レイラ・タリア
「あんたはいったい、何者だ!?」
「勇者だ! 勇者に違いない!」
「勇者様が現れた!」
レイラを取り囲み興奮気味に声を上げる人々に対しても、彼女は冷静に笑みを浮かべて応えていた。
その中で、いかにも人生経験も豊富そうな高齢の男性に、
「この街に、警察はありますか?」
と問い掛けるものの、
「警察? なんですかな、それは?」
との答えが。
『やはり、警察というもの自体が存在しないということですか。ならば』
「では、役人にはどこに行けば会えますか?」
質問を変える。すると、彼女の問い掛けが聞こえた数人が表情を曇らせ、
「役人……?」
「役人は……」
街の奥にそびえ立つ<壁>の方を向いて、忌々しげな目で睨み付けた。
「役人は、あの中だよ。俺達がどうなろうと、あの中の連中は、気にもしないさ」
「ああ、あいつらは俺達を、デモニューマをおびき寄せる生餌としか思っちゃいなんだ」
「あんたも見ただろ? デモニューマが出たら俺達ごとあのでっかい弓矢で射殺すんだ」
レイラが推測したとおりのことを口にする。
『やはり、そうでしたか……』
裏付けが取れたことに喜ぶでもなく、沈痛な面持ちになる。
そんな彼女に、
「あんたも、仕官するためにここに?」
という質問が。それに対しては、
「そうですね。必要があればそうしてもいいのですが、私はこの国に詳しくないので、いろいろとお話を窺いたいと思いまして」
決して嘘ではないものの、どうとでも解釈できるようなふわっとした返答をしてみせた。
「なら、ちょうどいい。向こうからお出ましだぜ」
一人がやはり忌々しげに口にしたのと同時に、
「どけどけ! 道を明けろ!」
という怒声が。見れば、金属製の厳めしい鎧に身を包んだ兵士と思しき人間が十名ほど、槍を振りかざしながら人々を掻き分けて近付いてきた。
そうしてレイラのところまで来ると、
「ええい! 下がれ下がれ! 邪魔をすると容赦しないぞ!!」
明らかに<単なる脅し>でないそれを発し、槍を構えて人々を追い払った。その上で、レイラにも槍を向けて、
「お前はなんだ!? 何者だ!? なぜあんなことができる!?」
どうやらその小隊の隊長らしき髭面の中年男が、実に高圧的に詰問してきた。
けれどレイラは、その男に対し、エプロンドレスに似た外装パーツの裾を摘んで会釈し、
「お初にお目にかかります。私の名は、レイラ・タリア。この地の君主様にお仕えするために参りました。つきましては、君主様にお目通り願いたく、お取次ぎしていただけると光栄です」
恭しくそう告げた。この場においてはそうするのが最も穏当に話ができそうだと判断したからである。
それと同時に、怯え切って自分の後ろで身を竦めているシェイナに、
「♡」
ウインクして見せたのだった。




