33話:私の魔力銃
それから一週間。
ヒロとアリアは毎朝のように冒険者ギルドへ通い、依頼をこなした。
街道に現れた角猪の討伐。畑を荒らすゴブリンの群れの退治。商人を隣村まで送り届ける護衛。
どれも二人にとって、苦戦するような仕事ではなかった。
ホーンボアが街道脇の茂みから飛び出した時には、ヒロが正面で突進を受け流し、アリアが横から雷を放った。ゴブリンの群れを相手にした時も、互いの背中を守るように動き、一体も逃がさず討伐している。
アリア「今の動きは悪くなかった」
ヒロ「最近、それくらいしか褒めてくれませんよね」
アリア「では次も聞けるように励め」
そんなやり取りを交わす余裕さえあった。
最初の依頼で早く戻りすぎたことを思い出し、なるべく目立たないようにしていたものの、それでも昼過ぎにはギルドへ帰ってきてしまう。
受付「ロイさんとレナさん、今日ももう終わったんですか?」
ヒロ「今日はちゃんと、ゆっくり帰ってきたんですけどね」
アリア「途中で昼食も取った」
受付「そういう問題でしょうか……」
受付の女性は困ったように笑いながら、二人へ報酬を渡した。
日を追うごとに、ヒロとアリアの連携も滑らかになっていった。
視線を合わせるだけで、どちらが前へ出るか分かる。アリアが敵の動きを止めればヒロが仕留め、ヒロが引きつければアリアの雷がその隙を貫いた。
ヒロ「俺たち、だいぶ息が合ってきましたよね」
アリア「ああ。お前が妙な動きをしなくなったからな」
ヒロ「そこは素直に認めてくれてもいいじゃないですか」
アリア「十分認めている」
そう答えるアリアの口元が僅かに緩んでいることに、ヒロは気づいていた。
一方、工房ではリゼットとボルガンが魔力銃の試作を続けていた。
最初の試作品は、引き金を引いても魔力が途中で漏れ、弾丸は銃口から転がり落ちただけだった。
二つ目は弾こそ飛んだものの、真っすぐ進まず壁へ突き刺さった。
三つ目は魔力を流した瞬間に銃身がひび割れ、ボルガンが慌てて作業を止めた。
ボルガン「焦るな。使い手ごと吹き飛んだら、完成とは呼べんぞ」
リゼット「分かってる。でも、あと少しなの」
失敗するたび、リゼットは設計図を書き直した。
そして夜になると、五人はトランシーバーを挟んで、その日の成果を報告し合った。
ミナト『今日はゴブリンを7体? お前、異世界行ってから本当に何してんだよ。どうぞ』
ヒロ「冒険者の仕事。そっちは?」
ミナト『普通に学校行って、普通に帰ってきた。お前と話してる時だけ、急に現実じゃなくなる』
タスク『僕は、もう現実として考えることにしました。そのほうが話が早いので。』
ミナト『切り替え早すぎだろ』
隣で待っていたリゼットが、すぐに送信ボタンを奪う。
リゼット「それよりタスク。弾が横へ逸れる原因、何か分かった? どうぞ」
タスク『銃身だけでなく、弾の形や大きさが揃っていないことも原因かもしれません。ですが、安全を最優先にしてください』
ミナト『そうそう。俺ら、異世界から事故の報告を聞きたいわけじゃねえからな。どうぞ』
半信半疑だと言いながら、二人は毎晩のように調べたことを伝えてくれた。
ミナトは検索で見つけた図を見ながら、肩へ当てる部分で反動を受け止めることや、狙う時の姿勢を身振りまで交えて説明した。姿が見えないことに途中で気づき、タスクに呆れられることもあった。
リゼットとボルガンは、それを自分たちの技術へ置き換え、一つずつ問題を潰していった。
そして6日目の夕方。
作業台の上に、一本の長い銃が置かれた。
リゼットは煤で汚れた顔を上げ、工房へ戻ったヒロたちに笑いかけた。
リゼット「できたよ。私の魔力銃」
翌朝、ヒロたちはバルグの北にある森へ向かった。
街道から外れた、人がほとんど入らない場所だ。
リゼットが両手で抱えている魔力銃は、長い銃身の後ろに木製の台がついたライフル型だった。本体の側面には、魔力電池を収める金属製の箱が取りつけられている。
ボルガンは周囲に人がいないことを確かめると、太い木の幹へ白い印をつけた。
ボルガン「あれを狙え。だが、まだ引き金には触るな」
リゼット「分かってるって」
ヒロは魔力銃を受け取り、電池へ慎重に魔力を流し込んだ。
満たされた石が淡く光り、銃身の内側を細い光が走る。
ヒロ「入りました。たぶん、これで撃てます」
アリア「たぶんで渡すな。もう一度確認しろ」
ボルガン「継ぎ目に異常はない。魔力も漏れておらん」
アリアはそれでも銃を隅々まで確かめてから、ようやくリゼットへ返した。
リゼットは肩へ銃床を当て、白い印へ照準を合わせる。
いつもの強気な表情は消え、その横顔には緊張が浮かんでいた。
リゼット「……撃つよ」
アリア「待て。反動で倒れないよう、足を開け。顔も近づけすぎるな」
リゼット「うん」
全員が後ろへ下がる。
森が静まり返った。
リゼットの指が、ゆっくりと引き金を引く。
次の瞬間、銃口から青白い光とともに鉄の弾丸が撃ち出された。
耳を打つような鋭い音が響き、リゼットの身体が大きく揺れる。
弾丸は白い印のほぼ中央へ命中した。
太い幹が内側から弾け、木片が周囲へ飛び散る。少し遅れて、一本の木がゆっくりと傾き、地面を揺らして倒れた。
誰も、すぐには声を出せなかった。
銃身からは薄い煙のような魔力が立ち昇っていたが、ひびや歪みはない。側面の魔力電池にも、まだ淡い光が残っている。
ヒロ「……すごい威力だな」
ボルガン「すごいで済ませるな。威力を上げすぎだ」
リゼット「で、でも、狙ったところには当たったよ!」
ヒロ「電池の魔力も、まだ残ってる。何発かは続けて撃てそうだ」
リゼット「切れても、またヒロに込めてもらえば使えるでしょ。あとは、一発ごとの消費を減らせるか試してみる」
リゼットは反動で痺れた腕を押さえながらも、満面の笑みを浮かべていた。
アリアは倒れた木と魔力銃を交互に見たあと、静かに息を吐く。
アリア「遠距離からの援護に徹し、私かヒロの指示がある時だけ撃つこと。出発までに扱いを練習し、必ず予備の弾と電池の残量を確認すること」
リゼット「それって……」
アリア「条件を守るなら、ダンジョンへの同行を認める」
リゼット「やった!」
飛び跳ねるリゼットを見て、ヒロも思わず笑った。
工房へ戻った三人は、これまでの依頼で稼いだ金を机の上へ並べた。
銀貨と銅貨の山は、傷んだ武器や防具を買い替えても十分に余るほどになっている。
ヒロ「これなら、装備を一通り揃えられそうですね」
アリア「ああ。ダンジョンへ向かう前に、できる限り良い物を選びたい」
ボルガン「それなら、ドルガレムへ行ってみろ」
ヒロ「ドルガレム?」
ボルガン「ドゥルガン大陸で一番大きな街だ。鍛冶都市とも呼ばれとる。腕の立つ職人と、この地で作られた武器が集まる場所だ」
リゼット「確かに、装備を買うならバルグよりずっと種類が多いね」
アリア「ここからどれほどかかる?」
ボルガン「馬なら三日ほどだ。そう遠くはない」
リゼット「往復しても一週間くらいね。ダンジョンへ行く前に寄るなら、今しかないかも」
ヒロはアリアとリゼットを見る。
二人とも、答えは決まっているようだった。
ヒロ「じゃあ、次の目的地はドルガレムですね」
完成した魔力銃を手に、三人は新しい装備を求めて鍛冶都市へ向かうことになった。




