#19読書感想「真夜中のパン屋さん 午前0時のレシピ」(大沼紀子)
読んだ本の題名:「真夜中のパン屋さん 午前0時のレシピ」
著者:大沼紀子
出版社:ポプラ文庫
● ● ● ● ● ● ● ●
冒頭2ページで早々にパンが食べたくなりました。パン屋さんの匂いって、良いですよね……。実際に訪れたことのあるパン屋さんや、通りにあったパン屋さんの横を通り過ぎる時の香ばしい素敵な香りを思い出しました。
そして、温かそうな可愛らしいジュニア小説のような表紙ですが、「ほろ苦い」「甘酸っぱい」とあらすじに書いてあるように、とんでもない登場人物が早々に登場してきます。
主人公の母を屑呼ばわりする主人公の祖母、主人公の育児を放棄する母親。躾と称して孫たちに常に暴力を振るう理不尽の権化のような祖父。特に祖父と母親が、とんでもない親族です。そして主人公も独特です。だんだんと主人公の希実ちゃんには愛着が湧いていくのですが、なんというか。登場人物は……こう、「こんな人が居たらまず関わりたくないなと思う人々」が大変多いです。それは悪い意味ではなくて、物語として読むぶんには特に問題ないのですが、なんというかひとくせもふたくせもある人達ばかりで……。
というか、主人公の希実の扱いの親族たちからの扱いの悪さや、学校でのいじめなど、読んでいてつらくなる場面が多かったです。
そのぶん、パンを食べているシーンの温かさが切実に感じました。さくさくのパン。
絶望が多いからこそ、希望がより輝いて見えるというのを感じました。善人ばかりの生ぬるい話でパンを食べるよりも(そういう話もきっと疲れきっているときには、やさしい物語にはなるのだろうけど、あくまで希望をいかに引き立てるかという目的だけで言うのなら)暗黒みたいな暗闇のなかで、ぽつりと明かりが灯っているほうが、昼間に青空の下で明かりをつけるよりも印象的になるのかなと思いました。
希実が可哀想で胃が痛くなります。完全にのぞみの母は、育児をする気がないのだと伝わってきます。希実にも「カッコウのような母。でもいい加減、托卵をするのも祖父母が死んだから、そろそろやめるのだろうか」みたいなことを思われています。
カッコウのような母、と最初に言ったのは希実ちゃんではなくて同級生の女の子なのですが、まーた、その子が、複雑な環境で、多少哀れなのですが……。
でもだからって希実ちゃんをいじめて良い訳がないだろうと憤ったのですが、まあ、思春期ってそういう弱さが――いや、大人でも人間ってそういう弱さがある人って居るよな……と苦い気持ちになりました。
また、希実ちゃんが荒々しく短気な性格に見えて、実際のところ寂しさを感じているのではなかろうかみたいなことをどこか匂わせる、というか想像させてくる心理描写や、綺麗なもの全般――桜も、星も、青空も、仲良しな親子関係や、善良な心も、なにもかもを憎しみの目で見ているけれど希実ちゃんは実はかなり繊細な性格なのではないか、と読んでいて思いました。
だって。もう。たとえが、繊細さがないと思いつかないような比喩がぽんぽん飛び出してくるし、全く傷ついてないし動じていないという態度だけれど、絶対に傷ついているし本当は動揺しているし、本当は誰かに泣きながら抱きしめてもらいたいのではなかろうかみたいな、想像をさせる文章の圧力がたまらなく好きです。
一人称小説で、こういうキャラクターの表面的なふるまいと深層心理や内面の矛盾を読者に伝える能力ってすごいなあと思いました。私にはまだ難しいです。
あと、暮林さんのやさしさが本当に好きです。暮林さんがおっとりとマイペースで、人の毒気を抜いてしまうような人だからこそ、横にいる柳くんの毒舌とちょっと短気なところが……こう、ちょうどいい塩梅でお互いに引き立て合うというか。
こだま君の母の気持ちも、セリフのはしばしから滲んでいてどうしようもなく読んでいて苦しくなりました。自分を愛せないからこそ、自分の鏡のようなこどもが、まったく愛せないんだろうな、と。また、過去の幼少期大切にされなかった痛みや苦しみを、自分の手でこどもに再現してしまうことの苦悩。凄まじいんだろうなと思います。
こだま君が本当に優しい子で、読んでいて泣きそうになります。本当に、思いやりのある、子なんだな……と。それだから余計に織絵さんのことが憎い気持ちと、でも織絵さんの立場も説明されているので憎しみのやり場がなくて、まあ最終的には織絵さんを苦しめた人と、織絵さんを苦しめた人に似た人が出てきてそちらを私は敵認定して読んでいたのですが、ほんとうに、なんとも言えない気持ちになります。
斑目さんはズレててかわいいです。なんだろう。なんとも言えない。良い意味で、ズレていると言うか。ちょっと危ない人でもあるけど、フィクション小説だから可愛いです。こだま君とのぞみちゃんの次に好きかもしれない。ぐーたんという猫を可愛がっているところも好きです。
あと、斑目さんが出てくると話が明るくなるのも好きです。コメディリリーフ……。彼の言動にたくさん笑いました。
ソフィアさんの「知っていたはずの街に久しぶりに来たら、知らないお店だらけでここはどこ? と思ってしまった」というような話も、なんとなく共感しました。ソフィアさんも読んでいて感情を強く揺さぶられました。
辛い。苦しい。愛おしい。複雑な気持ちになります。
第四章の末の部分、泣いちゃった……。
ソフィアさんの優しさが目に染みた。
締めくくり方や、ラストシーンには号泣しました。……あまりにも、切ないのと、温かい……。
素敵な小説でした。19冊目です。近日中にまた20冊目もなにか読めたら良いなと思います。




