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第22話 空飛ぶタコツボ


 降星祭初日。まあ、2週間続くお祭りだし、その間仕事が休みになる訳ではないし、おいしいもの食べれればそれでいい。たとえ初日が看病で始まっても。

 

 フウさんが二日酔いでダウン。母さんとチェリコ先輩は何事もなかったかのようにいそいそとでかけていった。僕の冷蔵庫の中に限らず床下の貯蔵庫のお酒全部飲み干して、まだ足りないか。

 「気持ち悪いよう」と繰り返すフウさんととりあえず連碁第3戦の続きをしていると、電話が鳴りだして、僕のお祭りはめんどくさい形で始まった。


 普通に空を飛ぶ事は僕にとって普通に地面を歩く事と同じ意味を持つ。特に意味もなくただの移動手段の一つであると言う意味を。だけれども、空に浮くとなると話は別だ。今日は、初めて触る機械で空を飛ばなければならなくなり、そしてそれがけっこうめんどくさい展開を見せそうな気配がしている。


 今日は大凧上げ世界記録に挑戦したらしい。結果として、一人のお子さまのおかげで世界記録は更新ならず。


 蒸気飛行愛好会のじいさん達に電話で呼び出された僕が見た光景は、遥か大空にどんと浮かぶ大凧。それを精いっぱいの力で引っ張る島のみんな。そして、ちょうど凧の近くのロープにぶら下がっている子供。少年が一人、ロープから手を離すタイミングを誤り、折からの強風に煽られて空高く凧が舞い上がり宙づりになったままでいた。

 そして、僕の目の前にある大きなタコツボのような機械。本日のお祭り初日に披露する予定だった蒸気式垂直飛行ポットとか言うらしいが、要はツボのサイドにつけられた四基の蒸気エンジンが推進力を上に向けて与えてくれて、そのエンジンの出力で自由自在に空を移動できる機械。


 で、こんな初めて見る機械で僕に空を飛べ、しかも絶体絶命の少年の命を救えと言ってくる。あるお偉いさんのご指名だと言う。少年の命を救うのがメインではなく、僕の腕試しにこの危機を利用しているような気がしてすごく腹が立ったが、時間も選択の余地もなかった。


 空を飛ぶと言う事は、解りやすく言えば、目の前に落ち続けると言う事。速度と翼が揚力を生み出し、重力と揚力の均衡を操作する事で機体の高度を変える。翼の角度で揚力のベクトルと空気抵抗に変化を与えて進路を変更する。

 だけど、その蒸気タコツボにはその従来の理論はまるで通用しなかった。四基の蒸気エンジンの出力が重力を上回った時点で空を目指して浮かび上がり、左右両手の操縦桿で四基の蒸気エンジンを同時に操作して空中での移動のための出力の差を操らなければならない。飛行機は落ち続けなければ飛べないのに対して、タコツボは浮かび続けなければ飛べない。はっきり言って、この差はものすごい。


 けれども、確かに空中で静止姿勢を取り続ける事ができるこの機体でないとあの少年を救う事はできなかっただろう。一度上昇気流に乗ってしまった大凧をひきずり降ろすのは並み大抵の事ではない。

 早速僕は自分自身の慣らし運転も兼ねて制作者チームが冷や汗をかきそうなくらい乱暴に飛び立った。飛行機の癖を掴むには、まずその機体が出せる最大ポテンシャルを計らないとならない。

 思っていたよりもなかなか出力が高く、一気にぐんっと加速して上昇もでき、あっと言う間に少年の高さまで到達できた。下の人達が胡麻粒のように小さく誰が誰だかまるで判断できない程小さい。よくこれまでこの少年が我慢できたものだ。

 が、我慢もそこまで。僕が少年の高度まで届いた瞬間、少年は重力に引っ張られてついにロープから手が離れ、遥か下で待つ人々の悲鳴がここまで届いて来た。

 少年の自由落下に対して、タコツボの重力に逆らう飛び方では絶対に追い付けない。僕にはなんとかできる自信があったが、後で地面にいたみんなに聞いた話では、僕は完全に操作を誤って墜落したと思い込んだらしい。

 僕は、地面に向かって飛んだ。つまり、まっ逆さまだ。そうすれば重力以上の速度で飛べる。少年にも追い付けるし、相対的な速度もうまく調整できる。みるみる大きくなってくる少年の恐怖に歪んだ顔。そして、みるみる近くなっていく地面。

 まっ逆さまのタコツボの中に少年を飲み込んだら、タコツボの片方2基の蒸気エンジンのフルパワーを絞り出させる。まっ逆さまから、地面と水平方向へとベクトルを移行させる。そうなればもはや僕の得意分野だ。このまま、前に落ち続ければいい。


 僕にこのタコツボに乗るよう指示を出した、あの人の思惑通りの展開となった。操縦が異様に難しいこの機体をいとも簡単に飛ばした僕に、ジェット推進機関のお偉方はあれこれと質問を浴びせかけて来た。なんか嫌な展開だった。

 全体的に可愛らしい秘書のナナさんが僕に書類をくれた。それはジェットエンジン搭載の試作機に関するデータだった。

 こうして僕は、ジェットエンジン搭載試作機のテストパイロット候補の一人に推薦されてしまった。

 確かに空を飛ぶ者にとって、それはものすごい栄誉な事かもしれない。けれども、何か、違った。僕は道具じゃない。いいように利用されているだけ、そんな空気を感じる。

 でも、ジェットエンジンにもちょっと興味があったので、お祭りが終わったあと、会社が出向する事を許可すれば、と言う条件を出しておいた。


 どうなる事やら。

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