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異世界交信 〜元の世界とつながるトランシーバーで異世界を攻略します〜  作者: のる
1章

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25/45

25話:それぞれの3日間

 翌朝。


 ボルガン工房では、日の出前から金属を削る音が響いていた。

 作業台の上には、昨日作った試作品と、細かく砕かれた魔力蓄積石が並んでいる。


ボルガン「昨日の失敗は、魔力の流れが強すぎたことだ」


リゼット「でも、弱くすると今度はトランシーバーが反応しない」


ボルガン「だから石の量で調整するんじゃねぇ。純度を揃える」


 ボルガンは大きさの違う欠片を一つずつ拾い、光へ透かした。

 同じ魔力蓄積石でも、内部に溜め込める魔力量には僅かな差があるらしい。


リゼット「全部同じ石なのに?」


ボルガン「人間だって同じ飯を食って、同じ力が出るわけじゃねぇだろ」


リゼット「なるほど……」


 リゼットも石を手に取り、表面を慎重に削り始める。

 少し削っては魔力を流し、光り方を確認する。その作業を何度も繰り返していく。


ボルガン「急ぐな。職人が焦った時に作る物は、大抵ろくなもんじゃねぇ」


リゼット「分かってる」


ボルガン「分かってる奴は、そんな顔をしねぇよ」


 リゼットの手が止まる。

 頭に浮かんでいたのは、ミレイアへ残った父の姿だった。


リゼット「……お父さんなら、もっと早く作れるかな」


ボルガン「さあな」


 ボルガンは鼻を鳴らした。


ボルガン「だが、あいつなら一度失敗した程度で手を止めたりはしねぇ」


 その言葉に、リゼットは小さく頷いた。


リゼット「じゃあ、私も止めない」


 再び工具を握った彼女の目から、迷いが消えた。


 一方、ヒロとアリアは街外れの訓練場へ来ていた。

 土を固めただけの広い場所には、太い丸太や重い木剣が並んでいる。

 ヒロが手にした木剣は、ミレイアで使っていたものより一回り太かった。


ヒロ「重っ……」


アリア「ドワーフ用だ。体幹を鍛えるにはちょうどいい」


ヒロ「アリアさんは?」


 アリアは同じ木剣を片手で軽く振った。


アリア「これで問題ない」


ヒロ「聞いた俺が馬鹿でした」


 訓練は素振りから始まった。

 腰を落とし、足を動かさず、剣を真っ直ぐ振り下ろす。

 たったそれだけの動作なのに、百回を越えた頃には腕が震え始めた。


アリア「遅い」


ヒロ「今、百二十回目です!」


アリア「数えている余裕があるなら、まだ振れるな」


 容赦のない言葉が飛ぶ。

 それでもヒロは歯を食いしばり、木剣を振り続けた。


 昼前になり、二人は休憩を兼ねて街へ出た。

 工房の並ぶ通りを歩くと、武器屋の店先で職人と戦士が激しく言い争っている。


戦士「この剣、重すぎるぞ!」


職人「お前の腕が細いだけだ!」


ヒロ「喧嘩ですか?」


アリア「恐らく、あれも注文の相談だ」


 隣の防具屋では、鎧を着たまま店主と殴り合いをしている男までいた。


ヒロ「本当に?」


アリア「……恐らく」


 珍しく自信を失ったアリアを見て、ヒロは少しだけ笑った。

 市場では鉱石を焼いた菓子に似た物や、火山地帯で採れる香辛料が売られていた。

 二人は串焼きを買い、通りの端で腰を下ろす。


ヒロ「こうしてると、逃げてきたことを忘れそうです」


 口にした瞬間、笑みが消えた。

 バルドの死。

 領主館に倒れていた人々。

 自分たちを逃がすため、残ったギデオン。


 胸の奥で押し込めていた怒りが、再び熱を持つ。


アリア「忘れる必要はない」


 アリアは正面を見たまま言った。


アリア「だが、怒りに飲まれるな。使い方を間違えれば、自分を壊す」


ヒロ「……はい」


アリア「食べ終わったら戻るぞ。午後は対人訓練だ」


 ヒロは串を握る手へ力を込める。


ヒロ「お願いします」


 その目には、朝にはなかった鋭い光が宿っていた。

 午後の訓練は、アリアとの模擬戦だった。

 ヒロは木剣を構え、ゆっくりと息を吐く。

 正面に立つアリアは片手で細身の木剣を持ち、普段と変わらない涼しい顔をしていた。


アリア「重力魔法は禁止だ」


ヒロ「剣だけで?」


アリア「魔法へ頼る癖を直すと言っただろう」


 次の瞬間、アリアの姿が消えた。

 ヒロは反射的に木剣を横へ構える。

 乾いた音とともに強い衝撃が走り、腕が弾かれた。


アリア「遅い」


 腹へ軽く打ち込まれ、ヒロは地面を転がる。


ヒロ「ぐっ……!」


アリア「立て」


 立ち上がる。

 再び構える。

 だが、結果は同じだった。


 肩。

 脇腹。

 太腿。


 急所こそ外されているものの、木剣が容赦なくヒロを打つ。


アリア「相手の剣だけを見るな。肩、腰、足。動き出す前には必ず予兆がある」


ヒロ「分かって……ます!」


 アリアの踏み込み。

 僅かに沈んだ右肩。

 ヒロは攻撃の軌道を読み、木剣を合わせた。


 しかし、アリアは寸前で剣先を変える。

 頬の横を風が切り、次の一撃で足を払われた。


 何度倒されたか分からない。

 腕は重く、呼吸も乱れていく。


アリア「今日はここまでにするか?」


ヒロ「まだです」


 ヒロは木剣を杖代わりに立ち上がった。


 脳裏にバルドの笑顔が浮かぶ。

 酒を飲みながら話を聞いてくれた夜。

 剣を教え、一撃入れた時には豪快に笑ってくれた。


 そのバルドは、もういない。


 領主も殺された。

 ギデオンも危険な場所へ残った。

 それなのに、自分は何もできずに逃げただけだ。

 胸の奥で何かが弾けた。


ヒロ「もう一度、お願いします」


 アリアが僅かに目を細める。


アリア「来い」


 踏み込んできたアリアの肩が動く。

 先ほどまで見えなかった動きが、今度ははっきり見えた。


 ヒロは半歩だけ身体をずらす。

 木剣が頬を掠める寸前、懐へ潜り込んだ。


アリア「……!」


 下から振り上げた木剣を、アリアが受け止める。

 衝撃で互いの剣が弾かれた。


 ヒロは止まらない。

 一歩踏み込み、横薙ぎに振るう。

 アリアは身を反らして避けたが、木剣の先端が服の袖を掠めた。


 初めて届いた。


ヒロ「まだ……!」


 さらに追う。

 これまでとは比べものにならない速さで剣を振り、アリアへ食らいつく。

 もちろん、技術では遠く及ばない。

 次の瞬間には手首を打たれ、木剣を落とされた。

 それでもアリアの表情には、僅かな驚きが浮かんでいた。


アリア「……急に動きが変わったな」


ヒロ「次は、当てます」


アリア「怒りが、お前の集中を引き上げているのか」


 アリアは地面の木剣を拾い、ヒロへ投げ返した。


アリア「悪くはない。だが忘れるな」


アリア「復讐心は強い火だ。扱えれば力になるが、燃え広がれば周りも自分も焼く」


ヒロ「分かってます」


アリア「なら、その火を消すな。制御しろ」


 ヒロは木剣を握り直す。


ヒロ「はい」


 夕暮れまで、二人の訓練は続いた。



 その頃。


 一人の兵士が床へ膝をついていた。

 その正面では、八星一人が椅子へ腰掛け、机に広げられた地図を眺めている。


部下「ご報告いたします」


???「さてさて」


???「今度は、何か見つかったという報告でしょう?」


部下「はっ。ラトナ村にて、朝霧ヒロと思われる少年の目撃情報がありました」


???「ラトナ村?」


部下「はい。青い髪の女騎士と、赤い髪の少女を連れていたとのことです」


 ???は地図の上で指を動かし、海沿いの村を見つける。


???「それで、少年は今もそこにいるのでしょう?」


部下「い、いえ……」


 部下の声が震えた。


部下「既に船へ乗り、海を渡ったとの証言がございます」


 ???は怒ることもなく、地図へ視線を落としたまま微笑んだ。


???「他の大陸へ逃げましたか」


???「それは厄介ですね」


 細い指が海を越え、ドゥルガン大陸の上で止まる。


???「隠密に済ませるためにも、少し準備が必要ですね」


部下「追撃部隊を編成いたしますか?」


???「大勢で動けば、こちらの存在を知らせることになるでしょう?」


隊長「僕が欲しいのは少年でしょう?」


部下「……はい」


???「ですから、必要な者だけを選んでください」


???「船と、向こうで動くための身分も用意しておきましょう」


部下「承知いたしました!」


 部下が立ち去ると、部屋は再び静まり返った。


 ???はドゥルガン大陸を指先で軽く叩く。


???「逃げる場所が増えただけでしょう?」


 穏やかな声だけが、薄暗い部屋へ響いた。

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