49話:造られた層
九層は、それまでの階層とは明らかに違っていた。
黒い岩壁は途中で平らに切り取られ、代わりに四角い石材が組み込まれている。等間隔に並ぶ支柱には、用途の分からない管が絡みつき、通路の左右には同じ形の扉がいくつも並んでいた。
ところどころ崩れた壁の奥には、元からある黒い岩が覗いている。
扉はどれも分厚く、廊下側から閉じるための大きな留め具が付いていた。部屋へ入る者を守るのではなく、中にいる何かを外へ出さないための造りに見える。
セラ「ダンジョンの中に、建物が埋まってるみたい」
カイル「逆だ。元の迷宮を削り、後からこの構造を付け足している」
アリア「何のために、これほどの物を……」
答えられる者はいなかった。
カイルもセラも初めて見る光景に警戒しながら、壁や扉へ目を走らせている。
ヒロが魔力を探った直後、通路の奥と左右の扉の向こうに、無数のコアが浮かび上がった。
ヒロ「来る。数が多すぎる!」
金属の扉が次々と内側から弾けた。
四本脚の異形、天井を這う異形、黒い鉱石に全身を覆われた異形が、狭い通路を埋め尽くす。
カイル「後ろは俺が抑える! セラ、前を焼け!」
セラ「任せて!」
背後から迫る群れを風の壁が押し返し、正面では炎が通路を塞いだ。炎を抜けてきた異形をアリアが斬り、リゼットがコアを撃ち抜く。
それでも魔物は途切れない。
ヒロは正面の五体へ重力をかけたが、一度に押さえ込もうとした途端、頭痛が戻った。
カイル「下へ押すことだけが重力か!?」
ヒロ「違う方向にも、かけられます!」
カイル「なら倒そうとするな。落ちる向きを変えて、互いにぶつけろ!」
ヒロは正面へ手を向けた。
下ではなく、通路の左側へ重力を傾ける。
力を広げすぎたせいで、床に散らばっていた金属片まで左へ跳ねた。カイルの風が飛んできた破片を弾き落とす。
カイル「敵だけを捉えろ! さっき足へ絞った時と同じだ!」
ヒロは一度重力を解き、魔力を異形の群れだけへ絞り直した。
走っていた異形たちの身体が横へ引かれ、次々と壁へ激突した。後ろの個体も倒れた仲間へ躓き、群れの動きが一気に止まる。
セラ「そこ!」
渦巻く炎が、重なった異形をまとめて包んだ。
ヒロはすぐに重力を解く。押し潰すより遥かに短い時間で、同じ数の敵を止められた。
カイル「今の感覚を忘れるな。強くかける必要も、長く保つ必要もない!」
次の群れが迫る。
ヒロは通路を横切る細い範囲だけに重力を傾けた。踏み込んだ異形から順に体勢を崩し、アリアの細剣とリゼットの弾丸がコアを砕いていく。
一体ずつ押さえていた時とは違う。
僅かな力で敵の流れそのものを変えれば、五人全員が攻撃へつなげられる。
ヒロは魔力を広げたままにせず、敵が範囲へ入った瞬間だけ力を流した。短く切れば、コアを探る余裕も残る。
ヒロ「右へ倒します!」
アリア「分かった!」
重力の向きが変わり、群れが右壁へ雪崩れ込む。カイルの風がさらに押し込み、セラの炎が奥まで駆け抜けた。
最後のコアが砕け、ようやく通路へ静けさが戻る。
ヒロは息を切らしていたが、以前のような強い頭痛はない。
カイル「飲み込みが早いな」
ヒロ「カイルさんの教え方が上手いんですよ」
セラ「褒めても何も出ないよ。お兄ちゃん、そういうの弱いけど」
カイル「余計なことを言うな」
僅かな笑いが漏れ、張り詰めていた空気が緩む。
その時、リゼットが通路の奥にある一枚の扉へ魔力灯を向けた。
扉の隙間には、灰色の毛が挟まっている。
そして扉の向こうから、鉱石猿の甲高い鳴き声が一度だけ響いた。




