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第32話 カンゼオンジャ

 低空で森の木々のすぐ上を飛びカンゼオンジャの巣を探す。その時何の気なしに低空のまま海に出た。

 そしてフウさんが何かを見つけた。

 彼女の言う右翼側を見てやると、翼に何かがひっついていた。

 一匹のヒンデリゴロウだった。

 

 そういえば僕がこうして冒険にでている間、会社で飼っているヒンデリゴロウの「ろくしゅう」は元気にしているだろうか? ちゃんとシンシオさんエサあげているだろうか?

 

 フウさんにヒンデリゴロウの習性や飛行機乗り達のおまじないの話をしてやる。森にいるあいだ、フウさんに昆虫類の説明を学生に戻った気分で聞きまくっていたのだ。ここらへんでこちらが教える側に回ってもいいだろう。

 すると、こつん、と今度は左翼に違和感を感じた。見ると、もう一匹。と、二匹目。三匹目。

 海面を覗き込むと、水面に映り込んだ僕の飛行機の影を追うようにものすごい数の魚影が走っている。ヒンデリゴロウの群れが僕達の飛行機に飛び乗ろうと、まさに空と海の間を並走していた。

 かなり危険な状況だった。数匹飛び乗られたところでたいして問題はないが、あまりの数が飛行機に飛び移れば当然バランスは崩れる。それどころかプロペラに巻き込んでしまえばヒンデリゴロウの身の心配どころかエンジンにも大ダメージを与えるし、翼のフラップ部に噛み込んでしまえば上昇下降もできなくなってしまう。

 ヒンデリゴロウの大群の飛び乗りを回避する方法は二つ。大量に飛び乗られる前に高度をとってやりすごすか、いったん速度を落として着水して群れが泳ぎ過ぎるのを待つか。

 

 もうすでに5、6匹に乗り移られ、僕は着水して群れをやりすごす事にした。初めての光景にフウさんは興味深そうに眺めていて、さすがは大学助教授と言ったところだけれども、僕としてはぞっとしない光景だった。ヒンデリゴロウが群れる事そのものは珍しくないけれども、ここまでの大群なんて聞いた事もない。さすがは無人島地区。自然の規模が違う。

 

 すごい勢いで泳ぎまくり、中には空中に飛び上がり飛行機の翼の上にかたまっていたりするヒンデリゴロウの群れを眺めていると、フウさんが何かに気付いた。この群れの動きはパニックに襲われた時の羽虫の大群のパターンと同じだ、と。何か大きな魚に追われているのではないか、と。

 コクピットのキャノピー越しに海を覗きこむ。そして、僕達はある大きな影が僕達の真下を泳いで行くのを見つけた。

 

 魚ではなかった。


 昼間で透明度が高い海域とは言えその姿をはっきりと確認する事はできなかったけれども、魚に詳しくない僕でさえそれが魚ではない事は断言できる。

 細長い身体は三つくらいの節で構成されているように見えた。ナマズのヒゲのような対になる長い紐状の触覚のようなものが生えた頭部。水中で羽ばたくかのように見事に泳ぐ4枚の羽状のものが生えた胸部、水の流れに逆らわないようにカギ爪のような腕を身体の側にまとめ、そして流線形をしてイルカのように滑らかに水を蹴っている腹部。

 大きさは1メートルくらいか。こんな形をした海洋生物なんて見た事も聞いた事もない。間違いなく巨大な昆虫が僕達の真下を泳ぎ、ヒンデリゴロウの群れを追っていた。

 フウさんがキャノピーに顔をへばりつけてその姿を追う。コクピットを開けてと叫ぶ。僕は彼女の言う通りにしてキャノピーを開放し、万が一のためジャガー対策として用意していたライフルを手に取った。その巨大な虫は魚を追っていた。こちらに目標を切り替えないとは限らない。

 そんな僕の心配もおかまいなしに、フウさんはカメラを構えて翼の上に飛び下りてその影を撮影し始めた。

 ふっと海の色が変わるようにヒンデリゴロウの大群が泳ぎ過ぎると、その巨大な昆虫の影ももう二度と姿を現さなかった。


 フウさんに見せてもらった古い脱皮の皮や死骸のスケッチの姿そのままの、ここ十年間姿を目撃されていないカンゼオンジャだった。


 興奮しすぎて眠れないと言った感じだったフウさんも、今度は逆に興奮疲れからばたんと倒れるように眠ってしまっている。今日がこの冒険旅行の最終日だった。僕達はなんと幸運な事か。カンゼオンジャの未発見の巣を3か所も発見し、そして、ついに生きているカンゼオンジャの姿を見る事ができたのだ。

 フウさんの仮説では、カンゼオンジャは海洋水棲の昆虫ではないか、との事。産卵の時だけに上陸し、そして成虫は寿命を終えてしまう。生まれて来た幼生体は海中での食物連鎖の上位に立つだけの身体能力を得るまでの期間を、唯一の天敵となるジャガーのいない無人島で過ごし、そして海中に還って行く。道理でヒトの目につかないわけだ。

 

 最後の最後にカンゼオンジャの姿を写真におさめる事ができた。フウさんの旅は大成功と言ったところか。明日、フウさんの大学とアパートがある主島へ帰る。そして僕は来週からジェット機関への出向期間に突入する。

 

 今度は僕の番だ。

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