第21話 ラッキーデイ
結果、ラッキーデイだったのかどうか、こうして日記を書いている段階でも微妙に判断がつかない。僕の部屋には3人の女性が酔いつぶれて寝息を立てている。
お祭り前の荷物の移動が多いこの時期、特に経理の仕事がたまりにたまってチェリコ先輩が残業で遅れた事がすべての発端なんだと思う。
お先に上がらせてもらった僕がアパートに帰り着くと、驚いた事にフウさんがいた。ちょうどメモに連碁の棋譜を書き記して僕の部屋の扉に貼付けている場面だった。仕事から帰ると自分の部屋の扉に紙片を貼付けている不審者がいる。それだけでも十分びっくりするのに、それが離れた島に住んでいるフウさんってとこでさらにびっくり。
話を聞くと、大学も夏期休暇に入り、来週からのお祭り見物に今年はチェリコ先輩のとこに泊まり込んでこの島のお祭りを楽しもうと計画していたらしい。まあ、確かに降星祭って言ったら普通は自分の住む島のお祭りに参加する場合が多いので、他の島の祭りがどんな様子か気になると言えば気になる。
で、チェリコ先輩を驚かせようとこっそり来たら、誰もいない。じゃあと僕の部屋をノックするも反応なし。なので、とりあえず連碁の次の手でも考えながら待っていたらしかった。
おお、ラッキーデイ。ヒンデリゴロウ、よくやった。と、チェリコ先輩は放っておいてフウさんをごはんに誘ってみると、彼女は喜んで申し出を受けてくれた。
「旅人には飯をおごれ、酒をおごれ。そして自分も旅に出ろ」そんな島のことわざに習い、フウさんにたらふくごちそうする。彼女はご満悦の様子で「おごられたらおごりかえせ」と言うアマテノウシャ人の気質通りに「次はプラウタくんが私の島に来てよ」と誘ってくれた。女の子に「くん」付けで呼ばれるなんて中学校以来か? うん、悪くない。
そしてアパートに帰ると、チェリコ先輩はいまだに残業中らしく部屋はまだ暗く、そして僕の部屋の前にまた不審者が一人。最初、誰だか本気でさっぱりわからなかった。
長く真っ直ぐ地面に伸びている髪は焦げたような金髪で、よく日焼けしている小麦色の肩をさらすような軽装。すらりと背が高いくせにかかとの高いサンダルを履いてもうやたら背の高い女。もう日も落ちて暗いと言うのにサングラスをかけ、僕の部屋の扉に貼付けてあるメモを解読しようと腕組みをしていた。
すっかり忘れていた。その外国かぶれの格好の背の高い金髪に髪を染めた女は、母さんだった。そういえば手紙に来るって書いてあったんだ。
僕を見つけるなり大声で「鍵の場所を植木鉢の下からどこに移した?」と問いつめて来て「あの暗号の意味はいったいなんなの?」とさらに詰め寄り、ふとフウさんに気付き、ころりと態度を変えた。
「プラウタの母でございます。いつもプラウタがお世話になっております」
父はこの人のどこに惚れたんだろうか。
勝手に僕の恋人扱いされて迷惑がるかと思ったが、意外にフウさんはすんなりとこの人を受け入れてくれた。てゆうか、この2人、息合い過ぎ。昆虫の研究をして大学の研究室と森林地帯を往復するようなフウさんと、自然写真家として森の中で写真撮っているか暗室で写真焼いているか、そんな母さんはもう意気投合。「フウちゃん」「おかあさん」と呼び合い、僕にお酒とつまみの用意を強要する。
そして、もう一人の女性から電話。チェリコ先輩だ。仕事終わったから即座に迎えにこい、と。完全にフウさんと母さんの会話の輪から外されている僕。外出の支度をして扉を開けても2人は気にもとめなかった。そして間もなく、会話の輪の中にチェリコ先輩も加わり、僕はせっせと彼女らのお酒とつまみを用意するはめに。
その女達の宴が日付けも変わったついさっきまで続けられていた。少なくともお祭り期間中はいるって事だろうから、今日より僕の受難の日々は続く訳か。
これってラッキーデイなのだろうか、それともアンラッキーデイなのだろうか。はたして、ヒンデリゴロウの運命やいかに?




