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第18話 空を飛ぶ者達の絆


 島に住む飛行機乗り達の間にはある暗黙の約束事がある。とても大事な約束事で、それは同時に空を飛ぶ者にとって誇りでもある。


 それは「たすける」事。


 救いを求める誰かがいれば、海により分断されているこの国でその人のもとに誰よりも速く到達できるのは空を飛ぶ者。

 無線機に救助を要請する誰かの声が受信されれば、たとえ仕事の最中であってもその近くを飛んでいれば、誰に強制される訳でもなく自分の意志で飛んで行く。そしてその声に応え、報酬を要求する事もなく何事もなかったかのように飛び去って行く。なぜなら、それが僕達の「誇り」だから。


 昨日の飲み会でもらった修理パーツを早速取り付け、久しぶりに僕の蒸気飛行機の試験飛行をしていた時、救難無線が入電した。僕が飛んでいる空から近かった事と、無線の声の「とにかく滅多に見られるもんじゃないからこの辺の空を飛んでる奴らは集まっとけ」と言う奇妙な内容にも惹かれてぶっ飛んでいった。


 ムクムク。

 雨期と夏が混じりあった海水温が上がり上昇気流が生まれやすい頃、気流に乗って繁殖の為に南の海からつがいでやって来る海に住む渡り鳥。

 オスの特徴は色鮮やかな長い羽根。大きさは翼を広げて1メートル弱。渡ってくる繁殖期は求婚色の羽根を優雅に羽ばたかせる最も美しい鳥として、飛行機仲間の中でもエンブレムとして人気の高い鳥。

 そしてメスがすごい。オスとまるで違って色は地味な乳白色。でも、羽毛が水を弾く為にアブラをまとっていて、陽の光の具合で虹色に光って見える、オスとはまた違った意味で美しいと評判。翼を広げると12メートルを越える。まさに空を滑空する虹色の化け物だ。


 図鑑からの受け売りだけど、ムクムクのメスは骨格をある程度自由に組み換える事ができるらしく、翼を広げる時はちょうど複葉機のように翼の骨を組み合わせて空気抵抗を大きくし、12メートルに達する巨体を空に浮かせているらしい。両翼15メートルの骨格標本を見た事があるけれども、まさにグライダーの骨組みのようだった。密度の小さい骨と軽くて大きい羽毛で、その巨体に似合わず異常に体重が軽い。その姿は飛ぶと言うよりも、まさに気流に乗って滑空する、と言った感じ。オスが先導するように飛び、長く色鮮やかな尾羽根で風の流れを後方のメスに伝えていると言う説がある、夫婦の仲がいい鳥として有名。


 そのムクムクが浜辺に座礁して、風も弱くて飛び立てなくなっているのが発見された。毎年数羽(数頭、と言った方がいいかな?)海岸で飛び立てなくなって衰弱して死んでいくムクムクのニュースをラジオで聞く。今日発見されたムクムクは大きさはまだ8メートルくらいの若いメス。体力もあり、飛行機で引っ張ってやれば空に戻れるだろうと、飛行機仲間達への救助活動無線が発動されたのだった。


 集まった5機の飛行機乗り達。僕の蒸気飛行機は飛行機の部類の中でも一番出力が小さい飛行機なので、ムクムクの巨体に負荷をかけないようにとゆっくりと上昇気流までひっぱってやる役を仰せつかった。てゆーか、一番やばそうな仕事だった。

 フローター付きの水上飛行機2機が水面を引っぱり、プロペラ機2機が水面から飛び上がるきっかけを与え、ムクムク自身が羽ばたきを始めたら僕がぐいぐいとリードしながら飛ぶ。つまり、ムクムクがうまく離水するまでワイヤーを張らず弛ませず、そしてうまく飛び立てたとしても、僕の飛行機よりも大きな生き物にワイヤーをくくりつけたまま飛び続けなければならなかった。


 作戦は見事成功。5機の急造チームの息はぴったり。さすが、飛行機乗り達。フローター機はきっちりまっすぐムクムクを引き、プロペラ機がくいと速度を上げてワイヤーを引きムクムクの巨体を一瞬だけ海面から持ち上げる。そしてムクムクが羽ばたきを始めたのを確認し、プロペラ機はワイヤーを解放して僕はムクムクを引っ張り過ぎないよう速度に気をつけながらゆっくりと上昇した。

 やがて高度が増すと、上空を心配そうに旋回していたオスのムクムクが僕の前にやってきた。まるで僕を先導するようにぴったりと速度を合わせ、色鮮やかな尾羽根を風に揺らす。そして僕とメスのムクムクがその風に乗り、プロペラ機、フローター機が編隊を組んで後を飛ぶ。


 十分な高度に達して、僕はワイヤーを切り離した。ムクムクの身体からワイヤーが離れたのを確認し、僕達5機の急造チームは任務を無事完了。そのままそれぞれの目的地に何事もなかったかのように散り散りに分かれた。ムクムクの夫婦も当たり前のようにそのまま北へ進路をとって飛んで行った。


 今日は、なんか、気持ちいい一日だった。

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