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亡国のレギオン  作者: 高井高雄
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世界の真実 第7章 静かな時間

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 私の地元は朝が寒くて、昼は暖かいです。気温の変化がありますので、体調を崩さないよう気をつけてください。

 晴れ渡った青い空に海鳥の群れが気持ちよさそうに飛んでいる。

 空母[やまと]の飛行甲板に体育服装姿の隊員たちがランニングしていた。

「いい天気だ。こんな日にランニングするのはいい気持ちだぜ」

 中年の海曹長が空を見上げながら、つぶやいた。

「そうですね。曹長」

 20を過ぎたぐらいの2等海士が額に汗を掻きながら、答える。

「この後、シャワーを浴びたら、最高だぜ」

「はい」

 2士はタオルで汗を拭きながら、返事をする。



 飛行甲板では、射出機や甲板を点検する第5分隊の隊員と空自隊員たちの姿があった。彼らも汗を掻き、次の作戦に向けて準備をする。



「平和だな・・・」

 艦橋左舷のウィングでコーヒーを飲みながら板垣はつぶやいた。

「そうですね。司令官」

 答えたのは幕僚長の島村(しまむら)三郎(さぶろう)1等海佐だ。

「[いなわしろ]本艦右舷につきました!」

 右舷の見張り員が報告する。

 補給艦[いなわしろ]型は、日本が空母を運用する事が決まった時、空母補給用に建造された。全長271メートル、満載排水量2万3000トン。武装はCIWSと対自爆船火器が搭載されている。

 洋上給油と航空兵器の補給が目的だ。

「幕僚長」

「はい」

「我々は、後どのくらい戦える?」

 板垣は静かに問うた。

 島村はファイルを開き、答えた。

「第1統合任務艦隊の艦だけでも、・・・速射砲弾、対空、対艦、対地用だけでもまだ余裕はあります。CIWSも全艦が一斉射撃しても十分あります。17式艦対艦誘導弾(SSM-2B)は24発、これに予備はありません。SM-3は予備を合わせても18発。SM-2は搭載されているだけでも50発。アスロックは38発、ESSMは[あさひ]、[はつかぜ]、[うらづき]は1セルに4発、[ふそう]は1セルに2発で、まだ十分にあります」

 幕僚長は航空兵器の残弾が記載されているページを開く。

「F/A-18Jの対空、対艦、対地ミサイルはまだまだ余裕があります。もともと、連合軍と実弾演習を予定していましたから。爆弾は種類にもよりますが、一番少ない爆弾の量を考えますと十分とは言えません」

 そこまで言って、島村は顔を上げた。

 板垣はコーヒーをすすり、海上を眺めながら、口を開いた。

「・・・大規模な空海戦をしたとして、3回ぐらいが限界か」

「しかし、あくまでもこれは我が艦隊だけの話で、第2統合任務隊、米艦、原潜、海保の巡視船を合わせればもっと戦えます」

「だが、いずれは底を尽きる。特に使用が多いのは速射砲弾とESSMだ」

 板垣の言葉に、沈黙がその場を支配した。

「映画や漫画と同じですね。どんなに劣る世界に行こうと、弾薬が尽きれば、その世界の軍に駆逐される・・・なんとも皮肉な話です」

 重い沈黙だった。

「ふん。なんともひどい役割だな」

 板垣は苦笑しながら冷めたコーヒーを飲み干した。

「あっ、司令官。今日の昼食ですが、魚と海老のフライだそうです」

 島村が話題を変える。

「ほぅ、そうか。この世界の魚類は最高にうまいからな。それは歓迎だ・・・だが・・・」

 板垣が何か言おうとした時、通信員の海曹が報告に来た。

「司令官。[しれとこ]より電文です。笠谷2佐、久松2尉以下、混成小隊を回収。何人かの同行者を乗艦させ、フリーダム諸島に帰投するとの事です」

 通信員の知らせに、板垣は、ご苦労、と言って、艦橋に戻った。

「さて、あいつからの報告は隊員たちに希望を与えるか、それとも絶望か・・・」

 板垣は艦橋の窓から海上を見ながら、つぶやく。

「自分は希望を信じます」

 島村が告げる。

「そうだな」

 板垣も心中では、同じである。しかし、現実が希望を叶えるのは稀である。



 佐藤は久々の休みを夏島で過ごしていた。

「うーん」

 佐藤は砂浜で大きく背伸びをした。

 彼の服装は海自の制服でもデジタル迷彩服でもない。私服だ。

 佐藤がいる砂浜には、私服姿の自衛官、米軍兵士たちがいる。当然、傍らには女性の姿もある。

 ここは、デートスポットの1つだ。

 むろん、問題が起きた場合に備え、警務官(MP)や憲兵(MP)が巡回している。

 佐藤は傍らで座っているジークリンデを盗み見る。彼女も甲冑姿ではなく貴族らしい生地のいい服だ。

 潮風で長い髪が揺れている。周りから見ればもちろん2人はカップルに見えるだろう。

「平和な時間だな」

 佐藤は青い海を眺めながら、少年のような笑みを浮かべて言った。

「サトー殿。聞いていいか?」

「なんです。ジークリンデさん」

 佐藤は彼女に顔を向ける。

「敬語はよしてくれ」

「しかし・・・」

 ジークリンデは少し言いにくそうに言った。

「今は、プライベートだ。普通に話してくれればいい」

 よく見れば彼女の頬は少し、赤くなっていた。

「わかった。ジークリンデさん」

「それでいい」

 ジークリンデがうなずくと、佐藤は「聞きたい事って何?」と聞いた。

「ああ、貴公には、恋人はいないのか?」

「残念ながら、友達みたいな人はいるけど、恋人と呼べる人はいないかな」

 水島(みずしま)来島(くるしま)姉妹を思い出してそう答える。来島とは防大で知り合って以来の友人だし、水島司令は自分を以前から高く評価してくれていたらしく、弟のような感じで接してくれている。

 あの姉妹、性格はともかく容姿は高レベルの美人だ。エルンスト氏が来島に一目惚れしたのは十分納得できる。

 しかし、自分は2人にとって友人か弟的な存在らしい。

 よく考えたら、笠谷と比べて自分は女性関係が非常に寂しいという事に気が付き少しへこんだ。

(・・・なんで、女性と聞いてあの2人を思い浮かべるかな・・・俺・・・しかも、水島司令は人妻だろ・・・)

 自分で自分に突っ込みを入れてさらにへこむ。

「・・・では、私が恋人に・・・その・・・立候補しても・・・」

 ジークリンデは小声でつぶやいた。

「え?なんて言った?」

 佐藤は彼女の言葉が聞き取れなかったため、尋ねた。

「いや、なんでもない」

 ジークリンデはそう言って、立ち上がり、ごまかすように話題を変えた。

「そろそろ昼食時だ。飯を食いに行かないか?」

「そうだね」

 佐藤も立ち上がり、現在開発中である港町に向かった。

 開店したばかりの店に入り、丸テーブルの1つを占拠した。

「店主、2人です」

「あいよ、いらっしゃいませ!おや、貴族様ですか。て、事はお相手の方は?」

「レギオン・クーパーだ」

 髭面の中年の男は人の良い笑顔を見せた。

「レギオン・クーパーの方に1つ聞きたいんですが、いいですかい?」

 佐藤は椅子に腰掛けながら店主の質問に応じた。

「ナオユキっていうレギオン・クーパーを知ってますか?」

「ナオユキ?」

「ええ、うちの娘がパスメニアの港町で働いていた時、少女を連れたかっこいい男に一目惚れしたそうで・・・」

 佐藤は店主の言葉を、なんども言いながら、いつの間にかテーブルに置かれた水が入ったコップを取り、水を飲む。そして・・・

「ブウゥゥッ!?」

 佐藤は思い当たる自衛官の顔が思い浮かび、豪快に水を噴き出した。

「サトー殿。大丈夫か?」

 ジークリンデが心配した表情で、尋ねた。

「ええ、大丈夫」

 佐藤はそう言って、店主に顔を向けて、情報を教えた。

「たぶん。その人は笠谷尚幸です」

「知ってるんですか!?こりゃあ大変だ」

 そう言って、店主は店の奥の方に振り返り、叫んだ。

「おーい!レティシア!お前の想い人の事を知っているお客さんがいたぞ!」

「本当!?父さん!」

 奥から薄い褐色の肌に長い金髪をポニーテールにした少女が出て来た。

(ケッ!いいご身分な事!)

 佐藤は心中で、あのハーレム2佐を恨むのであった。

 本人の知らないところで、女性が増えていくのであった。



 ちなみに、佐藤が心中で呪っていた時、輸送艦[しれとこ]の食堂で笠谷がくしゃみと悪寒がしたのはここだけの話だ。



[しれとこ]がフリーダム諸島に帰還すると作業艇が下ろされた。

 作業艇には、笠谷、久松、高井、樹村、松野、宮林、イングリット、リミ、アルシア、クリスカ、カーラが乗り込んでいた。

 なぜ、リミがいるかと言うと、リンが気に入った笠谷に興味を持ったからだ。

「これが・・・異世界からの船・・・」

 イングリットは間近に迫ってきた、巨艦、を見上げながら驚愕した。

 彼女が最初に乗った巨艦も常識はずれのものであったが、いま、迫ってきている、巨艦はさらに大きい。

 ステルス性を高める形状と海上での迷彩効果がある灰色。

 空母[やまと]を前に、イングリットとリミは息を呑んだ。

 カーラは特に驚いているようには見えない。



 笠谷たちはラッタルを上り、通用甲板につくと、彼らの帰りを待っていた制服姿の板垣たちと顔を合わせた。

「よく戻った。第2部長、久松小隊長、高井3尉、樹村3尉、松野海士長、宮林陸士長」

 板垣は笠谷たちを労う。

 笠谷たちは挙手の敬礼をして、帰還報告をした。

「ただいま帰還しました」

「では、さっそく多目的室で報告してくれ」

 板垣はそう言うと、笠谷たちを連れて、多目的室に移動した。

 多目的室には、第1統合任務艦隊幕僚、第2統合任務隊司令の水島(みずしま)(かなめ)海将補、第1任務団団長の神谷(かみや)(あつし)陸将、第33海兵遠征隊指揮官ブライス・ロング大佐(カーネル)、第7遠征打撃群司令ジャン・フリードマン少将(リア・アドミラル・ロウアー・ハーフ)、[フロリダ]艦長(キャプテン)ケイリ―・エヴァンズ大佐(キャプテン)等の各指揮官クラスとその幕僚たちが詰めていた。

 板垣と笠谷たちが席につくと、佐藤が立ち上がり、マイクを手にして、言った。

「では、笠谷2佐。報告をお願いします」

 笠谷はマイクを受け取り、立ち上がった。

「報告します」

 笠谷が報告を始めた。



 1時間くらいの説明を終えると、室内は静まり返り、とてつもない重い空気が場を支配した。

「・・・つまり、我々の世界は滅亡の時を迎えていると?」

 板垣が重い空気の中、口を開いた。

「そうです」

「それを止めるには平行世界の均衡を回復させる。この世界には存在しない人工物を破壊しなくてはならない」

 板垣は幕僚室係が持ってきたお茶を飲みながら、つぶやいた。

 とてつもない規模の話に、自衛官、海保、米軍は顔を見合わせる。

 1国や世界どころか、平行世界規模の問題等、彼らの範疇を超えている。

「話を総合しますと」

 佐藤が言った。

「平行世界になんの影響を及ばさないためには、方法としては1つしかなく、元の世界に戻る手段はない」

 佐藤が何を言いたいのか、それを察した一同は顔を上げた。

「ミレニアム・・・いえ、ナチスの残党を殲滅し、現有装備及び兵器すべてを爆破あるいは海中投棄し、全隊員、全兵士、全保安官はこの世界で暮らす。つまり、同化するということですね」

「そんな!」

 誰かが叫ぶ。

 その反対に、1人の1等陸佐が乾いた笑い声を上げた。

「はっはっはっ!これは我が祖父母たちの過ちを償うチャンスではないのですか!」

 見事な口髭を生やし、屈強な体格をした姿は旧陸軍将校が転生したようなものだ。

 彼は第2統合任務隊に所属する[おおすみ]型輸送艦2隻に乗り込んでいる陸自部隊、第2任務群群長の笹木(ささき)()()(ずま)1等陸佐だ。

 タカ派の自衛官として有名であり、頼りなさがある神谷とはまったくの正反対だ。

「板垣司令官。元の世界が、それも日本の安全が脅かされている今、その安全を確保できるのは我々しかいません。これは、ある意味では自衛隊の本分とも言うべき専守防衛ではないですか」

 笹木野の主張に板垣と水島は顔を見合わせた。

 彼の言っていることはナチス・ドイツの残党との全面戦争を意味する。

 これまで板垣たちはあくまでも国連軍として行動してきた。しかし、これはナチス・ドイツ軍が支配している国を侵略するという事を意味する。

「少し考えさせてくれ」

 板垣は静かに言った。

 誰も、その判断については異議を唱えなかった。

 会議はここで終わり、それぞれの持ち場に戻っていった。



 多目的室を出ると、2人の女性が笠谷を待っていた。

 1人は空自の北井(きたい)明里(あかり)3等空尉ともう1人は笠谷の妹である()(こと)だ。

「笠谷さ・・・ん」

「兄さ・・・ん」

 2人が同時に声をかけて、同時に詰まった。

 笠谷の傍らにいる女性、少女たちを見たからである。

「・・・・・・」

 真琴は無言で兄を睨む。

「・・・・・・」

 北井の視線もかなり痛い。

(・・・勘弁してくれないか)

 笠谷はため息をつく。



 一方、夏島の宿営地に、帰還報告に向かった久松たちにもちょっとした事件が発生した。

「おかえりなさい。久松2尉、高井さ・・・」

 満面の笑みを浮かべたまま、副中隊長の南場(なんば)紫苑(しおん)1等陸尉は凍りついた。

 高井の傍らに、白髪の少女・・・それも、人とは思えない程の美少女の姿を見たからだ。

「この娘・・・誰?」

「俺に聞くな」

「妾はカーラ。直哉の妻じゃ」

 笑顔のまま固まった南場と、全てを諦めた表情の高井、周囲の空気を完全に無視したカーラ。

 嵐の前の静けさを前に久松は収まりかかっていた頭痛が再発するのを感じた。

 同行していた、クリスカはこの光景を興味津々で眺めている。

「どういうことなの・・・?」

 やっと、声を出した南場の問い。

「色々あったんだ・・・」

 全然答えになっていない高井の答え。

「色々って何?久松君、貴方がついていながらどういうわけ!?」

 矛先が、こっちに向いた。

「ちゃんと、報告書にして提出しますからっっっ!!」

 南場の矛先が久松に向かったのをいい事に、さっさと撤退する高井の前に空気を読んでいない人物がもう1人。

「おかえりなさい。先輩」

 来島(くるしま)多聞(たもん)3等陸曹が笑顔で声をかけてきた。



「葉巻は?」

 笹木野は喫煙室にいるブライスに葉巻の入ったケースを見せる。

「いらん、持ってる」

「これはキューバ産だぞ」

 笹木野がそう言うと、ブライスが自分の葉巻を取り出した。

「これもだ」

 ブライスはケースから1本取り出して、口に咥えて、火をつける。

「ははははは、貴官はマイアミ産じゃなかったのか?」

 笹木野が笑い声を上げながら、言った。彼も葉巻の煙を口の中に入れ、吐き出した。

「ナチスとはな」

「鹵獲した武器から、ナチスである事はわかっていたが、まさか国まで築いていたとは思わなかった」

 ブライスは煙を吐きながら言った。

「米軍としてはどうするんだ?」

 笹木野の問いにブライスは当然と言いたげな口調で言った。

「合衆国大統領等の首脳部からの指示がもらえない以上、海兵隊は私の責任で、行動する。ナチスの残党軍と全面交戦する。しかし、我々だけでは何もできない」

「海軍の支援がいると」

 笹木野が後を引き継いだ。

「そうだ」

 ブライスはうなずいた。



 日が沈み、月が出てきた頃。

 北井はどこにぶつけていいか、わからない怒りを日記にぶつけていた。

 そこには、バカ―!女たらし!等と人聞きの悪い文字が並んでいた。

 不満をひたすら、日記に書き込んでいくのであった。

 北井の心の中で攻撃されている、女たらし、もとい、男は不幸であった。

 世界の真実第7章をお読みいただき、ありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は11月5日までを予定しています。

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