表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界交信 〜元の世界とつながるトランシーバーで異世界を攻略します〜  作者: のる
2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/47

29話:勇者

 ミナトたちとの通信が繋がった翌朝。

 ヒロは工房の2階で目を覚ますと、枕元に置いていたトランシーバーを見つめる。

 

 昨夜、通信を終える前に、これからは毎晩決まった時間に連絡を取り合うと約束している。

 ミナトとタスクは、元の世界で異世界や並行世界について調べると言っていた。

 ヒロが消えた夜に起きた停電や、トランシーバーから検出された異常な周波数も、改めて調べ直すらしい。

 すぐに帰る方法が見つかるとは思えない。

 それでも、元の世界から自分を捜してくれる二人がいる。

 その事実だけで、胸の奥にあった重みが少し軽くなっていた。

 

 一階へ下りると、工房には焼いたパンの匂いが漂っていた。

 アリアとリゼットは既に席へ着いている。

 ボルガンはパンを齧りながら、一枚の紙を睨んでいた。


リゼット「おはよう。随分すっきりした顔してるじゃない」


ヒロ「そうかな」


リゼット「昨日までよりはね」


 ヒロが席へ着くと、ボルガンが持っていた紙をテーブルの中央へ広げた。

 バルグと、その周辺が描かれた簡単な地図だった。


ボルガン「朝から悪いが、お前たちに聞きたいことがある」


アリア「何だ」


ボルガン「中央大陸じゃ、今も魔物の異変が続いているのか?」


 アリアは地図へ目を落としたまま、僅かに眉を寄せた。


アリア「ああ。少なくとも、私たちがミレイアを発つまでは収まっていなかった」


ボルガン「そうか……」


ヒロ「何かあったんですか?」


 ボルガンの太い指が、地図に描かれたバルグから南へ動く。

 そして、山あいに記された印の上で止まった。


ボルガン「ここから南へ行ったところに、ダンジョンがある」


ヒロ「ダンジョン?」


ボルガン「鉱石や魔物の素材が採れる場所だ。前までは、駆け出しの冒険者でも入れる程度だった」


 だが、ここ一か月ほどで状況が変わったという。

 大人しかった魔物が突然人を襲い、浅い階層でも怪我人が出るようになった。

 普段なら奥にいるはずの強い個体まで、入口近くで目撃されているらしい。


リゼット「最近は工房に素材を持ってくる冒険者も減ってるの。無事に帰ってこなかった人もいるって」


アリア「一か月ほど前か」


 アリアの視線がヒロへ向く。

 それは、ヒロがこの世界へ転移してきた時期とほぼ重なっていた。


ヒロ「ミレイアの周りでも、同じ頃から魔物が凶暴化してましたよね」


アリア「ああ。ノルン神殿跡だけではない。各地で同様の報告が出ていた」


ボルガン「こっちも手をこまねいているわけじゃねぇ。ギルドも兵を出しているが、妙な魔物まで増えて手が足りん」


 ボルガンは腕を組み、大きく息を吐いた。


ボルガン「中央大陸へも助けを求めた。だが、勇者は向こうの対応を優先していて、こっちまではなかなか来てくれねぇそうだ」


ヒロ「勇者?」


 聞き慣れないはずのない言葉が、あまりにも当然のように出てきた。

 ヒロは思わず身を乗り出す。


ヒロ「この世界には、勇者がいるんですか?」


 アリアが僅かに目を見開いた。


アリア「そういえば、まだ話していなかったな」


 アリアはカップを置くと、改めてヒロへ向き直った。


アリア「レヴァンティア王国では、王族の中で最も高い魔力を持つ者が勇者に選ばれる」


ヒロ「王族の中から?」


アリア「ああ。レヴァンティア王家には、代々強い魔力を持つ者が生まれる。王族以外の者が選ばれた記録はない」


ヒロ「勇者って、もっとこう……普通の人が突然選ばれるものだと思ってました」


リゼット「何よ、その普通の勇者って」


ヒロ「俺の世界では、物語の中にしかいないから」


 剣を抜いた者が選ばれたり、女神に力を授けられたりする。

 ヒロが知る勇者は、そんな存在だった。


アリア「現在の勇者は、第二王子レオンハルト・レヴァンティア殿下だ。王族の中でも抜きん出た魔力を持ち、剣の腕も王国随一と言われている」


ボルガン「凶暴化した魔物や、突然変異したユニークモンスターを討伐して、各地を回っているらしい」


ヒロ「第二王子が、自分で戦ってるんですか?」


アリア「それが勇者の役目だ。殿下が救った街や村は一つや二つではない」


 アリアの話し方からも、レオンハルトが王国で高い信頼を得ていることが伝わってきた。

 王族でありながら危険な土地へ赴き、民を守るために戦う。

 まさに、ヒロが想像する勇者そのものだった。


ボルガン「立派な勇者様なのは分かっている。だが、中央大陸も異変続きじゃ、海を越えて来いとは強く言えん」


 ボルガンの指が、再び地図の印を叩いた。


ボルガン「だからといって、ここの異変を放っておくわけにもいかねぇがな」


 ヒロは地図を見つめる。

 異変が始まった時期は、自分が転移した頃と重なる。

 ミレイアだけでなく、海を隔てたドワーフの大陸でも魔物が凶暴化している。

 偶然だと決めつけるには、あまりにも似すぎていた。


ヒロ「そのダンジョン、行ってみたいです」


リゼット「え?」


ヒロ「俺がこの世界へ来たことと、何か関係があるかもしれない。元の世界へ帰る手掛かりだって見つかるかもしれない」


アリア「調べる価値はある」


 アリアは頷いたあと、壁際へ視線を向けた。

 そこには、ヒロとアリアの武器が立てかけられている。


アリア「だが、今の装備で向かうのは無理だ」


 グラナ鉱洞での戦闘と、その後の逃亡。

 ヒロの剣は刃こぼれが目立ち、細かな亀裂まで入っている。

 アリアの細剣や鎧も、領主館での戦いによって傷んだままだった。


ボルガン「その剣じゃ、魔物を斬る前に折れるぞ。細剣のほうも手入れだけじゃ足りん」


ヒロ「直せますか?」


ボルガン「俺を誰だと思ってやがる。直すだけならできる」


 ボルガンは答えたあと、掌を上に向けた。


ボルガン「材料代を払えるならな」


 ヒロは自分の懐へ手を入れた。

 何もない。

 財布どころか、この世界の硬貨を一枚も持っていなかった。

 アリアも無言のまま小さく首を横へ振る。

 ミレイアを逃げ出した時、金を持ち出す余裕などなかった。


ヒロ「異世界まで来て、金がなくて止まるとは思わなかった……」


アリア「装備にも食料にも金はかかる。どの大陸でも同じだ」


リゼット「そんな真顔で言わなくても」


ヒロ「何か、すぐに稼げる仕事はありませんか?」


 ボルガンは少し考え、地図の上から手を退けた。


ボルガン「腕に自信があるなら、冒険者ギルドへ行け」


ヒロ「冒険者ギルド……」


ボルガン「登録すれば、魔物の討伐や素材採取の依頼を受けられる。お前たち二人なら、装備代くらいすぐに稼げるだろう」


アリア「この大陸で身分を証明するものも必要だ。登録しておいて損はない」


ヒロ「じゃあ、決まりですね」


 まずは冒険者として金を稼ぎ、装備を整える。

 そして、南のダンジョンで起きている異変を調べる。

 ヒロの進むべき道が、再び一つ定まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ