逆襲 第4章 責任と束の間の休息
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです
フリーダム諸島と名付けられた諸島は、11島の大きな島と50以上の小さな島々になる。
主要の11島の中で1番大きい夏島には、キスカ島難民と島の開拓のために、ノインバス王国とマレーニア王国から、派遣された技術者や建築士などが起居している。
そして、夏島には日本国旗と米国の星条旗、国連旗の3つが掲げられていた。
砂浜の砂が、波に洗われて綺麗な音を奏でている。
ヤシの木に背を預けて、青一色の海を眺めている米海軍(SEALs)の迷彩服を着た男と海自の特警隊の服を着た男がいた。
「美しいところですね・・・」
特警隊の2等海曹が口を開いた。
「観光にはぴったりだ」
「まあな」
無精髭のシールズ隊員の男は煙草を吸いながら短く答えた。
「ここに来たのは間違いだと思います?」
「俺にはわからん」
特警隊の2曹は水平線のかなたを眺めながら思った事を言った。
「後悔のないように自分の職務を遂行したい」
「俺は何も考えない。いざ戦闘になれば、正義だなんだなんて言ってられないからな」
特警隊の2曹はシールズの横顔に顔を向けた。
「故郷に帰ると、誰も俺を理解しない、ただの戦闘狂としか思ってないからな、だから俺も何も言わない」
「・・・・・・」
シールズの隊員は煙草の煙を空高く吐き出す。
「言っても何もわからないからだ。俺たちが何のために戦い、何のために死ぬのか、あいつらにはわからないさ・・・」
特警隊の2曹は黙って彼の話を聞いていた。
わからないからではない。理解できるからこそ何も言わないのだ。
2曹も初めて人を撃ってわかった。敵兵に銃口を向けた時、国家のためだの、国民のためだの、どこかに消える。あるのは人を殺したという罪悪感だけだ。
戦争を経験してみなければ、わからない事がある。戦場は非日常であるから、戦場に人間が直面すれば生き残るためになんでもする。確かに戦場では、普段は封印されている負の感情、恐怖・狂気・怒り・憎悪に支配される。だが、それは、生き残れたらの話だ。
イラク、アフガニスタンに従軍した連合軍(主に米軍)の兵士たちは、戦闘状態になっても、発砲できないのがほとんどである。相手の顔を確認してしまうとたちまち引き金が引けなくなる。
米軍はよく、兵士たちに、敵を人間だと思うな、と言っている事があるが、それは敵を人間だと認識すると普通の兵士はまず撃てないのである。そうなれば死ぬ確率が増える事になる。なぜなら、戦場であるからだ。
戦場は、殺るか殺られるかの世界。
特警隊の2曹はその事を思い知ったのだ。
「お前、家族は?」
シールズの隊員が尋ねる。
「婚約者がいます」
特警隊の2曹は恥ずかしそうに答える。
「どんな娘だ?」
「写真があります」
2曹は胸ポケットに入れている婚約者の写真を取り出し、シールズの隊員に渡した。
「なかなかの美人だな」
「ありがとうございます」
「これほどの美女を悲しませたらいかんぞ」
シールズの隊員はそう言って、写真を返した。
「さて、俺は戻る」
シールズの隊員は携帯灰皿の中に煙草を始末すると立ち上がった。
「今日は月曜日だ。新しい週の始まりだ」
そう言った彼は2曹に背を向けて砂浜を歩いていった。
「新しい週の始まりか・・・」
2曹はそうつぶやいて立ち上がった。
そして水面を飛ぶ海鳥を見た。
横須賀基地を出港した時、彼の婚約者は艦隊の出港を見送りにきた。
彼は特警隊員であるため、他の隊員たちのように甲板上に整列しなかったが埠頭の様子はテレビモニターで確認した。
「・・・俺たちは帰れるのだろうか?・・・」
2曹は青い空を仰ぎながら、1人言をつぶやいた。
当然であるが、それを答える者はいない。
「副団長。神谷団長より、謹慎を解くとの命令です」
輸送艦[しれとこ]の営倉で謹慎を解きに現れたのは、国連軍ブルーベレー帽を被った細身の女性自衛官の岩谷明穂2等陸佐とブルーヘルメットを被った陸自警務官(MP)の渡辺優利3等陸尉であった。
「ずいぶんと早いな・・・」
薄暗く狭い部屋のベッドで座っている松来清治1等陸佐はそうつぶやいた。
「1佐の代わりをする者がいないのでしてね。1佐がするべき職務は山ほどあります」
岩谷の説明に松来は苦笑しながら、立ち上がった。
松来は2週間ぶりに営倉を出た。
「生きて責任を取るか・・・」
営倉を出て最初の1言がそれだ。
松来の脳裏にあの日の事が思い出される。
ケ“号作戦終了後、陸海空自衛官合わせて23名が戦死した事を知らされた松来は愕然とした。
松来は肩を落とし、自室に引きこもり、ドアの鍵を閉めた。
松来は遺書を書き、武器庫から持ち出した9ミリ拳銃を取り出し、弾倉を抜き、弾がある事を確認する。
松来は弾倉を9ミリ拳銃に装填すると、薬室内に9ミリ弾を入れた。
彼は拳銃を自分のこめかみに押し付けると目を閉じた。
後は引き金を引けばそれでいい。
松来は拳銃の引き金を引こうとしたその時だった。鍵を閉めたはずのドアが開き、上官の神谷が入ってきた。
「自殺など許さん!!」
「か、神谷陸将?」
「貴様が死んでも、何も解決しない。責任を放棄するだけだ」
神谷は今まで見せた事もない鋭い視線で言った。
「では、どうしろというのです?」
松来は銃口を下ろし、神谷に視線を合わせた。
「戦死した23名にも家族や恋人がいるでしょう。そんな彼らに謝罪するにはこれしかありません」
「松来1佐。自殺は単なる自己満足でしかない、そんな事で謝罪した気になるな。私が言っているのはこれからに対しての責任を取れ、と言っているのだ」
「これから?」
「そうだ。これからへの責任だ!!わからないのか!?」
神谷はそこまで言うと、説明を始めた。もし、ここで松来は自殺しても、陸自と海空自衛隊の中に生じた亀裂はそのままだ。つまり、また同じ事が起きる。いや、もしかしたら、それ以上の事が起きるかもしれない、今、そんな状況を修正するには松来しかいない。
松来の言葉なら陸自隊員たちも耳を傾けるだろう。
「そうですか・・・」
松来は拳銃を机の上に置き、天を仰ぎながらつぶやいた。
「陸自部隊と海空部隊の亀裂を生じさせたのは私の責任。そして、その結果がこれという訳ですか・・・私はそれをたださなければならない、という責任がある」
「そうだ」
松来は神谷の顔を見た。
「わかりました。私はその責任を取りましょう」
松来は拳銃を取り、弾倉を抜き、薬室内の弾を取り出し、その銃を神谷に渡した。
「神谷陸将。貴方にこの抜け殻を渡しましょう。先ほどまでの私は今、死にました。これからは神谷陸将と板垣海将の決定に従います」
「預かろう」
神谷はそう言って、9ミリ拳銃と弾倉を受け取った。
(さて、これから骨が折れる大仕事がお待ちかねだ)
岩谷と渡辺に連れられ、艦内通路を歩きながら松来は心中でつぶやいた。
(その前に、煙草を吸いたいな・・・)
当然ながら、松来は謹慎中に煙草は1本も吸っていない。喫煙者にとって煙草を吸えないのが、どれほど苦痛なのかは喫煙者しかわからない。
笠谷と久松率いる混成小隊はシプラが用意してくれた宿で身体を休めていた。
街の中心である1等地地区にある宿だけあって、高級ホテルを思わせる宿であった。
「できれば、出発を2,3日見合わせてもらいたい」
笠谷にあてがわれた、部屋を訪れたブレアは部屋に通され開口一番にそう申し出た。
部屋には笠谷以外に、久松、高井、樹村の男性陣と、呼び出されたアルシア、クリスカ、フィオナ等、女性陣の計7名が一瞬顔を見合わせて、ブレアの説明を受ける。
「ここから先は、10日ほど宿泊できる村や街が無い、今朝入った情報で、この街道沿いで、盗賊団が出没しているとのことだ、2人の王女殿下が同行なさっている以上、我々も警護を万全にせねばならない。したがって、増援の部隊が到着するまで2日ほど待ってもらいたい」
「2人・・・?」
思わずつぶやいて、久松はハタと思いだした。
そう、全然らしくないのだが、クリスカはれっきとした王女だ。
「アホ・・・」
高井がそれを察して、ぼそりとつぶやく。
「これって、不敬罪って、やつかな・・・」
高井に同調するように、樹村もつぶやく。
「お前ら・・・」
この2人は、気が合うようだ・・・いろいろな意味で・・・
「・・・確かに陸自の隊員たちにも休息が必要だな。久松2尉、出発は3日後という事でいいだろう」
特に、助け船を出したわけではないが、笠谷の言葉が久松を救った。
「あ・・・あの・・・クマツ様・・・」
廊下でクリスカに、声をかけられた。
「何・・・いや、何でしょう・・・クリスカ・・・殿下?」
さっき、2人から突っ込まれた事で、変な言葉使いになってしまった。
「あ・・・あの、クリスカでいいです・・・その・・・私と・・・してください・・・」
「!?・・・何?」
「・・・・・お・・・男の人と・・・いっしょに・・・その・・・」
真っ赤になって、もじもじとしているクリスカに久松は何の事かわからずにいた。
「ニブイ奴・・・いいぞクリスカ、俺が許す、こいつを煮るなり焼くなり好きにしていいぞ、連れてけ、連れてけ、デートだデート」
「直哉!!って、デートォォォ!!?」
久松の絶叫が廊下に響きわたった。
1等地区は様々な高級店が立ち並んでいる。
富裕な商人や遠方から来る貴族がよく訪れるだけであって、高価な品物が並べられている。
そんな高級商店街に貴族衣装に身を包んだ人たちの中に、明らかに不釣合いである迷彩服を着た男女が観光していた。
笠谷と松野である。
松野は笠谷の腕に抱きつくように腕を組んでいた。
デートである。
2人は色んな高級店を周り、ウインドーショッピングを楽しんだ。
高級商店街の散策をしていると、笠谷に声をかける声がした。
「そこのお兄ぃさん」
笠谷が振り返ると、露出度が高い衣装に身を包んだ長い茶髪の美女がそこにいた。
その美女が笠谷の腕に抱きつくと、豊満な胸を押し付けてきた。
「な、何を!?」
笠谷が絶叫する。
「お兄ぃさん。騎士様でしょう。どう、いい店があるの、私といかない。結構評判のいいところよ。まあ、少し高いけどね」
美女は微笑みながら笠谷を誘う。
「・・・むぅー」
松野がふくれて、笠谷の脇腹を抓る。
「いててっ」
美女の突然の誘いに目が点になる笠谷は、松野の怖い視線に気付き、慌てる。
「あ、いや、今は先客がいるのでお断りします」
笠谷は慌てて美女の腕を振りほどき、彼女の誘いを断った。
松野は不機嫌のまま、笠谷を引っ張るようにして、その場を離れる。
「ふーん。残念」
美女は笑みを浮かべながらつぶやいた。
「松野。腕が痛いん・・・ですけど」
「彩!」
松野が怒ったように口を尖らせた。
「こういう時はそう呼ぶと、約束したじゃないですか」
松野は怒ったように腕を放し、そっぽを向いた。
「きれいな女の人に見とれて・・・私傷つきました!」
やばい、相当怒っている。
笠谷はそう思って、慌てて謝罪して、松野の機嫌を直そうとした。
「すまない。彩、デートの続きをしよう。君が行きたいところに連れてってくれ」
笠谷は松野に腕を差し出す。
「わかりました。許してあげます」
機嫌を直した松野は、笠谷の腕に抱きつき、腕を組んだ。そしてそのまま、笠谷と松野はデートの続きを楽しんだ。
お洒落な飲食店で食事と会話を楽しんだり、雑貨店でちょっとしたプレゼントをした。
シプラは執務室で、羊皮紙に記載された報告書にサインしていた。
半分ほど片付けた後、執務室のドアからノック音がした。
「入って」
シプラが許可すると、秘書の1人が入室した。
「失礼します。シプラ様。例の方がお越しになりました」
「すぐに通しなさい」
秘書に通され、黒い服を着た男が入ってきた。腕には赤い腕章に黒い奇妙な紋章のようなものがある。
「よく来られました。エスエス・ウンターストルムフェーラー・ゴーラン」
男は武装親衛隊(SS)の連絡将校ゴーラン少尉である。
「ハイル・ヒトラー」
ゴーランはナチス式の敬礼をした。
「ウンターストルムフェーラー・ゴーラン。何か飲みますか?」
「結構です」
ドイツ人らしく彼は率直に断った。
「シプラ市長。準備の方はどうですか?」
「準備は整っております」
ゴーランの問いに彼女は答えた。
「兵力はどのくらいになりますか?」
「1500ってところですね」
シプラの解答にゴーランは眉をひそめる。
「それだけですか?」
「ええ。目的はこの都市を灰燼にすることでしょう。それに配下の者の中には召喚師が何人もいます。貴方がたを失望させることはありませんわ」
「期待しています。元帥閣下(皇帝陛下)も成功のあかつきには貴女をミレニアム帝国1等臣民として迎え入れる用意がある、と申しておりました」
それを聞いた彼女は欲望にまみれた笑みを浮かべた。
待ち続けた好機だ。何者も逆らえない力を背景に、自分は全てを手に入れる。
「ウンターストルムフェーラー・ゴーラン。成功を祈って1杯やりません?」
「・・・・・・」
ゴーランは少し悩んだ。
「いえ、総統閣下や元帥閣下は職務中はいっさい酒を口にしない。部下の私が口にする訳にはいきません」
「生真面目な人・・・」
シプラは小声でボヤいた。
「では、シプラ市長、決行は今夜にしましょう」
「わかりました。指揮官たちにそのように伝えておきます」
そう言うとゴーランは執務室から出ていった。
シプラは高級なぶどう酒を取り出し、銀のグラスに入れて、飲んだ。前祝いだ。
ゴーランは市長執務室の隣にある客室に入った。
「「「ハイル・ヒトラー」」」
客室内にいたSSの兵士たちが立ち上がり、ナチス式の敬礼をした。
「軍曹(ウンターシャ―ルヒューラー)。パルスリク神聖国にいるベルマン少佐に報告しろ。今夜決行するとな。これが成功すれば、パルスリクの南下政策がやりやすくなる、蛮族に恩を売るにはもってこいだろう・・・もっとも成功すればだが・・・」
彼の脳裏に、シプラの顔が浮かぶ、外見の美しさとは裏腹に権力欲に取りつかれた、憐れな道化。
もっとも、そういうやたらと、欲望に素直な人間は、駒としては最適だ。
少々うまそうな、エサをちらつかせれば、すぐ喰い付く、それに毒が入っていようが、おかまいなしに・・・
「はっ!」
軍曹(ウンターシャ―ルヒューラ)は大型の無線機を作動させて、連絡をとった。
(さあ、新日本軍の実力を見せてもらおうか・・・)
ゴーランは笑みを浮かべて心中でつぶやいた。
想定外だったが、それでもいい、あの陰湿な性格の海軍中佐なら、余興だ、などと言うだろう・・・
逆襲第4章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は9月10日までを予定しています。




