48話:九層
五人になったことで、八層の進み方は大きく変わった。
カイルが細い風を先へ流し、岩柱の陰に潜む異形の位置を探る。セラはすぐに炎を放てるよう指先へ魔力を集め、アリアが先頭で細剣を構えていた。
カイル「右の岩柱に三体。奥にもいる」
ヒロ「手前の二体は頭と胸。もう一体は、まだ分かりません」
アリア「十分だ。行くぞ」
アリアが駆け出すと同時に、カイルの風が岩柱を回り込んだ。隠れていた異形が押し出され、セラの炎に身体を焼かれる。
その隙にアリアが一体目の頭を貫き、リゼットの弾丸が二体目の胸を撃ち抜いた。
残る一体が六本の腕で石床を蹴り、ヒロへ跳びかかる。
ヒロ「こいつは、腹の奥だ!」
ヒロは異形の全身へ重力をかけた。
巨体が石床へ叩きつけられる。動きを封じたまま腹のコアへ力を絞ろうとした時、岩柱の向こうからさらに三体が現れた。
ヒロはそちらも止めようと手を向ける。頭の奥が一気に熱を持った。
カイル「ロイ、力をかけすぎだ!」
ヒロ「でも、止めないと!」
カイル「全身を押さえ込む必要はない。踏み込んだ足だけを重くしろ!」
異形が長い脚を振り上げる。
ヒロは言われたとおり、その足先だけへ意識を絞った。石床を蹴ろうとした瞬間、片足へ重力をかける。
異形は自分の勢いに耐えきれず、前のめりに倒れた。
カイル「今だ!」
風の刃が背中を切り開き、露出したコアをセラの炎が焼き砕く。
残る二体にも、ヒロは同じように重力をかけた。足を止めるのは一瞬だけ。それでもアリアとリゼットには十分だった。
二つのコアが続けて砕け、異形たちが動かなくなる。
ヒロ「さっきより、全然楽だ……」
カイル「魔法だけで倒そうとするな。仲間がいるなら、相手の体勢を崩すだけでいい」
ヒロは頷き、呼吸を整えた。
最初のうちは、重力をかけるタイミングが早すぎた。足を重くされた異形が、腕だけで石床を這って迫ってくる。
カイル「相手が足へ体重を乗せるまで待て。自分から倒れようとしている瞬間に、少し手を貸すだけでいい」
次に現れた異形が踏み込む。
ヒロはぎりぎりまで引きつけ、前脚が石床へ触れた瞬間だけ重力を強めた。異形の膝が折れ、勢いのまま後ろの一体まで巻き込んで倒れる。
セラ「今の、上手い!」
カイル「褒めるのは生きて帰ってからだ」
そう言いながらも、カイルは僅かに口元を緩めていた。
その後も何度も異形が現れたが、敵が足へ体重をかける瞬間を狙うたび、必要な魔力は少なくなっていった。
カイルが風で動きを乱し、セラが炎で退路を塞ぐ。アリアが前を切り開き、リゼットが背後を守る。
天井からリゼットを狙った異形も、カイルの風に軌道を逸らされ、セラの炎に撃ち落とされた。三人だけだったなら、前後を守るだけで精一杯になり、とうに押し切られていただろう。
二人が加わったことで、ようやく八層の奥へ進めていた。
やがて、通路の先に下り階段が現れた。
入口には灰色の毛が数本落ちている。鉱石猿がここを通った証拠だった。
ヒロ「二人は、九層へ入ったことがあるんですか?」
カイル「いや。この迷宮には何度か入っているが、二人では八層を調べるのが限界だった」
セラ「ここへ来る頃には、いつも魔力がほとんど残ってなかったからね。九層は私たちも初めて。五人なら、やっと先を見られそう」
カイル「浮かれるな。下はさらに危険だ」
階段は途中から、自然の岩ではなく均一に削られた石へ変わっていた。壁には錆びた金属の支柱が打ち込まれ、天井にも太い梁が渡されている。
五人が階段を下り切ると、その先には迷宮とは思えないほど真っ直ぐな通路が延びていた。




