世界の真実 第4章 死ぬための生 生きるための死 後篇
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。
本章は今まで以上に力を入れました。ちょっと疲れました。みなさまに楽しんでいただければ幸いです。
「まず、お主らは知らぬようじゃから、平行世界の事から話さねばならぬ」
臨時の指揮所として借りた家で、カーラは口を開いた。
「平行世界と一口に言っても、壁1つで隔たれて存在しているわけではない。丁度人の住める惑星が無数に宇宙に存在していると考えてくれればよい」
いきなりSF的な表現になった、と笠谷は思ったが想像はしやすい。
カーラなりに、高井から得た情報でわかりやすく説明しようとしているのだろう。
「本来、平行世界は交わる事はない。自然現象的に風が吹いて物が転がって別の物にぶつかる・・・といった感じでぶつかり合った世界が一時的に繋がる事があるが、あくまでも一時的の事じゃ。その時に、別世界に飛ばされるという事が稀ではあるが起こる・・・しかし、おかしな事が起こった。妾らの世界が無数の世界と繋がり、見た事もない生き物や魔物が現れ、妾らの世界からも、多くの魔物や生き物が何処かへ飛ばされた。我らネーリの民はネディール神より我らの世界の均衡を保つ事を役割として与えられておる。だから、調べた・・・それでわかったのじゃが、2度ほど無理矢理世界を繋げる愚挙を行った輩がおる」
「2度・・・?」
「第1統合任務艦隊と第2統合任務隊!?」
第2統合任務隊の件は、板垣からの情報で知らされていた。
「愚かな事じゃ・・・世界を繋ぎ、異界の存在を召喚するなどという禁忌の術を使うとは・・・むろん、理由あっての事であろうが・・・それゆえ全ての世界の均衡が崩れた・・・しかも、1度ならず2度までもじゃ・・・」
セナ村長の言っていた1ヶ月前といえば、第2統合任務隊が召喚された時期とほぼ同時期だ。偶然とは思えない。
「・・・では、カーラさん貴女は全ての平行世界の均衡を戻すためにこの世界へ?」
「妾にそこまでの力はない。ただ、我らの世界とこの世界の繋がったままになっている穴を塞がねばならぬ。そのために来た」
「では、元の世界にどうやって戻るのです」
「穴は双方の外側からしか塞げぬ。もはや戻る事は叶わぬ」
「・・・・・・」
カーラの告白は、衝撃的だった。笠谷は、自分たちの未来の1つとして、その可能性を考えた。
それを察したのか、カーラは少し悪戯っぽい微笑を浮かべて付け加えた。
「お主らと妾とでは、来た経緯が異なる。少なくともお主らを召喚した者どもには、お主らを元の世界へ帰す責任と義務がある・・・もし、会うてイヤだ等とぬかしたら、妾が許すゆえボコボコにしてやるがよい」
笠谷も、つられて苦笑した。
「さすがにそれはちょっと・・・」
「随分と、面白い話をしてるじゃないか?」
「「「!!!」」」
いつから居たのか、指揮所の入口にラルフが立っていた。
「いつの間に・・・?」
「随分と熱心に話込んでいるのはいいが、油断のしすぎじゃないか?もし俺が武器を持っていたらどうするつもりだ?」
「・・・それを妾が許すと思うてか?そのつもりで来たのなら、お主は今頃骸になって転がっておるわ」
にっこりと少女らしい微笑を浮かべるカーラだったが、その目は笑っていない。
笠谷、久松どころか恐怖の感情を感じない高井ですらこれには悪寒を感じた。
「何か?」
「1つ聞きたい。あんたらは元の世界に帰るために、こんな得にもならない事をやってるのか?」
「国連軍として、当然のことだ」
「国連?・・・ああネオナチスの連中の言ってた連合国が中心となった組織の事か。まあ、そんな事はどうでもいい・・・あんたらに頼みがある」
「頼み・・・とは?」
「俺と生き残った部下2名を、あんたらの所に亡命させてくれ」
「味方を裏切るのか?」
高井が冷たく吐き捨てる。
「裏切る?裏切ったのはどっちだ。守るべき国民を見捨てて新天地で勝手に国を造った奴らが裏切り者だろう。俺が軍人になったのは、祖国とそこに住む人々を守るためだ。SSやナチスの造った紛い物の国じゃない」
「それなら、何故今まで行動に移さなかったんだ?」
「機会がなかった。奴らは狡猾だ、少しでもそんな素振りを見せればたちまち粛清される」
「・・・・・・」
「それに、あの化け物に襲われた時に救援の通信を送った。今だに何の動きもないって事は俺たちは見捨てられたって事だろ。見捨てた奴を見捨てたところで文句を言われる筋合いはない」
「俺も1つ聞きたい。もし、俺たちと共に元の世界に帰ったとしても君の生きていた時代と違うだろう・・・それでも良いと?」
「100年経とうが200年経とうが祖国は祖国だ。俺は死ぬなら祖国で死にたい」
笠谷はラルフの目を見た。彼は視線を逸らす事無く笠谷を見つめている。
「・・・人手が足りない。君は軽傷だったようだし我々を手伝ってもらいたい。久松2尉、彼を君の指揮下に組み込む。構わないか?」
「了解しました」
「感謝する。よろしく頼むオーバーロイトナント(中尉)・クマツ」
「2尉なんだが・・・」
外では陸自の隊員、村人たちが総出で忙しく働いていた。
「第1防衛線にC-4爆薬の設置はあと5分で完了です」
「第2防衛線の障害Ⅱ型の敷設も、間もなく完了します」
「赤外線暗視カメラと動体センサーの設置も完了しています」
広場で指揮をとっていた笠谷と久松に陸士が報告した。
ノートパソコンを笠谷、久松、異世界組が覗き込んだ。
「これは魔法なのか?色々な場所を、いるだけで見れるなんて」
驚く村人をよそに、笠谷は防衛陣地構築の指揮をとっていた。
「笠谷2佐、久松2尉。対人障害システムの設置完了。C-4、油のセットも完了しました」
隊員からの報告に笠谷はうなずいた。
「第2部長。基本と言えば基本ですね」
久松が村の簡易地図を眺めながら、つぶやいた。
「久松2尉。基本は徹底的に極めてこそ実戦で生きる。我々は限られた人数で防衛戦を行う事になる。一番やられたくないのが包囲殲滅される事だ。だったら、始めから敵に侵入ルートを限定させるように仕向ける。最初の仕掛けは元々中世の砦の防衛で使われた手だしな、それに、元々この村の人たちが、防衛手段として用意していたものに手を加えただけだ、派手になっても独創性の欠片はない」
笠谷は苦笑しながら、答えた。
村人たちが、外敵の侵入防止のために設けていた木造の防壁の周囲に掘られた堀。襲撃を受けた村も同じような構造だったが、魔物はあっさりとそれを越えたという。
笠谷は、堀の水を抜き代わりに大量の薪を敷き詰めるよう村人に指示を出していた。それに、隊員たちがある仕掛けを施す。
誰かの言葉だが戦術は基本的には、紀元前の時代から大きな変化はない。使用する兵器が変わったためバリエーションが増えただけ、と言っても過言ではないかも知れない。
中国の兵法書である孫子が今だに読まれているのが、その証拠とも言えるだろう。
「久松2尉。12.7ミリ重機関銃の最適な配置を考えるから、助言を頼む」
「はい」
久松は村の地図を見ながら、考え込むのであった。
「第2部長も人使いが荒い」
どこか楽しそうに笑いながら、混成小隊に所属している施設科の小中3等陸尉がつぶやく。
なぜ、施設科の隊員がいるかと言うと、道中、大きな倒木や岩、もしくは何らかの障害物を爆破するためだ。そのためには専門家が必要。
そこで選ばれたのが小中だ。
小中は信頼する部下を1名連れて、混成小隊に参加した。
「しかし、この作戦、うまくいけば実におもしろい」
小中は笑みを浮かべながら、つぶやく。
「3尉。楽しそうですね?」
施設科の3等陸曹が話しかける。
「ん?ああ。空自さんのくせに、ここまで防衛作戦を思いつくんだからな」
「確かに、陸自の者でも、ここまで思いつくかどうか?」
3曹はパシャ村の防衛策を頭の中で思い浮かべていた。
2人の施設科の隊員は広場につくと、笠谷から、ある装備を装甲補給車から取って、装備するよう命じられた。
「あのとてつもない、凶悪な装備を使うのですか?」
小中は、その装備によってどうなるか想像しながら、尋ねた。
「ああ、そうだ」
笠谷はきっぱり答えた。
「くわばら、くわばら」
3曹は、そうつぶやきながら、その非人道的兵器を取りにいくのであった。
小中も何も言わなかったが、心中ではいくら人じゃなく化け物でも、できれば使いたくない思いである。
「今、思ったんですけど、ここまでして、見返りはそれに似合うんですかね?」
「・・・・・・」
3曹の言葉に小中は黙った。
彼も、その疑問があるからだ。この取引を受ける以外、自分たちが前に進む事はできない事は知っている。
「俺にもわからん。笠谷2佐や久松2尉がどう思っているかは知らんが、俺たちが前進するには、これしかない」
小中の言葉に3曹は空を見上げた。
「どんな夜がくるんですかな?」
「さあな」
小中はそう言って、空を見上げた。
「俺たちは映画やドラマの世界にいるんじゃない。ましてや、小説の世界でもない。生き残るために銃をとらなければならん」
小中は小声でつぶやいた。
赤外線暗視カメラと動体センサーが魔物らしき生物の接近を察知したのは。深夜を過ぎたあたりだ。
「状況は?」
仮眠をとっていた笠谷が監視システムの指揮装置を操作している隊員のもとへ行き、問うた。
「第1、第2、第3、すべての生体センサーに反応があります」
隊員の報告を受けた笠谷は赤外線暗視カメラが映している映像を見た。
赤外線暗視装置であるから、夜でも昼同然によく見える。
そして、ついに魔物の姿を映した。
それは、笠谷たちが見た事もない姿である。どの国の神話や言い伝えに出てくる化け物とも違う不気味な化け物だ。
まるで、国民的サバイバルホラーゲームに登場するクリーチャーのようだ。
「敵性生物と確認」
「・・・ナハーブ、こんな所に潜んでおったか」
映像を見たカーラがつぶやいた。
「知っているのですか?」
「我らの世界に生息しておる魔物よ、1匹2匹は大した事はないが群れで襲ってくる厄介な魔物よ。1匹見れば最低でも30匹はおると思え」
「ゴキブリか?」
高井が突っ込む。
「殺虫剤は補給車にあったかな?」
「おい・・・」
高井と樹村の突っ込みとボケに久松が制止をかける。
「おそらく、一連の魔物の襲撃とやらはこやつらの仕業であろう。こやつらは他の生き物を襲ってその肉を喰らうからの」
「ピラニアか?」
また余計な事を言う高井。久松はため息をついた。
笠谷は全員に、檄を飛ばす。
「総員配置につけ!いいか、刺し違えても、この村を守り抜け!もし、失敗したら、我々は末代までなめられるだけではなく、死んだ自衛官、旧軍人たちに会わせる顔がないぞ!」
「「「はい!」」」
自衛官たちは力強く返事をすると、89式5.56ミリ小銃とNIMINIを手に取り、駆け出していった。
「アルシア殿下、クリスカ殿下、フィオナさん、イングリットさん、リミさん、リンさん、カーラさん。貴女がたは避難所に避難してください」
笠谷はアルシアたちに振り返り、言った。
「イヤじゃ」
「カーラさん!」
「妾の役目の話をしたであろう。アレがおるという事はどこぞに穴があるという事じゃ」
「・・・・・・」
カーラを説得するのは不可能だろう。笠谷はため息をついて了承した。
「また、お会いしましょう。カサヤ殿」
アルシアが避難組を代表して、言った。
「ええ、必ず」
笠谷はそう言って指揮所を出ていった。
笠谷が89式5.56ミリ小銃(折曲式銃床)を持って、防衛陣地に配置についた。
「センサーAに反応!」
隊員の知らせに笠谷はうなずく。
「着剣!」
無線機から笠谷の命令が響く。
「センサーBに反応!」
「点火準備!」
隊員の報告に笠谷は号令する。
C-4爆薬の点火装置を持って、施設科の隊員2名が点火の用意に入る。
「点火用意、よし!」
小中が報告する。
「センサーC、反応!」
「点火!」
笠谷の指示に小中たちは点火ボタンを押した。
その瞬間、セットされたC-4爆薬が一斉に起爆し、一緒に敷設した車輛用の燃料に引火。
村を囲むように巨大な炎が立ち上がった。
「炎の防壁の完成だ」
笠谷はにやりとしてつぶやいた。
「見事なものよのう、魔法を使わずに炎の壁を作るとは・・・」
感心するように、カーラがつぶやく。
突撃するナハーブは急には止まる事ができず、次々と炎の中に突っ込でいく、炎の幅は広く、突き抜ける事は不可能。
ナハーブの断末魔の叫び声が響き、焼け死んでいく。
「前に出ていたナハーブは恐らく全滅ですね・・・」
久松の声が無線機から聞こえた。
「後続のナハーブは今ごろ、入れる場所を探しているだろうが、そこを無事に通れるかどうかは、わからないぞ」
「笑えませんよ、それ」
炎の防壁は1箇所だけ、入口を作っている。
その入口を見つけたナハーブは何も考えず、その中に突入した。
「2佐!」
「待て」
久松の呼び声に笠谷は、何を言いたいのか、察しがついて止めた。
もう1つの仕掛けは、ナハーブが入口を埋めるまで、使わない。
数100匹のナハーブが広くない入口を埋めつくした時、施設科に合図をした。
「殺れ!」
施設科隊員は手動式点火装置のスイッチを押し続ける。
入口に敷設された対人障害システムが作動する。
指向性散弾を原形とする、障害Ⅱ型が一斉に起爆した。
入口を埋めつくしていたため、その悲惨さは言うまでもない。
一瞬で、数100のナハーブが絶命したが、虫の息だったナハーブもそれなりにいた。
だが、その倒れたナハーブを踏み付けて、前進してくるナハーブの姿があった。
「放射用意!」
笠谷は無線機に叫ぶ。
彼の指示で、人間が装備する携帯兵器の中では、もっとも残酷な装備を持った隊員がそれを構える。
彼らが持っているのは、携帯放射器、世に言う、火炎放射器である。
「放射!」
笠谷の命令で、猛烈な勢いで火炎を入口から出てきたナハーブに放射した。
大東亜戦争時、米軍が使用したM2火炎放射器を国産改良したものだ。しかし、その残酷さは変わらない。
硫黄島戦、沖縄戦を見れば、どれほどのものかはわかる。
ナハーブの断末魔の叫びがはっきりと聞こえた。
火炎放射をもろに受けたナハーブは、まるで地獄の業火を絵に描いたような光景だった。
(夢に見そうだ)
笠谷は心中でつぶやく。
絶大の威力を発揮した携帯放射器も、弱点がある。
火炎放射器は持続時間が短いのだ。
携帯放射器の燃料が尽き、火炎が消えた。その隙を好機だと思ったのか、生き残ったナハーブが入口から突入してきた。
「やっと俺の出番だぜぇぇぇ!」
そう叫びながら樹村がナハーブに向かって突入した。
「俺の飯の時間を邪魔しやがって!!」
銃剣を取りつけた64式対人狙撃銃を持ってナハーブに突進していった。
その光景を見ていた高井は「しまった。あいつは飯時に邪魔されると、とてもつもなく不機嫌になるんだった」と頭を抱えた。
「射撃開始。樹村を援護しろ!」
久松の号令が無線に響く。
一斉に89式5.56ミリ小銃とNIMINIが火を噴いた。
「待て!樹村3尉。俺も混ぜろ!」
と、高井3尉が銃剣を取りつけたFA-MASを乱射しながら、樹村の後を追う。
樹村は64式対人狙撃銃を振り回し、ナハーブを切り裂く。
至近まで近づいてきたナハーブは切り裂き、遠くにいるものは引き金を絞り、射殺していく。
それを繰り返しているうちに、FA-MASを撃ちまくりながらナハーブを血祭りに上げている高井が現れた。
高井と樹村は背中を合わせた。
「背後の敵は任せた」
「ああ。任せろ」
2人は64式対人狙撃銃とFA-MASを撃ちまくる。
発射速度の速いFA-MASはすぐに弾倉が空になるが、高井はレッグホルスターからM1911MEUを抜き、ナハーブの頭部を吹き飛ばす。
しかし、数が多い。
「くそっ!!キリがない!!」
「久松2尉!このままでは数に押し切られます!!」
12.7ミリ重機関銃のクロスファイヤーポイントをすり抜けて押し寄せてくるナハーブの群れ。笠谷の背中に冷たい汗が流れる。
「お主ら、絶対その場から動くでないぞ!!」
そう言って、カーラは高井たちの元へナハーブの群れを飛び越えて着地する。
「何で来た!?」
「後先考えずに、突っ込みおって戯けが!!」
「お前に言われたくない!」
「夫婦ゲンカは後にしよう」
この非常時に、口ゲンカを始めた2人に樹村が呆れたように突っ込む。
「誰と誰が夫婦だ!?」
「妾とお主に決まっておろう。お主らも動くでないぞ!少々扱いが難しいのでな」
「何?」
高井の質問に答えずカーラはナハーブの群れに向き直る。
「うぬらの命、その魂・・・全て妾の力の糧となれ・・・冥王の断罪!!!」
「!!」
カーラを中心に発生した黒い霧状のものは、上空で1つの塊状になった。
ギュオオオォォォォ!!!
塊状の黒い霧は、地獄の底から響いてくるような雄叫びを上げ、3人の周囲のナハーブを次々と飲み込んでいった。
「魔物を食ってる?」
樹村はそう表現したが、高井には大鎌を振り上げた死神が魔物の命を次々と刈り取っているように見えた。
周囲のナハーブを一掃した霧は、カーラの元に戻りそのまま彼女を包み込む。
「イヤッ!!怖い、怖い!クマツ様!!」
避難所の一角で、クリスカはあまりの禍々しい魔力の波動に、恐怖で震えていた。
フィオナもさすがにクリスカほど取り乱していないが、カタカタと震えていた。
「大丈夫、フィオナ?」
アルシアがそっと、フィオナの手を握る。
「も・・・申し訳ございません姫様・・・」
「気にしないで、フィオナはいつも私を支えてくれているのですもの。たまには私が貴女を支えてあげないと不公平でしょう」
にっこりと微笑むアルシアに、フィオナは恐怖心が少しずつ溶けていくのを感じた。
一方のクリスカも自分を抱きしめる優しい腕を感じた。
「大丈夫よクリスカさん」
「イングリットさん・・・でも・・・でも」
「確かにこんな邪悪な力は私も感じた事はないわ。でも、考えてみてカサヤ殿やクマツ殿が使っている武器も大勢の人の命を奪う恐ろしいものよ・・・でも、同時に大勢の人の命を救うものでもある。魔法も同じ、神聖魔法ですら使う者の心が邪まであれば災いを生む、どれほど邪悪な力でも正しい心で使えば、決して悪い事になりはしない・・・私はそう信じる」
無言で目を閉じていたリンが目を開けて微笑む。
「森の精霊たちが言ってます。あの方たちを信じる。って」
霧が消えた時、姿を現したカーラを見て高井は息を呑んだ。
「お前・・・その髪の色・・・」
カーラの白髪は漆黒の闇の色に、紫色の瞳は緋の色に変わっていた。
「もしかして・・・あの魔物の命を全部吸い取ったって事?」
樹村が、囁くようにつぶやく。
「!!全員伏せろ!!!」
高井が叫んで、樹村と共に地面に突っ伏した。
「雷帝の剣!!!」
ドォォォォォン!!!
轟音と共に空から無数の光の柱が落ちてきた。それは次々と押し寄せるナハーブの群れを駆逐していった。
「・・・なんて、力だ・・・あれなら[やまと]さえ轟沈されるかもしれない・・・」
考えたくもない想像が、笠谷の脳裏に浮かんだ。
「全員、無事か!?」
「な・・・何とか・・・」
「耳が変な音を立ててますが・・・無事です」
どうやら、隊員は無事のようだ。
「・・・終わったんでしょうか・・・」
あの時と同じ、いやそれ以上だったにもかかわらず周囲に影響はないようだ。ナハーブとかいう魔物だけが、消滅していた。
久松はカーラを見る。髪の色は元に戻り、体力を消耗したのかフラついているのを高井が支えていた。
「無茶しやがって・・・」
「まだじゃ・・・」
「何?」
「・・・見つけた、異界への穴じゃ」
高井の目にも、空中に開いた裂け目のようなものが見えた。
「早う塞がねば・・・ここで逃したら、次はどこに現れるかわからぬ」
フラフラしながらも、カーラは両手をかざす。
「○※△△××□※※△・・・」
高井にわからない言葉を紡ぐとカーラの手の中に小さな魔方陣のようなものが浮かび上がる。それが、穴の周囲を囲むように描き出された。
「やっと、終わりかな・・・」
誰かがそうつぶやいた。
その時。
バキイィィィン!!
ガラスの割れるような音と共に、塞がりかかった穴から巨大な手のようなものが伸びてきて、カーラを掴み上げる。
「何じゃ、これは!?」
驚愕の声を上げるカーラ。彼女にも、何が起こったのかわからないのだろう。
ビキビキと塞がりかかった穴がひび割れていくように広がり、カーラを捕らえた何かが無理やり出てこようとしている。
それが、何であるかはわからないが、想像もしたくないが、この世界にそれが出てくれば、恐ろしい事になる。それだけは、わかる。
「カーラ!?」
「くそっ!!」
久松は咄嗟に予め準備していた110ミリ個人携帯対戦車弾(LAM)を取ると陣地を乗り越え高井の元へ駆けつけた。
「いかん、封印が!!」
カーラは捕らわれながらも、穴を塞ごうと力を使っている。
久松は、LAMを構えて撃とうとした・・・しかし、撃てない。
もし、カーラに当たったら・・・
「何をしておるっ!!妾に構うな、早う撃たぬか!!」
久松の意図を察したカーラが叫ぶ。
「し・・・しかし・・・」
「撃て!!迷うな!!コレがこちらに出てきたらお主らは約束を違える事になるっ!そうなれば元の世界へ帰ることも叶わぬ。妾なら大丈夫じゃ、撃て!!」
「貸せ」
高井が久松からひったくるように、LAMを奪い取った。
「信じるぜ。カーラ・・・」
発射された対戦車弾は見事に命中し、カーラの身体が放り出されるように落下する。樹村がすかさずスライディングキャッチの要領で抱き止め、地面に叩きつけられるのを防いだ。
そしてもう1発、後方から発射されたLAMが止めとなった。
「ロイトナント・ファルツェル?」
久松と目が合うと、ラルフは、にっと笑った。
空間の裂け目は、封印の魔方陣に取り込まれるように、消えていった。
「・・・妾の役目は終わった・・・もはやネディール神の加護も届かぬ・・・妾はネーリのカーラからただのカーラになった」
横たわったカーラは、小さくつぶやいた。
「しっかりしろ!今、衛生員を呼ぶからな」
高井は久松を振り返る。久松は、辛そうに目を閉じ首を振った。
LAMの爆風で右肩から腕を失い、その小柄な身体もボロボロだった。普通ならまだ生きている事がおかしいくらいだ。
「・・・直哉、お主には世話になった。妾に残された最後の加護の力・・・これを、お主に・・・」
「何を言ってる!しゃべるなバカ!!」
差し上げたカーラの左手から蛍のような小さな光がこぼれる。それが大きくなり、4つの人の姿となった。
「お前たち・・・」
海兵隊時代の友人。あの時引き金を引けなかったために失われた命。
「俺は・・・あの時・・・」
・・・お前は、間違っていない。人としては当然だ・・・
心に直接響く声。
・・・生きろナオヤ・・・俺たちの分も生きてくれ・・・
ゆっくりと、光はきえてゆく。4人は微笑みながら消えていった。
「・・・彼らは、命を失ってなお、お主を心配していた・・・だから、その思いを伝えたかった・・・これで、お主の心の闇が少しでも晴れるとよいの・・・妾は疲れた・・・少し・・・眠・・・る」
カーラの左手が、地面に落ちた。
「・・・!カーラァァァァ!!」
高井の絶叫が響く。それに応えるように降り出した雨が、炎の防壁の火を消していった。
「状況終了」
笠谷は、そう告げると静かに目を閉じた。
「直哉・・・」
久松が高井の肩にそっと手を置く。
「!!?」
急に高井が、カーラの顔に耳を近づける。
「・・・・・・」
微かに寝息が聞こえる。
「眠るって・・・普通に寝ただけかい!!」
高井の突っ込みの叫びが、再び響き渡った。
世界の真実第4章をお読みいただき、ありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
本章はいかがでしたか?今回の戦闘は自衛隊の装備だけではなく、魔法にも力を入れました。
次回の投稿は25日までを予定しています。




