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亡国のレギオン  作者: 高井高雄
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世界の真実 第3章 死ぬための生 生きるための死 前篇

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。


 私の地元はだいぶん寒くなってきました。そろそろ風邪の季節ですね。みなさんも、体調にはお気をつけてください。

 混成小隊はホルスの森に入り、開けた道を進んでいた。

 AFVのエンジン音に驚き、リス等の小動物が巣穴に逃げ込んだ。

 砲塔ハッチからその光景を見ていた笠谷は、表情をほころばせていた。小動物を見ると、やはり心が安らぐ、そして、森の中だけあって空気もおいしい。

「笠谷2佐」

 久松が声をかけてきた。

「なにか?」

「あ、はい。地図によりますと、この辺りの道は整備されていて、目的地の途中までは、いくつかの集落があるそうです」

「そうか、それは何よりだ。こんな深い森だと、迷ったら、即遭難だ」

「はい」

 笠谷は久松に後を譲り、兵員室に顔をだした。

 兵員室では、隊員、異世界組がそれぞれ作業している。

 約1名、別世界人は解凍した輸血用パックの液体を入れたカップを渋い顔で眺めながらの食事中であった。

 よもや、輸血用パックがこんな使い方をされるとは誰も思わなかっただろう。

 彼女の同行を許可する代わりに笠谷は、吸血行為を禁止するという条件を出した。

 カーラは、「お主らも、肉や魚を食うであろう」等、文句を言っていたが、代替え品で我慢する事を、渋々ながら承諾したのだった。

 笠谷は座席に腰掛け、地図を取り出した。

 方位磁石と地図を見ながら、久松の言った事を確認していた。

(確かに、問題はないな)

 笠谷は心中でつぶやき。地図と方位磁石を仕舞った。

「笠谷2佐」

 狙撃手の高井が声をかけた。

「なんだ?」

「あの娘たちを信じて本当に大丈夫なのか?」

 ル・ホルスの事だ。

 彼女2人もAFVに乗車しているが、今は眠っている。その事を確認した上で、高井も話しかけたのだろう。

「信じる以外に道はない」

 笠谷はきっぱりと答えた。

「なぜ、そう言い切れる?」

「俺の勘だ」

 笠谷がそう言うと、高井は笑った。

「はははは、何よりも信用できる言葉だ」

 どうやら納得したようだ。

「まったくです」

 高井の隣に座る樹村も納得したようにうなずいた。

「高井3尉。俺から聞いてもいいか?」

「なんだ?」

「なんで、自衛隊採用の9ミリ拳銃ではなく、M1911MEUを装備している?」

 笠谷がずっと思っていた疑問を口にした。

「これか」

 高井はレッグホルスターからM1911MEUを取り出した。

「こいつは、俺が米海兵隊を離れるさいに、当時の俺の上官だった少佐が、たとえ、自衛隊員でも、お前は一生米海兵隊員だ。その証として譲り受けたものだ」

 高井はめずらしく、寂しそうな目を浮かべて、説明した。

「大切なものなんだな」

「2佐。そんなレベルではありません」

 樹村が首を振る。

「高井3尉にとって、これは魂の一部なんです」

「魂の一部?」

「そうです」

 樹村がうなずいた。

 笠谷は、自分が思っている以上に彼は自分の銃に特別な思いがあるようだ。



「久松、と言ったの」

「のへっ!!?カ・・・カーラさん・・・いつの間に・・・」

「なんじゃ、その魔物を見たような反応は?」

 俺たちの世界では貴女はモンスターに分類されてます・・・とは言えない。

「・・・お主は、我が夫の友人であろう・・・言っておきたい事がある」

 酷く真剣な顔で、カーラは久松を見つめる。

「なんです?」

「直哉は心に闇を飼っている・・・人の身であれほどの闇を飼っている者は、妾でも知らぬ・・・このままでは、心の闇に飲まれる・・・」

「・・・闇・・・とは?」

「負の感情の塊・・・自責、悔恨・・・そういったものと言えばわかるか?」

「・・・何となく・・・」

 高井が語る事はなかったが、海兵隊時代に苛酷な体験をしたことで精神に深いダメージを受けている事は、人づてに聞いた事がある。

「・・・今は、お主らの存在が辛うじて闇に落ちるのを防いでおるが・・・すまぬが奴を気にかけておいてくれぬか」

「・・・優しいんですね。カーラさん・・・でも、なぜその事を?」

「奴の血を介してそれを知った・・・これは、お主らの世界では個人情報保護法違反とやらかの?」

 久しぶりに聞いた言葉に、久松は少し微笑んだ。

 しばらく、進んだ所で聞き覚えがあるが、あり得ない音が聞こえてきた。

「銃声!?」

「1発や2発じゃない・・・明らかに交戦状態だ」

 笠谷は全車両を停止させ、久松を振り返った。

「久松2尉、この場合はどうする?」

「少数での偵察を具申します」

「俺が行こう」

 高井が、名乗りを上げた。

「わかった、後もう1名・・・」

「自分が行きます。2佐は全体の指揮をお願いします」

 久松の言葉に、笠谷はうなずいた。

 手早く装備を整えて、出発しようとする2人にカーラが声をかけてきた。

「妾もゆくぞ」

「え・・・?」

「・・・・・・」

 驚く久松と、無言でため息をつく高井。

「だめだ、非戦闘員の同行は認められない」

「言ってはなんだが、妾の方がこやつらより強いぞ」

「・・・・・・」

 その可能性は否定しない。ただ、余計な厄介事が増えるというのが予想できるだけなのだが。

「・・・勝手にしろ」

 諦めた表情で高井はつぶやいた。



「くそっ!!なんだこいつ!!」

 突然現れた、怪物・・・別の世界で爬虫類型大型生物と呼称されるものに襲撃された彼らは、全滅寸前だった。

 モーゼルKar98Kカービンのボルトハンドルを引きながら、喚いている1等兵オーバーシュッツの上半身が、食い千切られた。

「パンツァーファーストはどうした!?あれでなきゃ、こんな化け物を殺るのは無理だ!!」

「あいつの腹の中です!!!」

「なにぃぃぃ!!?」

 虎の子の武器を失っては、どうしようもない。

 もうだめだ。戦う気力も失せ、彼らは逃れられない死を覚悟した。



「させぬわ!!」

 巨大な口を開けて、ドイツ兵に食らい付こうとした怪物の頭を、飛び込んできた小さな影が、蹴り飛ばした。

 ズウゥゥゥン!!恐らく象くらいはあると思われる巨体が、ひっくり返ってしまった。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・今、思ったんだが・・・彼女、偵察の意味、わかってないんじゃないか・・・」

「・・・俺に聞くな」

 呆然とつぶやいた久松に、高井は諦めきった表情で答えた。

「なにをしておる!!さっさと、こやつらを助けぬか!!」

 カーラの叱責が飛ぶ。

「・・・仕方がない正吾、お前は笠谷2佐に連絡して指示を仰げ。俺はあの大年増を援護する」

 FA(ファ)MAS(マス)の安全装置を外しながら、高井は潜んでいた茂みから飛び出した。

「お主は、怪我人を安全な場所へ運べ!コヤツの相手は妾がする!!」

「あのな・・・」

 グルルルル・・・

 怪物は、起き上がると怒りのこもった唸り声を上げて、新たな獲物を睨む。

「・・・お主が、何処から飛ばされて来たかは知らぬ・・・しかし、ここはお主の世界ではない」

 怪物に話しかけるカーラの声は、どこか哀し気であった。

「風帝の刃!!!」

「なっ!!?」

 裂帛した鋭い声が、カーラの唇から放たれた。

 彼女の周囲から巻き起こった風が、硬質化した無数の刃となり怪物の巨体を一瞬で斬り刻んだ。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・久松2尉!!どうした!?・・・応答せよ!!久松2尉!!」

 無線機から、笠谷の声が聞こえるが、久松は呆然とその光景を見つめていた。

「今のは・・・魔法なのか・・・?」



 目前の光景を、信じられないと思っているのは彼らだけではなかった。

「・・・あの怪物を一瞬で・・・」

 彼らの心には恐怖も、助かったという安堵感もない。ただ呆然と立ちつくすだけであった。

「動くな」

 迷彩服の小柄な男が、小銃を構えてゆっくりと近づいてきた。

「二ホン軍・・・?」

「所属と階級、姓名を名乗れ」

「・・・ドイツ第3帝国陸軍偵察小隊隊長ラルフ・フェルツェル少尉ロイトナント

「そのくらいでやめよ・・・怪我人を脅すのは感心できぬぞ」

 白髪の少女が窘めるように、男に話しかける。

「あのな・・・」

 男は、辟易とした様子でため息をついている。

(何なんだ、こいつら?)

 2人を見比べながら、ラルフは首を傾げた。

「直哉、負傷兵を保護して帰投せよ、だ。必要なら増援を送ると・・・」

「どいつもこいつも、甘ちゃんだな・・・了解。・・・と、いう訳だ。武装解除はさせてもらうが、身の安全は保障する」

「・・・わかった、俺はともかく部下の命を保障してくれるなら文句は言わん」

 奇妙な事になった。と、思ったが同時に、まあいいか、という気になった。



 樹村を含めて5人の増援と共に、帰投した時、真っ先に久松の元にクリスカが駆け寄ってきた。

「クマツ様、物凄い魔力の波動を感じました!!何があったのですか!?」

 半泣き顔で、抱きついてきたクリスカに久松は狼狽えた。

「私も感じました。この森程度なら瞬時に消滅させられる程の波動です」

 フィオナも、青ざめた顔色だった。

(・・・あれの事?)

 人間より、そういった感覚が鋭敏なエルフとダークエルフがここまで怯えているのだ。

 カーラの魔法は、とてつもないものだったらしい。

 しかし、その爆心地(グランド・ゼロ)にいた自分たちは何ともない。それに、周囲は何も影響を受けてなかったように見えたのだが・・・

 久松はカーラを振り返った。

「「「!!」」」

 酷く青ざめた顔色のカーラが、グラリとよろめいて倒れ込んだ。



「申し訳ありませんでした」

 AFVの中で一通りの報告を済ませた後、久松は笠谷に謝罪した。

「彼女の同行を許可したのは俺だ、責任は俺にある」

 そう言って、笠谷はクリスカとフィオナに振り向いた。

「我々は、あまり魔法に詳しくありませんが、それほど凄いものなのですか?」

 2人はうなずいた。

「戦術核なみの破壊力かよ・・・何なんだあいつ・・・」

「自分も、偵察に同行すれば良かった。こんな機会滅多になかったのに・・・」

「・・・・・」

「これは、私の推測なのですが・・・カーラ殿は、攻撃魔法を発動すると同時に障壁魔法を展開していたと思われます。そのため、クマツ殿たちに被害が出なかったのでしょう。ただ、我々の世界でそれだけの系統の異なる上位魔法を2つ同時に魔方陣無しで発動させる事ができる者はいないと思われます」

「別の世界から来たと言うのは嘘ではないと・・・」

「はい」

 笠谷は腕を組んで考え込んだ。

「松野海士長、カーラさんの様子は?」

「まだ、眠ってます。でも顔色は良くなってきてますので、大丈夫だと思います」

「そうか、彼女に最初に会った時に言っていた、役目というのも気にかかる。落ち着いたら話を聞いてみよう」

「むぅ~」

 何故か、むくれた松野に笠谷は首を傾げた。

 しかし・・・何故かどんどん増えていく部外者たち。

 ル・ホルスの娘たち、イングリットと名乗る謎の美女、ドイツ軍の負傷兵、そして別世界から来たという吸血鬼・・・久松は、頭痛薬のお世話になっているようだが、笠谷は苦笑しか浮かばない。

 アルシア王女の言ったキルリックの神のお導きか、遊ばれているだけか・・・多分後者だろう。



「笠谷2佐、久松2尉。村が見えてきました」

 浅木の言葉に笠谷と久松は兵員室にある液晶モニターを見た。

 前方の森の道先には村の入り口らしき木造の門が見えるが、固く閉ざされている上に、櫓の上には何人ものの弓を持った村人たちが警戒していた。

「ずいぶんと厳重な警戒ですね」

「まるで、何かに怯えているようだ」

 笠谷と久松は厳戒態勢の門を見て、そうもらした。

 笠谷は振り返り、ル・ホルスの民2人に話を聞いて来てもらえるように頼んだ。

 リンとリミはうなずき、AFVの外に出た。

 櫓の上では、2人の女性を確認して、どよめきが起こった。

「おい!あれは!?」

「ル・ホルスの娘だ」

 櫓の上で村人たちが騒いでいると、閉じられていた門が開き、中から武装した集団が姿をあらわした。

 2人が何かを話している間も、村人たちはこちらを警戒しているような素振りを見せている。

 しばらくして1人の老女を伴って、戻ってきた。

 笠谷はAFVを下車して、3人を迎える。

「パシャ村の村長セナと申します。レギオン・クーパーの方々」

「笠谷2佐です」

 一礼をする老女に、笠谷は挙手の敬礼をして自己紹介する。

「ル・ホルスの方々のお連れと知らずにご無礼をいたしました・・・お許しを」

「いえ・・・それより何があったのですか?随分と警戒なさっているようですが・・・」

「詳しいことは、中で申し上げます・・・どうぞ」

 笠谷は振り返り、混成小隊に村に入るよう手で指示した。

 装甲車輛群はエンジン音を響かせながら前進した。

 村人たちはそのエンジン音に驚き、後ずさった。

 笠谷はAFVの横について、木製の門をくぐった。

 村は珍しく、木製の家ではなく、石造りの建物である。

「ずいぶんと怪我人が多いようですが?」

 門の中は、まるで難民キャンプのような様相だった。

 怯えたような表情で自分たちを見つめる人々に、無傷な人はいないように見えた。

「彼らはまだいいほうさ。しかし、集会場には重傷者が多数いる」

 一緒に門をくぐった村人が笠谷の質問に答えた。

 笠谷は無線機を開いた。

「松野海士長、衛生員。予備の救急キットを持って、重傷者を診てやってくれ」

「はい、わかりました」

 松野が応答すると、AFVから幼さが残る女性自衛官が飛び降りる。

 クーガーHからも医官と衛生員が飛び降りる。

「宮林。衛生員たちを手伝ってくれ」

「は~い」

 APCから宮林が下車する。

「いいのか?」

 村人が驚いた表情で聞いた。

「たいしたことはできませんが、重傷者の手当てをさせてください」

 笠谷の言葉に村人は、すまない、と言って、別の1人に彼女たちを案内するよう指示を出した。



 装甲車輛群を広場に駐車させると、笠谷と久松はセナに促されて、彼女の家に向かった。

「・・・1ヵ月ほど前になりますが、森の精霊様に守られていたこの森に多くの魔物が出現するようになったのです」

「リンさんから聞いておりましたが、ホルスの森の危機というのが?」

「はい。この森にいくつか在った集落は、魔物に襲われて壊滅しています」

 セナの話によると、本来神聖な結界に守られているこの森に突然魔物が現れるようになったという。それは、突然何もない所から現れる・・・久松は、陸士の言っていた事を思い出した。

 目の前の空間が口を開けたようだった。と・・・

「そうですか。では、その魔物というのは、どんな生物なのですか?」

 笠谷はその生物について1つでも多くの情報を集めようとしたが、あまり、これ、というものはなかった。

「どうか、私たちを・・・この森を助けてください」

 セナは深く頭を下げて、笠谷に頼み込んだ。

「全力を尽くします」



 セナと話し合いを終え、広場へ戻る道を進んでいると久松が笠谷に尋ねる。

「で、どう守りますか?」

 笠谷は表情を変えずに応じた。

「確かに、現在の戦力では、村全域を守るのは厳しい。敵は突然現れる事で、有利な位置を確保している。しかし、我々もまったく不利という訳ではない」

「え?」

「これは自治体から要請された害獣駆除だ。民間人にも多くの犠牲が出ているから、容赦なく駆除できる」

「・・・・・・」

 久松は笠谷の横顔を一瞥する。

 笠谷は突然ふと歩みを止めた。

「どうしました?」

 久松が問うが、笠谷は何も答えず、ある方向を見ていた。

 久松がその方向を見ると、遠くで泣いている人々がいた。

「あの方々は?」

 笠谷は泣いている人々を見たまま、案内役の青年に尋ねた。

「あ、ああ。魔物の襲撃を受けて逃げてきた他の村の人々だ・・・食い殺された家族を思って泣いているのだろう」

 青年は辛そうな顔をして、笠谷の質問に答えた。

 笠谷は何も言わず、目を閉じ黙祷した。

「対人障害システムをすべて出してくれ」

「何をするつもりですか?だいたいの見当はつきますが・・・」

 久松は笠谷が何を考えているか、だいたいはわかっているが、あえて聞いた。

「俺たちに手伝えることはないか?何でもいい、手伝わせてくれ!」

「そうですね・・・何人くらい集められますか?」

「だいたい、50・・・いや、60ってところだ」

「了解です」

 笠谷はうなずいた。



 リンたちは、具体的な説明をしなかったが、笠谷にはこれが彼女たちの言っていた、取引だろうという確信があった。

 単なる勘、と言われればそれまでなのだが・・・

「笠谷」

「カーラさん?」

 松野に付き添われて、カーラが立っていた。

「話がある。久松と直哉にも聞いてもらわねばならぬ・・・時間をとれるか?」

「・・・伺いましょう」

 真剣な表情のカーラに笠谷はうなずいた。

 


 世界の真実第3章をお読みいただき、ありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は今月の19日までを予定しています。

 次回は戦闘です。お楽しみに。

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