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BuSvic;Vobamtio  作者: 皆麻 兎
Episode0 知の巨人・ミーミルであるという事実
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#2 仮想空間・ミッドヴェルガ

「では、ミーミル…いや、海見。まずは、何から訊きたいかしら?」

望琉のこの発言は、完全に会話の主導権を握っているようだった。

一応、「部活応援会」の入会希望という事で“それ”を握るのは私だったはずだったが、何だか複雑だ。しかし、今はそんな事を気にしている場合ではない。

「…私ですら解らない、この世界が何なのか。そして、私の正体を知っていた貴方達が何故、この地にいるか…。それを教えてほしいな」

腕を組みながら、私の視線は武人の方を向いていた。

「先に、後者の質問に答えるとするならば…。僕の場合は、君と一緒で“強制的に閉じ込められた”んですよ」

「…閉じ込め…??」

その言い回しに、私は違和感を覚えた。

記憶力の良い私は、他人(ひと)から指摘されれば、ある程度の事は思い出せていた。しかし、彼の言うとおり自分も誰かによってこの世界に閉じ込められたのだとしたら、その前後を覚えていないはずがない。

 気がつけばもう…この学校で学生をやっていたような…?

記憶の棚から情報が引き出せない私は、内心で焦りを見せる。

それを見かねた望琉が口を開いた。

「…どうやら、当の本人も何故こうなったのかを覚えていないようね…。それと、ミーミルが男神なのに対し、この子は女…。どういう事なのかしら?」

「…父上曰く、“彼女を生み出した原初の巨人・ユミルが両性具有の存在だからではないか”…と仮説を申していました」

「ロキね…。あいつはいけ好かないけど、巨人族である彼が言うなら、信じても良さそうね」

私が考え事をする側で、彼らだけの会話が続く。

「じゃあ、武人の話は後でまたじっくりとって事で…。次に、先ほどの続きを…」

「…そうね。この世界…“ミッドヴェルガ”について、私たちが知っている範囲での事を話しましょう」

「あ…でも、その前に…!」

望琉が語りだそうとした瞬間、武人が止めに入る。

「どうしたの?」

「その件についてもですが、ここでもう一人、海見に改めて紹介しておきたい方が…」

「“改めて”…?」

「あー成程。…とは言っても、“一人”というよりは、“一匹”じゃなくて?」

「…兄さんを普通の犬猫みたいな数え方しないでください」

望琉の呟きに、武人が珍しく不満そうな口調で返していた。

 動物を紹介するって事…?でも、この状況からして…

私はこの後向かう場所を何となくだが把握していた。



『おー!ミドガルズオルムにミーミル!…と、その女は誰?』

「…ニブルヘイムに住まいし巫女殿ですよ、兄上」

その後、武人に連れられて向かったのは、学園の警備室近くの犬小屋だった。

 まさか、学園で飼われている犬が、ロキの息子である狼・フェンリルだったとは…

私は、武人と犬が会話をするという、何とも奇妙な場に居合わせていたのである。

「もしかして…望琉はフェンリルの声が聞こえていない…?」

私はこの時、望琉が首を傾げていた事から、そうではないかと仮定した。

「…そのようね。武人(そいつ)はともかく、海見(あんた)に声が聴こえたという事は…さしずめ、巨人族たる者しか聞き取れないって事ね」

『…みたいだな!』

尻尾を振ってこちらを見上げるフェンリルは、まるで自分が巨人族である事を誇っているようにも見えた。

「まぁ、いいわ。先ほどの話の続きだけど…この世界“ミッドヴェルガ”は、かいつまんで言うならば、“仮想空間”。アスガルドの神々は、下界・ミッドガルドに似て異なる世界だからと名付けたそうよ」

「…じゃあ、本来私が生きているべき世界というのは…」

「…神々が暮らす世界・アスガルド…と言いたい所だけど、知恵の泉を管理する貴女の場合は巨人の国・ヨトゥンヘイムが正しいかしら」

「ヨトゥンヘイム…」

その名を聞いて、私は“本来いるべき世界”の構造を思い出す。

この世は世界樹ユグドラシルを軸に、9つの世界から成り立つ。アース神族が暮らし戦の神・オーディンが治めるアスガルド。人間が暮らすミッドガルド。私が管理する“ミーミルの泉”がある巨人の国・ヨトゥンヘイム。極寒の世界・ニブルヘイムと、そこで死者を統べる女王・ヘルがいるニヴルヘル。謎の民・ムスペッルが住まう灼熱の国・ムスペッルスヘイムなどが存在しているのだ。

「…この世界・“ミッドヴェルガ”は、肉体全てを子孫たるオーディンらに引き裂かれたユミルの残骸が造り上げた謎の空間だと聞いています」

「五体を引き裂かれた…。何だか、ゾッとする話よね」

武人の台詞(ことば)を聞いた私は、一瞬身震いをしていた。

『そっか…ミーミルはようやく、自分の事思い出したんだな…!』

少し高めな声がフェンリルから響いてくる。

「う…うん。そういえば、フェンリル。君も私と同じく、”無理やりこの世界にほうりこまれた”って事らしいけど…どういう事?」

『あー…』

私の台詞(ことば)を聞いたフェンリルは、少し気まずそうな口調に変わっていた。

『…あまり大声では言えないけど…おいらやミドガ…じゃなかった。武人は、オーディンに“危険な存在”と見なされ、拘束された…。そして魂を抜き取られ、この世界に放り込まれたって訳さ』

「…っ…!!?」

この時、一瞬だが悪寒を感じた。

その原因はおそらく、フェンリルや武人が静かな殺気を醸し出していたからであろう。後に知る事となるが、武人(ミドガルズオルム)はオーディンによって海に投げ込まれ、フェンリルはグレイプニルという紐やゲルギャ(=綱)で拘束されたという経緯を持つのだ。今感じている殺気から考えると、彼らはオーディンやアスガルドの神々に不審を持っているに違いない。


「あんたたち“二人”の目的は興味ないけど…とりあえず私は、オーディンの命でこの世界へ来たの」

「オーディンの…?」

黙っていた望琉が口を開いた時、私はキョトンとした表情で彼女を見つめていた。

「…ええ。先も述べたけど、誰の仕業かはわからないけど、ミーミルたる貴女はこの世界に閉じ込められている。オーディンは私に”ミーミルを探し出し、連れ戻せ”と命じたの」

「…首だけの存在になった私に、オーディンはどんな用があるのかしら…?」

私はこの時、つい皮肉を口にしていた。

というのも、遥か古代に起きたアース神族とヴァン神族の戦争を締結させるために交換された人質の一人が私…ミーミルだった。しかし、もう一人の人質・ヘーニルがあまりにも頼りない神だったため、自分は斬首され、首をオーディンらに送り返されたという事実があるからだ。

 あの感覚…先ほど思い出したばかりだけど、もうあの痛みを忘れる事はないだろうな…

首筋にそっと触れながら、私は思う。

「…さぁね。流石にそれは、巫女たる私でもわからないわ。あ、そういえば…」

「痛っ…!?」

何かを言いかけた望琉が近づいてきたかと思うと、私のおでこに軽い痛みが生じる。

反射で目を閉じる直前に見えた光景から、どうやら彼女がデコピンを放ったようだった。

「私、貴女が暮らすアパートの隣に引っ越してきたから…宜しくね?」

「え…」

「海見の表情から察するに…貴女も特殊催眠使っています?」

「…いいえ。私は“奴ら”と違って、特殊催眠(それ)は使わない主義。そのため、学園への入学手続きやらアパートの入居手続きとやらは、ちゃんとこの世界のルールに則ってやったわよ?」

武人や望琉の会話に、途中からついていけなくなっている私がいた。

「特殊催眠…??」

「ああ…すみません、海見。“特殊催眠”とは、このミッドヴェルガを訪れた神々がその場の環境にすんなり入り込めるよう、“この世界の住人”に対してかける催眠術の事です」

「そういう事!“この世界の住人”にしてみれば、神が自分の目の前に現れでもすれば動揺したり騒いだりするでしょう?」

「た、確かに…」

『ちなみに、おいらは特殊催眠使って、この学園に住み着いた!!…野宿はしんどいしな!』

途中、フェンリルが述べた言葉によって、特殊催眠がどのような術かを把握する事ができたのである。

「でも、もし…」

私は口を濁しながら、彼らを見上げる。

すると、全員の視線が自分に集中していた。

「もし…私が、望琉と一緒に帰らない事を望んだら…どうなるの?」

「!」

それを聞いた望琉の表情が少し硬くなった。

しかし、すぐに平静さを取り戻した彼女は口を開く。

「貴女は、自分がミーミルと気がつく前から、この世界に違和感を感じていたんでしょ?それに…自分が何故、生まれ育った世界から隔離される羽目になったか、気になったりはしないの?」

「っ…!!」

この時、心の奥底に眠る願望を見抜かれたような気がした。

確かに、彼女の言うとおりであった。今まで感じてきた違和感は正直、心地よいものではなかった。何より、知恵を司る自分に知らない事があるのが、耐え難かったという想いが強い。

「まぁ、今のはあくまで“もしも”の話だから、本心としてはオーディンの命とやらに従うけど…」

「兎に角、貴女は元の世界へ戻る方法を探さねばならないわ。その手がかりを知るにはー…やはり、“奴ら”と接触するのが一番近道かもね」

「…“奴ら”…?」

望琉が述べた複数の者達が何を指すのか、私は興味津津になっていた。

「アスガルドに住まう神々…って事ですか?」

「…そう。今もだけの、何故か皆がこの学園に集まってきているのよね」

「それって…アスガルドの神々が、このパウス大学附属高校にいるって事…?」

それを聞いた二人はほぼ同時に首を縦に頷いた。

「まぁ、この学園は小・中・大学まであるから、必ずしも高校(ここ)とは限らないけど…学園内の敷地で鉢合わせになる可能性は高そう」

「そ、そうなんだ…」

この段階で、私の脳内には今いるアルズルドの神が誰なのか何となく目星がついていた。

「…あと、海見。一つ忠告しておくわ」

「何…?」

すると突然、望琉の表情が真剣さを増し始めたので、真面目な話だろうと私も神妙な面持ちになる。

「これから多くの神々と接触する機会が増えそうだけど…自分からミーミルである事を明かすのは、やめておいた方がいいわ」

「何故…?」

「…その理由は、後でわかると思う。最も、向こうに速攻で気がつかれた場合は仕方ないけどね…」

「うーん…。理由がわかったような解らないような…」

この時こそ意味がよくわからなかったが、今思えばおそらく、彼女なりに私の身を案じてくれていたのであろう。

彼女とオーディンがどういった主従関係かはわからないが、何かあるのだろうと突如思い浮かんだのであった。



『オヤジは多分、ミーミルの事知っているだろうから、何かあったらオヤジを頼るといいよー!』

「あ…ありがとう、フェンリル」

その後、フェンリルにそう告げられた私は、武人らと共に犬小屋を後にするのであった。

「…私はちょっと、買いたいモノがあるから…」

そう言って望琉は私たちと別れた。

武人は電車が途中まで一緒なので、その場所まで一緒に下校していたのである。

「海見」

「ん…?」

電車の手すりに触れながら、武人が口を開く。

「…いえ、何でもありません」

「そう…?」

何かを口にしたかったようだが、どうやらあきらめたようだった。

 一瞬、悲しそうな表情(かお)をしていたけど…どうしたんだろう?

流石に知の巨人たる私ですら、この時に武人が浮かべた表情の意味が全くもって解らなかったのである。



いかがでしたか。

今回は説明的な文章が多かったのかなと思います。


作中で述べた世界の成り立ちやミーミルの話ですが、資料とにらめっこしながら書いた話なので、嘘はないはずです。でもこうやって北欧神話をいっぱい調べるのは、案外苦にならない事に最近気がつきました。笑


さて、今回で序章は終わりなかんじで、次からが第1章。

章ごとに違う神々を登場させる予定。登場させる順番はまだ決まっていないが、なるべく神話のあらすじの時系列に合わせられればなと思います。


それでは、ご意見・ご感想あれば、宜しくお願いいたします!


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