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第24話 はるか空の彼方に


 見上げた顔もぽかんと緩んで開いた口が塞がらないほどあきれるくらいにすごく晴れ渡った青空。どこを見ても雲どころかカスミひとかけらも見つける事ができないくらいに、すっぽりとありとあらゆる青色に囲まれた空。こんな日はマナクモはどこで何をしているんだろう?


 降星祭中は交代で早番として早く上がってお祭りを楽しもうってシフトになっている。僕は早番だったのでさっさと家に帰ってある場所を飛ぼうと思っていた。噂では聞いていたが、全体的に可愛らしいナナさんにもらったジェットエンジン飛行機のデータで、その噂が本当だとわかったからだ。

 部屋に帰るとフウさんがいた。チェリコ先輩はまだ仕事だし、母さんは祭りの写真を撮りに一人ででかけてしまったらしい。フウさんに僕の部屋の留守番を頼んで。

 彼女は真っ赤な顔をして汗だくで燻蒸茶器でお茶を煎れていた。いくら窓を開けているからって、夏にストーブを炊いているのと同じだよ。


 彼女を誘って蒸気飛行機に火を入れる。これだけ雲がない日は珍しい。こんなばかみたいに晴れ渡った日は、空間に対象物がまったくなくなるので空で自分が飛んでいるのか、浮かんでいるのか、ふと錯覚に陥るタイミングがある。

 その不思議な感覚を楽しみながら、噂の空域に到達した。


 新型機の飛行実験場。別に立ち入り禁止空域に指定されている訳ではなく、非常に高々度な空域で実験が行われているので、普通の飛行機や装備ではその実験を間近で観察する事はできないだけだ。僕としては今まで別にどうでもいい事だったけれども、ナナさんがくれたデータを見て興味が湧いた。僕自身もその機体を操る日が意外と近いのかもしれない。一度見ておいた方がいい。


 フウさんと他愛もないおしゃべりをしていると、空の色は青がどんどん重なるように濃くなっていった。やがて西の空が赤く染まり、大空は紫色ががった大きなドームのように僕達に覆いかぶさってくる。目で見てわかる速度で色合いが変化していく。空の向こう側の宇宙からどろどろどろどろとものすごく濃い紫が溶けだしているみたいに、溶けだした隙間から星が瞬いているのが見え、そして星が降り始めた。


 この時期は惑星軌道上にごく小さな小惑星帯が重なり、ここらへんの緯度ではすごく流れ星が見える。何百年前から続く流れ星のお祭りだが、小惑星だって無限にある訳じゃないだろうから、いつの日か、すべて落下して燃え尽きてお祭りも終わりを迎える日がくるのだろうか?


 などと思っていたら、フウさんがさきにそれを見つけた。僕らのちょうど真上にそれは飛んでいた。


 大きな大きな翼に首の長い白鳥のような白い機影が紫色の夕闇の空に浮かんでいた。星座と見比べると動きがかなりゆっくりと見える。相当高いところを飛んでいるんだろう。ひょっとしたらすでに高度12000メートルを越えている空かもしれない。

 だけど、あれが目的の機体じゃない。あれは実験母船なはずだ。ジェットエンジン機はものすごく長い滑走路を必要とするらしく、実験の為に一つの空港を閉鎖しなければならないらしい。そのために新たに考えられた発進方法が、飛行中の母船からの発進。巨大な貨物機の腹に格納され、十分な高度と速度を保った状態で切り離され、ジェットエンジンで文字通り爆発的な加速と揚力を得る。と、ナナさんの資料に書いてあった。


 僕もフウさんも流れ星が舞い落ちる空にぽつんと浮かぶきらきら光る金属の白鳥をぽかんと見上げたまま、声も出なかった。なんか、巨匠が描いた一枚の絵に見とれているみたいに頭の中に言葉が浮かんでこなかった。


 ふと、変化が起きた。


 何か小さな物が白鳥から滑るように落っこちた。するとそのとたんにそれはものすごくまぶしい光を放ち、まさに流れ星と共演するかのように光の筋を深い紫色の夜空に刻み込んだ。

 音もなくするすると切り裂かれる夜空。白鳥からどんどん遠ざかって行く光の点。飛行機雲が燃えているかのように眩しい。周りの流れ星さえかすんで見えた。


 あれに、僕は乗るのか。


 フウさんが僕の肩をきゅっと掴んで、僕が考えていた事と同じ事を言った。


「プラウタくんは、あれに乗るの?」


 光の機体はもう星と区別が付かなくなっていた。取り残された飛行機雲が風に溶かされて流れて行く。流れ星がひゅうひゅうと音を立てているように落ちて行く。僕とフウさんは、ただぼうっとそれを眺めていた。


 部屋に帰ると、あの2人はまた飲んでいた。

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