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虐めに耐え兼ねて自殺した少女が復讐する話  作者: 徒然草


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第三話

 第三話です。


「っ、その遺書で、俺達の事を陥れるつもりなのか?」


 武達を悪者にし、周りに非難させる事が名子の目的なのかと武は聞いた。


「…“陥れる”って、何?」


 名子の声が低くなり、苛立ちを露わにした。


「私をブサイクだと言って容姿を貶したのも、馬鹿にして文句を言ってきたのも、私物を隠したのも、他の人と仲良く出来ないようにしたのも事実でしょう? 何が陥れるっていう訳?!」


「っ、そ、それは…!」


 名子の指摘に武は何も言い返せない。


「それにさ、遺書の内容を聞いてもいないのに陥れるだの何だの勝手に言わないでよ。私は佐藤くん達じゃなくて、両親の事を書いたんだよ。」


「えっ?!」


 全く予想していなかった武は驚く。


「遺書の内容を簡単に教えると、私は両親に虐待されていると書いたんだよ。」


 名子の言葉に武はさらに驚いてしまう。


「っ!? …名子、お前は虐待されていたのか?」


「されてないよ。衣食住は保証されていたし、暴力を振るわれた事なんて一度もなかったよ。」


 それならどうして、と武が困惑しながら名子を見つめると、名子の視線は冷たくなった。


「でもね、私が佐藤くん達の事で苦しんで相談した時、何の力にもなってくれなかったの。“男の子にはよくある事だ”、“もしかしたら名子の事が好きで素直になれないのかもよ?”…だってさ。私が泣いて、助けを求めて2人に相談したのに適当に流すだけだった。まぁ、その考えは正解だったんだけどね。」


「っ…。」


 名子が武を睨み付けると、武は気不味そうな顔をした。


「…先生にも相談したけど、佐藤くん達に直接注意する以外に方法がない言われちゃった。佐藤くん達に私が先生に相談した事を知られたら、今後どんな嫌がらせをされるか分からない。だから私がそれ以外でどうにかする方法は無いかと相談したけど、何も思い浮かばなくて困らせちゃったみたい。結局、何もしてくれなかったよ。」


 名子は武から視線を逸らし、苦笑しながら悲しげな声を出した。


「前の学校の友達とは手紙で何度かやり取りしてたけど、向こうからの楽しそうな様子の手紙に虐められているだなんて書けなかった。友達との差に恥ずかしさと情けなさを感じちゃったんだよね…。私ね、佐藤くん達と会う前は普通に友達が居たし、もっと明るい性格だったんだよ。」


 目線は武から逸らしたまま、誰もいない空間を名子は冷たく睨みつけた。


「先生の事は恨んでないよ。でも佐藤くん、柿原さん、田中くんは当然として、お父さんとお母さんの事も赦せないっ…。お父さんの仕事の都合で引っ越さなければ、私はずっと大好きな友達と一緒に過ごせてた! 佐藤くん達と遭わずに済んだんだよ! それなのに私の悩みに向き合わずにのほほんと過ごしたお父さんが、お母さんの事が憎くて堪らない! …だから、遺書を残したんだよ!!」


「ッ!?」


 声を張り上げながら名子は冷たい歪んだ笑みを浮かべる。その笑みに武は恐怖した。


「家に残したんじゃ両親に見つかっちゃうでしょう? ショックを与える事は出来ても隠蔽されちゃ意味ないもん。警察に遺書を見て貰えればニュースで虐待の疑惑が放送されるかもしれない。詳しく調べていけば虐待はないとバレるかもしれないけどさ、世間の人達から疑惑の目を向けられる…ふふっ! 身に覚えがないのに虐待された、なんて遺書を書かれたらすっごく辛いと思わない? 中々の復讐でしょう!?」 


「…な、名子……。」


 名子は自慢するかのように語る。武はただ呆然と立ち尽くしながら聞く事しか出来ない。


「私が生きている内に書いた遺書が両親への復讐。そして、死んだ後は3人に復讐すると決めたていたの。だから今こうして、3人と一緒に居るんだよ。」


「…し、“死んだ後は”?」

  

 名子の言葉に武は疑問を浮かべた。


「な、名子…何で死んだ後の事を考えてたんだよ?」

 

 人が死んだら何があるかなんて誰にも分からない。幽霊を信じる人もいれば信じない人もいる。何の確証も無いのに死んだ後に復讐すると考える事が出来たのは何故なのか…。


「…私を哀れに思った不思議な存在が死んだ後の話をしてくれたの。そして、こんなにも素敵な力を与えてくれた。」


 武が困惑する様子を小気味良さそうに見た名子が答えると、次の瞬間空間がグニャリと歪んだ。


「はっ!? …な、何だよこれ!?」


 歪んだのはほんの数秒だった。先程までは真っ白な空間しか無かった筈なのに、いつの間にか武達は見慣れた教室の中に居た。武の足には教室の床を踏んでいる感触もある。


「お、お前等…っ!?」


 さらに名子の背後にある、黒板と教壇のところにクラスメイト達が立っていた。


「どうして此処に…。」


「武って、本当に最低だな。」


 クラスメイトの1人である少年、吉田が武を睨みつける。


「好きな子虐めて楽しむとか、悪質よね。」

 

 今度はクラスメイトの少女、花田が武を軽蔑する。


「佐藤の人格は問題だよな。」

「佐藤なんか嫌いだ。」

「マジで武のやつウザいよな。」


「〜っ!」


 次々と武を罵倒していくクラスメイトの言葉に、武は傷付いていく。


「…ふふっ、これが私の能力なの。部屋や物は再現すると触れるけど、生き物は幻で触れないんだ。私と武くん達の4人以外はただの幻で何も出来ないよ。幻を操って動かしたり喋らせる事は出来るけどね。」


「…!」


 名子がクラスメイトに触れるように手を伸ばすと、名子の手は身体を貫通して触れる事が出来なかった。クラスメイト達は皆無表情で立ち尽くし、ピクリとも動かない。その異様さが偽物である事を武に理解させた。


 名子は次に黒板に置いてあったチョークを手に取ると武に向かって投げつけた。


「っ!」


「…あーあ、残念。」


 武が咄嗟にチョークをキャッチすると名子は残念そうな顔をした。武の手にあるチョークの感触は本物だった。そしておもむろに武は傍にある机に触れてみると馴染みのある感触があった。


「…私がこの素晴らしい力を得るには死なないといけなかった。それにね、力には制限とか制約もあるから段取りとかの準備が必要だったの。本当は両親も此処に呼びたかったけど、力の関係で3人までしか無理だったんだ。」


「…っ。」


 力とやらがもっと使えるなら両親にも使うつもりだった。そんな名子に武は恐怖しつつ、名子には得体のしれない力がありこれは現実なのだと受け入れるしか無かった。


「それでね。佐藤くんへの復讐はまだ始まっていないんたけど、柿原さんと田中くんには復讐を始めていて途中まで終わってるんだよ。今佐藤くんに説明している内容を2人はとっくに知っているの。」


「…えっ?!」


「「…。」」


 武は驚き、玲奈と明宏を見た。玲奈と明宏は身体を震わせながら俯いている。


「2人には私と同じ経験をして貰ったの。先に柿原さん、次に田中くんの順番でやらせて貰ったんだ。学校を再現した後、2人を貶して、馬鹿にして、私物を隠して、誰とも仲良くなれないようにしたの。勿論、街や2人の家と家族も再現したんだよ。すっごく大変だったんだから!」


 達成感を味わい、満足げな様子で名子は話す。


「柿原さんは私が悪口を言ったらすぐに泣き出したよね。柿原さんってもっと強いかと思っていたけど、弱すぎて笑っちゃったよ。田中くんは最初、私に向かって怒鳴ってきたり周りにも反抗的だったけど、すぐにしおらしくなって暗くなったよね。2人は私と同じように家族に相談したけど、私の創り出した幻影は助けてくれなくて…本当に可哀想だったよ。」


「っ…。」


 可哀想と言いつつも意地悪そうに微笑む名子に、武は表情を歪めた。


「この空間の時間も私は操れるの。さっきのニュースを流した時は現実世界と同じ速度にしたんだけど、2人に私と同じ経験をして貰っている時は時間を操っていたんだ。2人はね、私が苦しんだ時間と同じ約半年間、ずっと孤立していたんだよ。」


「は、半年も?っ! お、お前等大丈夫なのかよ…?」


 武が知らぬ間に半年間も閉じ込められ、名子に苦しめられていた玲奈と明宏に驚愕しながら武は2人を心配して声を掛ける。


「…はぁ? 大丈夫な訳ないだろうがっ!!」


 明宏は武の心配を有難がるどころか、責めるかのように武を睨みつけた。


「っ、お前のせいで俺はこんな目に遭ったんだぞっ!! お前が鈴木の事を好きになったから! 素直になれずに鈴木に酷い事をしたからッ! っ、全部お前のせいだぁっ!!」


「!? なっ…なん、で、何で全部俺のせいなんだよ!?」


 武は明宏の怒声に怖気づくも、全ての責任をなすりつけてくる明宏に納得出来ずに反論して怒鳴り返す。


「お前のせいだ…武、お前のせいでぇ…!!」


「田中くん。」


「っ…。」


 名子が明宏を呼ぶと、明宏は武への勢いを急に無くして固まる。明宏は動きの悪い機械のようにぎこちなく名子を見た。


「それに柿原さん。」


「っ…、」


 名子は次に玲奈も読んだ。玲奈は気不味そうな顔で名子を見返した。


「私が2人を此処に連れてきた時、佐藤くんと貴方達のせいで辛くなって死んだんだって説明したよね。でも2人は佐藤くんは私の事が好きだっただけで悪気は無かったから赦して上げて欲しいと言ってきたよね。」


 名子が無表情のままそう言うと、明宏と玲奈は顔を歪めた。


「今も同じ考えなのかな? 私は2人が好きじゃないし、復讐として悪意を持ってやり返す気持ちで同じ事をしてやった。これって好きとか好きじゃないとかの気持ちの問題だと思う? 私はね、やった側の気持ちとか事情より、された側がどれだけ傷付いたかの方が問題何じゃないかと思うの。」


「「…。」」


 玲奈と明宏は名子から目を逸らしてしまう。2人から否定の言葉は出ない。


「…世間からみれば、私のされた事なんて死ぬほどではないと言ってくるかもしれない。佐藤くんみたいにそんな事で死ぬのは可笑しいと思う人の方がきっと多いんだろうね。」


「っ…。」


 武は思わずビクッと身体を震わせる。


「世の中には私なんかじゃ想像もつかないような辛い目に遭っている人がいるんだろうね…でも、少なくとも私と同じ経験をした事がない人なんかに何も言われたくない。ましてや、相手を赦せだなんて偉そうに…よくも言えたものだよ。」


 名子が玲奈と明宏を睨みつける。


「私の苦しみは私だけのもの。他の苦しみと比較されたところで何も変わらない。誰かと比較されて自分の方がマシだったとしても、マシなだけで辛い事に変わりはないんだよ!」


 名子は玲奈と明宏から武に視線を移した。


「私は絶対にお前達を赦さない…。」



 自分の辛さを誰かと比較してどっちが辛いかを知ったところで今の自分の辛さが変わる訳ではありません。


 ここまで読んで頂き有難うございました!

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