第30話 冒険のまとめ
ちょっとまとめてみる。
月曜日は冒険の準備で一日が終わった。
火曜日に意気揚々と出発して、まずは主を失った巣跡を見に行って、あっさりと遭難。カンゼオンジャの巣で夜をやり過ごす。
水曜日、なんとか島を脱出。装備を整えるために人が住む島に飛ぶが、無人島の生水を飲んだせいか、僕の腹痛により飛行不能に。海辺の民宿に泊まる。すごく美味しそうなお刺身が出されたが、すべてフウさんが食べた。すべて。
木曜日、いったい何度トイレに行った事か。ちなみに、同じ水をフウさんも飲んでいるはずなのに、彼女は平気。フウさんいわく「昆虫学者の胃腸をあなどってはいけない」。昆虫学者は森の中で何を食っているんだろう?
そして今日、金曜日、探索再開。楽しい夏休みももう半分過ぎてしまっている。しかし、カンゼオンジャ発見に一歩大きく近付く幸運が僕達を待っていた。
カンゼオンジャの巣の樹木ドームは、中からは解らなかったけれども、空から見てみると編み込まれた樹木の枝がものすごく大きなキノコみたいにこんもりと丸まっていた。ただ、普通に空から見たのでは大きな樹のてっぺんにしか見えない。思いきり低空で、飛行風で木々を薙ぎ払うくらいまで低く飛ぶと、その樹木ドームだけは編み込まれているせいで風の影響を受けずにこんもりとしたままだったのだ。
そして、それを偶然にも発見できたのは、ムクムクのおかげだった。僕達はものすごくラッキーだ。
探索再開に、まずはカンゼオンジャの巣跡を空から見てみようとあのキャンプした巣に向かった。そこでものすごいラッキーその1が発生した。
ふと、僕は僕達の背後に迫る大きな影に気が付いた。ムクムクだった。あの巨大な化け物鳥が僕の飛行機めがけてまっしぐらに飛んで来ていた。ムクムクが飛行機を襲うだなんて話は聞いた事がない。だけれども、まっすぐこっちを目指して飛んでいる。いくらこちらが金属でできた機械で向こうが肉でできた生き物でも、あれだけ大きな生き物に攻撃されたらこんな金属の塊はひとたまりも無い。さすがのフウさんもあまりの事で声もでないのか、まっすぐ飛んでくるムクムクの巨体を黙って見つめるだけだった。
ムクムクは僕達にぎりぎりまで迫ると並んで飛ぶようにゆっくりと羽ばたいていた。くりくりとした真っ黒い目をコクピットの僕へ向けて、ものすごく太い音の出る笛を小学生の学級全員で好き勝手に吹いたようなお腹に響く鳴き声を何度も何度も上げていた。
気が付くと、いつのまにかオスのムクムクも僕達の飛行機の前を飛んでいて、きれいな色彩のとても長い尾羽を風になびかせて、僕達を導いているかのように羽ばたいていた。
この光景を僕は見た事がある。そう、思い出した。このメスのムクムクは座礁して飛べなくなっていたところを僕が助けたムクムクだったのだ。あの時は僕個人の蒸気飛行機で、今回は形も違う会社所有のプロペラ機だって言うのに、こいつはコクピットの僕を目で見て確認して、挨拶にやってきたみたいだった。なんて視力をしているんだ、ムクムクって鳥は。
最初はものすごくびびっていたフウさんも、何の心配もいらない状況を説明してやると、この巨大な鳥を興味津々の顔でじっくりと観察し何枚も写真に収めていた。しばらくムクムクの夫婦と一緒に飛んでいると、またものすごく野太い鳴き声でびりびりとお腹を震わせてくれると、ムクムクは僕達と違う進路へ羽ばたき始めた。再会の挨拶は終わりのようだった。
そこで、ものすごいラッキーその2が発生した。メスのムクムクの羽ばたきが激しくなり、その巨体を起こすようにゆっくりと森に下降していく。羽ばたきで森林の樹木はへし曲げられてざわざわと揺り動かされるが、大きな丸い塊だけが羽ばたきにも負けずにそこにあり続けていた。それは、僕達がキャンプしたカンゼオンジャの巣跡の樹木ドームだった。メスのムクムクの巨体は海の上でないと再び飛び立つ事ができなくなるので大地の上には降り立たないと言われていたが、カンゼオンジャの巣の樹木ドームは、ムクムクにとってちょうどいい止まり木のようだった。
ムクムクの夫婦と別れた後、僕達は無人島を見つけては低空で飛んで森の樹木を飛行風で揺らしまくった。ざわざわざわざわ揺らして飛び回った。そして、ついに、フウさんの資料にない未発見のカンゼオンジャの巣を発見したのだった。
残念ながらこの巣はとうの昔に放棄されたものらしく、カンゼオンジャの成虫やその存在の痕跡すら発見できなかったけれども、今、その巣の中でまたこの日記を書いている。初日のキャンプで知ったのだが、この巣跡はなかなか居心地がいい。虫除けのお香を焚けば羽虫は寄ってこないし、太陽の強い日射しも夜の冷たい海風もドームが防いでくれる。まさに天然のテントと言ったところか。
と、微妙な匂いが漂ってきた。カレーっぽいんだけれども、そのカレーのせいで本来の匂いがごまかされているような感じの匂いだ。フウさんが、昆虫学者達の森のご馳走、特製森林カレーを作ってくれている。
いったい、何が投入されているのだろう。
虫じゃない事を祈る。




