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第29話 無人島で二人きり


 ずばんっと音を立てそうな程に抜けた青空。見ているだけでさらさらと崩れてしまいそうな白い砂浜。何度も繰り返しささやくのに同じ音はしない波の歌。

 小さな無人島の夏の砂浜にフウさんと2人。


 2人きり。


 これは素敵な夏休みになるのではないかと期待してしまったが、初日でそれはもろくも崩れ去った。なんでたかがかつての虫の巣を見に行くためだけにやぶこきで3時間も歩かなければならないのか。カンゼオンジャってそんなすごい虫なのか?


 まずは最も最近発見されたカンゼオンジャの巣を観察に行こうと、フウさんが旅のスケジュールを組んだ。12年前に発見された「最新」のカンゼオンジャの巣。そこには孵らなかった卵一個と、メスの死骸が一体。今までの資料では、カンゼオンジャのテリトリーはかなり広いのか、一つの島に一つの巣跡しか見つかっていないらしい。それも一つの個体が一つの巣を使い続けるわけではなく、卵を産む時だけに巣を設営するらしい。二十年の虫の寿命に一度きりの産卵。そのためだけに、一つの島に一つの巣。昆虫学者じゃない僕でもわかる、かなり見つける事が困難な虫だって。

 ここで巣を観察して、未だカンゼオンジャの巣が発見されていなくて巣の設営の条件に適した無人島を空から探索。そこを重点的に調べるってスケジュール。

 学術的訓練を積んだ研究チームでなく、まだまだ若い実戦不足の助教授と飛行士の2人きりの急造夏休みチームが、そんな思いつきだけで本当に希少な虫を発見観察できるのだろうか?

 

 手付かずの無人島の森。深い原生林を方位磁石と国が発行した5千分の1縮図地図のみで進みながら、虫除けにお香を焚いて歩くフウさん。昆虫学者がそんなふうに虫を嫌ってもいいのか? 話を聞くと、フウさんにとって虫は研究の対象であって、愛情の対象ではないとの事。そんなものなのか。


 カンゼオンジャの巣は、森の奥のそのまた奥、樹が生い茂って陽の光も入らないくらい深いところに設営される。成虫がその森にさらに蓋をするように木々の枝やツルを編み込んで、巨大なドームを作る。その大きさは直径が10メートル。僕とフウさんが巣をテント代わりに使っても、いや、テントどころか家として生活空間ばっちりくらいな大きさだった。地面はならすように余計な草木が引き抜かれ、土は丁寧に踏み固められ、ちょうどお椀を伏せたようなまんまるい形をしていた。

 その真ん中にくぼみがある。卵が一個だけ産み落とされる場所だ。フウさんに発見された時の写真を見せてもらった。大きな卵が、乾涸びて新しい命が生まれる事なく、そのまま発見された。その側にメスの亡骸。巣の痕跡からオスもいたと思われるが、オスは発見されないまま。

 

 巣の設営条件はそれほど厳しいものじゃない。成虫の大きさから外敵は、島の食物連鎖の頂点に立つジャガーくらいなもの。島は海に隔てられ、渡りの能力を持たない生き物は隣の島に移る事すらできない。だから島にはその島独自の生態系が形成される場合があるらしく、カンゼオンジャはジャガーがいない島に巣を設営するらしい。あとはそれなりに原生林が展開しているところ。えーと、それくらい。

 このラクシュクリョウにいったいいくつの島があると思ってた? フウさん。その島の中から、ジャガーがいない、森が茂っているの二つしか条件はわからない。しかも、いつのまにか方位磁石を落として、森で遭難しかかるし。

 

 今、僕とフウさんはカンゼオンジャの巣跡の中。森に迷って、なんとかこの巣跡に戻る事ができたのは幸運と言うべきか。磁石を落として落ち込んでいるフウさんは巣の隅っこで小さな身体をさらに小さくして毛布にくるまって眠っている。僕はとりあえず何もする事がなくこの日記を書いている。


 もし、カンゼオンジャを研究しにこの巣跡を訪れて、この日記を見つけて読む人がいたとしたら、側に転がっている二つの遺体にきれいな花を添えてやってください。って言うか、しゃれになんないぞ。初日からこれで、この先どうやって生き延びる?

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