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異世界交信 〜元の世界とつながるトランシーバーで異世界を攻略します〜  作者: のる
1章

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27話:通信感度良好

 朝霧ヒロが行方不明になってから、一か月以上が過ぎていた。

 警察による捜索は今も続いている。

 だが、有力な手掛かりは何一つ見つかっていない。

 学校でも、最初の頃はヒロの失踪を話題にする生徒が多かった。

 家出ではないか。

 何か事件へ巻き込まれたのではないか。

 好き勝手な噂が飛び交っていたが、時間が経つにつれて、その名前を口にする者は減っていった。

 捜索を呼びかける紙も、掲示板の端へ追いやられている。

 周囲にとっては、少しずつ過去の出来事になり始めていた。

 それでも、黒瀬ミナトだけは忘れることができなかった。

 放課後。

 ミナトはヒロの教室の前を通りかかり、足を止めた。

 窓際にあるヒロの席は、今日も空いたままだ。

 机の中は既に片づけられている。

 そこだけが、最初から誰も座っていなかったように見えた。

 教室の中から笑い声が聞こえる。

 いつもと変わらない放課後の光景だった。


ミナト「……行くか」


 誰に言うでもなく呟き、ミナトは廊下を歩き出した。

 向かった先は、タスクが作業場として使っている空き教室だ。

 扉を開けると、机の上には受信機やコード、工具が所狭しと並べられていた。

 その中央に、古いトランシーバーが置かれている。


タスク「遅かったですね」


ミナト「ちょっと寄るところがあった」


 タスクは何も聞かず、受信機へコードを繋いだ。

 この一か月、二人はほとんど毎日のように同じことを繰り返している。

 学校だけではない。

 ミナトの家。

 ヒロの家の近く。

 子供の頃に二人で遊んでいた公園。

 街を見渡せる高台にも行った。

 場所を変え、時間を変え、何度も呼びかけた。

 だが、一度も返事はない。

 機械そのものにも故障は見つからなかった。

 異常なのは、学校の機材でも正確に捉えられない周波数だけだ。


タスク「今日もやるんですか?」


ミナト「そのために来たんだろ」


タスク「そうですけど……」


 タスクが言葉を濁す。

 何を言いたいのかは分かっていた。


タスク「もう、一か月以上ですよ」


ミナト「だから何だよ」


タスク「警察にも見つけられない人を、これだけで探すのは無理があるんじゃないかって……」


 タスクは申し訳なさそうにトランシーバーを見た。

 責める気にはなれない。

 ここまで付き合ってくれているだけでも十分だった。

 ミナトだって、意味があるのか分からなくなることはある。

 それでも、やめることだけはできなかった。

 ここで諦めれば、ヒロを二度も見捨てることになる気がした。

 あの夜。

 ノイズの向こうから聞こえた、ヒロの叫び声。

 このトランシーバーだけが、あいつの失踪に繋がる唯一の手掛かりだ。

 ミナトはトランシーバーを手に取り、送信ボタンを押した。


ミナト「ヒロ。聞こえてるなら返事しろ」


 指を離す。

 返事はない。


ミナト「もう一か月も待ってんだぞ」


ミナト「いい加減、何か言えよ。どうぞ」


 静寂だけが返ってくる。

 ミナトは小さく舌打ちし、トランシーバーを机へ戻そうとした。


タスク「待ってください!」


 突然、タスクが声を上げた。

 受信機の画面に映る波形が大きく乱れている。

 次の瞬間、トランシーバーから音が流れた。

 ザーッ。

 聞き慣れた、激しいノイズ。

 ミナトは息を止めた。

 ノイズの向こうで、何かが聞こえる。

 微かで、途切れそうな声。


ヒロ『こちら朝霧ヒロ。誰か聞こえますか。どうぞ』


 聞き間違えるはずがなかった。

 一か月以上、ずっと待ち続けた声だった。

 ミナトはトランシーバーを掴み、送信ボタンを強く押し込んだ。


ミナト「ヒロ!」


ミナト「俺だ! ミナトだ! 聞こえてるか! どうぞ!」


 返事を待つ数秒が、異様に長く感じられた。

 ザーッというノイズが続く。

 やがて、その向こうから震える声が返ってきた。


ヒロ『……ミナト?』


 届いた。

 今度は一方的に聞こえただけではない。

 自分の声が、ヒロへ届いている。


ミナト「そうだよ! 俺だ!」


ヒロ『本当に……ミナトなのか?』


ミナト「お前が持ってるトランシーバー、誰と使ってたと思ってんだ!」


 ノイズの奥から、小さな笑い声が聞こえた。

 間違いない。

 朝霧ヒロは生きている。

 その事実を理解した瞬間、全身から力が抜けそうになった。

 目の奥が熱くなる。

 泣くつもりなどなかったミナトは、それをごまかすように声を張り上げた。

 だが、安堵より先に、この一か月溜め込んできた感情が噴き出す。


ミナト「今までどこにいたんだよ!」


ヒロ『それを説明すると、かなり長くなる』


ミナト「こっちは一か月以上探してたんだぞ!」


ヒロ『……一か月?』


 ヒロの声から、僅かな戸惑いが伝わってくる。


ミナト「そうだよ。学校にも来ねえし、家にもいねえ。警察まで動いてんだぞ」


ヒロ『父さんは?』


ミナト「お前の父ちゃんもずっと探してる。この前会った時、ひどい顔してたぞ」


 トランシーバーの向こうで、ヒロが息を呑む。


ヒロ『……そっか』


ミナト「そっか、じゃねえよ」


ヒロ『ごめん』


ミナト「謝るくらいなら、さっさと帰ってこい」


 言ってから、それができない事情があるのだと気づく。

 ヒロが自分から姿を消したのでなければ、今いる場所から帰れない可能性が高い。

 それでも、無事だと分かっただけで胸に刺さっていたものが少し軽くなった。

 今度こそ、声をかけることができた。

 あの日の教室でできなかったことを、ようやく一つ取り戻せた気がした。

 横ではタスクが受信機の画面を食い入るように見つめている。

 手元のノートへ波形や時刻を書き込みながら、興奮を抑えきれない様子だった。


タスク「黒瀬君、僕にも代わってください」


ミナト「今いいところだろ」


タスク「通信状態を確認する必要があるんです!」


 タスクに押し切られ、ミナトはトランシーバーを渡した。

 タスクは緊張した表情で送信ボタンを押す。


タスク「朝霧君、2年の宮坂タスクです。僕の声も聞こえますか? どうぞ」


ヒロ『聞こえてる。誰、、? なんで、、、?』


タスク「黒瀬君に巻き込まれて、一緒にトランシーバーを調べています」


ミナト「おい。巻き込まれたって何だ」


タスク「事実じゃないですか」


 すぐにヒロの笑い声が返ってきた。


ヒロ『変わってないな、ミナト』


ミナト「一か月で変わるかよ」


 タスクは再び受信機へ目を向ける。


タスク「朝霧君、この信号がどこから届いているのか、こちらでは特定できません」


ヒロ『たぶん、説明しても信じてもらえない』


 その答えに、ミナトはタスクからトランシーバーを奪い返した。


ミナト「いいから話せ。お前、今どこにいる」


 返事はすぐには来なかった。

 ノイズだけが教室へ流れる。

 やがて、ヒロがゆっくりと口を開いた。


ヒロ『信じられないと思うけど』


 短い間が空く。


ヒロ『俺、異世界にいる』


ミナト「……は?」

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