#8 メイド&執事喫茶
今回は再び、海見視点で話が進みます。
「ねぇ…”メイド喫茶”とか”執事喫茶”って…ぶっちゃけ何なの?」
「え…?」
10月中旬のある日、私はの望琉から言葉の意味を聞かれる。
「あー、そっか。望琉は文化祭、初めてだものね!えっと…メイドや執事は本来、主をもてなす男女の事を指すけど…さしづめ、この世界では女子が男子に奉仕するのがメイド。男子が女子に奉仕するのが、執事…って所かしら」
ちなみに、今私が何故、彼女にその説明しているのかは理由があった。
「確か、メイド&執事喫茶は昨年度も希望を出したけど、希望するクラスが多くて今年やっと採用されたんですよね?海見」
「うん!まぁ、ここの人間たちは皆、そういうのが流行りみたいになっているのかもね」
「ふーん…何となく理解できたけど…」
私の説明に半分納得した望琉は、更に顔を近づけ、小声で話す。
「うちのクラスにいる神々は、人間に奉仕なんてやってくれるのかしらねー?」
「あー…フレイヤとかバルドルとかは、怪しいよね」
その小言を聞いた私は苦笑いを浮かべた。
ミッドヴェルガの学び舎であるこの”高校”では毎年、文化祭というお祭りがある。そこではクラスごとに出店などを開き、そこには学外の人間も来られるようになっている。そして、クラスごとでやる出し物とやらは夏休み前に決まっていたため、9月から編入してきた望琉が知らないのは仕方のない事だった。
「…まぁ、奉仕ならヘル様相手にやったことあるから、別に何ら問題はなさそうね…」
「!!そっか!!!じゃあ、フレイヤみたくメイドの方やると、いいかもね♪」
「別にいいけど…何?」
「ううん!望琉なら、小柄で可愛いらしいかんじだから、メイドさん絶対に似合いそうかな?とか思って!」
「・・・あっそ」
私は声を弾ませながら話すが、彼女はあいかわらず冷静そうな口調だった。
「でも、昨年ができなかったっていうなら…武人。あんたも、初めてなんじゃないの?執事…だっけか?」
ふと何かを思いついた望琉は、近くにいた武人に視線を向ける。
「いえ。僕は執事ではなく、裏方に回って調理の方にいくこととなっています。ちなみに、海見も」
「ふーん?まぁ、海見はともかく、武人だったら一部の人間とかに評判いいんじゃなくて?」
「それは、よくわかりませんが…まぁ、私も海見も、あまり人前に出るのは避けた方がいい立場ですし…」
「うん。それに、お客さんに愛想振りまくのとかって、苦手なんだよねー…」
それを聞いて望琉は少し不服そうだったが、私や武人がメイド及び執事をしない理由は理解してくれたのだった。
私は自分が何故この世界に閉じこまれているのかはわからないが、武人の場合はちゃんとした理由がある。理由…ってそんな大層なものではないが、”ロキの息子でかつ神々の脅威となりえる”というオーディンの考えから、この世界に無理やり追放されたためだ。
それもあってか、いろんなクラスの人間や神々が行き交い、外部の人間も入ってくる文化祭では、あまり目立つようなことはできないのである。
だからといって、二人して当日休んだら、怪しまれるしね…
私は、休みたくても休めないので、少しため息をつきながら考え事をしていたのである。
ちなみに、文化祭まであと14日といった所だ。
「おーっ!!!フレイヤちゃん、超セクシーじゃね?」
「バルドル君も執事姿、めちゃくちゃ似合っているわー!!」
教室中に、黄色い歓声が響き渡る。
あれから文化祭まで1週間となった頃、メイド&執事喫茶で使うメイド服と燕尾服が届いたため、接客組が試着していたのだ。
あの高飛車な美男美女神二人がまさか、メイドと執事やるとは…意外だな
どちらにも見惚れる事のない私は、呆れ顔でその場を見守っていた。
ちなみに、このクラスにいるアスガルドの住人は、フレイヤ・バルドル・ホズ・イズン・ウッルと、私や望流に武人の8人。その中で接客組として衣装に着替えるのがフレイヤ・バルドル・ホズ・イズン・望琉の5人だ。
「ホズが執事をやるとは、珍しいよね!」
「ええ…。フェンリル兄さんが聞いた話だと、表向きにはメイド服や燕尾服を揃えたのはバルドルって事になっているそうですが…本当はホズが手配したそうです。でも、彼はその事を微塵にも口に出さず”頼まれたからやる”とだけおっしゃっていたそうですね」
「ふーん…」
私は武人とそんな会話をしていると、ふと教室のドア付近にいたホズがこちらに近づいてきた。
彼は盲目の神なので目が見えず、瞳は閉じられているが、杖を必要とせず歩けるのは、流石アスガルドの神といった所だろうか。
「黒智さん…でしたね。貴女に伺いたい事があるのですが…」
「聞きたい事…?」
ホズが私に声をかけてきたが、不思議に感じた私は、首を傾げる。
「…えぇ。少し前…兄・バルドルと揉めていましたよね」
「えっ…!?」
それを聞いた途端、私の表情がこわばる。
というのも、あの時の光景を知っているのはバルドル本人と、その話をした望琉くらいだからだ。
「そこで、貴女がその時…」
「海―見―っ!!」
ホズがその先を言いかけた途端、会話にメイド服を着たフレイヤが割り込んでくる。
「わっ!?ふ、フレイヤってば、どうしたの??」
いきなり割り込んできて驚いた私は、思わず声がうわずる。
「ん?いや、このメイド服っていうやつ、似合う―??とか思って来ただけよ?」
「あ…うん。似合っているんじゃない?」
仲よさげに話す私たちに、ホズが首を傾げていたであろう。
私も正直、驚いたな。高飛車な彼女が、ここまで普通に話しかけてくれるようになったのだから…
そんな考えが一瞬、頭の中をよぎった。
羽交い締めするようにひっついているフレイヤを見て何か思ったのか、ホズは会話を中断して、教室を出て行ってしまったのである。
「…結局、彼は何を私に訊きたかったんだろう?」
誰に問いかける訳でもなく、私は独り言を呟く。すると―――――――――
「あいつとは…ホズとは、あまり関わらない方がいいかもね」
「え?何故…?」
耳元で囁くフレイヤに対し、私は問いかける。
「んー…。理屈じゃ言い切れないけど…何か、危ういかんじがするのよ、あのホズって男神。それに、兄のバルドルともあまりうまくいってないらしいし…」
そう語る豊穣の女神は、どこか真剣な表情をしていたのである。
「あ…話に割り込むようで悪いんだけど…」
「あ!望琉…」
今度は、望琉が私たちの前に姿を現す。
彼女の言葉がどこかたどたどしかったが、その理由はすぐに理解した。
「…別に、恥じる必要なんじゃない?」
「いや…。でも、なんだってメイド服とやらは、こんなにスカートの裾が短いのやら…」
そう呟きながら答える望琉は、何だかすごく可愛かった。
しかし、それは言動だけでなく、外見にもいえる。これを“萌え”というのであろうか。まるで彼女が着るためにあしらったような黒と白い生地でできたメイド服。髪色が黒いというのもあるが、本物のメイドさんみたいで、とてもよく似合っていたのだ。そんな望琉の姿を目にした男子生徒の数人が、彼女に釘付けとなっていた。しかし、それを美の女神が見逃すはずもない。
「…この美と豊穣の女神より綺麗に見えるのって…何だか、ムカつく」
そんな望琉を見たフレイヤは、少し不服そうに呟くのであった。
そして、文化祭当日―――――――――
「メイド&執事喫茶!!?あのクラスって、美男美女が多いって噂だから、是非売り子姿みたいわぁ~!!!」
そんな事を話す生徒たちが、私たちのクラスに殺到していた。
無論、ほかのクラスもそれなりにお客が来ていたが、学内の生徒に関しては、うちがダントツだった。
「校内生徒の客が多くても、外部の人あまり来ないのも何だかなぁ…」
「まぁまぁ…。僕らはとりあえず、出す料理とかをちゃんとしないと…」
調理実習室でブツクサ呟く私に対し、武人が宥める。
外部の人は校内生徒の関係者だけでなく、一般の客も入る。しかし、いろんな年代の人間が行き来するため、誰もがメイドや執事を見たい訳でもない。そのため、講堂でやる音楽部によるライブやお化け屋敷のようなエンターテイメント系に外部の客が集まっているのだろう。
「コーヒー、早く回してー!!」
「ちょっと!!紅茶に入れる砂糖が足りないって客が…!!」
私たち裏方の元には、教室で売り子をしている接客組が何往復かしてこちらに現れる。
フレイヤやバルドルも例外ではなく、何度もこちらに顔出していた。そのせいか、彼らも普段見せるオーラがすっかり隠れていた。
バルドルに関しては、光より闇のオーラの方が出ているような…
私は作業をしながら、そんな事をふと思う。流石の彼もだいぶテンパっているのだろうと思うと、心底、接客組に入らなくてよかったと思えたのである。
「あー…やっと、一段落できたな」
時間もお昼すぎくらいになり、やっと自分が休憩を取れる時間になったのだった。
私はとりあえず、お手洗いへ行こうと、エプロンつけたままで廊下を歩き出す。普段なら目立つかもしれないが、文化祭である今日はいろんな格好をした人間が歩いている。それこそ、自分のクラスの出し物宣伝でコスプレみたいな事している生徒もいるし、外部から来ている客も、煌びやかな格好をしている女性なんかもいる。こういうのを見ていると、ユミルが創り出したこの世界が、どれだけ精巧に創られているのかがよくわかる。
望琉は私をアスガルドに連れ帰るのが使命…って言っていたけど、本当に私はこの世界から抜け出せるのかな…?
独り歩きながら、そんな事を考えていた。
「わっ!!?」
すると突然、右手首を誰かに掴まれ、一瞬の内に右手側へ引っ張られる。
「や…離し…て…!!!」
私の腕を掴んだ相手は、自分の元にたぐりよせようとしているのか、腕を引っ張ってきた。
悪い予感がした私は、何とか腕を振りほどく事ができたが、視線を上にあげた途端驚く。
「雷神…トール…?」
自分の目の前に現れた人物に対し、思わず私はその名前を口にする。
「ふーん…“霜の巨人”っていわれているのに、ちっせーなお前」
黒髪で坊主のような髪型をしたこの青年は、私を見下ろしながら言葉を紡ぐ。
彼はアスガルドにて、戦と雷を司る神。同じ学年にいるのは知っていたが、クラスが違うので直に会うのは、これが初めてであった。
それにしても、噂通り、巨漢ね…。身長は190cmくらいあるのかな…?
背が高く声も大きいので、私は少し緊張しながら口を開く。
「突然…何?用があるなら、“メイド&執事喫茶”やっている私のクラスに直接来ればいいのに…」
私は、掴まれた腕に触れながら、相手に意見をする。
無理やり腕を掴まれた訳だから、こうやって意見するのは、特に間違っている訳でもない。ただ、どうして直接会いにこなかったのかが疑問だった。
「あの野郎が、“直接は会えないから”だとよ。兎に角、野郎がお前に話があるんだとよ」
「“あの野郎”…?」
「…ロキだよ。邪神・ロキ」
「えっ…?」
その名を聞いた時、私の表情がこわばる。
現在は、この学校の3年生に在籍しているアスガルドの神。私と同じように巨人の血を引く火と悪戯の神で、武人やフェンリルの父親に当たる。
「…でも、何故貴方が私にその事を…?」
トールがメッセンジャーをやっている理由が気になった私は、彼に問いかける。
するとトールはかなり苛立った表情をしてきた。
「…んな事は、どうでもいいだろ。いいから、さっさと来い」
そう口にしながら、トールは私に対して手招きをする。
しかし、全体の半分の神力しか使えないとはいえ、流石はオーディンと渡り合える実力の持ち主。ちょっとした苛立ちも強い殺気となって、私の身体を竦ませていたのだ。
それに…彼自身は私に危害は加えないだろうけど…何だろう、嫌な予感がする…
そんな事を考えながら、この巨漢の青年を見上げる。
それに対して、痺れを切らしたのか――――――――トールは舌打ち後、すぐに声を張り上げる。
「…ったく、面倒な女だなぁー…。よっ…と」
「わっ…!!?」
なかなか言うことを聞かないからか、トールは私の身体を軽々と持ち上げて担ぎ上げる。
「ちょっ…嫌…!!離してよっ…!!!」
突然俵担ぎされた私は、驚きと恐怖で思わず暴れる。
高所恐怖症ではないが、俵担ぎなんて滅多にされるものではない。しかも、お腹に彼の肩が接触している訳だから、あまり気持ちのいい体勢ではないからだ。
「って、おいおい。暴れるんじゃねぇよ!!」
トールが苛立った声で張り上げるが、私はお構いなしに彼の肩の上で暴れ続ける。
「…いい加減にしねぇと、この足へし折るぞ」
「っ…!!?」
その台詞を聞いた途端、私は動きを止めた。
というのも、彼はその言葉を紡いだと同時に、私の足を掴んでいる腕の力を強めたからだ。確かに、これだけの巨体を持つ彼なら、女の肉体である私を力づくでどうにかするなんて朝飯前だろう。
「…別に、取って食う訳じゃねぇんだ。ロキの所に連れて行くだけだから、おとなしくしてろっての」
「ごめん…なさい」
先程の言葉で降参した私は、暴れるのを止めて、足にこめていた力を抜いた。
そうして私を担ぎ上げたトールは、そのまま廊下の階段を上に登り始める。
思えば、別に文化祭の日でなくても会えるはずなのに…どうして、ロキはここまでして私に会おうとしているんだろう…?
その疑問が頭から離れない。階段を上へ登っていくという事はおそらく、私が連れて行かれるのは屋上だろう。思えば、文化祭である今日はどこの教室も使われているので、唯一人がいないといえば、その場所くらいであった。この時はトールも私も全く気がついたいなかったが、私たちの後ろでホズに尾行されているのを、この時は全く気がつかなかったのである。
いかがでしたか。
今回の章は物語の年月的にそろそろ文化祭かな?と思ったのと、
メイドや執事を小説で描いた事なかったんで、完全に楽しみながら書いてました♪
まぁ、これがロキと対面するいい伏線になったから、とりあえず良しとします。笑
読んでいる限り、ホズが何だか怪しいかんじがしますが…
神話をよくご存知の方は今後、彼が何をしでかすのかはわかるかと思います。
今回の章はそこへいくまでの序章といった所でしょうか。
まだまだ北欧神話の神々は登場させる予定なのと、神以外も載せるつもりです!!
では、ご意見・ご感想あれば宜しくお願い致します!




