埒外の話
ここまでの諸々で、レイラは、この<ベル・ルデニオーラ>という国が非常に規律正しく優秀な人間の集まりであることは十分に察せられた。国家運営にとって好ましくない輩は登用せず、人材を厳選しているのは確かだろう。
ただし、その代わり、<ふさわしくない者>に対しては冷淡であることが窺えた。本来の王都<ルデニオン>はあくまで城壁の内側にある街であり、城壁の外にあるものは勝手に住み着いた者達の<集落>という扱いなのもはっきりした。
そして、勝手に住むことを許す代わりに、
<デモニューマをはじめとした外敵の襲撃に備えるための肉の壁>
としての役割を与え、<臣民>としては扱わない。この<選民政策>により、臣民の求心力を得ているものと推測される。
さりとて、城壁の外に暮らす人々も、決して<罪人>や<咎人>というわけではない。邪険にされているわけでもない。城壁内で整備されている上下水道も延伸され、好きに利用して生活することはできる。それだけでも十分に恩恵に与れているからこそ、人々は強く反発もしていないわけだ。
『法の下の平等が保障されている社会ではこのようなことは許されませんが、この地においては必要な仕組みであることは私のシミュレーションからも確認できます。ですので、私が行うべきはこの社会を否定することではなく、デモニューマという脅威から人々を守ることです』
ここまで得られた情報を基に、レイラは自らのAIによってシミュレーションを行い、彼女が元々いた社会ような<法の下の平等>を保障できる制度の実現が可能かどうかを改めて探ってみた。しかし、現時点では何度シミュレーションを行っても<破綻>という結果にしかならない。それを実現するにはあらゆるリソースが不足しているのだ。
ゆえに彼女は、この地の社会制度については一切口出ししないこととした。個別の案件については可能な限り対処も行うものの、社会そのものを根底から変えるのは自身の役目ではないと確認したのである。
シェイナを<使用人>として傍に置くことにしたのもそれだ。国としての<ベル・ルデニオーラ>は、シェイナの人権を保障してはくれない。そういう仕組みがないからだ。彼女が親から虐待を受けている事実を把握しても、対処はしない。城壁の中の臣民については<共助>の対象ではあるものの、それ以外の者達は<自助>のみが頼りとなる。
けれど、それを是とせず、
<誰しもが生きる権利を保障される社会>
を目指すのは、どこまでも人間自身が決めること。
ロボットであるレイラにとっては<埒外>の話なのだった。




