#1 本来の「自分」を知る
まただ…
朝の通勤・通学ラッシュで多くの人々が行き交う、町田駅の小田急線からJR線に乗り換える通路を歩いていた時に、私は一瞬立ち止まる。
目をこすりながら再び前を見ると、反対側から歩いてくる人々の姿が映像のように一瞬だけブレた。しかしそのブレもすぐに元に戻り、安心した私は再び歩き出す。
今みたいな見え方といい、時々感じる視線といい、なんで私ってこんな変な事を感じたり見えたりするんだろう?
私――――――黒智海見は思う。漫画やアニメの見すぎではないのかと思われそうな発言だが、現実にそれが自分の中で起こっている。しかし、その原因がわからない。一方で、「何かの病気でない」という根拠のない確信だけはあり、病院には行かないではいる。
そんな疑問を日々抱えながら、私は自分が通うパウス大学附属高校へと向かうのであった。
「武人、おはよー!」
「おはようございます、海見」
教室に到着すると、クラスメートである男子生徒に声をかける。
すると、九頭竜武人は穏やかな笑みを浮かべながら、挨拶を返してくれた。
「もしかして…眼鏡変えた?」
「あ…わかります?実は、某ファッションブランドとコラボした眼鏡のフレームが可愛いらしくて、ついつい買ってしまいました!」
「好きだねー…」
まるで女子のような口調で眼鏡を語る武人。
ドがつくほどでもないが、近眼の彼にとって眼鏡は必需品。一方で、いろんな種類の眼鏡を探しては買う眼鏡マニアである。顔はそれなりに良いのに、趣向は女子そのもので残念なかんじがするのは気のせいか。
「そういえば、今日から編入生が来るらしいよね?」
「みたいですね。9月っていうこの中途半端な時期に編入ってのは珍しいですが…」
二人でそんな会話をしていると、クラス担任の教師が教室に入ってくる。
「今日からこのクラスに編入となりました、五色野望琉と申します。皆さん、宜しくお願いいたします」
教師と一緒に入ってきた編入生は、己の自己紹介を丁寧にこなす。
色白いし、私よりも…小さい?
肩まである黒髪と色白な女子高生を目の当たりにした私の第一印象がそれだった。
かくいう私も身長が152cmと女性の平均身長よりは小さい人間だが、彼女はそんな自分よりも小さいように見える。特別美人ではないけれど、独特の雰囲気を持つ少女だなと考えながら、この日の授業が始まるのであった。
「”部活応援会”仕切っているのって、貴女よね?」
「はい!…って、五色野さん…だっけ?」
放課後、学内カフェにいた私の元に、例の編入生・五色野望琉が現れた。
「望琉でいいわ。それより…”いろんな部活を応援とかをする同好会”は部室がないらしいけど…こんな所で活動しているの?」
「…まぁ、吹奏楽部やスポーツ部みたいに、物を置くスペース必要ないから何処でも活動できるしね。それに、登録している部員を管理できるパソコン1台あれば、事足りるし…」
席に座ってパソコンを操作している私は、苦笑いを浮かべながら目の前に立つ黒髪の少女を見上げた。
「ここだと人目があるし…」
望流はそうつぶやきながら、周囲を見回した。
「場所を変えて話がしたいんだけど」
「それは別にいいけど…あ!それなら、場所移動するって武人にメールで伝えなきゃ…」
場所移動という希望を受け入れた私は、その事を同じ会員である武人に伝えようと携帯を取り出そうとする。
「わっ!!?」
すると突然、彼女は私の腕を引っ張る。
私よりも小さい体にどれだけの力があるのか、その勢いで私は席を立ち上がっていた。
「あの眼鏡オタクならもう、その場所にいるわよ。ミーミル」
「えっ…?」
台詞の最後の方が聞き取れなかった私は、首をかしげる。
「…私は、黒智海見だよ?」
「知ってる。…兎に角、パソコン持って一緒に来てちょうだい」
「わわっ!?」
相手に促されてノートパソコンを持ち上げると、黒髪の少女は足早にその場から出て行こうと歩き出したのである。
少し不審に感じながらも、何故か「この子は味方である」という確信だけはあった。
「…あっ!」
向かった先は学校の外階段で、その場には武人の姿があった。
「待たせたわね、”武人君”」
「貴女が、”あの方”の言っていた巫女殿ですね」
会って最初にした彼らの会話が、これだった。
一見すると、彼ら2人は顔見知りだというのは何となくわかるが、話している内容が意味不明であった。
「武人…五色野さんとは、どういう知り合い?」
事態が把握できていない私は、武人に問いかける。
因みに、私と彼は別につきあっている訳でも、幼馴染といった特別な間柄でもない。それでも、2人の雰囲気を”異様”に感じていたから問いかけてみたのだ。
「んー…何と言えばいいでしょうか…。強いて言えば、境遇が若干似ている…といった所ですかね?」
「境遇…?」
その言葉を聞いた時、鼓動が強く脈打った。
「…私たちの事はいいわ。兎に角…本当に、”智”を司る巨人が自分の事を知らないなんて…無理やり閉じ込められた衝撃かしら?」
ため息交じりで呟く望流。
何だろう…理由はわからないけど、嫌な予感がする…
緊張しているのか、私の表情は少しこわばっていた。
「一応、さっき声をかけたのは、その”部活応援会”とかいう同好会に入りたくてが目的だけど…本当に用があるのは、貴女自身よ。”智”の巨人・ミーミル」
「!?」
ミーミルという名前には、一応覚えはあった。
何処で習ったかは覚えていないが、北欧神話に出てくる巨人の名前。しかし、自分がその名前で呼ばれたのは初めてだった。
しかし、その名を呼ばれた途端、絵にならない走馬灯のようなものが脳内を駆け巡る。視覚的には見えないが、それが「今まで忘れていた記憶」と「知識」である事だけは解る。
「痛っ…!!!」
脳内に駆け巡っていたものが消えたのとほぼ同時に、首筋に謎の痛みを感じた。
それはまるで、何かで首を捥がれたような感覚に似ている。
「…思い出した?」
短い沈黙を、望流の一言が破る。
首を押さえながら顔をあげると、2人の姿があった。それと同時に、頭の中に今まで現れなかった絵のようなものが浮かんでくる。
「うん…。私、どうして自分が知識の神・ミーミルだっていう大事な事を忘れていたんだろう…。ニブルヘイムの…巫女さん…」
その一言を聞いた望流は満足そうに、一瞬だけ笑みを見せる。
「それに…」
すると、望琉の隣に立つ武人に視線が移る。
「武人が、邪神・ロキの息子である大蛇・ミドガルズオルム…だったとはね」
他人から見れば、私はおかしな発言をしているだけにしか見えないだろう。
しかし、今述べた事が事実であるという理屈的な確信が私の中にあったからだ。すぐに言葉に出せるくらい、この脳内には知識がある。その理由も解る。多分、望琉が私の本来の名前を口にしてくれた事が引き金だったのだろう。
私自身が何者かと把握できたと感じ取ったのか、武人は今まで話してくれなかった事。望琉も自身の事を語り始める。
この時の私は自分が何者かを知る事で、道が開けたような気がした。しかし、それと同時にこれまで味わう事のなかった困難や葛藤という名の苦難が待ち受けているのを薄々と感づいていたのであろう。
いかがでしたか。
第1話だから、??な部分が多いかと思いますが…
徐々にいろんな事がわかると思いますので、お楽しみに★
この物語は基本、海見らが通う高校にいろんな神々が現れ、騒動たっぷり起こすかと思います。また、神話に出てくる所々のエピソードも出てくると思います。
また、本来は男の巨人であるミーミルが何故女(=海見)なのかという疑問形な事を次回以降で描いていきますんで、お楽しみに★
ご意見・ご感想あれば、宜しくお願いいたします!




