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異世界交信 〜元の世界とつながるトランシーバーで異世界を攻略します〜  作者: のる
2章

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37話:記録

 翌朝。

 開館時刻に合わせて永田町駅へ着いたミナトは、改札前で待っていたタスクの姿を見て足を止めた。

 肩には、教科書でも詰め込んだような大きな鞄が下がっている。


ミナト「お前、何泊する気だよ」


タスク「泊まりません。ノートパソコンと充電器、筆記用具、それから昨日までの通信記録です」


ミナト「調べ物するだけで、そんなにいるか?」


タスク「黒瀬君は何を持ってきたんですか?」


ミナト「スマホ」


タスク「それは普段から持っている物です」


ミナト「あと、やる気」


タスク「一番役に立たないうえに、すぐなくなりそうですね」


 朝から変わらない調子で言い合いながら、二人は国立国会図書館へ向かった。

 平日の朝に制服姿で歩いているせいか、行き交う大人から時折視線を向けられる。


タスク「学校には、何と連絡したんですか?」


ミナト「腹が痛いって」


タスク「駅からずっとパンを食べている人の言葉とは思えません」


ミナト「先生には見えてねえから平気だろ」


ミナト「そういうお前は、なんて言ったんだよ」


タスク「家庭の都合です」


ミナト「俺より雑じゃねえか」


タスク「少なくとも、パンを食べながら腹痛とは言っていません」


 入館を済ませると、二人はすぐに館内の端末へ向かった。

 広い閲覧室には机と端末が整然と並び、ミナトも周囲の静けさにつられて声を落とす。

 タスクは椅子へ座るなり、昨日ノートに書き留めた文字を入力する。


 武州住人 橘宗景作。


 だが、完全に一致する資料は一件も表示されなかった。


ミナト「ここでも出ねえじゃん」


タスク「まだ一度検索しただけです。名前の読み方も、資料に登録された表記も分かりません」


ミナト「そもそも、武州ってどこだ?」


タスク「昔の武蔵国の別名です。今の東京や埼玉、その周辺ですね」


ミナト「じゃあ、その辺にいた刀鍛冶を探せばいいだろ」


タスク「簡単に言いますが、何百年分を調べると思っているんですか」


 タスクは橘宗景、宗景、武州刀工と、少しずつ条件を変えていく。

 さらに年代を絞らず、刀工名鑑や刀剣会の記録、古い展覧会の目録まで候補へ加えた。

 書庫から取り寄せた最初の本が届いたのは、それからしばらくしてからだった。

 机の上へ置かれた分厚い資料を見て、ミナトが顔をしかめる。


ミナト「これ、端から全部見ればいいんだろ?」


タスク「一冊読む間に閉館します。まず索引を確認してください」


ミナト「索引に載ってなかったら?」


タスク「次の本です」


ミナト「急に地味だな、調査って」


 華々しい発見などなく、紙をめくる音だけが続いた。

 一冊目には橘の名すらない。二冊目で見つかった宗景は、時代も住んでいた土地も違う別人だった。

 三冊目も、四冊目も外れた。

 昼を過ぎる頃には、ミナトのやる気は机の上へ突っ伏していた。


ミナト「なあ、やっぱこの棚、二人で端から潰したほうが早くねえか?」


タスク「見えている棚だけが、ここの蔵書ではありません」


ミナト「じゃあ、何冊あるんだよ」


タスク「知らないほうが、やる気を保てると思います」


 そう答えたタスクの目にも、疲れが浮かんでいた。

 ミナトはため息をつき、開いたままの資料をもう一度手元へ引き寄せる。

 内容はほとんど読めない。それでも、見覚えのある漢字だけを拾うように頁を追った。


ミナト「……タスク。これ、違うか?」


 小さな活字が並ぶ巻末の一覧。その一行を、ミナトの指が押さえていた。


 明治三十一年――京都刀剣品評会出品目録。


 横には、資料番号とともに小さく名前が記されている。


 橘宗景。


 タスクは椅子を寄せると、すぐに端末で資料番号を入力した。

 ほどなくして届いた古い目録を、二人で慎重に開く。

 指定された頁の中央には、昨夜ヒロが読み上げたものと同じ銘が記されていた。


 ――武州住人 橘宗景作。


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