第20話 幸せを呼ぶヒンデリゴロウ
四葉のクローバーを見つけると次の日はラッキーデイ。でも土手で地面に膝をついて必死になって探す程不幸だとは思っていないし、そんなにヒマでもないので、見つけた事はない。
黒猫が前を横切ると次の日はアンラッキーデイ。でももともとネコがいなかったこの島で、ネコはすべて人の手で飼われているネコ達の子孫。野良猫もいるけど、大抵のネコが人を見つけると「エサくれよー」と足にすりよってくる。従ってたとえ黒猫と出会っても、何もしないで前を横切った事なんてない。
ヒンデリゴロウが飛行機に飛び移ってきて飛行場まで落とさずに連れ帰る事ができたら次の日はラッキーデイ。飛行士達の間で最近流行っているおまじない。いや、おまじないって言うのかな、こういうの。
夏の間、海から飛び出して海風に乗って滑空し、低空で飛ぶ飛行機にぴたっと腹の吸盤でくっついて遠くの海に移動するなかなか賢い無賃乗車客。たまに飛行機から離れるタイミングを失って陸地に落っこちてしまう間抜けな奴もいるが、最近の研究では実は魚よりも鳥に近い生き物じゃないかとかって聞いた。
空の色が完全に夏色になってきたここのとこ。雨期の空は、なんて言うか、手を伸ばせばもふっと掴めそうな空色している。鉄砲を撃てばすごく遠くでかちんと音を立てそうな透明感があるガラスのような夏特有の色をした空を飛ぶのもやっぱり気持ち良い。近いとこを飛ぶ時はキャノピーを解放して飛んだりもしたりする。夏だね、夏。
今日はお遊びですごく低空を飛んでみた。海面すれすれ、その気になれば波の音さえも聞こえそうなくらいすれすれ。翼と海面の間を風がうねるのを操縦桿を通してダイレクトに感じる事ができるくらいすれすれ。
と、右の翼に違和感を感じた。見ると、いつのまにか一匹のヒンデリゴロウがしがみついていた。
カエルとペンギンを足して2で割り忘れたようなこいつは腹の吸盤とひれの爪でしがみつく。今日僕の機体にしがみついて来たのは体長20センチメートルくらいの中型の奴だった。話で聞いた事があるけれども、ヒンデリゴロウの群れに捕まって危うく墜落しそうになった飛行機もあるとか。一応注意して周囲を観察したけれども、海から他のヒンデリゴロウが飛び出て来る気配はなかった。
丸っこい頭に二つぷっくりと飛び出た目をつぶり、口元の長いひげを風にたなびかせて、まるで扇風機にあたって眠っているかのように気持ちよさそうな顔してるヒンデリゴロウ。
そして僕はラッキーデイに挑戦した。
こいつに気流の変化を感じさせずに翼から飛び下りるタイミングを与えなければいい訳だ。そうすればこの眠そうなヒンデリゴロウはいつ翼から降りたらいいかわからず、ついに飛行機は着陸してしまう。
なるべく速度を一定に保って飛び、ヒンデリゴロウがひれを動かして身体の位置を変えようとすると、少しだけ高度と速度を上げて翼にしがみつかせる。身体にあたる風の強さでいつ飛行機から離れるか判断するヒンデリゴロウ。魚のくせに、変な奴だ。
結果、明日はラッキーデイ。
でも、一つ問題が発生。こいつ、どうしたらいいんだろう?
結局会社の飛行場に着陸してもこいつは翼にしがみついたままで、僕らに囲まれてものんきに眠そうに目をぱちくりとさせてひげをふるふるとさせるだけだった。なかなか度胸の座っている魚だ。
食べてもおいしくないって言うし、こいつの度胸に免じて会社で飼う事になった。ここまで連れてきてしまった僕が責任をもって生き物係として世話をする事が満場一致で決定。ていうか、押し付けられた形だ。とりあえず昔会社で金魚を飼っていた時の水槽が復活し、彼の新居となった。
名前は考え中。
これで明日ラッキーデイでなかったら、食ってやる。




