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BuSvic;Vobamtio  作者: 皆麻 兎
Episode2 日常と非日常
9/29

#7  オーディンより任務を課せられた巫女

「紀元前6世紀頃までに、ケルト民族がアルプスより北のヨーロッパに拡大し…」

世界史を教える教師の声が、教室中に響く。

あれから教室に戻った私や武人は、午後の授業を受けていた。この世界では”世界史”や”日本史”といった、過去の出来事を学ぶ講義がある。”日本史”とやらは全く意味不明だが、本日受けている世界史Bの講義には、1つだけ知っている言葉を耳にする。

 アスガルドの神の誰かが、人間の祖だったよなぁ…

私は講義を聞きながら、そんな事を考えていた。最近思うのは、このミッドヴェルガが映し出している世界は、ラグナロク以降たる未来の人間界を具現化しているのではないかという仮説。

いくら原始の巨人・ユミルの残りかすからできた世界とはいえ、ここまで精巧に創られているのは、不思議でたまらないのだ。もし、自分の仮説が正しいとすれば、ユミルやその直系たる海見は、何処までの知識を。未来(さき)を見通しているのか――――――――神々の想像すら超えているだろう。そう思わずにはいられなかった。

 いや…兎に角今は、海見を無事連れて帰る事を考えなくては…

なんて思いながら、シャーペンで黒板の字を写す。

ふと窓を見上げた時、大空を羽ばたく鳥を見かけた。それを目にした時、この世界に来る前までの事を思い出し始めるのであった。



「面をあげよ」

男神からそう告げられ、私は伏せていた顔をあげる。

周囲にはユグドラシルの葉が生い茂り、太くて大きな枝がある。また、自分たちが立っているこの場所も、枝の一部にすぎない。

アスガルドやヨトゥンヘイム。そして、ニブルヘイムにまで根が伸びている世界樹・ユグドラシル。その枝付近に私たちはいた。まだ名前のなかった自分と、神界を束ねる神オーディン。本来、彼が下々の者と会う場合は、ヴァルハラ宮殿に呼び出すのが慣例だが、私は”普通”ではない。また、オーディン自身も、私のような女と会うのはあまり知られたくないため、ユグドラシルという、他の神々が容易に近づけない場所に私を呼びつけたのであった。

「…さて、お主を呼び出したのには、もちろん訳がある。名はー…」

「…私たちニブルヘイムの巫女には、名というものはございません。…散々利用しているくせに、そんな事も覚えられぬのですか?」

主神の台詞(ことば)に対し、私は嫌味で返す。

普通なら、無礼千万で追い出される言動だが、”私たち”はそうされる事はない。というのも、「神界の王が冥界の巫女の知恵を借りている」なんて事を他の神々に知られたくないらしく、弱みを握っている…という意味では、私たちの方が優勢だからだ。

「…まぁ、いい。では、本題だが…そなたは、知恵の巨人・ミーミルを知っておるかね?」

「ミーミル…。あぁ、一時期、人質としてヴァン神族に差し出されていたという…?」

「…うむ」

その名を聞いて何となく思い出した私が答えると、彼は首を縦に頷いた。

「知ってるかもしれんが、彼奴はヴァン神族によって首を刎ねられた。しかし…」

「しかし…?」

「…これを見よ」

そう告げると、オーディンは両手を前に突き出して、なにやら詠唱を始める。

すると、そこには水鏡が現れ、何かを映し出す。

「なっ…!!?」

水鏡が映し出した”それ”を見た途端、私は目を見開いて驚く。

自分の視界に入ってきたのは、男神の生首だった。しかし、生首にしては瞳が閉じられていて、腐っている雰囲気もまるでない。金髪で手触り良さそうな髪をしたその生首は、一見すると男神だが、顔立ちが端整で女神にも見えた。

「この生首は…?」

「…我が見つけた、ミーミルの首だ」

「これが…これが、知恵の巨人ミーミル…」

私は、その姿に見入っていた。

何せ、私が住まうニブルヘルは死者の世界。ミッドガルドで病死などした人間が堕ちる世界なので、醜い容姿に成り果てている者ばかり垣間見ている。巨人族は”野蛮な者”というイメージを持っていたため、その容姿もさして美しくないだろうとたかをくくっていたのだ。それに比べこの巨人は、綺麗な顔立ちをしている。後に知る事になるが、この神を生み出したのは、あの両性具有と伝えられている原始の巨人・ユミルらしい。

「この者は、知識の泉の守護者でもあるからな。我の呪術を用いて蘇らせようとしたのだが…一つ問題が起きていた」

「問題…?」

オーディンが水鏡を映し出す術を解いたのと同時に紡いだ言葉で、私は我に返る。

「ミーミルの魂が、この首に宿っていなかった」

「え…?アスガルドの神々は、魂の存在のはずでは…?」

彼が述べた言葉に、私は疑問を覚える。

ミッドガルドに住まう人間は”肉体”という足枷をつけて生きているが、神々は異なる。魂だけの存在なので、人間のように己を形成する肉塊はないはずだ。

「…彼奴は、ユミルと同じ霜の巨人だからな。まだまだ解せぬ事が多い。…そして、その魂の在り処をフレイヤに探らせたら…思いもよらぬ場所にいた。…いや、”場所”というよりは、”世界”と言うべきか…」

流石に、今さっき私が述べた疑問には答えられなかったが、その後に意味深な台詞(ことば)を告げるオーディン。

話は更に続く。

「ミーミルの魂があったのは…このユグドラシルのとある場所から入り込める仮想世界”ミッドヴェルガ”…」

「”ミッドヴェルガ”…」

その名を聞いた途端、ニブルヘルで死者の国の女王・ヘル様が教えてくださった事を思い出す。

そのミッドヴェルガとは、原始の巨人ユミルの残骸から生まれた仮想世界。何でも、一度入って出てきた(もの)は、神力が強くなっていたという事例があったらしい。

「強いては、巫女よ。そなたには、その仮想世界へ赴いて、知恵の巨人・ミーミルを連れ戻しに行ってもらいたい」

「私が…ですか?」

思いもよらぬ命令に、私は呆気に取られていた。

「他の者に頼めない理由は…おおよそ察知できるだろう?」

「首を所持している事を、内密にしたいから…ですよね」

「当たりだ」

私の返答に、オーディンは満足そうな笑みを浮かべる。

「我がかつて、ミーミルが守る知識の泉へ赴いた事があるのは、他の神々も知っているだろう。故に、その首を所持して蘇らせようとしているのならば…当然、横取りしようと考える(もの)がいてもおかしくはない」

「ミーミルを復活させて泉を手に入れれば…主神を凌ぐ知恵を得る事ができますしね」

「…うむ」

「しかし…」

「む…?」

オーディンの頷きを遮るかのように、私は言葉を紡ぐ。

「いくら主神の命とはいえ、”私たち”はヘル様の所有物。当然、ヘル様は何かしら見返りを求めるはずですが…?」

そう問いながら、鋭い視線で彼をにらみ付ける。

しかし、流石は神々の王。私が放った殺気に対して、動じる気配は全くなかった。

「…既に、ヘルには話を通してある。その見返りが…”そなたの容姿を美しくさせろ”…だ」

「ヘル様…」

その言葉を聞いた私は、ヘル様への忠誠心がより一層強まる。

ヘル様はアスガルドの神々からは”邪神ロキの娘”と罵られ不当な扱いをされた事もあったが、私たちニブルヘイムの巫女にとっては、本物の女神みたいな存在だ。オーディンの命令で私たちを差し出す事はするが、その見返りは大抵、巫女達のためになる事が多い。そのため、私たちのほとんどは、ヘル様に敬意と忠誠を誓っている。

 私たちのほとんどが皆、神々からすれば醜い容姿をしているからね…。わかっているとはいえ、容姿を整えてくれると聞くと、やはり嬉しいな…

私は、微笑みをうっすらと浮かべながら、そんな事を思った。

「また、そなたの場合は、名を名乗ってもいいとヘルは申していた。…よほどあの女王に気に入られているのか…」

オーディンがそんな私を尻目に呟いていたが、今の私の場合、今みたいな小言は眼中になかった。

「だが、ヘルがそなたを我に差し出したのは事実。…もし、ミーミルの魂を無事連れ帰る事に失敗すれば…わかっているな?」

「…ええ」

オーディンは、忠告するような口調で私に告げる。

その一言で、少し温まっていた心も、一気に冷めた。過去にオーディンから指令を受けた巫女(どうほう)がいたが、任務に失敗したため、ニーズホッグの餌として、骨の髄まで食われたという。

ちなみにニーズホッグとは、フェルゲルミルにてユグドラシルの根っこをかじる有翼の黒龍。罪人などの死体を常食としているため、神であろうが人間であろうが容赦なく食らう恐ろしい龍だ。


オーディンとの対面を終えた私は、ミッドヴェルガの入口があるユグドラシルの頂上近くへと上り始める。

登るといっても、枝すらも巨大な樹なので、山登りをしているような感覚だ。道中で、4匹の牡鹿や栗鼠を見かける。

 あれが、ラタトスク…

栗鼠を見かけた時、私はふとそんな事を思う。

世界樹ユグドラシルには、いろいろな生き物が住まう。彼らもその一つだ。ラタトスクは幹に住まう栗鼠で、何かを企んでいるのではと警戒されている動物らしい。一方、4匹の牡鹿は、それぞれダーイン・ドヴァリン・ドゥンエイル・ドゥラスロールと名前があり、ユグドラシルの若葉を食い荒らしているという噂だ。先程見かけた時は若葉を食べていなかったが、見ていて如何にも食い意地張っていそうな鹿だ。

「さてと…」

登っていく内に、ミッドヴェルガの入口へたどり着いたのである。

目の前に広がっているのは、小さめのブラックホールみたいな渦だ。ミッドヴェルガに行くには、この渦に飲み込まれなくてはならない。発生当時は相当危険視されていたらしいが、ここ数年は出入りする神も増えているとか何とかで、安全面では問題ないらしい。

 知恵の巨人ミーミルか…。あの首を見る限り、魂も男か女の姿をしているか、定かではないかもな…

目的の存在の事を考えながら、一歩一歩と渦に近づいていく。

「わっ…」

ブラックホールによる強い風を感じた時、思わず声が口から漏れる。

 無事任務を達成できたら…ヘル様の元に戻って、ミッドヴェルガの話でもしようかな…

安全とはいえ、渦に飲み込まれるのは正直言って気が引ける。久しぶりに“怖い”と身体が感じていたが、その恐怖をぬぐい去るために、任務を終えた後の事を考え始めた。

そうして渦に取り込まれた私は、そのままミッドヴェルガへと入っていったのである。



考え事をしていた私は、講義終了を告げるチャイムの音で我に返る。

「では、今日の授業はこれまで」

チャイムの音を聞いた教師は、道具を片付けた後、教室を去っていった。

「望琉、授業中ボーッとしていましたが…体調でも優れないのですか?」

休み時間になり、近くに座っていた武人が、私に問う。

「…ううん。考え事をしていただけ」

私は、ありのままを答えた。

 “日常”という言葉が「つねひごろ」や「平生」を意味するのならば、今私がこの世界で暮らしているというのは、“非日常”という事になるのだろうな…

周囲にいる生徒たち――――――一というより、そのほとんどが仮想空間が造りあげた偽物の人間達も見ながら、そう考える。アスガルドの神々は無論それに当てはまらないが、これだけの偽物(フェイク)に囲まれているなんて暮らし、ニブルヘルにいた頃はなかったからだ。

 これを“日常”と捉えるようにならないためにも、早く海見を連れ帰る術を探さなくては…

そう決意を新たに持つのであった。


いかがでしたでしょうか。

今回は北欧の神々以外のいろんな事が描けて、満足なかんじです(^^

ちなみに、ヘルや望琉達、巫女の容姿が醜い件ですが…

資料によると、いかめしい顔をしているというヘル。なので、ニブルヘイムの巫女も似たようなものかな?と思って書いてみました。

もちろん、牡鹿や栗鼠も、実際北欧神話に出てくる(らしい?)生き物ですね★


さて、一応この章は終わりです。

次回からまた、海見視点の物語に戻す予定ですが、武人とか一周させてからってのもありかなとか思いつつ、主人公と交互の方がいいのかなんやら…

まとまり次第、次回は投稿させて戴きますヽ(´Д`;)ノ


それでは、ご意見・ご感想があれば、宜しくお願い致します!


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