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詰所

レイラとシェイナが連行された<詰所>は、頑丈そうな石造りの<城壁>から張り出す形で構築された建造物だった。石の壁と木の板を重ね合わせた屋根によって構成され、外から確認できるだけでも、百平方メートルはあるだろうか。彼女が知る<個人の住宅>に比べてややこじんまりした印象はあるものの、小隊規模の兵士の待機場所としてはこのくらいで十分なのだろう。


「レイラ様……」


彼女の名を小さく口にしたシェイナは、厳めしい兵士達に囲まれてすっかり怯えきってしまっている。加えて、自身の経験がその不安に拍車を掛けているようだ。これから自分がどのような目に遭わされるかを想像してしまって。


そんなシェイナにレイラは言う。


「心配ありません。あなたのことは私が守ります。私の力であれば、生身の人間は脅威にはなり得ません」


ロボットである彼女は、人間を傷付けることはできない。けれど、彼女の戦闘力は、複数の人間を傷付けずに瞬時に制圧することも可能だった。


なにしろ、強力な兵器を駆使して襲撃してくるテロリストを圧倒することを義務付けられているのだから。


確かに、いかに産業革命以前相当の武力と思しきそれとはいえ、侮ることはできないだろう。できないけれど、ロボットである彼女はそもそも人間と違って『侮る』ということ自体ができない。


いかなる事態に遭遇しようとも、自身が発揮できる最大のパフォーマンスにて対処するだけである。


ましてや非力なシェイナが理不尽に虐げられることは回避しなければいけない。


が、その時、


「中隊長!」


<詰所>のドアが不意に開いてその中から現れた人物に、兵士達が咄嗟に姿勢を正して敬礼する。あの髭面の隊長もだ。それはつまり、今現れた人物が彼の上官に当たるということを意味する。


「うむ」


詰所から現れた人物も敬礼し、応えた。規律の正しさが窺える。


が、


『女性、ですか』


その人物を見たレイラが少し驚いたような表情になった。実際に驚いたわけではないものの、こういう時、人間は驚くことが多いので、人間味を演出するために付与された反応である。


なにしろ、『中隊長』と称されたのは、明らかにうら若き女性だったからだ。二十代前半と思しき。


これによりレイラは、


『地球では、この文明に相当する文明レベルだった時代には、女性が仕官することは非常に難しかったと資料にはあります。また、ここに来るまでに見た街の様子からも、上水道が完備されているようですし、時折、風に乗って漂ってくる堆肥の臭いから、やはり地球の中世のヨーロッパとは異なる形態を獲得している文明のようですね』


と重ねて推測したのだった。



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