第26話 右か、左か
お祭りと言えば屋台。間違いない。
解っている。食材や調理方法、一品あたりの単価。どれをとってもちょっと評判の定食屋さんで食べた方が圧倒的に満足できるはず。
でもお祭りの屋台には魔法がかかっている。とびっきりの魔法がかかっている。でなきゃただの焼き鳥があんなにおいしい訳がない。
降星祭と言っても、祭りのメインは夜に降る星だ。みんな思い思いの居心地のいい場所で思い思いの事を語らいながら夜空を眺めるのが主旨のお祭り。でも土曜日の町の表通りを埋め尽くす屋台の群れ、裏通りに店を出す怪しいフリーマーケットが実は大きな楽しみだと言う少数派の意見もある。僕もその少数派の一人。
フウさんの事がついにコーターさんシンシオさんにばれてしまい、せっかく女の子がいるならば、ここはみんなで屋台巡りをしようではないかと言う運びになった。もっとも「ばれる」と言うのもおかしな表現で、彼女はチェリコ先輩のお客さんであり別に隠していた訳ではなかった。ただ、チェリコ先輩と母さんがおもしろおかしく尾鰭をつけて垂れ流した訳だ。
ちなみに、コーターさん。母さんに口止めさせられていたけれども、あんたが積極的にお話していた背の高い髪を染めた女性は僕の母親です。実年齢を聞いてがっかりしないように。
みんなでぷらぷらぷらぷら歩いていて、それぞれ好き勝手に出店を覗いていたりしたらいつのまにかみんなバラバラになっていた。なんともまとまりのないグループ。
魔法の焼き鳥を求めて僕が裏通りを歩いていると、僕を見つけたフウさんがぐいぐいと手を取って小さなテント小屋へ引っ張っていった。「占い」とだけ書かれた見事なまでにあやしいテントに。
「こいつはきくわ。すごいすごい」
当たる占いなら聞いた事はあるけれども、きく占いなんて初耳だよ。そもそも僕はおまじないやジンクスくらいなら楽しめるが、未来を予見しようなどと言って金銭をいただこうとする占い師ってのが正直嫌いだ。
「あなた、大事な決断を迫られてますね?」
とは、占い師のおじさんの第一声。僕の予想通り誰にでも心当たりのありそうな設問が飛び出して来た。うんうんとうなずくフウさんを眺めて、僕は数秒考え込むフリをして「いますぐこのテントを出て行こうかどうか決断を迫られている」と答えた。うん、我ながらなかなかいい切り返しだったと思う。
フウさんが立ち上がった僕の手を掴んで離してくれなかった。「すごく大事な決断があるでしょ?」と言ってくる。ジェットエンジン搭載機のテストパイロットの件の事を言っているんだろう。心配してくれるのはうれしいけれども、人にいいように利用されるのが嫌いな僕は、ただ単にジェット機に乗ってみたいだけで、実験がどうなろうと知ったこっちゃないんだ。あの偉そうなおっさんの道具として働く気もないし。
僕とフウさんのやりとりでだいたいの事情を誤解して飲み込んだ占い師のおじさんは、せき払いを一つ、ゆっくりとそれらしくもったいぶって切り出して来た。
「まだ若いお二人には険しい道のりが続くかも知れないが、輝きに満ちた未来が見えなくもない」
いや、どっち?
てっとりばやく切り上げたい僕は占い師のおじさんに一つだけ銀コインを渡して簡単な質問をした。
「このテントを出て、僕は右へ歩くべき? それとも左を?」
すべては連続している。
空を飛ぶのと同じだ。いったん離陸してしまえば、すべての行動は次の瞬間に大きく影響を及ぼす。ほんの少し操縦桿を右にそらしてしまえば上昇気流に乗り損ねるかもしれない、風の落とし穴に嵌ってしまうかもしれない。現在をこの高度でこの速度で飛んでいるから、次に来るべき未来がその姿を確実に決める。すべては連続している。偶然なんてありえない。偶然は起こるべくして起こる。空を飛んでいれば、いやと言う程それを実感できる。
その過程を切り離して、結果だけをほいと導きだそうとする占い師は、嫌いだ。
「右へ行くべきではないかな?」
解釈の仕方で両方にも取れる言い方をしてきた。僕は一言ありがとうと告げてフウさんの手を引っ張ってあからさまにわかるように左に曲がった。
「ごめん、占いは嫌い?」と彼女が言ってきた。ちょっと僕も素直じゃない所を見せてしまったか。占いと言うよりもむしろあのおっさんが嫌いだ。
そして、占いテントを出て左に曲がり、最初に見つけた焼き鳥屋台に挑戦してみた。これで魔法の焼き鳥を食べられれば僕の勝ち。まずかったら、悔しいけれどもあの占い師の勝ち。勝負の判定はフウさんにしてもらう。
結果、僕の勝ち。これからは右か左か迷ったら必ず左を選ぼう。




