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亡国のレギオン  作者: 高井高雄
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世界の真実 第5章 真実へ至る道

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

 鳥の鳴き声が心地よく森の中に響いていた。

 ホルスの森は奥へと進むと、日の光も届かないほど深かった。

 獣道がほとんどであり、本当に人の集落があるのか疑問に思うほどだ。

「こんなの、空母航空団パイロットの敵地脱出訓練以来だ」

 額の汗を拭いながら、険しい道を進む笠谷がつぶやく。

 先導を歩く案内人のル・ホルスの2人の娘は普通に平地を歩くぐらいの感覚で道なき道を進んでいる。

 そんな姿を見て、笠谷は苦笑するしかない。

 笠谷と同行している者は、佐久間(さくま)3等陸曹、宮林、松野、アルシア、フィオナ、イングリット、陸自隊員2名と案内人のリン、リミである。

 待機組は久松の指揮下で、パシャ村で復興と戦闘の後始末を行っている。

「笠谷2佐。あのル・ホルスの娘たちレンジャー隊員並の体力ですよ・・・」

 佐久間が息切れしながら話しかけた。

 ちなみに、彼はレンジャー徽章を持っていない。

「こんなところで生まれ育ったんだ。彼女たちからすれば庭を歩いているようにしか思わないだろう」

 笠谷もさすがに疲れを感じてきた。彼は後ろを向き、同行者たちを見た。

 イングリットを除く、全員が疲れた表情で息を切らしている。

 イングリットはまったく疲れてはおらず、涼しい顔をしている。

「カサヤさん。ここで休憩しましょう」

 リンが振り返って、そう切り出した。

「すまない。そうさせてくれ」

 笠谷はリンの申し出を受け入れた。

「後、どのくらいかかる?」

「そうね・・・このペースなら、昼を過ぎた時間ぐらいかしら」

 笠谷の問いに、リミが目を閉じて、答えた。

「精霊たちがそう言っているのですか?」

「ええ、そうよ」

 彼女たちは目を閉じる仕草は、精霊の声を聞いているのだ。

 笠谷にとって、最初は信じがたい事であったが、ここに至っては信じる気にようやくなった。



 あの、防衛戦の後リンが声をかけてきた。

「森の精霊たちが、ありがとうって言ってます」

「・・・我々は、大した事はしてません・・・カーラさんの助けがなければどうなっていたか・・・」

 もちろん、隊員たちは全力を尽くした。しかし、自分は見落としていた・・・数の脅威というものを。

 知っていたはずだったが、現実は厳しいものだった。

 勝利の高揚も達成感も感じない・・・ただ、恐怖を感じた。カーラの助力がなければ自分は、隊員たちを死なせたかもしれない。

 小さくため息をついた笠谷に、リンは微笑みかけた。

「でも、森を守ってくれたのは貴方たちです。神の眷属という本来、人に関わることのないカーラさんのような方が、力を貸そうとしたのも相手が貴方たちのような人たちだったからです」

「・・・・・・」

「行きましょう、私たちのル・ホルスの民の村へ・・・貴方が・・・いえ貴方たちが世界の真実を知る(ところ)へ・・・私が最後の役目を果たす地へ」



 出発をする前に、笠谷はカーラを見舞った。

 医官から、予め言われていたとはいえ本人を前にして驚かずにはいられなかった。

 あれほど強力な魔法を使ったのだから、体力を相当消耗しているのは当然としても、ベッドの上で半身を起こして、右手でカップを持っていつもの食事をしていたのだから。

「やはり驚くか」

 当然、という表情でカーラは笠谷を一瞥する。

「いえ・・・あれほどの大怪我からこんなに早く回復されるとは思わなかったので・・・」

 大怪我どころか普通なら死んでいるレベルだったが。その上欠損した右腕が再生している。

「別に隠さずともよい、恐ろしいと思うのは当然であろうしの」

「・・・・・・」

「それより、あの娘たちの村へ行くのか?」

「はい」

「そうか・・・妾が言う事ではないが、真実は時として残酷じゃが・・・お主らの言葉で、知らぬが仏、というのがあるの。真実というものは、それを知ろうとする者に苛酷な犠牲を求める・・・それでも、お主らはそれを求めるのだろう?」

「はい。我々はそのために来ました。前に進むために・・・」

「・・・そうか、道中気をつけるがよい」

 律儀に一礼をして、部屋を出て行った笠谷を見送ってカーラは1人、つぶやく。

「参ったのう。本当に貴奴らを気に入ってしもうた・・・まあ長い間ではあるまいが、もう少し貴奴らと共にいさせてもらうか」

 齢1000年を超える彼女にとって、人など瞬きをする間に老いて死んでしまう。

 それでも、彼らが誰1人欠ける事無く老いて命の終焉を迎えられればよい。恐らくそうはならないだろうが。

「貴奴らも、厄介な相手に見込まれてしまったものよ。悪魔に気に入られる方がよっぽどマシなくらいにの・・・」

 


 小休憩が終わり、再び移動を開始した。

 1時間ほど道なき道を進んでいくと、そこには自然が作ったものか、それとも人為的に作られたものか、人が通れる道があった。

 リンとリミが突然立ち止まり、振り返った。

「ここから先は結界が張られているから、はぐれないようにしてね。もし、はぐれたら、2度とそこから出られなくなるから」

 リミが笠谷たちに注意する。

「わかった」

 笠谷がうなずくと、リミがにっこり笑った。

「それじゃあ、行きましょう」

 リンとリミの案内のもと、笠谷たちは結界の中へ入った。しかし、何も起きなかった。

 そのまま、道を進んでいくと、緑色の服を着た女性たちが立っていた。

「リヨン姉さん。ただいま」

 リンは女性たちの中できつそうな顔つきをした20代後半の女性に言った。

「おかえり、リン、リミ」

 リヨンは優しそうな笑みを浮かべて、リンとリミの帰りを喜んだ。

 彼女は笠谷たちの前に立つと、挨拶した。

「ル・ホルスの民を預かるリヨンと申します。カサヤ・ニサ」

 ここでも、自分の名前と階級を知っている。

「よろしく」

「それでは、村まで案内します。どうぞ、こちらへ」

 リヨンがそう言って、笠谷たちを村まで案内するのである。

 結界の中に入ってからは、人の手によって作られた道を進んでいくのであった。それまでが大変だったから、この道はかなり、ありがたい。



 深い森の奥に、ル・ホルスの村があった。

 門をくぐるとリヨンは振り向き、笠谷たちを歓迎した。

「ようこそ、精霊に仕える巫女の村ル・ホルスへ、祭祀の準備中ですがお気になさらず」

 リヨンの説明に、笠谷は疑問に思った。

(祭祀の準備?何の?)

 笠谷はル・ホルスの娘たちがしている事を見ながら、そう思った。

「私たちも準備がありますゆえ、しばしお待ちください。準備ができましたら、使いを出しますので、それまで、旅の疲れを癒やしてください」

 リヨンがそう言うと、1人の女性を呼んで、後を任せた。

「では、こちらへ」

 女性は笠谷たちを宿に案内した。

「では、この家をお好きにお使いください。何か、必要なものがありましたら、私にお申しつけください」

「ああ、ありがとう」

 笠谷はお礼を言って、装備を外した。

 女性は一礼する。

 宿と言っても、木造の家である。最初は空き家を与えられたのかと思っていたが、そうではなかった。

 家の中はよく手入れされており、恐らく外から来る客人用のものなのだろう。

 笠谷は外した装備を机の上に置くと、木製の椅子に腰掛けた。

 彼は胸ポケットから自衛隊手帳を取り出して、ボールペンを持って、書き込んでいく。すると、手帳に挟んでいた1枚の写真が床に落ちた。

「あ」

 笠谷は床に落ちた写真を拾った。

 写真は、まだ彼がF-15Jのパイロットだった時のものだ。

 千歳基地のF-15Jをバックに花束を持った笠谷が第2飛行群司令と握手しながら、満面の笑みを浮かべてカメラに顔を向けていた。

「F/A-18Jのパイロットになっても、201空の経験を忘れず、その腕を存分に見せつけろ。いいな」

 突然、笠谷の脳裏に当時の上官であった飛行隊長の言葉が過ぎった。

 彼はいつの間にか、その写真を凝視していた。

(ふん、あいつめ)

 笠谷は写真に写っている201空のパイロットの中で1人だけ不満顔の男に苦笑した。

 その男は防衛大学時代からの同期で空戦のライバルでもあるパイロット広田(ひろた)功司(こうじ)2等空尉だ。

 彼はF/A-18Jのパイロット候補の1人だったが、結局彼は選ばれなかった。

「尚幸さん!」

 防弾チョッキを脱いだ状態の宮林がそう言って、笠谷の後ろから抱きついてくる。

 宮林は暇さえあれば、何かとべたつく、特に松野や他の女性と何か話した後等は、抱きつきのレベルがあがる。

「なんの写真ですか?」

 宮林が笠谷の肩に顎を乗せて、彼が持っている写真を覗き込んだ。

「ああ、俺が千歳基地にいた時、仲間たちと撮った記念写真さ」

「この戦闘機F-15じゃないですか」

 宮林が抱きつく力をこめる。

「宮林。いい加減離れてくれないか」

「えぇぇぇ~、いやですゥ~」

 こんなところを松野に見られたら、彼女の逆鱗に触れるから、そして、その被害を受けるのがいつも俺なんだから、と、笠谷は頭を抱える。

 最近、過激な反応を見せるようになった松野の事を考える。

「尚幸さん・・・」

 抱きつく力が緩んだ。と、思った瞬間むりやり宮林の方を振り向かされた。

 グキッ!というへんな音が首のあたりから聞こえた。

 宮林の顔が近い・・・いや、近すぎる。

「・・・キス・・・しません・・・?」

「ち・・・ちょっと待て・・・早まるな!!」

 笠谷は身の危険を感じ逃げようとした・・・しかし、身動きできない。

 カン!ゴボッ!

 部屋中にアルミ製のカップを落とす音と、中身のものがぶちまける音がした。

 音の方を見ると、声にならない声で絶叫する松野の姿があった。

「何よ、アヤピン。恋人同士の時間に入って来るなんて、ひどーい」

「恋人同士の時間!」

 宮林の言葉に松野は声を上げて、全身から炎を上げた。

「天誅!」

 松野が笠谷に襲い掛かる。

「あああああ!?」

 笠谷の断末魔の叫び声が響いた。



 日付が変わろうとしている深夜。

「間もなく時間だ、不安はないか、リン?」

 リヨンが白いローブを被ったリンに優しく尋ねる。

「ええ」

 リンは、そう即答すると、リヨンの顔を見上げ、迷いのない表情で言った。

「リヨン姉さん。私、幸せでした。村のみんなにも、そう伝えて」

 リヨンはリンを抱きしめて、静かに言った。

「・・・わかった」

 リヨンはリンから離れた。

「最後の語りの相手はもう決めたのか?」

「ええ、カサヤさんを」

 リンの言葉にリヨンは寂しそうな表情で言った。

「そうか・・・正直、私は彼らを好きになれない・・・所詮、異世界の軍勢は我らの世界に災いをもたらすものだ」

 リンは微笑みながら、つぶやいた。

「カサヤさんは、とっても優しい人よ」



「カサヤ殿」

 ベッドで休んでいた笠谷をリヨンが起こしにきた。

「夜分に申し訳ありませんが、リンが貴方を待っています。私と同行して頂きたい」

「リンが」

 笠谷はそう言って、寝ている頭を起こし、上半身を起こした。

 リヨンは、外へ、と言って、宿から出る事を促す。

 半長靴を履き、作業帽を被ると、笠谷は宿を出た。

「こ、これは・・・」

 外に出ると、200人を超えるル・ホルスの娘たちが松明を持って整列していたのだ。

 いったい何が何だか、わからない笠谷にリヨンが説明した。

「精霊たちが、神聖なる道を開くための祭祀の儀です。送り手であるリンが最後の語り相手に貴方を選びました」

「最後の語り?」

 笠谷はまったく理解できず、彼女が言った言葉を口にしながら、首を傾げる。

「これは非常に神聖な儀式ですので、立振る舞いには十分注意なさってください」

 リヨンは厳しい口調で笠谷に言った。

「この奥にリンがいます。どうぞ」

 リヨンが手を差し、笠谷に行くよう促す。

 笠谷は、それに従い、リンが待っている所に進んだ。

 祭壇と思わせる遺跡の前に、白いローブを被った少女がいた。

「リン?」

 笠谷がその少女の名を呼ぶと、少女はゆっくりと振り返った。

「リン。話があると?」

「ええ。祭祀の儀の前に許された最後の語りに、カサヤさんを選びました」

 リンの言葉に、笠谷はある事を思い出した。

 私の最後の役目・・・

「リン。まさか?」

 笠谷が絶叫するが、リンは落ち着いた表情で答える。

「今夜。貴方がたをこの世界に召喚した方々がいる所へ、行けるよう、私の命を捧げます」

 リンの言葉に笠谷は衝撃を受けた。

「命を捧げるだと、つまり、生贄という事か!?」

「道を聞くためには選ばれた巫女の命を捧げる必要があります。それにこれは死ではなく、世界を守る精霊になるのです。むしろ誇りに感じます」

 リンと、つぶやいて笠谷は表情を曇らせた。

「カサヤさんは、優しいですね。短い時間でしたが、一緒に旅してわかりました」

「・・・・・・」

 リンは祭壇の方を向いて、言った。

「カサヤさん。私の命で世界が変わるかもしれないの、そして、それは私にしかできない役目なのです。自分で選んだ事なの」

「・・・・・・」

 笠谷は完全に言葉を失った。目の前の少女は少女とは思えない強い決意がある。もはや、彼にはそれを止める資格はない。

(・・・そうだ)

 笠谷はある事に気付き、胸ポケットを探った。

 彼は胸ポケットからコンパクトデジタルカメラを取り出した。

「?」

 リンは笠谷がしている行動が理解できず、首を傾げる。

 笠谷はリンにそのままの姿勢でいること頼んで、コンデジのシャッターボタンを押した。

 2枚撮ると、コンデジの画面に先ほど撮った画像をリンに見せた。

「これ、私ですか!?カサヤさん、いつの間にこんな絵を描いたんですか!?」

 リンは驚愕して、コンデジの画面を凝視する。

「リン。我々は決して貴女の姿を忘れない」

 笠谷は姿勢を正して挙手の敬礼をした。

「カサヤさん」

 リンは見よう見真似で挙手の敬礼をした。

「カサヤさん。ありがとう。貴方に会えてよかったです」

「リン。私も貴女に会えてよかった」

「では」

 笠谷が言い終えたところでリヨンが声をかけた。

「そろそろ、行きましょう」

 リミがそう言って、リンを祭壇へと連れていく。もちろん、リヨンも同行する。

 だが、突然、リンが振り返り、笠谷に叫んだ。

「カサヤさん!貴方は・・・」

 リンが一瞬、口ごもる。しかし、すぐにその続きを言う。

「貴方には、死の影が出ています!だから、セントウキ、には乗らないでください!」

 リンからの死の宣告に、笠谷は一瞬だけ凍りつくが、一瞬の事だった。彼は笑みを浮かべながら、決意のある口調で言った。

「たとえそうなるとわかっていても、私は戦闘機に乗る。なぜなら、私がそこで降りればその時、しなければならない事ができず、救えたはずの命を見捨てる事になる。私は・・・自衛官、いや、軍人なんだ」

「・・・そうですか」

 リンは最初、悲しそうな表情を浮かべるが、すぐに納得したように笑みを浮かべて、祭壇に向かった。

 彼女は祭壇に立つと、聞いた事もない言葉を唱え出した。

「○△※○○※」

 祭壇から青白い光が発せられた。

「△△※※※○」

 その光はリンを包み込んでいく。

「※○○○△△△」

 リンが唱え終えると激しい閃光が周囲を照らし、笠谷たちは手をかざして目を守った。

 光がおさまると、祭壇にはリンの姿はなく、代わりに青白い光を出す球体が出現していた。

 リヨンはル・ホルスの村人たちに向かって、叫んだ。

「リンは無事、精霊となり、神聖なる道が開かれた!」

 笠谷は目を閉じ、言った。

「リン。すまない。そして、ありがとう」

 すると、彼の頭の中でリンの声が聞こえた。

 カサヤさんに加護を。



 日が昇ると、笠谷、松野、宮林、イングリット、アルシア、フィオナと陸自隊員たちにリミ、リヨンが祭壇の前にいた。

 正確には、球体の前であるが。

「佐久間3曹。行ってくる」

 笠谷が振り返って、待機組に言った。

 彼らのもとへ行くのは笠谷、松野、宮林、リミ、イングリットだけである。

 なぜ、そうなったかと言うと、彼らからの指名である。

「よし、行くぞ」

 笠谷がそう言うと、彼女たちは球体に手を触れた。

 その瞬間、すさまじい光が発せられた。光がおさまると、5人の姿はなかった。


 世界の真実第5章をお読みいただき、ありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は今月の28日までを予定しています。

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