逆襲 第5章 サボタージュ
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
「始めなさい」
シプラは5人の指揮官に命じた。
彼らは打ち合わせ通りに、自分たちが担当する区に移動した。
そして、彼らは召喚獣を召喚し、召喚獣の群れを前衛にして、破壊工作を始めた。
「ゴブリンだ!」
突如として町中に現れた魔物の群れに市民たちは悲鳴を上げた。
多くの市民たちが次々と魔物の群れに殺害され、シプラの私兵たちが店や家に入り込んで略奪、殺害を行った。
騒ぎを聞きつけた衛兵たちが駆け付けると、ようやく事態を把握し、衛兵とシプラの私兵との間で激戦が繰り広げられた。
早馬で笠谷たちにその知らせが届いたのは、それから半時と言ったところであろう。
「都市内で大規模な反乱が発生しました!敵は召喚獣を多数召喚し、町中で戦闘を行っています!」
伝令の知らせに、食堂に詰めていた自衛隊員たちが驚く。
久松は立ち上がり、部下たちに命じた。
「総員、車輛周辺に移動し、全周警戒配置につけ!」
久松の混成小隊はすばやい動きで小銃等を持って車輛を護るように展開した。
「で、どうするのだ?」
AFVの横でブレアが笠谷と久松に尋ねた。
「どうすると言われましても、まず、アルシア、クリスカ両王女と我々の安全を確保した上で、危険に遭遇しないように退避することになります」
「この町を見捨てるのか?」
久松の言葉にブレアの部下が反論した。
「目の前で多くの民衆が殺害されているのだぞ、それを見捨てるのか?それでもレギオン・クーパーか?」
「我々はレギオン・クーパーではない。自衛官であり、国連軍です」
久松が言った。
「ROE・・・交戦規則に定まれている規定内で我々は武力行使が許可されている。今の状況下では武力行使は認められない」
笠谷が説明する。
説明の後、笠谷は久松に振り返り言った。
「久松小隊長。退却の準備に取りかかってくれ」
「はっ!」
久松が部下たちに指示を出そうとした時、再び早馬が2頭現れた。
中年の男と10代の少女が降りると、笠谷の前で膝をついた。
「私は守備隊副長のオーブリーです。レギオン・クーパーに恐れながらお願いがあります。反乱集団を掃討してください」
中年の男の言葉に笠谷の脳裏にある規定が過ぎった。
海外派遣法改正。武器使用規定の1つに、国連軍若しくは日本と国交がある国の政府軍、現地治安組織から武装勢力の対処が要請された場合、武力を行使する以外に事態を解決する手段がない場合に限り、武装勢力への武力行使を認めるものとする。
「久松2尉。現地治安組織から治安維持要請あり」
「了解。現地の治安部隊の能力では治安維持は極めて困難と判断する。以下の状況から武装勢力を保有する火器にて制圧する」
笠谷と久松は役人口調でマニュアルをつぶやいた。
「小隊はこれより、治安維持活動に入る」
久松の言葉に小隊の隊員たちは装備を点検した。
小隊を2つに別け、1つはAFVとLAVに隊員を分乗させた打撃班、もう1つはAPC、クーガーHにアルシア等の部外者と少数の隊員を展開させた警護班。
高井と樹村は近くの教会の鐘楼に上り、狙撃銃で援護する。
久松が指示を出していると、笠谷は自分の装備である89式5.56ミリ小銃(折曲式銃床)を点検した。
「2佐?」
久松が不思議に思い、尋ねた。
「久松2尉。私にも同行する許可を」
「しかし」
「大丈夫だ。陸戦訓練は米軍で十分に積んでいる。それに兵力は1人でも多い方がいいだろう」
「・・・わかりました。命の保障はできませんよ」
久松の言葉に笠谷は、ああ、とうなずいた。
その後ろで松野が自分の89式5.56ミリ小銃(折曲式銃床)の点検していた。
「松野海士長。君はAPCにいろ」
笠谷は同行しようとしている彼女にそう言った。
「しかし・・・」
「これは命令だ。APCにいろ」
笠谷は有無を言わさずにそう言った。
「ここは戦場だ。足手まといのお守りをする暇なんてない」
高井が冷たく言った。
松野はうつむき、APCへと下がった。
「じゃあ、[センパーファーイ(常に忠誠を)]」
高井はそう言って、教会に駆け出した。
「[常に備え]」
樹村がそう言い残し、高井の後を追った。
2人の言った言葉は、米海兵隊と海上保安庁特殊警備隊のモットーだ。
守備隊の兵士たちに誘導されて、AFVとLAVは戦闘区に向かった。
逃げ惑う住民の悲鳴や怒号。そして、それに引き寄せられるように襲い掛かる魔物の群れ。
「浅木准尉。敵の注意をこちらに向かせる必要がある、信号弾を使おう」
「そうですね、あと何か大きな音・・・どうも、悲鳴とかに引き寄せられてるみたいですし・・・」
「大きな音・・・閃光手榴弾は使えんぞ」
「ですね、民間人もいますし・・・中国の春節で使うような、爆竹みたいなのがあれば、いいんですけど・・・」
(あれもかなりコワいだろう・・・)
昔、中国の友人に見たいと言ったら、危ないからやめろと言われた。
確か、毎年怪我人が出てるとか新聞に書いてあったような・・・
ちょっと、コワい事を普通にサラっと言うあたり、浅木准尉も来島3佐なみにブッ飛んだ、ところがあるらしい。
(俺の周りはこんなんばっかかよ!?)
久松は、少し頭痛を覚えた。
「まあ、スピーカーで、警告するが・・・意味ないでしょうが、妥当でしょう、久松2尉が大声で軍歌を熱唱するってのもアリだと思いますが」
「全力で断る!!!・・・警告にしよう」
「こちらは、国連軍所属、日本国陸上自衛隊です!!ただちに武器を捨てて投降してください、この警告に従わない場合我々には武力行使が認められています!!」
この大音量の警告を聞いた軍曹(ウンターシャ―ルヒューラー)は首をかしげた。
「奴らは何を言っているのだ・・・?」
教会に入った高井と樹村は司祭の案内で鐘楼に昇り、それぞれの狙撃銃の2脚を立てた。
「これが俺たちの世界だったら、CNNで叩かれるな」
高井はそうつぶやきながら、M110SASSの狙撃眼鏡を覗いた。
「あくまでも俺たちの世界なら、だよ」
同じく64式対人狙撃銃の狙撃眼鏡を覗きながら、樹村が言った。
「そうだな」
高井は苦笑しながら言った。そして、照準線をフードを被った男の頭部に合わせた。
息を少し吸って、止め、引き金を絞る。
M110SASSの銃口から火が噴き、7.62ミリ弾が飛び出す。
狙われた男の頭部を貫き、血等が壁や地面に飛び散る。
「観測手なしで、この距離であてるとは、本当にいい腕だな」
そう言いながら樹村も引き金を絞り、召喚師を血祭りにあげる。
狙撃は通常2人で行うが、この2人には観測手は必要ない。
「その言葉そのまま返す」
高井は2人目の召喚師の頭部を吹き飛ばした。
「2人目」
2人は確実に召喚師、魔術士を仕留めていった。
「なんだこの音は!?」
シプラの私兵の1人が聞いた事もない程大きな声に、前進をやめた。
声はどんどん大きくなってくる。その意味と理由がわかる者はいない。
「敵兵確認!」
LAVの銃座につく1士が報告する。
「撃ちまくれ!」
笠谷が命じた。
連装機関銃が回転し、火を噴いた。
私兵たちはまさか側面から襲われるとは思ってもいなかったから、なんのリアクションもできず、次々に絶命した。
「下車!」
笠谷の指示で運転手と銃座についている隊員以外が下車し、89式5.56ミリ小銃、MINIMIを構えた。
ここまでになって、ようやく私兵たちが落ち着きを取り戻し、笠谷たちに襲いかかったが、そんな彼らに銃火を浴びせた。
私兵たちは次々と血を噴き出して絶命していく。
だが、至近距離での戦闘であったため、すぐに接近戦に持ち込めた。
だが・・・
「でやぁっ!」
宮林が喊声を上げながら89式5.56ミリ小銃の銃口に取り付けた89式多用途銃剣で襲ってきた兵士の喉を突き刺し、首を切り裂いた。
64式銃剣と比べて全長が短縮されているが、殺傷能力は変わらない。
斬りかかってきた5人の私兵に銃弾を浴びせる。5人の敵を倒したところで宮林の89式5.56ミリ小銃の弾が尽きた。
「あっ」
私兵たちはそれを好機だと思い、宮林に襲いかかったが、戦っているのは彼女だけではない。
笠谷は89式5.56ミリ小銃(折曲式銃床)の弾倉が空になるまで撃ちまくった。
鎧すら着ていない生身の人間がライフル弾を防げる訳がない。
私兵たちは一瞬で絶命した。
そこで笠谷の89式5.56ミリ小銃(折曲式銃床)の弾倉が空になった。その隙を逃さず1人の大男が宮林に突進してきた。
人間では無い、醜悪な姿の怪物だった。
(ちっぃ!)
笠谷は心中で舌打ちした。
宮林は身長150センチを少し超えるぐらいの小柄だいくら格闘戦能力が高いと言っても、無理がある、そう思って庇いに入ろうとしたが、宮林の動きは速かった。
「てぇいやっ!!」
低く身体を沈めると、足払いをかけた。怪物がバランスを崩した。
すばやくP228をホルスターから抜き、笠谷は引き金を引いた。
9ミリ弾が次々と怪物に命中する。そのうちの1発が怪物のこめかみを貫き、即死させた。
怪物が動かない事を確認すると、P228をホルスターに戻して、89式5.56ミリ小銃(折曲式銃床)の弾倉を交換する。
だが、襲ってくる気配がない。それどころか逃走している。
「宮林陸士長。怪我はないか?」
「はい、ありません」
笠谷は宮林に手を差し出す。彼女は視線を落とし、彼の手を握り、立ち上がった。しかし、頬は赤くなっていた。
LAV班が戦闘していた頃、久松率いるAFV班は敵の正面に立ち塞がっていた。
「最後の警告をする!ただちに武器を捨てて投降せよ!」
久松がマイクを持って、警告するが、ゴブリン等の群れや私兵たちは応じる事はなかった。
「浅木准尉。警告効果なし、目標、正面、射撃開始!」
車長の指示で兵装を担当する砲手が主砲を操作し、ゴブリン等の魔物集団に照準を合わせる。
AFVが装備する40ミリテレスコープ(CTA)弾機関砲はこれまで使われていた弾薬とは異なる。テレスコープ弾は弾丸が薬莢内に埋め込まれた構造の弾薬である。そのため、テレスコープ弾は従来の弾より短いため、より多く弾薬を格納し、装填時間を速くする事ができる。
40ミリという大口径弾は装甲戦闘車の装甲を貫く事ができる。
「くたばれ!ゴキブリども!」
砲手がそう叫びながら、発射レバーを引いた。
重い射撃音が鳴り響き、スピーカーで大音量で流されている警告を掻き消した。
強力な破壊力と貫通力のある40ミリテレスコープ弾が40ミリ砲の砲口から撃ち出され、魔物の群れに襲う。
調整破片弾がゴブリン等の人丈ぐらいの魔物に浴びせられた。
空中で炸裂し、その破片が周囲に飛散し、飛散地域内にいる魔物に無差別に襲いかかる。
その凶悪さは言うまでもない。
「よし、次はオーガだ!徹甲弾に切り替えろ!」
浅木の指示に砲手は首を傾げた。
「オーガってどれですか?」
「でかい奴だ!」
「了解」
調整破片弾から徹甲弾に切り替え、照準をオーガの胸元に合わせる。
主力戦車(MBT)の正面装甲を除く、地上車輛の装甲を貫通し、それを破壊する事ができる。
いくらオーガの皮膚が厚いと言っても、徹甲弾の直撃を防げる訳がない。
狙われたオーガは胸元に大きな穴をあけて、そのまま貫通し、後ろにいたオーガの胸元を貫いた。
1回の斉射で2頭のオーガをまとめて仕留めた。
「2丁上がりってか」
砲手がその光景を眺めながらつぶやいた。
「総員、下車戦闘!AFVの車影に隠れながら、射撃せよ!」
久松の指示でAFVから下車し、展開した隊員たちは89式5.56ミリ小銃、MINIMIが火を噴き、次々と倒していく。
そんな想像を超えた彼らの戦いを聖騎士、町の住民、守備隊の兵士たちは呆然と眺めていた。
「こ、これがレギオン・クーパーの戦い・・・」
ブレアは騎乗のまま、彼らの戦い方を見て、言えた言葉がそれだった。
「見たかよ。オーガを一撃で2頭も仕留めたぜぇ」
「あ、ああ」
町の住民、守備隊兵士たちがそんな事を言い合う。
「なぜ、こんな事に!?」
側近の松明の灯りを頼りにシプラたちは巨大な地下通路を進んでいた。
シプラは今まで起こった事が信じられなかった。計画通りに進んでいれば、今ごろ、町は火の海になっていた。
そして、彼女はこの地下通路を通って、町を脱出して、彼らに会い、側近たちを殺して、自分はミレニアム帝国の貴族になるはずだった。
しかし、計画は失敗した。このままではシプラの企みがばれるのも時間の問題だ。いっこくも早く町を脱出して、彼らと合流しなくてはならない。
彼らも共犯者たちだ。彼女を保護しなければどうなるかはわかるはずだ。だから、自分の身の安全は保障されていると、シプラは勝手にそう思った。
「まだ、つかないの!?」
シプラはいらいらしながら、前を進む側近に怒鳴った。
「あと少しです」
側近は頭を下げながら答えた。
「早くしなさい!」
シプラは焦りながら怒鳴る。
「あと少しですので、もう少し我慢してください」
側近はそう言うしかない。
地下通路の出口に近づくと松明を持った男たちがいた。
「ウンダーストルムフェーラー・ゴーラン!」
シプラは男の1人の名を呼んだ。
「作戦は失敗したようですな・・・?」
「申し訳ありません」
シプラは頭を下げた。
「ルドルフ元帥(皇帝)からの直接の命令を伝えます」
「それは?」
シプラは恐る恐る尋ねた。
ゴーランは腰から何か小さい黒い鉄の塊を取り出し、彼女に向けた。
パン!
その小さな黒い鉄の塊から火が噴くのが見えた。そして、何かが胸を貫いた感じがした。
「え」
シプラは胸元を見ると、小さな穴があいていた。
そこから見る見る血が流れる。
「がはっ!?」
シプラは吐血して、冷たい地面に倒れた。
ゴーランはワルサ―P38の銃口を倒れたシプラに向けて、2回引き金を引いた。
「ひぃ!?」
「うぁぁぁ!?」
側近たちは血相を変えて逃げ出した。
伍長がStG44を構えるが、ゴーランは止めた。
「待て、奴らは行かせてやれ」
「はっ!」
アルテウスの公園で笠谷は松野に傷の手当てを受けていた。
松野は慣れた手つきで包帯を巻いていた。
実は彼女は高校の時に准看護師の資格を取得している。
「ずいぶんとうまいな、これなら衛生隊に行けるじゃないか・・・」
「いえいえ、准看の資格を持っていればこれくらいは普通なんです」
松野はどこか嬉しそうに言った。
「でも」
松野は一変して、心配した表情となった。
「無理だけはしないでください。私も明里さんも尚幸さんを大切に思っているんですから」
松野の心配した表情を見て、笠谷はうなずいた。
「ああ、これから気をつけるよ」
「あっ!いた!」
少女の幼さがある陸自の宮林が笠谷を見つけて、彼に抱きついた。
防弾チョッキ3型を脱いでいる状況だから、その大きな胸を笠谷に押し付ける。
「な、何を!?」
「尚幸さん!あたし、貴方が好きになりました。あたしを好きになってください」
宮林は頬を赤く染めながら笠谷の耳元で言った。
「むー」
松野の頬がふくれる。
逆襲第5章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は今月の15日までを予定しています。