第二話
第二話です。
「…ふ、復讐?」
「私は半年前に転校してきた。そして佐藤くん、柿原さん、田中くんの3人と出会ってしまった。」
困惑する武に、名子は説明するかのように語りだした。
「自己紹介が終わって席に座ろうとしたら佐藤くんに言われたんだよね。“ブサイクだな”ってさ。」
武の言葉に教室は静まり返り、誰も彼もどうすれば良いのか分からないといった空気になった。担任の先生が武を注意するとクラスメイト達は場を和ませようとするかのように苦笑いした。名子もその場の雰囲気に合わせるように笑顔を取り繕い、その場は何となく収まった。
「本当に衝撃だったよ。私は今まで誰かに貶された事がなかった。それに転校初日に皆の前で“ブサイク”だんてショックだった…今でも思い出すだけで嫌な気持ちが溢れてくるんだ。」
顔を顰めながら苦しそうに名子は話す。
「佐藤くんとは絶対に関わりたくない。心からそう思ったのに、柿原さんと田中くんがやって来たんだよね。佐藤くんの言う事は気にしないで仲良くして欲しいってさ。佐藤くんはそれを聞いて2人の事を怒鳴ったよね。仲良し3人組の微笑ましいやり取りだった。それからというもの、休み時間は私の所に必ず3人がやって来るようになったんだよね。佐藤くんは私を“ブス”、“可愛くない”、“つまらないヤツだ”なんて暴言をかけ続けてきて、柿原さんと田中くんは佐藤くんを止めずに楽しそうに笑ってた。」
「…な、何だよ。」
名子の言葉に節々に感じる恨みと憎悪に武はたじろぐ。
「…な、名子ちゃん。」
「っ…。」
玲奈は恐る恐る名子の名前を呼び、明宏は気不味そうに黙り込んでいる。まるで名子に怯えているかのような反応をする2人の様子に、武の中で疑問と不安が広がっていく。
「授業中に私が答えを間違えると佐藤くんは授業後に馬鹿にしてきたよね。それに私が体育の時間で転んだり、負けたりすると佐藤くんは授業中でも馬鹿にしてきた。それなのにペアを組む事になると佐藤くんは無理やり私と組んできたよね。“お前みたいなダメな奴と組んでやる俺に感謝しろ”、ってさ。そして私は佐藤くんに睨まれて、文句を言われて馬鹿にされ続けて…どの授業も地獄だったなぁ。」
「じ、地獄…?!」
「それに私のペンや消しゴムを隠してきたり、私の持ち物の柄やキャラクターの趣味が似合わないとか指摘したり、授業中じゃなくても嫌な思い出ばかりだったなぁ。」
「い、嫌な思い出…?!」
名子が話す内容全てに武は身に覚えがあった。地獄だった、嫌だったと言われる度に武はショックを受けていく。
「気がついたら、佐藤くんと柿原さんと田中くん以外は私に話し掛けて来なくなっていた。私は他の人達から虐められていた訳じゃないし無視もされなかったけど、私が他の人と仲良くしたいと思って行動すると、みんな佐藤くん達に遠慮しているみたいな感じで離れていった…。私と関わると面倒な事になると思って関わりたく無かったんだよね。」
名子の異様な雰囲気と態度に武は警戒を解けていない。しかし武達を非難してばかりの名子に苛立つ気持ちも湧き上がり、武は普段の調子を少し取り戻して名子を睨みつけた。
「…そ、それは、お前がつまんない奴だからだろ。」
「っ!? 何て事を言ってるのよ武っ!!」
名子を悪く言う武を、玲奈が焦った声で非難した。
「…私ね、佐藤くん達にどうしてこんな目に遭わせられなきゃいけないのか分からなかったの。どうして嫌われたのかも分からなくて…ずっと苦しかった。」
名子は武と玲奈のやり取りに反応せずに悲しそうな顔をした。
「なっ、ち、違っ…。」
武ははっきりと話さないが、名子の言葉を少し焦りながら否定する。
「うん、知ってるよ。佐藤くんは私の事が好きなんだよね。」
「……は?」
悲しそうな顔からいきなり真顔になり、あっさりと答える名子に武は固まった。
「佐藤くん、私に一目惚れしたんだよね。でも素直になれなくて拗らせて嫌がらせをしてきた…吃驚したよ。」
「な〜っ!」
武は恥ずかしさと、名子の言い方に腹立たしさに顔を真っ赤にした。
「そして武くんが私と他の誰かが仲良くすると嫉妬しちゃうから、柿原さんと田中くんに協力して貰ってたんだよね。まぁ、これに関しては佐藤くんが頼んだわけじゃなくて、柿原さんと田中くんが自主的に協力したんだよね。佐藤くんの為に…面白半分な気持ちで、ね?」
「ひっ、ご、ごめんなさい…。」
「っ…。」
玲奈は泣きそうな顔で謝罪し、明宏は名子と目線が合わないように俯いてしまう。
「〜っ、お、お前等、名子に何を好き勝手に話してんだよっ!! お、俺が名子なんかを好きだなんて…ねぇよ、あり得ねぇって! 調子乗んなよブスっ!!」
羞恥心から耐えられなくなった武が玲奈と明宏を怒鳴りつける。
「本当に止めてよ武っ!! 名子ちゃんに今すぐ謝ってよぉ!!」
「黙れ武っ! 煩いんだよっ!!」
「っ!? な、何でだよ…。」
玲奈だけでなく、今度は明宏までもが顔色を悪くしながら武を黙らせようと声を張り上げてきた。その必死さと凄みに武はすぐに勢いを無くしてしまう。
「私は2人から聞いて知った訳じゃないよ。」
『続いてのニュースです。』
名子の言葉の後に、何処からかテレビでよく聞くニュースキャスターのような声が武に聞こえてきた。
「っ!? え…?」
武が辺りを見渡すと、上空にテレビの映像がぼんやりと浮かび上がっていた。
『―――にお住まいの10歳の少女、鈴木 名子さんが自宅で遺体となり発見されました。』
「……は?」
映像には写真に映る名子の姿と、名子が死んだという字幕があった。
「私ね、昨日死んだの。」
『名子さんの腕には刃物で切りつけられたような跡があり、失血死だと思われます。警察は――』
名子の淡々とした声と共に、ニュースは流れていく。
「昨日はお父さんもお母さんも仕事とか用事で居なくてさ。私一人しか居なかったから邪魔は入らなかったんだ。2人が帰ってきた時にはもう、私は死んじゃってたんだよね。」
「し、死んだ? …う、嘘だろ…なんで…なんでだよ?」
自分が死んでいるという事を平気そうな顔で話す名子の姿に、名子が死んでいるという事実に、武は頭が追い付かずに混乱して狼狽える。
「そんな訳ない…う、嘘だ…こ、これは全部夢だ、そうに決まってる!」
「私は死んで、幽霊みたいな存在になって佐藤くん達の本心を知ったの。人間じゃなくなったからそれが分かったんだよ。佐藤くんの気持ちも、柿原さんと田中くんの気持ちも全部ね。」
非日常的すぎるこの状況と名子と玲奈と明宏の態度に、武はこれが現実なのだと思い知らされていく。
「…そんな理由で私はあんなに、ずっと苦しめられてきたんだって知って絶望したし、本当に赦せないと思ったんだよ。」
「っ!」
名子から発せられる恨みと憎しみに武は顔を青褪めさせた。
「もう気が付いているよね。私は自分で手首を切って自殺したんだよ。何で私が死んだのかって? それはお前達のせいで人生が嫌になったからだよ…私はお前達に殺された…。」
名子の淡々とした声と言葉に、武の背筋が凍る。
「っ…、で、でもこんな事で、じ、自殺までするかよ普通…。」
武達に嫌な思いをさせられたと名子は言うが、武には自殺を選びたくなるほど酷い事をしただなんて到底思えなかった。
「…。」
名子は何も言わず、ただ冷たい目で武を見返した。
「い、いい加減にしてよっ! 本当にもう、余計な事を言わないでよ武っ! …どうか、お願いだから。」
「れ、玲奈…?」
もう勘弁して欲しいと言わんばかりに疲れ切ったような、懇願するような声になった玲奈に武は心配する。
「何度も言ってるだろう、もう本当に黙ってくれよ!!」
「あ、明宏…。」
明宏は武を強く睨み付けて苛立ちをぶつけてくる。武を睨みつける明宏の表情はとても険しい…。
「…一体どうしたんだよ、お前等!?」
2人の態度はこの空間と名子が影響している事を武は分かっていた。けれど何時も笑顔で武と過ごしていた2人の変わりように何があったのかと口にせずにはいられなかった。
「…私ね、学校の自分の机に遺書を書いておいたの。」
唐突な名子の言葉に、武の思考は一瞬停止した。
「先生か生徒の誰かが見つけて、警察に届けてくれるんじゃないかな。」
嬉しそうな笑みを浮かべる名子に、武は冷や汗を流した。
不思議な空間とニュース映像が流れる等、何でもありな魔法となっております。武は好きな子に素直になれずに虐めてしまう思春期男子でした。人を陥れてやろう、という悪意はありませんでしたが好きな子を死なせてしまいました。名子はどんな復讐をするのか…といった感じの第二話でした。
ここまで読んで頂き有難うございました!




