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亡国のレギオン  作者: 高井高雄
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世界の真実 第6章 真実

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

 光がおさまると、そこは石造りの神殿の中のようだった。

「こ、ここは?」

 笠谷が神殿内の廊下を見渡す。

 神殿内はかなり明るい。

「ここが目的地です。カサヤ竜騎士殿」

 イングリットが笠谷の疑問に答える。

「イングリットさん?」

「黙っていてごめんなさい。私はある方から貴方たちを見極めるよう言われていたの」

「・・・・・・」

 いわゆるダブルチェックというやつか。笠谷はそう思った。

 人の側がリンであり、こちらの側がイングリットだったのだろう。

(リン・・・)

 自分たちを真実にたどり着かせるために、命を捧げた少女・・・果たして自分たちは彼女の決意に見合う人間なのだろうか。

 目を閉じた笠谷をリミがじっと見つめていた。

「お待ちしておりました」

 笠谷たちの前に突然、祭服姿の青年が現れた。

「エレオノーラ様の命より、貴方がたのお迎えに参りました」

 青年は穏やかに言った。

「その服装・・・?」

 笠谷の言葉に、青年は穏やかな顔から苦笑に変わった。

「その通りです」

 青年の言葉に笠谷、松野、宮林が顔を見合わせた。

 その意味を察したのか、青年は笠谷たちに説明を始めた。

「ここは・・・そうですね、管理世界とでも言えばいいでしょうか」

「管理世界?」

 青年の説明に笠谷たちは首を傾げる。

「ええ、至高の存在によって創られた平行世界の均衡を管理する世界・・・私は、貴方がたと同じ世界から派遣されてきた者です。もちろん他の世界からも、私と同じような立場の者が、派遣されてきていますが・・・話過ぎました。エレオノーラ様がお待ちです。どうぞ、こちらへ」

 どうやら、これ以上は何も聞いても答えてくれないと判断し、青年の後をついていく事にした。

 長い廊下を歩いていくと、巨大な扉が見えてきた。

 青年はその扉の前に立ち止まると、大きくはないがそれなりの声で言った。

「お連れいたしました!」

 その声に反応して、扉が開いた。

「どうぞ」と青年は言って、笠谷たちに部屋に入るよう促した。

 部屋は、とてつもない広さで、部屋の真ん中に巨大な水晶が宙に浮いている。

 その水晶を眺めている人・・・いや、人ではない。

 長い金髪に白い肌、背中に生えた白い鳥の翼。

「初めましてではありませんね。カサヤ殿」

 そう言って翼が生えた女性は振り返る。

「!?」

 彼女の顔を見て息を呑んだ、笠谷はその顔に見覚えがあった。

「私を覚えておりますか?」

 絶世の美女の言葉に笠谷は即答した。

「忘れられるか!」

 笠谷の言葉に2人の女性自衛官が反応する。

「むー」

「尚幸さん!!」

 笠谷が振り返ると、頬を膨らませた松野と怖い視線で睨む宮林がいた。

「いや、そういう意味じゃない」

 笠谷が慌てて誤解を解く。

「彼女が、俺たちを異世界に飛ばした張本人だ!」

「「え!?」」

 松野と宮林が驚愕し、翼の生えた女性を見る。

 笠谷は彼女に振り向いた。

「どういう訳か説明していただけますか?」

 彼は冷たい口調で尋ねた。

「私に話す機会を与えてくださるのですか?」

「私の受けた命は、真相を知る事であり、殺す事ではありません。なぜ、我々を異世界に召喚した?」

 笠谷の言葉に彼女はかすかに笑みを浮かべるのであった。

「遅くなりましたが、私はエレオノーラと申します」

 エレオノーラは、名乗った後、笠谷たち自衛官を異世界に召喚した理由を説明した。

「ミレニアム帝国が建国される前、ミレニアム軍は繁栄していた帝国を滅ぼしました。彼らはそれだけでは飽き足らず、貴方がたの世界から自分たちの軍を呼び寄せ、世界侵略を開始したのです。それを見ていた私たちは、悩んだすえに、別の世界から軍を召喚し、撃退してもらおうと考えたのです。それに選ばれたのが、貴方たちです。私の声を聴く事ができたのは、貴方たちだけでした」

 エレオノーラの説明に笠谷は、1番重要な事を質問した。

「1つお聞きしたいのですが、我々は元の世界に戻れるのですか?」

 その質問にエレオノーラは表情を曇らせた。

 笠谷は無表情であるが、松野と宮林は願うような表情をしているからだ。

 エレオノーラは静かに言った。

「残念ながら、別の世界に召喚する事はできますが、それを戻す事はできません」

 彼女の言葉に2人の女性自衛官は凍りついた。笠谷は表面上は落ち着いているが、内心では肩を落としていた。

 カーラの話を聞いた時にある程度の覚悟はしていたが、はっきり断言されるとこたえる。

「この話は後でゆっくりしましょう。ミレニアムとはなんなのですか?」

 笠谷は話題を変える事にした。

 エレオノーラはその質問を聞いて、答える前に青年に向かって、うなずいた。

 青年がうなずくと、笠谷たちに説明を始めた。



 笠谷たちがいた元の世界で、75年ほど前、第2次世界大戦後期、アドルフ・ヒトラーの命でSS、陸海空軍の将兵たちが大量の武器、兵器、資材を持って、異世界に送られた。彼らは、ナチス・ドイツがソ連に侵攻した時にすでに準備をしていた。彼らは、今のこの世界では自分たちの理想の実現が不可能である事をかなり早い段階からわかっていたのだった。

 ならばどうするか、新たなる地で理想郷を造る・・・である。

 その説明に笠谷は疑問を感じ、彼を見る。

「なぜ、知っていながら阻止しなかったのか。と、お思いですね・・・そうです。私の前々任者が手助けしたのですよ。それも全面的にです。そして、貴方がたの世界とこの世界を繋いだのもその人物です。どんな手段を使ったのか、禁じられ忘れられた術を用いて・・・」

 青年が言い終えると、エレオノーラが後を引き継いだ。

「ミレニアムの召喚により、世界の均衡が大きく崩れ始めているのです。もちろん、私たちが貴方がたを召喚した事により、それが決定的なものになりました・・・許してもらおうとは思っていません。私は大きな罪を犯しました・・・こうなるとわかっていましたが・・・それでも・・・」

「どうなるのですか?」

 笠谷の質問にエレオノーラは少し間をあけて答えた。

「ミレニアムを撃退しなければ、貴方がたの世界と貴方がたが召喚された世界は滅びます」

 彼女の言葉に笠谷たちは驚いた。

「本来、平行世界は交わらないものです。なのに、強大な力で2つの世界をつなげばバランスが崩れます」

 エレオノーラは巨大な水晶に振り返り、ゆっくりと水晶に向かった。

「で・・・でも、今まで異世界へ飛ばされた人もいるのでは?」

 松野が声を上げた。彼女は幕僚室係、司令官、幕僚にコーヒーを配っているから彼らの話を聞いている。

「確かにそういった事も起こっています。でも、ほとんどは自然現象によるものですから、均衡を崩すほどには至りません」

 エレオノーラは水晶の前に立つと、意味不明の言葉をつぶやいた。

 水晶が光り、何やら映像のようなものが浮かび上がった。

「貴方がたの世界の、にゅーす、というものです」

 エレオノーラがそう言うと、確かにニュースになった。

「九州地方から出現した危険種、巨大生物は北進を開始しました。これに対し、自衛隊、在日米軍は中国地方に防衛線を構築し、侵攻を阻止する事を発表しました・・・」

「・・・世界規模で、発生している危険種、巨大生物の侵攻に対し国連は常任理事国間での意見の相違から、統一した対策がとれず各国で被害が拡大しているとの情報が入ってきています」

「首都北京にまで、危険種、巨大生物の侵攻を受けた中国では大量の避難民がロシア国境付近まで避難をしていますが、ロシア政府は受け入れ拒否を発表しました」

 そこでニュースは途切れた。

「これは・・・」

 笠谷はニュースを見て、つぶやいた。

「私たちの世界でいったい何が起きているのですか?」

 宮林が尋ねた。

 エレオノーラは水晶を見たまま、答えるのであった。

「平行世界を人為的つないでしまった反動により、貴方がたの世界に魔物が大量に流れ込んでしまったのです・・・そして、貴方たちがご存じのとおり他の多くの世界も影響を受けつつあります」

 さらりと、とんでもない事を言ってのけるエレオノーラに3人の自衛官の衝撃は強かった

「つまり、我々の世界と我々が召喚された世界を救い、全ての平行世界を安定させるにはミレニアムを排除しなければならない、と」

 笠谷は冷静に言った。

「いえ、それだけでは均衡をもとに戻せません。あくまでも一時的です」

 エレオノーラの言葉に笠谷は眉をひそめる。

「ミレニアムだけを排除しても、平行世界の均衡をもとに戻す事はできません。もとに戻すには、完全に取り除く必要があります・・・」

 この言葉に3人の自衛官は、ピンときた。

「我々も、という事ですか?」

 笠谷は冷たい口調でエレオノーラに尋ねた。

 彼女は振り返り、笠谷の冷たい表情を見た。

「はい。貴方がたが持ち込んだ兵器をすべて破壊し、ミレニアムが造り出した繋がったままになっているはずの道を塞がなければ、いずれはもとに戻ります」

 エレオノーラが言い終えると場は水を打ったように静まり返った。



 エレオノーラとの会談を終えた笠谷たちはル・ホルスに戻る事にした。

 笠谷たちは最初にいたところに立っていた。

 見送りにエレオノーラと青年がついてきた。

 イングリットとはここで別れる。

 笠谷はエレオノーラたちに別れの挨拶をすませると、魔方陣の上に立とうとした時・・・

「待って」

 イングリットが笠谷を止めた。

 笠谷が振り返ると、イングリットは左膝をつき、右手を左胸に当てる。

 彼女は息を吸って、硬い声で笠谷に告げた。

「我、始原の龍の眷属の末裔たるイングリット・シベールは、汝、カサヤ・ナオユキ・ニサに忠誠を誓います」

「?」

 笠谷はイングリットの行動にまったく理解できず、目が点になる。

 エレオノーラ、青年、リミの3人はイングリットの突然の申し出に目を丸くしている。松野と宮林はどういう事かまったくわからない様子。

 ただ、笠谷はイングリットのこれまで以上に真面目な表情を見て、これが重要な事であるとは理解した。

 始原の龍とは・・・後に知った事だが、平行世界を創ったとされる存在・・・神と共に現れたとされる。平行世界の秩序と均衡を護る存在といわれている。

 カーラが仕えていた神よりも、さらに上位の存在。

 その眷属、という事はイングリットは人の姿をしていても、龍という事になる。

 本来そんな存在が、ただの人間である笠谷に忠誠を誓うなど普通はあり得ない。

 3人が、驚いたのはそれが理由だ。

 イングリットは笠谷の顔を見上げた。

 彼はまったく意味がわかってないようだ。

(ふふふ)

 イングリットは心中で笑った。

 最初から予想できた事である。

 笠谷との旅は短かったが、観察しているうちに彼に惹かれていった。

 村の防衛線では、彼らが到着するまでに命を失った村人たちの死を悼み。リンの時は、村人以上に悲しんだ。

 人が死ぬ、巫女が儀式の生贄となる、当然の事だ。しかし、笠谷はそれを悲しんだ。

 そして、笠谷の戦い方を見ていて思った。彼は自分の部下を救う事を前提に、戦っている。

 どの世界の軍にも、このような考えを持つ将校をほとんどいない。たいていの将校は兵を使い捨てにするのが普通だ。

 イングリットは、その疑問を笠谷に聞いた。すると彼は即答した。

「いかなる兵器、軍艦も時間さえあれば造れる。しかし、優れた兵士の育成だけは年月ではできないもの。そんな兵士たちを使い捨てる余裕等、我々にはない」

 と彼は言った。

 イングリットは笠谷に、忠誠を誓ってもいいと思った。

 彼には複数の女性の影があるが、イングリットはそれでもいい、と思った。

「え~と、失礼だが、それはどういう意味なんだ?」

 ようやく笠谷が尋ねた。

「忠誠は、私たちにとって非常に神聖なもの。自らの主と認めた者と共に在り続けるもの」

 イングリットは簡単に説明した。

「汝、カサヤ・ナオユキ・ニサに誓います。貴方が戦う時、我は貴方の剣となりましょう。貴方の命が危うい時、我は貴方の盾となりましょう」

 イングリットは強い意思で笠谷に告げた。

 笠谷はしばらく悩んでから、彼女の意思に負けたようで、受け入れるのであった。

「ありがとう。貴女の申し出を受け入れよう」



 笠谷の承諾を受けて、イングリットはほっとした表情になり、立ち上がった。

「1つ聞きたいんですけど、貴女も尚幸さんの恋人候補になったりしませんよね?」

 松野がイングリットに尋ねる。

「好意を持たない相手に忠誠を誓えると思う?」

「え?」

 イングリットは、挑発するような目で2人の女性自衛官を見る。

「・・・・・・」

 松野は無言で笠谷を睨み、彼の脇腹をおもいきり抓る。

「ふん!」

 宮林は笠谷の足を半長靴でおもいきり踏み付ける。

「ぎゃああああ!!」

 笠谷の断末魔の叫び声が響く。



 異世界に飛ばされた自衛官、米軍、保安官、ドイツ軍には知る術はない。

 彼らの世界は、危険種、巨大生物が手を出さなくても滅ぶのである。自分たちが生み出した愚かな産物で。



 アメリカ合衆国某州。核シェルターの施設内では何発ものの銃声が響いていた。

 シークレットサービスの特別捜査官たちが、突然施設に侵入してきた危険種の集団と交戦していた。

「どこに隠れていたの!?」

 若い女性特別捜査官がP229を発砲しながら怒鳴る。

「俺が知るか!!」

 同僚の男がMP5を連射しながら怒鳴り返す。

「突然現れたんだよ!」

 空軍の中尉(ファースト・ルテナント)がM9を発砲しながら叫ぶ。

 彼らは知るよしもないが、異界と繋がる裂け目はどこに逃げようが関係ないのだ。

「くそっ!いくら撃っても次々に出てきやがる!」

 MP5のマガジンを交換しながら特別捜査官が叫ぶ。

「喚いている暇があるのなら、とにかく撃ちなさい!」

 若い女性捜査官がP229のマガジンを交換して、怒鳴った。

「弾はどのくらいある?」

 黒人の特別捜査官が空軍兵に振り向き尋ねた。

「今持ってきてるのが最後です!」

 空軍兵の報告に、くそ!と叫んで黒人の特別捜査官はMP5を危険種の集団に撃ちまくった。

「いいか!ここは絶対に通すな!死守しろ!」

「「「アイ・サー」」」

 特別捜査官たちは近づいてくる危険種に銃弾を浴びせた。

 危険種は死体を乗り越えて、ひたすら前進する。

「このやろうども!弾を食らいたいならいくらでも食らいやがれ!」

 特別捜査官はそう吐き捨てながら、MP5を撃ちまくる。



 銃声は大統領執務室にも響いていた。

「大統領。もはや一刻の猶予はありません!」

 統合参謀本部議長(空軍大将(ジェネラル))が言った。

「・・・・・・」

 アメリカ合衆国大統領は決断を躊躇う。

「大統領。この事態はアフリカ、ヨーロッパ、アジアだけではなく、アメリカ全州にまで広がっているのです!」

 空軍大将(ジェネラル)は執務室のモニターに映し出されている世界地図を指差しながら叫んだ。

「合衆国憲法と合衆国国民を守るためには、危険種、巨大生物に蹂躙されているすべての国を核攻撃する必要があるのです!世界緊急事態規定コード5の発動以外にありません!」

「・・・・・・」

 大統領は目を閉じた。

「神は私たちに何をさせようと言うのか・・・」

 大統領は弱音を吐いた。


 世界の真実第6章をお読みいただき、ありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は11月2日までを予定しています。

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