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亡国のレギオン  作者: 高井高雄
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逆襲 第6章 シーホーク撃墜

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 日本本国、いや、艦隊内通信を除く、あらゆる通信回線が途絶してから3日目。

 第2統合任務隊、米艦隊、海保の巡視船は完全に現在位置を見失っていた。



 第2統合任務隊旗艦である航空護衛艦[ながと]の飛行甲板で1機のSH-60K[シーホーク]が発艦準備を整えていた。

 本来なら、あり得ない場所に位置する島、それを偵察するためだ。

 その機の横に5人の海上自衛官の姿があった。4人が飛行服を着ている事からヘリのパイロットと航空士である事がわかる。

 残りの1人は海自のデジタル迷彩服を着ていた。

沢野(さわの)1尉以下4名、これより目標島への偵察に向かいます」

 機長が挙手の敬礼をして言った。

「まったく状況がわからない。くれぐれも注意しろ」

 そう言ったのは、隊司令の水島(みずしま)(かなめ)海将補だ。

「もう1度言うが、万が一、戦闘機と遭遇したら、その機の指示に従え」

「わかっていますよ。司令」

 沢野が言い終えると、カメラのシャッター音がした。

 写真を撮ったのは従軍記者の笠谷(かさや)()(こと)である。

 第1統合任務艦隊空母航空団第2部長の笠谷尚幸2佐の妹である。

 なかなかの美人であるから、彼女を狙う自衛官たちもいるが、兄が笠谷であるから、躊躇している。

 真琴はSH-60Kをバックにデジタル迷彩服、飛行服を着た自衛官たちを撮った。

「では、これより出動します」

 沢野がそう言うと、踵を返して、コックピットに入った。

 キャビンに航空士と海自の士官が乗り込む。



「[ながと]コントロール、こちらはホワイトバード2。発艦準備完了」

「[ながと]コントロールより、ホワイトバード2。発艦を許可する」

 管制官から発艦の許可が出ると、飛行甲板で見送っている水島と首席幕僚の三枝(さえぐさ)理子(りこ)・タチアナ・シュタインベルク1等海佐に顔を向け、挙手の敬礼をした。

 2人も答礼する。

 沢野はメインロータの出力を上げた、SH-60Kが宙に浮いた。

 そのまま、高度を上げていくと、全長252メートル、基準排水量2万1500トンの巨艦がどんどん小さくなる。

 沢野はコックピットの窓から[ながと]を見下ろした。



 SH-60Kの発艦を見送った水島は、右腕の三枝と共に艦内に戻り、CICに向かった。

 2人がCICに入室すると、水上レーダーと対空レーダーのスクリーンを交互に見た。

「状況報告」

 三枝が問うと、対空レーダー員が報告した。

「はっ!ホワイトバード2は順調に目標島に向かっています。周辺空域に障害なし」

「今のところは問題ありません」

 水島はCICの司令席に腰掛ける。

 スクリーンの1つにホワイトバード2(SH-60K)からの前方監視カメラの映像を受信し、映し出されていた。

「司令。いくら映像を受信していたとしても危険が大きいのでは?やはり、偵察はAV-8Jにした方がよかったのでは?」

 三枝は水島の耳元に囁いた。

「それは、いけません!」

 そう叫んだのは、背広の男だった。

 デジタル迷彩服を着た自衛官たちの中では明らかに浮いている。

 彼は防衛省から派遣された文官の1人である。第1統合任務艦隊が謎の消滅をして以来さまざまな憶測が飛んだ。

 日本政府も防衛省も、この件に関して今だ正式な発表をしていない。

 それが、さらなる混乱を煽っているのだが・・・

 今回の、派遣にしても場所が場所なだけに、政治的な配慮も必要になる。

 そのため、彼が派遣されてきたのだが、その実、水島を監視させる為に防衛省が手を回したとも噂されている。

 水島と三枝は振り返った。

「他国の領空を侵犯し、偵察するのですよ。戦闘機でそんな事をさせたら、それこそ反戦団体や1部の党から何を言われるか、わからないのですよ!」

 文官の言葉に、水島たちは何も起きない事を祈った。

 だが、2人は、何か胸騒ぎを感じていたのであった。

 何かおかしいのだ、ここまで1隻のタンカーも、1機の航空機も見ていない、そんな事がありえるのか・・・

 水島も最初は、AV-8Jに偵察を行わせるつもりだったが、この文官の横槍で、SH-60Kでの、偵察に切り替えざるえなかった。

 彼の言う事に一理はある。しかし、防衛省の看板を盾に口出しをしてくるこの男に、水島より彼女の幕僚たちの方が反発を感じているらしく、ここにきて積極的ではないにしろ、水島を擁護する態度が見え始めたのは三枝にとっては、いい変化といってよい。

 ただ、どうしても、何か悪い事が起こりそうな予感は消えないのだ。

 その予感は的中していた、彼女たちはまだ知らなかったが、彼女たちを敵として、その存在を許さない者たちが、すぐそばに在る事に・・・

 


 島の山頂の高台で警戒任務についていたドイツ帝国陸軍の士官は双眼鏡を下ろした。

「早く本国(ミレニアム帝国)に帰りたいな・・・」

 ミノヤマ・フランク・ブラント中尉(オーバー・ロイトナイト)はそうつぶやきながら若い妻の顔を思い浮かべていた。

 妻はミレニアム帝国2等臣民平民階級の娘で15歳だ。

 彼女を選んだ理由は似ているのだ。元の国、ドイツ本国にいた頃の幼なじみだった少女に、しかし、彼女は殺された。SSとゲシュタポ(秘密警察)に。ただ、ユダヤ人だった、それだけの理由で。

 フランクは日系ドイツ人だ、日本人の母の血のせいか、黒髪と茶色の目をしている。

 だから、彼らと違い、ユダヤ人に偏見を持つ事は無かった

 今ごろ妻は何をしているのだろうか、家で自分の帰りを待っているか、実家に里帰りして、待っているか。

 フランクは首を振って、その思いを消した。

 本国に帰るのはまだまだ先の事だ。

 侵攻作戦の偵察拠点構築のための、警戒任務。任務の重要性はわかっている。

 しかし、長期の警戒任務は新婚には辛い事だ。

中尉(オーバー・ロイトナイト)。また義姉さんの事を考えてますね」

 部下であり、弟の兵長イェフレイトルの声に現実に戻されたのであった。

「そんなところだ」

 フランクは弟に振り向く。

「心はここにあらず、ですね」

 弟がからかう。

「しかし、義姉さん若すぎですよ。弟の俺よりも若いのは、かなりの違和感があります」

「下級士官たちは、15、6の娘を妻にしている。珍しい事でもない。まあ、ほとんどが2等臣民貴族の令嬢ではあるがな」

 フランクは苦笑しながら言った。

 SSを含めたドイツ軍(ナチス、連邦軍)の将兵たちは1等臣民か2等臣民貴族階級の令嬢、娘たちを妻にしている。

 2等臣民の平民階級を妻にするのは下士官、兵卒クラスの者がほとんどだ。

 弟も結婚している。

 弟は水平線上を見回した。

「そう言えばラペルリ島侵攻軍が全滅した事は事実のようですね」

「ああ、統合軍上層部は全滅の事実を隠していたそうだが、情報統制にも限界がある。統制すればするほど噂が広まる」

 フランクは双眼鏡を覗き、周囲を警戒する。

「ラペルリ島侵攻軍を全滅させたのは我々の世界の未来から来た二ホン軍だ、そうですよ」

 弟の言葉にフランクは視線を部下に向けた。

「誰から聞いた?」

「1等兵オーバーシュッツが、士官たちの食事を配膳していた時に、士官たちが話しているのを聞いたんだ、そうです」

 弟の解答に、フランクは灰色のヘルメットを脱ぎ、後頭部を掻きながら苦笑した。

「まったく口が軽いものだな。これじゃあ、情報統制の意味がない」

 彼の言う通り、ラペルリ島侵攻軍を全滅させた日本軍(自衛隊)については士官まで伝えられているが、下士官以下には極秘とされた。

 未来から来た二ホン軍は、自分たちの時代より70年以上後の時代から来たらしい。

 自分たちは、この世界に来て10年も経っていない。これは、どういう事だ?

 1つの可能性として、元の世界とこちらの世界では、時間の流れ方が違うという事が考えられる。

 確か、母が話してくれた、二ホンの昔話で、海の世界へ行った男が故郷へ帰ると300年経っていた、というのがあった。

 物語と現実をいっしょにするのはどうかと思うが、男が行ったのは異世界の1つだったのかもしれない・・・もちろん、この疑問に答えてくれる者はいない。



元の世界の事を、思い出しているうちに、1人の人物が浮かんだ。

「シュタインベルク教官・・・」

 士官学校時代の恩師。

 軍人というより、普通の、教師のほうが似合っているような優しい面差しと緑色の目が印象的な人物だった。

 日本人とのハーフということで、士官学校で孤立しがちだった自分を、何かと気遣ってくれた優しい人だった。

 そして、何より祖国を愛していた。

 尊敬していた。

 だからそんな彼が、後にあの[ワルキューレ作戦]に参加したと聞いた時は、裏切られた気持ちだった。

 しかし、今ならわかる気がする・・・ 


 

 フランクは視線を双眼鏡に戻した。

「ん?」

 遠くの空で小さく何かが見える。

 フランクは双眼鏡の倍率を上げて、何かを、見た。

 それは、白く、水平に回転翼のついた航空機。

 間違いない報告にあったヘリコプターだ。自分たちより、後からこの世界へ来た、ネオナチス派のヘリを何回か見た事があるから、確かだ。

兵長イェフレイトル!有線電話で報告!二ホン軍機来襲、と伝えろ!」

「はっ!」

 フランクの指示に弟は有線通信機に飛びついた。

 とは言っても迎撃するにしても、戦闘機などない。

 2等臣民の竜騎士団は、ラペルリ、キスカの戦闘で壊滅的な被害を受けている。

 現在残存部隊を再編しているらしいが、まともな戦術で通じる相手ではあるまい。

 おそらく、皇帝直属軍が直接対決しなければ、勝てないだろう。

中尉オーバー・ロイトナント、本部より返信!撃墜せよ。です!」

「簡単に、言ってくれるな・・・」

 まともな対空兵器も航空戦力もない状態でどうしろというのだ。

 ここには、主に哨戒と短距離連絡用の小型の翼竜を使役する竜士隊しかいない。

「パンツァーファウスト250の射程内にさえおびき寄せれば、どうにかなるか・・・」

 そう考える・・・さて、どうする。

「竜士隊に出撃命令を出せ!」

「しかし、兄さん・・・」

「1機だけなら、竜士隊1個だけでどうにかなるだろう」

 さらに命令を追加した。

「竜士隊にあの新型の、小型通信機を渡せ、細かい指示は俺が出す、使い方は、教えてあるはずだ、無理に攻撃せず、こちらの指示する場所へ誘導させる。仕留めるのはこちらでやる」

「・・・・・・?」

「俺は、他民族だからと言う理由で、人間を使い捨てにしたくない」

 フランクはこの島に近づくヘリコプターを双眼鏡で見ながら、つぶやいた。



 太陽の位置はまだ高い。

 SH-60K[シーホーク](ホワイトバード2)の機長沢野はフライトヘルメットのバイザー越しに、青い空を見上げていた。

 綺麗な海と空、そして緑の島々、こんな状態でなければ、最高だろう。

(いったい何がどうなっているんだか・・・)

 35歳、入隊してから17年になるベテランパイロットは、グラスコックピットのデジタル表示された計器情報を見ながら、心中でつぶやいた。

 計器類は正常。なのに、衛星位置観測システム(GPS)を含めたあらゆる衛星通信が不調になるのはどういう事か、まるで衛星そのものがこの世から消失したようだ。

「レーダーに反応はないか?」

「ありません」

 隣に座る副操縦士の長瀬(ながせ)(かわ)()()3等海尉は緊張した口調で答える。

 彼女は航学を卒業して、まだ1年も経っていない。まだまだ1人でヘリを飛ばすことなど無理である。

「長瀬川。もう少し身体の力を抜け、それではもたんぞ」

「はい」

(やれやれ・・・)

 沢野は長瀬川を盗み見る。

「3尉。機長の言う通り、力を抜いた方がいいですよ」

 キャビンにいる2等海曹が言う。

 彼は30代を超えた航空士だ。

 教育隊にいた事もあり、新米隊員たちの緊張をほぐす術を知っている。

「何も起きませんって、何事もなく、偵察して帰還するだけです」

 航空士の言葉に長瀬川以外の搭乗員たちは苦笑した。

 何もないんじゃ、困るんだが・・・

「機長。間もなく、目標島です」

 長瀬川の報告に、沢野は我に戻り、前方監視カメラを赤外線暗視装置(FLIR)ポッドの映像を映し出している液晶モニターを見た。

「ホワイトバード2から、[ながと]へ、これより目標島上空に接近する」

「[ながと]より、ホワイトバード2。国際共通通信チャンネルで交信中だが、今だに応答がない。気をつけて行くように」

「ホワイトバード2。了解」

 沢野はヘリの高度を下げて、島の偵察に入った。

 FLIRの画像を映し出されたディスプレイを見ながら、沢野はSH-60Kを操縦した。



 島の上空に入って数瞬後、SH-60Kのレーダーが反応した。

「機長!左前方、距離2000、数機上がってきます!」

 長瀬川が叫びながら報告する。

 前方監視カメラが、その機影を正確に確認した。

「なっ!?」

 沢野は絶叫する。

 それは、航空機ではなかった。いや、それ以前に自分たちの世界では実在しない生物である。そう、お伽話でしか登場しない生物である。

「ドラゴン!?」

 沢野はその生物の名を叫んだ。

 そしてもう1つ、驚かずにはいられないものを目にした。

「人が乗っているだと!?」

 沢野は35年の人生の中でこれほど驚いた事はない。

 だが、いつまでも驚いている暇はない。

「長瀬川!レーダーを確認しろ!飛び上がったのは何機だ!?」

「わかりません!上がってきただけでも10機はいます!包囲されています!」

 長瀬川が悲鳴に近い声で報告する。

「ホワイトバード2より、[ながと]へ、正体不明の生物群と遭遇しました」

 沢野は通信機に叫んだ。

「[ながと]より、ホワイトバード2へ、こちらも未確認生物を確認した。全作戦を中止!緊急離脱せよ!」

「了解!ただちに離脱します!」

 沢野はそう叫ぶと、操縦桿を横に倒し、機体を急速に倒し、急旋回させる。

 更にレバーを引き上げ、高度を上げる。

 エンジンの出力を最大にし、離脱コースを取る。

 だが、竜の姿は目視だけでもはっきりと見える距離に迫っていた。

 前方にいる竜に乗っている人の姿をはっきりと確認した。

 沢野の背中に冷たい汗が流れる。

 その竜が大きく口を開いた。

「やばい!?」

 沢野は直感でそう思った。

 彼は操縦桿を左に倒し、レバーを思いきり引き下げた。

 SH-60Kは急降下しながら左に急旋回した。

 それと同時にその竜は火球を吐き出した。

 間一髪で直撃は避けられた。

 しかし、地上から何かが飛翔したのが見えた。

 それが、何かわかった後、沢野は絶叫した。

「対空兵器か!?」

 沢野は操縦桿を左に倒し、回避しようとしたが、時すでに遅し、次の瞬間、彼の乗るSH-60Kに激しい衝撃が襲った。

「被弾した!被弾した!!」

 沢野はそう叫びながら、機体のダメージを確認した。

 機内に耳障りな警告音が鳴り響き、機体のダメージを知らせる液晶画面には赤い点滅が繰り返されていた。

「テールローター、大破!」

 テールローターを、破損するという事は、ヘリは安定を失い、墜落するしかない。

 沢野は必死に操縦桿と格闘していた。

 もはや飛行不能というのはあきらかである沢野は機長として、[ながと]に最後の通信を送る。

「メーデー!メーデー!メーデー!ホワイトバード2、墜落する!墜落する!ホワイトバード2、墜落する!」

「いやぁぁぁぁ!」

 長瀬川の悲鳴が響く。

「つかまれ!」

 沢野はそう叫ぶと、ヘリの高度を上げようと必死に格闘する。

(こんな、わけのわからない所で死んでたまるか。必ず帰るんだ!!)

「まこぉぉぉぉ!」

 沢野の脳裏に妻の笑顔が浮かんで消えた。



「・・・・・・?」

 沢野(さわの)真子(まこ)は、夫の声を聞いたような気がした。

 しかし、すぐに否定した。第2統合任務隊が第1統合任務艦隊に続くように、謎の消滅をしてから1週間、暗い気持ちで奇跡を待っていたが、今日別の奇跡が訪れた。

 病院の正面玄関に停車していた、タクシーに乗り込んで行先を告げる。

「お客さん、もしかしてオメデタ?」

 人の好さそうな50代後半の女性運転手が、話かけてきた。

「はい、3か月です」

「やっぱり、ウチの娘が12月に出産予定でね・・・お客さんも娘と同じような表情をしてたから・・・」

 そこから先は、ひたすら娘自慢と孫自慢が始まったが、嫌な気はしなかった。

 ささやかではあったが、幸せを感じる事ができたからだった。

 カーラジオの音楽番組から、気の早い誰かがリクエストしたのか、1980年に射殺された歌手が歌う、反戦の願いを込めたクリスマスソングが流れていた。

(あなた・・・きっと無事で帰ってくるって信じてる・・・この子と待ってるから・・・)

 タクシーの車窓から流れる初冬の景色を見ながら心の中でつぶやいた。



 この時、彼女は夫を襲った悲劇を、知るよしもなかった。


 逆襲第6章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は16日まで予定しています。

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