考えた。

「しかし、これほど広い土地を農場用地として開墾するのは大変だったのではありませんか?」

「元々、この島は平地が多く、農地として向いておりましたしの。それに、ジエイタイとあめりか軍の工兵の方々が色々と協力して下さったので、むしろ楽をさせていただきました。そのうちこの秋島産の野菜を貴女がたの所へ届ける事が出来ると思いますぞ」

「それは楽しみです」

「あ、アルヴィーン様!!」

「アルヴィーン様、来て下さい!サジャ菜の芽が出てきました!!」

15・6歳くらいの少年2人が駆け寄ってきた。

「これこれ、お客人の前で騒ぐでない」

「「あっ!?し、失礼しました!!」」

 少年2人は慌てて敬礼をする。

「こちらこそ、仕事中に失礼した。私は水島だ、よろしく。君たちは?」

 苦笑しながら答礼する。

「ティーロです」

「ティルです」

 緊張した面持ちの2人に、水島は笑いかけた。

「そうか、ではティーロ君にティル君、私にも、そのサジャ菜というものを見せてもらえないか?」



 幾筋もの畝に、沢山の小さな芽が芽吹いていた。

「これが、もう少し大きくなったら間引く事になります」

 ティーロの説明を聞きながら、水島はうなずいた。

「間引いた芽はどうするんだ?」

「捨てますよ」

「勿体ない、カイワレ菜に近い感じだから、サラダかお浸しにできそうだが・・・」

「勿体ない・・・ですか?」

 妙に貧乏くさい事を言う提督に2人は驚いたように顔を見合わせた。

「イヤ、せっかく食べてもらおうと芽を出したんだから、ちゃんと食べてあげないとかわいそうだろうと思っただけなんだが」

 軽く咳払いをしながら、言い訳をした。

「ミズシマ殿、失礼ながら貴殿は、変わっていると言われませんかな?」

 笑いだしそうになるのを、押さえながらアルヴィーンは聞いた。

「毎日のように言われています・・・」

 三枝を筆頭に、第2統合任務隊の幕僚たちの顔を思い出しながら答えた。



 1700(ひとななまるまる)に、秋島の桟橋に[ながと]の作業艇が迎えに来た。

「司令、気分転換はできましたか?」

 作業艇に乗り込んでいた三枝が、にっこりと笑いながら声をかけてきた。

「司令室から叩き出した奴が何を言う・・・」

「司令が休日返上で仕事ばかりでは、部下がゆっくり休めませんよ・・・その辺りはちゃんと考えていただかないと」

「わかった。お説教はもう沢山だ」

 桟橋で、手を振る3人に手を振り返しながら水島はため息をついた。

「どうしました?」

「・・・我々が戦うのはナチスであって、ミレニアム帝国の国民ではない・・・しかし・・・」

「まず、立ち塞がるのはミレニアム軍の将兵・・・と」

「多分な・・・戦争というものはつくづく酷いものだ・・・本来なら友好的になれる可能性のある人々に互いに憎悪の感情を植え付け、引き裂くのだからな・・・あんな出会い方をしなければ、彼らは家族と共にいられただろうし、もっと違った友好関係を築けたかも知れない・・・そう思うと少しな・・・」



 ミレニアム帝国の第2次ラペルリ連合王国侵攻作戦は、すでに目前に迫っていた・・・

 閑話その2をお読みいただき、ありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回からは第2次ラペルリ攻防戦です。

 次回の投稿は11月21日までを予定しています。

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